不憫な貴方を幸せにします

紅子

文字の大きさ
上 下
12 / 17

針の筵

しおりを挟む
あれから、私はグランと別れた後、会場には戻らずに帰宅した。折角グランと恥ずかしくも、うれしたのし大好きな時間を過ごしたのに、水を差されたくなかった。

翌日、王宮を訪れると、廊下のそこかしこからヒソヒソと声が漏れ聞こえてくる。婚約者候補たちの取り巻きと侍女たちのようだ。

「あら、見た目だけの伯爵家の令嬢が来ましたわよ」

「嫌だわ。守護精霊2体と同時に契約したというだけで選ばれただけはありますわね」

「まあ、挨拶もないなんて、きちんとマナーを学ばれたのかしら?」

「殿下たちに気に入られたからって調子に乗ってますのよ、きっと」

婚約者候補たちは、あからさまに攻撃してきた。お茶会の翌日から私たちは、王宮で自宅での淑女教育よりも更に高等なことを学ぶことになっている。個人ではなく集団で学ぶのは、切磋琢磨を期待してのことだろう。今ここにいるのは、5人。エルフィント殿下と同じ歳の公爵家のご令嬢が2人。ライオネル殿下と同じ歳の侯爵家のご令嬢が1人。私と同じ歳の公爵家のご令嬢が1人。それに私。

「皆さま、ご機嫌よう」

それだけ言うと、すっと壁に寄った。一番身分の低い私は彼女たちが座ってくれないと席にも着けない。そこで聞こえるように私の陰口を言うくらいなら早く王子たちを落としてほしいものだ。せいぜい、4人で切磋琢磨して立派な王太子妃、王子妃になってくれることを祈る。

「皆さま、席についてくださいませ」

いよいよ本格的な王子妃の実践教育が始まった。4人とも真剣に取り組んでいる。私も落第しない程度には頑張るつもりだ。もちろん、グランのために。

「さあ、今日からは自国の貴族を招いての大規模なお茶会を想定して準備を進めてもらいます。あなたがたは王子妃ですから、それ相応の品格を持って開催しなければなりません。当日にお出しする飲み物や食べ物はもちろん、事前準備も重要です。まずは、招待状を認めるところから始めましょう」

ああ。なんか教えてもらったら記憶がある。まずは、招く貴族家の選定からか。・・・・あれ?私、グランの嫁になった後って、お茶会開く必要あるのかな?グランに必要なくても私に必要なのか。どうなんだろう。グランに聞いてみよう。

「ベルティナ様。集中しておられないようですが、進んでおりますか?」

「申し訳ございません」

クスクスとあざ嗤う4人の顔が見えた。どうしても私にダメージを与えたいようだ。思うところはあるけれど、今は集中することにした。この貴族家の選定に午前中を費やし、それで終わるわけもなく、午後の自主学習を使って、それぞれの家について調べることになった。昼餐の時間も気を抜けない。食事を美しく・・・食べる練習の時間の始まりだ。それが終わると、自主学習となり、帰宅も出来る。

そんな日が何日も続き、私の被害も大きくなってきた。嫌みだけではなく、ノートを破られるだとかはかわいいもの。廊下を歩けば水が降り注ぎ、庭を散歩すれば毒蛇や毒蜘蛛が撒き散らされる。今日なんて矢が射かけられた。どれも犯人は分かっている。ザクロとライムの能力の高さをなめてはいけない。命の危機を感じ始めた矢先。

「やあ」

「お疲れ様」

「まあ!エルフィント殿下。ライオネル殿下」

「「「「ご機嫌よう」」」」

「少しでも親睦を深めようと思ってね」

「お茶でもどうかな?」

「「「「是非」」」」

帰りたい。

「ベルティナ嬢は、こちらにどうぞ」

「あの、本日はわたくし、お暇をさせていただきたく」

「そんなに長い時間じゃないから。私たちもなかなか時間をとれないしさ」

「ちょっとくらいいいよね?」

「は、はい」

はは。明日あたり死ぬな、私。

ここまで言われて帰れるわけがない。私、殺されそうになったんだけど、聞いてないのかな?気遣いの出来ない2人に挟まれて、またも甲斐甲斐しく世話を焼かれる。放っておいてくれとも言えず、更にご令嬢たちの恨みを買うことになってしまった。今回は抜け出すことも出来ず、1時間ほど針の筵で過ごす羽目に。本当に死ぬな、私。



「グラン、明日一緒に王宮に行って?だめ?」

お茶会が終わるとすぐに自宅からグランの離宮に転移した。私の癒し。むぎゅうっとグランに抱きついた。

「どうした?珍しいな、そんなこと言うなんて」

「そろそろ、身の危険を感じる。今日は、矢が飛んできた」

「なんだって?!」

「ザクロとライムが全部防いでくれたから」

「そういう問題じゃなくて、王宮内でそんなことが起こることが問題なんだ。分かった。明日迎えに行く」

グランは私の隠れた意図も読み取り、承諾してくれた。これで丸く収まるといい。暫くの間、温かいグランの腕の中で、私は疲れを癒やした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。 友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。 人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。 その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。 そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。 婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。 もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。 婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。 すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。 新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。 人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。 これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ
恋愛
 私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。  そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?  今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります! -------だいぶふわふわ設定です。

あなたの運命になれたなら

たま
恋愛
背の低いまんまるボディーが美しいと言われる世界で、美少女と言われる伯爵家のクローディアは体型だけで美醜を判断する美醜感に馴染めずにいる。 顔が関係ないなんて意味がわからない。 そんなか理想の体型、好みの顔を持つ公爵家のレオンハルトに一目惚れ。 年齢も立場も離れた2人の運命は本来重なる事はないはずだったが…

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

処理中です...