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真実とは奇なり
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貴賓室には既に陛下がひとり座して、後ろに控えている近衛の団長と談笑していた。
「よく来たな」
「私はこれで。扉の外で控えております」
私たちと入れ替わりに近衛の団長が部屋から出て行った。紅茶を飲みながら寛ぐ陛下だが、こちらに、と言うよりはグランに視線を寄越そうとはしない。
「遅くなりました」
「お初にお目にかかります。シャンピーニ伯爵が息女ベルティナと申します。お見知りおきくださいませ」
デビュタントも済ませていない私は陛下とは初対面になる。
「そんなに堅くならずともよい。これは私的なものだ。楽にしてかまわん」
「父上!どうしてこの者と時間をお取りになるのですか?!」
「自分の息子と会う時間を取って何が悪い?」
その言葉にグランが息を飲んだ。
「息子って!確かにそうかもしれませんが、母上はよく思われませんよ。父上だってそうでしょう?」
「王妃がどう思っていようとも、グランバートルは間違いなく私の息子だ。先祖返りなのだよ」
その言葉を口にすると同時に、陛下は遠い目をして何処か彼方を見つめた。
「先祖、返り?」
エルフィント殿下とライオネル殿下は訝しげな顔をした。
「まあ、座れ」
私はグランの横に腰を下ろした。さすがにグランも膝に乗せようとはしなかった。一瞬、手が出たけどね!エルフィント殿下とライオネル殿下はそれぞれひとり掛けのソファーに座った。
「どこから話そうか。その前に、グランバートルよ。選んだのだな?」
「はい。お許しいただけますか?」
「やはり、そうか。許すもなにも、これは宿命だ。そうだな。私は祖父から聞いた話なのだが、祖父の祖父。私から数えて5代前の国王の弟の話だ」
当時の国王の弟にあたる王弟は、グランバートルと同じく先祖返りであり、とても醜かった。ただひとりの少女を除いては、誰ひとり彼に近づけるものはいなかったそうだ。ふたりは端から見ても仲がよく、常に一緒にいた。が、その少女はたいそう美しく、多くの男性の憧れであり、王弟の伴侶となることに納得がいかないものも多かった。兄である国王も例外ではなく、国王の権限を振りかざして、守護精霊の静止を振り切りその花を無理矢理に手折った。少女は、悲しみと絶望からその場で命を絶ったという。それを知った王弟は怒り狂い、国王を害しただけでなく、この世界に満ちる魔力を根こそぎ奪ってから、少女の後を追った。そして、王弟が亡くなると同時に守護精霊は全て神界に帰って行ったそうだ。我々は神の怒りに触れたのだよ。
「父上はこの者が神だと仰るのですか?」
「私たちのルーツを知っているか、エルフィントよ」
「昔に滅びた龍の末裔ということでしょうか」
「この世界で龍は神の使いと言われていたのだ。我ら人と神とを結び、人を愛し人に寄り添う気高き種族と言い伝えられている」
「はい。歴史学で習いました」
「その龍はな、人型をとると・・・・、グランバートルのような容姿になったそうだ」
「まさか!」
「我々人はその龍に憧れ、伴侶となることはこの上ない誉れだった。なぜ龍がいなくなったと思う?」
「長命種故に子孫を残せなかったと習いました」
「表向きはそうだ。実際は、我々人によって神界に戻らざるを得なくなったのだ。龍の伴侶となることが誉れだと言ったな。そのために争いが絶えなくなった。森は破壊され、湖や川は濁り、悪臭を放つようになった。龍は自然と共にある種族だ。汚染されたこの世界に留まることは出来なかった。最後まで我々人を愛した龍たちは、神界に戻っても我々を見捨てることなく、守護精霊を贈ってくれるようになった。グランバートルのような龍の血が濃く出た先祖返りを守護精霊が愛するのは必然。その愛する者が害されれば?守護精霊が居なくなるのも道理だ」
「この世界はこの者が握っていると言いたいのですか?」
陛下は静かに首を横に振った。
「私たち王族には多かれ少なかれ龍の血が流れている。だから、グランバートルから発せられる強い魔力の気配にもなんとか耐えられる。その我らですら目を合わせることは出来ない。分かるか?普通の人では無理なのだ。王妃は今のグランバートルの前に立つことすら出来ないだろう」
だから、グランの近くに居る人はバタバタと倒れたのか。
「ですが、ベルティナ嬢は・・・・あっ」
「分かったか。だから、宿命なのだ。一度、神界に帰った守護精霊たちは、契約した主恋しさにそれ程時を置かずして、戻ってきてくれたし、その後の契約も行われた。だが、当時の王弟の怒りをかって薄くなった魔力が、漸く元に戻ったのは、グランバートルが産まれてからだ。それまでも徐々に戻ってはいたようだが、はっきりと分かるくらい回復したと、祖父は言っていた。2度と同じ過ちを繰り返すなともな。どうする?エルフィント、ライオネル。守護精霊を敵に回してグランバートルと争ってみるか?」
2人は、特にエルフィント殿下はきつく拳を握りしめて身体の震えを抑えようとしている。その震えが何を意味するのか。グランと戦っても勝ち目がないのは分かっているようだ。最上級守護精霊は伊達じゃない。それが4体。私は当然、グランの味方だ。
さあ、彼は、どんな答えを出すのだろう?
