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スローライフ
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精霊の世界へ行った後は、またのんびりと畑を耕し、パンをこねこねして、洋服や小物を作って売る生活を楽しんでいる。ああ。平和だ。私が平穏を噛みしめていると、来客を告げるベルが鳴った。
「ハァ」
出たくない。どうせカイゼスなのだ。放っておきたい。無視して畑仕事を続けている間もベルが鳴り響く。まあ、船が桟橋にある時点で、居留守は使えないんだけどねぇ。
「遅い!」
やっぱりカイゼスだった。
「毎日毎日、暇なの?」
「言っただろ?俺は神麻と居ないと狂うって」
最近はこれを盾にしてくる。殺意が湧かなくもないけど、そんなことをしても喜ばせるだけだと分かってからは、諦めることにした。ヘルバーから聞いたのだ。龍族の究極の幸せは、番に殺されることだと。特に私のように逆鱗を取り込んだ番は、寿命を共有しているから、カイゼスを殺せば私も死ぬ、諸共に。重い。重すぎる。もっと、こう、軽快な感じの軽~いノリはダメなの?
「ちょっと待ってて。もう少しで畑仕事も終わるから。後でそっちの島に行くよ」
「入れてくれないの?」
入れるわけない。帰らなくなるじゃない。
「自分の島で!大人しく!待てるよね?」
甘やかしてはいけないと、これもヘルバーから教わった。つけあがるらしい。「飴と鞭を上手に使って飼い慣らせ!」とはヘルバーの実感のこもった教えだ。
カイゼスの番ということは受け入れた。劇場で様子のおかしくなった私をずっとお世話してくれた上、この世界に繋ぎ止めてくれたあたりから、少しずつ心を許し始めていたんだと思う。元の世界に戻って祖父と名乗る男や精霊王たちから私を護ってくれたことで信じてもいいかなと思うようになった。真実を隠すことなく曝したのも信用度を上げた。
ブォーンと船を走らせて、カイゼスのひとり島を訪ねると、見覚えのある物体が庭に鎮座していた。
「これ、私の車、だよね?」
「ああ。仕組みは解ったから、この部分とこの部分を魔道具化して、こっちでも使えるようにした。乗ってみろ」
魔道具化されているのは、エンジンと電気系だった。エンジンは、彼女のEVを参考にしたらしい。車の仕組みが解るなんてもしかして、カイゼスって賢い?私は恐る恐る乗り込むとエンジンをかけた。独特のエンジン音がして、ランプが灯る。ゆっくりとアクセルを踏み込むと・・・・。
「動いた。凄い」
でこぼこ道ばかりだからすぐにパンクしそうだけど、使えることには変わりない。早速、私のひとり島の道を整備しようと心に決めた。エンジンを止めてカイゼスを見ると、得意げな顔をしている。
「どうだ?使えそうか?」
どうやら、これを実用化したいらしい。ちなみに、テレビとスマホは持ち帰れなかった。まあ、そうだよね。いろいろと無理がある。
「うん。もう少し改善の余地はあるけど、馬車より快適なのは間違いない」
「こっちにはない部品とか素材も多いからすぐには無理だな」
「その間に、道の整備と交通規則を作らないとね」
「そうか。馬車よりスピードが出る分、危険度も増すな。その辺はあいつらに丸投げするか」
あいつらとは、タナートやジム、タマキ、ロルフたちのことだ。
「脳筋ばっかりだけど大丈夫?」
「その辺は補佐や大臣たちが何とかするさ」
皇帝を退いたカイゼスは、国のことにはノータッチを貫き、ずっとやりたかったという魔道具作りに精を出している。島の一角に工房を創るほどの入れ込みようだ。暫くは、車の作成で手一杯になるだろう。楽しそうで何よりだ。
「今日は、ヘルバーがタナートと来るって」
ヘルバーの伴侶がタナートだと知ったときには、顎が外れるくらい驚いた。私のことを知って以来、ずっと出入り禁止にしていたそうだ。最近になって漸く解禁になったとヘルバーに抱きついて離れないタナートに呆れてしまった。これが、龍族の普通らしい。引き攣った顔でカイゼスを見ると、私の隣でソワソワしていた。当然、見なかったことにしたが。
それよりも前にダムやジム、ロルフ、アキ、タナート、タマキに会い、直接謝罪を受けた。カイゼスは、許さなくていいと言ったが、私はそれを受け入れた。特にダムは私を過保護なくらい心配してくれただけで、何もされてはいないし、ロルフやアキも同様だ。
「じゃあ、料理の量を増やさないとね」
「泊まっていくだろう?」
「うん」
それが当然の顔をしたカイゼスと受け入れる私は、周りから見るとそれぞれのひとり島で、別々に暮らしているのが信じられないらしい。私のひとり島は、私の心の安寧には必要なのだ。手放すつもりは全くない。今は、まだ、時々こうして泊まるくらいがちょうどいい。少しずつ、この家に私の私物が増えていくけど、私が帰るのはあの私のひとり島だ。カイゼスもそれを許してくれている。
「魚と貝を捕ってきてくれる?」
「分かった。希望は?」
「淡泊なのがいい。貝はムール貝とアサリを多めに。エビがあるとなおよし!」
「りょーかい」
パンを焼いて、スープを作り、サラダを用意する。カイゼスの家政婦は卒業した。ある日、仕事と割り切るのは寂しいと感じてしまったのだ。それに、朝と夜はたいてい一緒に食べるし、それでなくとも、毎日この島に通っているのだから。
巻き込まれ召喚されてから今日まで、幸運値100は実にいい仕事してくれている。念願のスローライフ。始まったばかりです♪
~END~
最後までお読みいただき、ありがとうございました\(^o^)/
「ハァ」
出たくない。どうせカイゼスなのだ。放っておきたい。無視して畑仕事を続けている間もベルが鳴り響く。まあ、船が桟橋にある時点で、居留守は使えないんだけどねぇ。
「遅い!」
やっぱりカイゼスだった。
「毎日毎日、暇なの?」
「言っただろ?俺は神麻と居ないと狂うって」
最近はこれを盾にしてくる。殺意が湧かなくもないけど、そんなことをしても喜ばせるだけだと分かってからは、諦めることにした。ヘルバーから聞いたのだ。龍族の究極の幸せは、番に殺されることだと。特に私のように逆鱗を取り込んだ番は、寿命を共有しているから、カイゼスを殺せば私も死ぬ、諸共に。重い。重すぎる。もっと、こう、軽快な感じの軽~いノリはダメなの?
