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子にゃんこ、夜会に行く (1)

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アーノにこき使われること3日。やっと終わったと思ったのに、追加が来た。魔力を封じる物が必要になったという。第3王子とその仲間達に着けるそうだ。私も今回の魅了の効果は知っているから仕方ないと引き受けた。いくら人の魔力は大したことないと言っても、魔力制御も難しくなるだろうから妥当な選択だ。

だが、しかし!面倒なことに変わりはない!ということで、少しだけ悪戯をしてみた。ヒヒヒ♪






「国王陛下、王妃殿下並びに魔女ファビアーノ様、ご入場です」

ざわざわとした喧騒が一瞬にして静まり、入場してくる王様たちに視線が注がれたのが分かった。私は、騎士団の正装に身を包むザムのポケットから顔を半分だけ出してその様子を眺めている。

そう、アーノが約束通り夜会に連れてきてくれたのだ。アーノの護衛を勤めるザムのポケットは一番の特等席だ。

「皆の者、今日はよく来てくれた。本日は魔女ファビアーノ殿もおいでくだされた。ある特別な首飾りに相応しい淑女を探すためだそうだ。魔女ファビアーノ殿」

「こちらです」

アーノは例の首飾りを懐からおもむろに取り出し、見せつけるように掲げた。会場にいる女性達は皆、ほぉ、と溜め息を吐きながらその見事なまでの細工と繊細なデザインに見とれ、羨望の眼差しを送っている。その中でただ一人、満面の笑みでそれを見ている者がいた。あれが噂の男爵令嬢ちゃんだろう。ここは本当に特等席だ。

「『やっぱりあった!これで私も魔女ね』」

彼女の発した極小さな言葉に私はアーノの指定した首飾りのデザインの意味が分かった。男爵令嬢ちゃんの記憶には、あの首飾りはそういう意味があるものなのだ。

「それは、例の娘が言ったのか?」

「うん。扇で隠すこともしないから読唇出来ちゃうよね」

私の呟きはザムとアーノには聴こえたようだ。アーノは「フフ」と嗤っている。

「皆の者、後程重要な発表もあるが、今宵は存分に楽しんでくれ」

その言葉を皮切りに、王様と王妃様が中央へ進み出て短めのワルツを踊り、それが終わるとペアを組んだ男女が踊り始めた。その中には件の令嬢と第3王子と思われる男女もいる。第1王子は、というと、猛獣のような令嬢たちに囲まれていた。何故なら・・・・。婚約者の公爵令嬢は大病を患い、治る見込みもないため婚約は解消という体裁をとったからだ。つまり、後釜を狙っての弱肉強食の争いが勃発中なんだな。見ているだけなら面白い。王子の顔が引きつっているのは、気のせいじゃないと思う。

「第1王子、女性嫌いにならないといいね・・・・」

「「・・・・」」

上座でゆったりと座りながら、カクテルを飲むアーノにたくさんの熱~い視線が注がれている。上座ということもあり、ダンスに誘いたいけど、魔女のアーノを自分から誘うのは憚られるのだろう。まあ、アーノだけでなく、私たち魔女の容姿はそれなりに整っている。中でもアーノは知的な優男に見えるし物腰も優美だから猫を何枚か被って微笑めば、大抵の女性は顔を赤くして見とれてしまうのだ。私からしたら、爆笑ものだけどね。

からかい半分でアーノにそう告げれば、チラッとザムを見た。それだけで察してしまう私もどうかと思うけど、誰も声をかけられないのは後ろに控えるザムの存在も大きいと気付いた。ただ控えているだけなのに不憫だ。

そんな中、アーノに声をかける強者がいた。男爵令嬢ちゃんだ。いつの間にかひとりになっている。

「ファビアーノ様ぁ、私とぉ踊ってくれませんかぁ?」

この上座に来るだけでも凄いのに空気読まなさすぎる。王子と取り巻きはどうした?しかも、アーノの腕に触れながら魅了魔法を掛けている。アーノが封印しているんだけど気付いてないの?

「貴女は?」

キョロキョロと会場を見回すとカクテルグラスや料理の皿を手にこちらを呆然と見ている4人の姿を見つけた。あー、見目のいいのばっかだね。

「ミリーナって言うのぉ」

「ミリーナ嬢、申し訳ないのですが、私は首飾りに相応しい女性を見つけるというお役目があります。ですので、ダンスは出来ませんが、よろしければこちらに座って貴女のことをお聞かせ願えませんか?」

「喜んでぇ」

胡散臭いアーノの微笑みにミリーナはうっとりとして、アーノに示された椅子に腰掛けた。

ここは本当に特等席だ。よく聞こえるし、よく見える。

「ファビアーノ様ぁ、あの首飾りはぁどういったものですかぁ?」

小首を傾げて上目遣いにアーノを見る様子は、どうしたら自分の可愛さを不自然でなく魅せることができるかをよく知っている。

「これですか?これは、相応しい者に反応し、その者に与えられる特別な首飾りですよ」

懐からわざわざ取り出して、見せつけながらにこやかに嘘?を吐けるアーノは凄いと思う。私も自分が創っていなければ、“首飾りを着けるに相応しい高貴な者”だと受け取った。ザムも感心している。

「まあ!きっとぉそれはぁ、私に相応しいと思うのですぅぅ」

こっちも凄い。アーノの膝に手を置いて魅了を掛けながらも自信満々に言ったよ!王子達はどうするの!?

ふたりの会話は聴こえていないだろうけど、会場にいる全員がチラチラとこちらを伺っているし、王子達は呆気にとられている。

その時、少しの魔力の反応を感じたと思ったら、首飾りがキラリと輝きを放った。

「・・そう、ですね。確かに。これは貴女にこそ相応しい」

じっとミリーナを見つめながらアーノは鮮やかに微笑んだ。さっきの首飾りの煌めきはアーノの仕業だったらしい。すごい演出だ。首飾りの煌めきになのか、それともアーノのキラキラしい胡散臭い笑顔になのか、「ほぉ」といううっとりとした溜め息があちこちから聴こえてくる。ミリーナに至っては、頬を染めて椅子から落ちそうなほど身を乗り出してアーノに迫っていた。

「分かってくれてぇ、嬉しいぃ」

「勿論ですよ。折角ですから、陛下にお願いして、皆様にも認めていただきましょう?その中で私にこの首飾りを贈らせてください」

アーノの笑顔はますます艷やかになり、ミリーナだけでなく、この場にいる女性を魅了していく。

アーノ、魅了魔法を使う!?疑惑だね。

アーノのお願い・・・はすぐさま聞き入れられ、今二人はホールの真ん中で向き合ってある。その前に、一悶着はあったけど。第3王子が「私の婚約者に!」と文句を言ってきたのだ。まあ、ミリーナの「魔女に認められればぁ、王子様のぉ伴侶に相応しいと皆がぁ認めてくれますよぉ」と言う一言でピタリと収まったが。

そして、アーノがその首飾りを高々と掲げ・・・・、ミリーナの首にパチンと嵌めると・・・・。

誰もが驚愕に目を見張った。
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