不憫な貴方を幸せにします

紅子

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畑を作ろう

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守護精霊を得てから数日。

「お父様。庭の一画、できるだけ目立たないところに畑を作りたいのですが、許可をいただけませんか?」

執務室にいたお父様におねだりをした。目立たないという条件には理由がある。この世界の野菜も果物も穀物も、残念ながら非常に不味い。苦い、酸っぱい、青臭い。この体型を作り出すほどだから、お菓子も種類だけは豊富にある。ただ、原料が不味いから、出来上がったお菓子も見た目を裏切って微妙なものばかりだ。記憶を取り戻してからというもの、食事の時間が苦痛でたまらない。だから、創ってしまおう♪と言うわけだが、なるべくこっそり誰にも知られたくない。私が創る野菜や果物は画期的なものになるだろう。無防備に広まれば、私の身の安全が脅かされる。

「守護精霊の能力なのか?」

「はい。緑の手がありました。何が出来るか検証したいのです」

「緑の手か。お母様アニータと似ているな。お母様は花の首飾りだけどね。私のバルークノームとも相性がいい」

花の首飾りとは、花系の一種で花を飾ることに特化している。庭の花をお母様が管理しているのはそういう理由わけだったのか。少し手を加えるだけで、花が形良く馨しく咲くようになる。庭師の望む守護精霊の能力のひとつだが、持っている守護精霊は少ない。ノームは土系だから、土壌の改良はお手の物だろう。

「そうなのですね」

「いいだろう。場所は庭師と相談して決めなさい。屋敷内なら護衛は付けなくていいよ。ティナの守護精霊は戦えるのだろう?」

「ありがとう、お父様。ザクロとライムは強いですよ」

「だろうな」

その後、私は無事に畑となる場所を確保した。人目につかない日当たりの良い場所だ。ここでは、この世界にある果物や野菜を育てる予定。人目が全くないわけではないから、危ない橋は渡らない。代わりに屋敷の奥にある森の中に私の楽園を創る予定だ。この森は敷地の一部だから部外者は入れないし、魔物もほとんど出ないけど、取り立てて何もないから屋敷の者も滅多に足を踏み入れない。こっそりと緑の手を試すには格好の場所だろう。

「ライム、ここにニンジン、ジャガイモ、キュウリ、タマネギを植えたい」

『分かった。ひとつずつだ。まず、ニンジンから創ろうではないか。育つ過程は分かるな?』

「うん」

『それを種を植えるところから丁寧に思い描くんだ。種から根と芽が出る。芽が葉になり、葉と根が成長して、土の中でニンジンになる。どんな味なのかも思い描きながら我に魔力を送れ』

それだけ?

根が出て、芽が出て、芽が葉になって、ニンジンのレースのような葉が大きくなって、根っこが肥大してオレンジ色のニンジンになる。花が咲いて種が落ちた。

コロン

「えっ?!」

ライムの前に種が出現した。吃驚だよ。本当に何もないところから突然に出てくるんだもん。

『・・・・。出来たな・・・・。まあ、では、この種を埋めるための畑を作ろうではないか』

「え?出来たら不味かった?」

ライムとザクロの微妙な顔にちょっと怯んでしまった。そっとふたりの様子を伺う。

『お前が変な間を空けるからティナが不安がってるだろ』

『いいや、お主の顔のせいだ』

「えっと、あの・・・・私はどうしたら?」

『ティナよ。普通・・は、こんなに簡単にはできん。魔力操作も教えてはおらんだろう?』

そう言われてみれば・・・・。

『まあ、何も問題はない。暴走したら、俺たちが止める』

『そうだ。要は慣れだし、すぐに誰でも出来るようになる。ティナは素質があっただけのことだな。さあ、畑作りだ』

ライムのその一言で、畑予定地は畑になった。私から吸い取られた魔力はごく僅か。魔力効率よすぎ。これも魔力操作のお蔭らしい。

『早速埋めよ』

一粒だけ出来た種を植え水を遣った。と、ライムから目で合図がきた。魔力を送れと言うことだ。言われた通りにする。すると、今種を植えたところから芽が出て、葉になり、大きく成長して、花が咲き、沢山の種が零れ落ちた。

「おお~♪」

『どうだ?』

「凄い!」

引っこ抜いたニンジンの部分は、種を作ったからシワシワだったけど、想定内だ。

「この調子で、種の採取とニンジンの収穫をしよう♪」

私は自分の使える時間を目一杯使って、ニンジンを作り続けた。翌日からも同じ事を繰り返して、ジャガイモ、タマネギ、キュウリ、トマト等を創り出した。どれも、変な苦みやえぐみのない甘くて瑞々しい野菜になった。

成功!
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