「よく来たな」
「私はこれで。扉の外で控えております」
私たちと入れ替わりに近衛の団長が部屋から出て行った。紅茶を飲みながら寛ぐ陛下だが、こちらに、と言うよりはグランに視線を寄越そうとはしない。
「遅くなりました」
「お初にお目にかかります。シャンピーニ伯爵が息女ベルティナと申します。お見知りおきくださいませ」
デビュタントも済ませていない私は陛下とは初対面になる。
「そんなに堅くならずともよい。これは私的なものだ。楽にしてかまわん」
「父上!どうしてこの者と時間をお取りになるのですか?!」
「自分の息子と会う時間を取って何が悪い?」
その言葉にグランが息を飲んだ。
「息子って!確かにそうかもしれませんが、母上はよく思われませんよ。父上だってそうでしょう?」
「王妃がどう思っていようとも、グランバートルは間違いなく私の息子だ。先祖返りなのだよ」
その言葉を口にすると同時に、陛下は遠い目をして何処か彼方を見つめた。
「先祖、返り?」
エルフィント殿下とライオネル殿下は訝しげな顔をした。
「まあ、座れ」
私はグランの横に腰を下ろした。さすがにグランも膝に乗せようとはしなかった。一瞬、手が出たけどね!エルフィント殿下とライオネル殿下はそれぞれひとり掛けのソファーに座った。
「どこから話そうか。その前に、グランバートルよ。選んだのだな?」
「はい。お許しいただけますか?」
「やはり、そうか。許すもなにも、これは宿命だ。そうだな。私は祖父から聞いた話なのだが、祖父の祖父。私から数えて5代前の国王の弟の話だ」
当時の国王の弟にあたる王弟は、グランバートルと同じく先祖返りであり、とても醜かった。ただひとりの少女を除いては、誰ひとり彼に近づけるものはいなかったそうだ。ふたりは端から見ても仲がよく、常に一緒にいた。が、その少女はたいそう美しく、多くの男性の憧れであり、王弟の伴侶となることに納得がいかないものも多かった。兄である国王も例外ではなく、国王の権限を振りかざして、守護精霊の静止を振り切りその花を無理矢理に手折った。少女は、悲しみと絶望からその場で命を絶ったという。それを知った王弟は怒り狂い、国王を害しただけでなく、この世界に満ちる魔力を根こそぎ奪ってから、少女の後を追った。そして、王弟が亡くなると同時に守護精霊は全て神界に帰って行ったそうだ。我々は神の怒りに触れたのだよ。
「父上はこの者が神だと仰るのですか?」
「私たちのルーツを知っているか、エルフィントよ」
「昔に滅びた龍の末裔ということでしょうか」
「この世界で龍は神の使いと言われていたのだ。我ら人と神とを結び、人を愛し人に寄り添う気高き種族と言い伝えられている」
「はい。歴史学で習いました」
「その龍はな、人型をとると・・・・、グランバートルのような容姿になったそうだ」
「まさか!」
「我々人はその龍に憧れ、伴侶となることはこの上ない誉れだった。なぜ龍がいなくなったと思う?」
「長命種故に子孫を残せなかったと習いました」
「表向きはそうだ。実際は、我々人によって神界に戻らざるを得なくなったのだ。龍の伴侶となることが誉れだと言ったな。そのために争いが絶えなくなった。森は破壊され、湖や川は濁り、悪臭を放つようになった。龍は自然と共にある種族だ。汚染されたこの世界に留まることは出来なかった。最後まで我々人を愛した龍たちは、神界に戻っても我々を見捨てることなく、守護精霊を贈ってくれるようになった。グランバートルのような龍の血が濃く出た先祖返りを守護精霊が愛するのは必然。その愛する者が害されれば?守護精霊が居なくなるのも道理だ」
「この世界はこの者が握っていると言いたいのですか?」
陛下は静かに首を横に振った。
「私たち王族には多かれ少なかれ龍の血が流れている。だから、グランバートルから発せられる強い魔力の気配にもなんとか耐えられる。その我らですら目を合わせることは出来ない。分かるか?普通の人では無理なのだ。王妃は今のグランバートルの前に立つことすら出来ないだろう」
だから、グランの近くに居る人はバタバタと倒れたのか。
「ですが、ベルティナ嬢は・・・・あっ」
「分かったか。だから、宿命なのだ。一度、神界に帰った守護精霊たちは、契約した主恋しさにそれ程時を置かずして、戻ってきてくれたし、その後の契約も行われた。だが、当時の王弟の怒りをかって薄くなった魔力が、漸く元に戻ったのは、グランバートルが産まれてからだ。それまでも徐々に戻ってはいたようだが、はっきりと分かるくらい回復したと、祖父は言っていた。2度と同じ過ちを繰り返すなともな。どうする?エルフィント、ライオネル。守護精霊を敵に回してグランバートルと争ってみるか?」
2人は、特にエルフィント殿下はきつく拳を握りしめて身体の震えを抑えようとしている。その震えが何を意味するのか。グランと戦っても勝ち目がないのは分かっているようだ。最上級守護精霊は伊達じゃない。それが4体。私は当然、グランの味方だ。
さあ、彼は、どんな答えを出すのだろう?
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