17 / 28
ひとり島
しおりを挟む
ひとり島、最高~。ヘルバーが自慢したくなるわけだ。桟橋から歩いて数分。木に埋もれるように建つ平屋の家には、蔓が這いすっぽりと覆っている。裏庭は、所々にベンチが置かれ、ハーブの優しい香りがした。しっかりと畑もあり、周りには果物や木の実もなっている。
「契約します!」
「はい。ではこちらにサインを。これは魔術契約書になりますから、よく読んでからサインしてください」
ヘルバーと家に備え付けのソファーに座り、じっくりと契約書を読んだ。魔術契約書とは、普通の契約書にはない強制執行力を持った契約書のこと。違反すると直ちにペナルティが課せられ逃れる術はない。この魔術契約書に特におかしな点はなかった。家賃の支払い方法と退去する際の決まり、違反したときの罰則など当たり前のことが書かれていた。
「はい。では、この瞬間からこの島はミーアに貸し出されました。1部は商業ギルドで保管します。1部は無くさないようにお持ちください」
なぜ、商業ギルドの事務所ではなくここで契約するのかというと、後から来た人にかっ攫われないようにするため。権力を使って奪おうとする人は後を絶たないんだとか。案の定。船を渡すと言うことで、1度商業ギルドに戻ってみたら。
「おい!何処に行っていた?!こっちは朝一で屋敷を出て待ってたんだぞ!婆さんが島を手放したそうじゃないか。契約するから書類を出せ!」
恰幅のいい高そうな服を着たおじさんが、商業ギルドに戻ってきたヘルバーに怒鳴り散らした。私は商業ギルドの外で隠れて待っている。
「そちらの物件でしたら、既に契約済みです。現在空いているのは、4世帯島のみですね」
「なんだと?!貴様がいつまで経っても戻ってこないからだろう!」
「そう言われましても。お客様の前に契約されたい方がいらっしゃいましたので、規約に則りご案内したまでです」
「何処のどいつだ!」
「規約に則りお教えすることは出来ません。あまりしつこいと、衛兵を呼びますが宜しいでしょうか?」
「私は伯爵だぞ!」
「でしたら、騎士を呼びましょうか?」
「10年待ったんだぞ?!それなのに!」
「早い者勝ちですから」
恰幅のいいおじさんは、執事とおぼしき人に説得されて促されてトボトボと馬車で帰っていった。曰く、「ひとり島でどうやってお一人で生活されるのですか?侍女や侍従は連れて行けませんよ?狭すぎますから。せめて、2世帯島になさいませ」正論過ぎて、誰も何も言えなかった。その馬車が見えなくなる頃、外で待つ私の元にヘルバーが船のエンジンとなる魔石を持ってやって来た。この魔石が船の鍵で無くしたら実費で購入になる。
「私、運がよかったんですね」
「はは。そうですね。タイミングですから。こればかりは、お金でも権力でもどうにもなりません」
確かに。私は幸運値100に感謝した。そして、船の魔石を受け取った私は、早速迷子になりながら自分のひとり島でスローライフをスタートさせた。
「あれ?私の島にたどり着けないよぉ」
「おや?新入りか。さては迷子だな?」
船を停めてどっちに行ったらいいのか、キョロキョロとしていると日焼けした恰幅のいいおじさんが声をかけてきた。
「はは。今日、引っ越してきたばかりで。自分のひとり島の場所が分からなくなっちゃって」
「ああ。婆さんが住んでたところだな。そりゃ、真逆だな、嬢ちゃん」
「えっ?!」
真逆?
「ここを真っ直ぐに戻ってみな。そんで、その辺りにいる奴にまた聞きな」
「ありがとう。そうする。私はミーア。これからよろしく」
「ようこそランカーへ。バジェットだ。すぐそこの2世帯島に嫁と子供と住んでる。気を付けて行けよ」
「うん。じゃあね」
私はその後も何人もの島人に自分の島を尋ねながら、ヘルバーと来たときの3倍の時間をかけて自分の島に辿り着いた。
まずは、生活環境を整えることから。ルンルンと道中で買ったマットレスをベッドに敷き、ベッドを整えた。客間は使うこともないだろうから後回し。食器を台所の棚に仕舞って、食材をある程度保存庫に入れていく。ホント、ワクワクする。足が踊ってるね。
「フフフフフ」
だらしなくニヤける顔が止められない。お風呂・トイレ・居間を整えて漸くひと心地着いた。新しいキッチンでお昼を食べていると、ベルが鳴った。桟橋に誰か来たようだ。私が許可した人や通信機で助けを求めない限り、桟橋からこちらには来られない。少し警戒しながら、桟橋へ行ってみると、20代半ばくらいの褐色の肌をした美丈夫が立っていた。
「あの、どちら様ですか?」
突然現れた見知らぬ人に警戒心がわく。
「俺はヘルバーの甥でカイゼス。隣のひとり島に住んでる。ヘルバーから新しい人が来たって聞いて挨拶に来た。これ」
カイゼスが差し出した籠には、新鮮な魚や貝が詰まっていた。そこで漸く結界の外に出てた。ヘルバーの甥なら滅多なことにはならないだろう。もちろん人を疑うことは大切だとこの世界に来て学んだけど、ずっと警戒し続けるのは正直しんどい。私はここを終の棲家にすると決めたのだ。せめてこの島の人たちだけは、疑って警戒し続けたくはない。
「ここに住むことになったことミーアです。態々、ありがとう。よろしくね」
「ああ。何か困ったことがあったら尋ねてきてくれ。すぐそこに見えるひとり島にいる」
カイゼスはそれだけ言うと自分のひとり島に帰って行った。それを見届けた私はすぐに踵を返した。だから、カイゼスが途中で船を停めてこちらを愛おしいと言う顔でずっと見ていたことなど知るよしもない。
さあ、お昼の続きを食べて、島を探検しよう!
