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ひとり島

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ひとり島、最高~。ヘルバーが自慢したくなるわけだ。桟橋から歩いて数分。木に埋もれるように建つ平屋の家には、蔓が這いすっぽりと覆っている。裏庭は、所々にベンチが置かれ、ハーブの優しい香りがした。しっかりと畑もあり、周りには果物や木の実もなっている。

「契約します!」

「はい。ではこちらにサインを。これは魔術契約書になりますから、よく読んでからサインしてください」

ヘルバーと家に備え付けのソファーに座り、じっくりと契約書を読んだ。魔術契約書とは、普通の契約書にはない強制執行力を持った契約書のこと。違反すると直ちにペナルティが課せられ逃れる術はない。この魔術契約書に特におかしな点はなかった。家賃の支払い方法と退去する際の決まり、違反したときの罰則など当たり前のことが書かれていた。

「はい。では、この瞬間からこの島はミーアに貸し出されました。1部は商業ギルドで保管します。1部は無くさないようにお持ちください」

なぜ、商業ギルドの事務所ではなくここで契約するのかというと、後から来た人にかっ攫われないようにするため。権力を使って奪おうとする人は後を絶たないんだとか。案の定。船を渡すと言うことで、1度商業ギルドに戻ってみたら。

「おい!何処に行っていた?!こっちは朝一で屋敷を出て待ってたんだぞ!婆さんが島を手放したそうじゃないか。契約するから書類を出せ!」

恰幅のいい高そうな服を着たおじさんが、商業ギルドに戻ってきたヘルバーに怒鳴り散らした。私は商業ギルドの外で隠れて待っている。

「そちらの物件でしたら、既に契約済みです。現在空いているのは、4世帯島のみですね」

「なんだと?!貴様がいつまで経っても戻ってこないからだろう!」

「そう言われましても。お客様の前に契約されたい方がいらっしゃいましたので、規約に則りご案内したまでです」

「何処のどいつだ!」

「規約に則りお教えすることは出来ません。あまりしつこいと、衛兵を呼びますが宜しいでしょうか?」

「私は伯爵だぞ!」

「でしたら、騎士を呼びましょうか?」

「10年待ったんだぞ?!それなのに!」

「早い者勝ちですから」

恰幅のいいおじさんは、執事とおぼしき人に説得されて促されてトボトボと馬車で帰っていった。曰く、「ひとり島でどうやってお一人で生活されるのですか?侍女や侍従は連れて行けませんよ?狭すぎますから。せめて、2世帯島になさいませ」正論過ぎて、誰も何も言えなかった。その馬車が見えなくなる頃、外で待つ私の元にヘルバーが船のエンジンとなる魔石を持ってやって来た。この魔石が船の鍵で無くしたら実費で購入になる。

「私、運がよかったんですね」

「はは。そうですね。タイミングですから。こればかりは、お金でも権力でもどうにもなりません」

確かに。私は幸運値100に感謝した。そして、船の魔石を受け取った私は、早速迷子になりながら自分のひとり島でスローライフをスタートさせた。

「あれ?私の島にたどり着けないよぉ」

「おや?新入りか。さては迷子だな?」

船を停めてどっちに行ったらいいのか、キョロキョロとしていると日焼けした恰幅のいいおじさんが声をかけてきた。

「はは。今日、引っ越してきたばかりで。自分のひとり島の場所が分からなくなっちゃって」

「ああ。婆さんが住んでたところだな。そりゃ、真逆だな、嬢ちゃん」

「えっ?!」

真逆?

「ここを真っ直ぐに戻ってみな。そんで、その辺りにいる奴にまた聞きな」

「ありがとう。そうする。私はミーア。これからよろしく」

「ようこそランカーへ。バジェットだ。すぐそこの2世帯島に嫁と子供と住んでる。気を付けて行けよ」

「うん。じゃあね」

私はその後も何人もの島人に自分の島を尋ねながら、ヘルバーと来たときの3倍の時間をかけて自分の島に辿り着いた。

まずは、生活環境を整えることから。ルンルンと道中で買ったマットレスをベッドに敷き、ベッドを整えた。客間は使うこともないだろうから後回し。食器を台所の棚に仕舞って、食材をある程度保存庫に入れていく。ホント、ワクワクする。足が踊ってるね。

「フフフフフ」

だらしなくニヤける顔が止められない。お風呂・トイレ・居間を整えて漸くひと心地着いた。新しいキッチンでお昼を食べていると、ベルが鳴った。桟橋に誰か来たようだ。私が許可した人や通信機で助けを求めない限り、桟橋からこちらには来られない。少し警戒しながら、桟橋へ行ってみると、20代半ばくらいの褐色の肌をした美丈夫が立っていた。

「あの、どちら様ですか?」

突然現れた見知らぬ人に警戒心がわく。

「俺はヘルバーの甥でカイゼス。隣のひとり島に住んでる。ヘルバーから新しい人が来たって聞いて挨拶に来た。これ」

カイゼスが差し出した籠には、新鮮な魚や貝が詰まっていた。そこで漸く結界の外に出てた。ヘルバーの甥なら滅多なことにはならないだろう。もちろん人を疑うことは大切だとこの世界に来て学んだけど、ずっと警戒し続けるのは正直しんどい。私はここを終の棲家にすると決めたのだ。せめてこの島の人たちだけは、疑って警戒し続けたくはない。

「ここに住むことになったことミーアです。態々、ありがとう。よろしくね」

「ああ。何か困ったことがあったら尋ねてきてくれ。すぐそこに見えるひとり島にいる」

カイゼスはそれだけ言うと自分のひとり島に帰って行った。それを見届けた私はすぐに踵を返した。だから、カイゼスが途中で船を停めてこちらを愛おしいと言う顔でずっと見ていたことなど知るよしもない。

さあ、お昼の続きを食べて、島を探検しよう!
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