「ちょっと待ってて。もう少しで畑仕事も終わるから。後でそっちの島に行くよ」
「入れてくれないの?」
入れるわけない。帰らなくなるじゃない。
「自分の島で!大人しく!待てるよね?」
甘やかしてはいけないと、これもヘルバーから教わった。つけあがるらしい。「飴と鞭を上手に使って飼い慣らせ!」とはヘルバーの実感のこもった教えだ。
カイゼスの番ということは受け入れた。劇場で様子のおかしくなった私をずっとお世話してくれた上、この世界に繋ぎ止めてくれたあたりから、少しずつ心を許し始めていたんだと思う。元の世界に戻って祖父と名乗る男や精霊王たちから私を護ってくれたことで信じてもいいかなと思うようになった。真実を隠すことなく曝したのも信用度を上げた。
ブォーンと船を走らせて、カイゼスのひとり島を訪ねると、見覚えのある物体が庭に鎮座していた。
「これ、私の車、だよね?」
「ああ。仕組みは解ったから、この部分とこの部分を魔道具化して、こっちでも使えるようにした。乗ってみろ」
魔道具化されているのは、エンジンと電気系だった。エンジンは、彼女のEVを参考にしたらしい。車の仕組みが解るなんてもしかして、カイゼスって賢い?私は恐る恐る乗り込むとエンジンをかけた。独特のエンジン音がして、ランプが灯る。ゆっくりとアクセルを踏み込むと・・・・。
「動いた。凄い」
でこぼこ道ばかりだからすぐにパンクしそうだけど、使えることには変わりない。早速、私のひとり島の道を整備しようと心に決めた。エンジンを止めてカイゼスを見ると、得意げな顔をしている。
「どうだ?使えそうか?」
どうやら、これを実用化したいらしい。ちなみに、テレビとスマホは持ち帰れなかった。まあ、そうだよね。いろいろと無理がある。
「うん。もう少し改善の余地はあるけど、馬車より快適なのは間違いない」
「こっちにはない部品とか素材も多いからすぐには無理だな」
「その間に、道の整備と交通規則を作らないとね」
「そうか。馬車よりスピードが出る分、危険度も増すな。その辺はあいつらに丸投げするか」
あいつらとは、タナートやジム、タマキ、ロルフたちのことだ。
「脳筋ばっかりだけど大丈夫?」
「その辺は補佐や大臣たちが何とかするさ」
皇帝を退いたカイゼスは、国のことにはノータッチを貫き、ずっとやりたかったという魔道具作りに精を出している。島の一角に工房を創るほどの入れ込みようだ。暫くは、車の作成で手一杯になるだろう。楽しそうで何よりだ。
「今日は、ヘルバーがタナートと来るって」
ヘルバーの伴侶がタナートだと知ったときには、顎が外れるくらい驚いた。私のことを知って以来、ずっと出入り禁止にしていたそうだ。最近になって漸く解禁になったとヘルバーに抱きついて離れないタナートに呆れてしまった。これが、龍族の普通らしい。引き攣った顔でカイゼスを見ると、私の隣でソワソワしていた。当然、見なかったことにしたが。
それよりも前にダムやジム、ロルフ、アキ、タナート、タマキに会い、直接謝罪を受けた。カイゼスは、許さなくていいと言ったが、私はそれを受け入れた。特にダムは私を過保護なくらい心配してくれただけで、何もされてはいないし、ロルフやアキも同様だ。
「じゃあ、料理の量を増やさないとね」
「泊まっていくだろう?」
「うん」
それが当然の顔をしたカイゼスと受け入れる私は、周りから見るとそれぞれのひとり島で、別々に暮らしているのが信じられないらしい。私のひとり島は、私の心の安寧には必要なのだ。手放すつもりは全くない。今は、まだ、時々こうして泊まるくらいがちょうどいい。少しずつ、この家に私の私物が増えていくけど、私が帰るのはあの私のひとり島だ。カイゼスもそれを許してくれている。
「魚と貝を捕ってきてくれる?」
「分かった。希望は?」
「淡泊なのがいい。貝はムール貝とアサリを多めに。エビがあるとなおよし!」
「りょーかい」
パンを焼いて、スープを作り、サラダを用意する。カイゼスの家政婦は卒業した。ある日、仕事と割り切るのは寂しいと感じてしまったのだ。それに、朝と夜はたいてい一緒に食べるし、それでなくとも、毎日この島に通っているのだから。
巻き込まれ召喚されてから今日まで、幸運値100は実にいい仕事してくれている。念願のスローライフ。始まったばかりです♪
~END~
最後までお読みいただき、ありがとうございました\(^o^)/
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