「契約します!」
「はい。ではこちらにサインを。これは魔術契約書になりますから、よく読んでからサインしてください」
ヘルバーと家に備え付けのソファーに座り、じっくりと契約書を読んだ。魔術契約書とは、普通の契約書にはない強制執行力を持った契約書のこと。違反すると直ちにペナルティが課せられ逃れる術はない。この魔術契約書に特におかしな点はなかった。家賃の支払い方法と退去する際の決まり、違反したときの罰則など当たり前のことが書かれていた。
「はい。では、この瞬間からこの島はミーアに貸し出されました。1部は商業ギルドで保管します。1部は無くさないようにお持ちください」
なぜ、商業ギルドの事務所ではなくここで契約するのかというと、後から来た人にかっ攫われないようにするため。権力を使って奪おうとする人は後を絶たないんだとか。案の定。船を渡すと言うことで、1度商業ギルドに戻ってみたら。
「おい!何処に行っていた?!こっちは朝一で屋敷を出て待ってたんだぞ!婆さんが島を手放したそうじゃないか。契約するから書類を出せ!」
恰幅のいい高そうな服を着たおじさんが、商業ギルドに戻ってきたヘルバーに怒鳴り散らした。私は商業ギルドの外で隠れて待っている。
「そちらの物件でしたら、既に契約済みです。現在空いているのは、4世帯島のみですね」
「なんだと?!貴様がいつまで経っても戻ってこないからだろう!」
「そう言われましても。お客様の前に契約されたい方がいらっしゃいましたので、規約に則りご案内したまでです」
「何処のどいつだ!」
「規約に則りお教えすることは出来ません。あまりしつこいと、衛兵を呼びますが宜しいでしょうか?」
「私は伯爵だぞ!」
「でしたら、騎士を呼びましょうか?」
「10年待ったんだぞ?!それなのに!」
「早い者勝ちですから」
恰幅のいいおじさんは、執事とおぼしき人に説得されて促されてトボトボと馬車で帰っていった。曰く、「ひとり島でどうやってお一人で生活されるのですか?侍女や侍従は連れて行けませんよ?狭すぎますから。せめて、2世帯島になさいませ」正論過ぎて、誰も何も言えなかった。その馬車が見えなくなる頃、外で待つ私の元にヘルバーが船のエンジンとなる魔石を持ってやって来た。この魔石が船の鍵で無くしたら実費で購入になる。
「私、運がよかったんですね」
「はは。そうですね。タイミングですから。こればかりは、お金でも権力でもどうにもなりません」
確かに。私は幸運値100に感謝した。そして、船の魔石を受け取った私は、早速迷子になりながら自分のひとり島でスローライフをスタートさせた。
「あれ?私の島にたどり着けないよぉ」
「おや?新入りか。さては迷子だな?」
船を停めてどっちに行ったらいいのか、キョロキョロとしていると日焼けした恰幅のいいおじさんが声をかけてきた。
「はは。今日、引っ越してきたばかりで。自分のひとり島の場所が分からなくなっちゃって」
「ああ。婆さんが住んでたところだな。そりゃ、真逆だな、嬢ちゃん」
「えっ?!」
真逆?
「ここを真っ直ぐに戻ってみな。そんで、その辺りにいる奴にまた聞きな」
「ありがとう。そうする。私はミーア。これからよろしく」
「ようこそランカーへ。バジェットだ。すぐそこの2世帯島に嫁と子供と住んでる。気を付けて行けよ」
「うん。じゃあね」
私はその後も何人もの島人に自分の島を尋ねながら、ヘルバーと来たときの3倍の時間をかけて自分の島に辿り着いた。
まずは、生活環境を整えることから。ルンルンと道中で買ったマットレスをベッドに敷き、ベッドを整えた。客間は使うこともないだろうから後回し。食器を台所の棚に仕舞って、食材をある程度保存庫に入れていく。ホント、ワクワクする。足が踊ってるね。
「フフフフフ」
だらしなくニヤける顔が止められない。お風呂・トイレ・居間を整えて漸くひと心地着いた。新しいキッチンでお昼を食べていると、ベルが鳴った。桟橋に誰か来たようだ。私が許可した人や通信機で助けを求めない限り、桟橋からこちらには来られない。少し警戒しながら、桟橋へ行ってみると、20代半ばくらいの褐色の肌をした美丈夫が立っていた。
「あの、どちら様ですか?」
突然現れた見知らぬ人に警戒心がわく。
「俺はヘルバーの甥でカイゼス。隣のひとり島に住んでる。ヘルバーから新しい人が来たって聞いて挨拶に来た。これ」
カイゼスが差し出した籠には、新鮮な魚や貝が詰まっていた。そこで漸く結界の外に出てた。ヘルバーの甥なら滅多なことにはならないだろう。もちろん人を疑うことは大切だとこの世界に来て学んだけど、ずっと警戒し続けるのは正直しんどい。私はここを終の棲家にすると決めたのだ。せめてこの島の人たちだけは、疑って警戒し続けたくはない。
「ここに住むことになったことミーアです。態々、ありがとう。よろしくね」
「ああ。何か困ったことがあったら尋ねてきてくれ。すぐそこに見えるひとり島にいる」
カイゼスはそれだけ言うと自分のひとり島に帰って行った。それを見届けた私はすぐに踵を返した。だから、カイゼスが途中で船を停めてこちらを愛おしいと言う顔でずっと見ていたことなど知るよしもない。
さあ、お昼の続きを食べて、島を探検しよう!
20
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~
玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。
平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。
それが噂のバツ3将軍。
しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。
求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。
果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか?
※小説家になろう。でも公開しています
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる