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無意識はいつものこと
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聖女のパレードも終わり、王都はいつもの日常を取り戻していた。この世界に来て、1月と10日が過ぎた。どうなることかと思ったが、衣食住の全てが揃い、快適とまではいかなくても不安なく過ごせている。
「そうだ。小物を作って宿に置いてもらえないか交渉しよう」
生活のリズムが整い、少しの余裕が出て来た私は、小銭を稼ぐことを思いついた。何にしようかな。簡単にできるのはハンカチに刺繍だよね。とりあえず、見本も兼ねて何種類ものハンカチを作ることにした。交渉するにも物がないことには話にならない。休憩時間にせっせと作ること数日。もちろん、冒険者ギルドの掃除も魔法の訓練にも欠かさず行っている。
コンコンコン
「ミャーサ、ちょっといいかい」
アキが休憩中に訪ねてくるなんて珍しいこともあるもんだ。
「どうぞ」
私の部屋に入ってきたアキの手には布が握られていた。
「ミャーサに頼みたいことがあるんだよ。あんた、刺繍得意だろ?でね、ベイリーの服に刺繍を入れてほしくて。あたしもやってはみたんだけど、このとおりさね」
見せてもらった服の刺繍を見て顔が引き攣ってしまった。だって、折角の服が攣ってしまっている上、多分これはスイカ?緑に黒っぽい縞々?がついてる?思わず、刺繍とアキを交互に見てしまった。
「酷い出来だろう?ああ。返事はいいよ。答えにくいだろうからね。戦闘は得意だが、こういったことはねぇ。ワンポイントでいいんだ。服1枚につき銀貨1枚でどうだい?」
人それぞれ、向き不向きはある。アキが裁縫には向いてないのは、これを見れば嫌でも分かった。
「それは貰いすぎ。5枚で銀貨1枚でいいよ」
「あたしゃ助かるけど、いいのかい?」
「その代わり、刺繍糸はアキ持ちでどう?買ったんでしょう?」
「そりゃあ、助かるね。この先使うことはなさそうだしね」
商談成立。私はベイリーの服に可愛らしい刺繍を施した。腕が鈍らないように、ワンピースドレスもサービスしよう。聖女のドレスは見てないから分からないけど、夏の涼しげなワンピースをお姫様仕様にするのは難しくない。涼しげな素材に軽やかなチュールっぽい素材を重ね、リボンやフリルを程よく配せば出来上がり。刺繍も施して華やかにする。
「アキ。はい、これ」
「!!!」
何故かアキが絶句している。
「駄目だった?」
可愛く出来たと思ったんどけど、こっちの女の子の趣味とは違ったのかもしれない。
「違う!逆だよ逆。大層な出来栄えすぎて、銀貨1枚じゃ、割に合わないだろう?それに・・・・」
「大袈裟だよ、アキ。そんなにたいしたことはしてない。ワンポイントにちょっと加えただけだから」
「でもねぇ・・・・」
「ならさ、これ、買ってよ。銀貨2枚で」
私は、ベイリーに合わせて作った例のワンピースドレスを見せた。
「これは!あんた・・・・。自分の価値を全く理解してないのかい。はああああ。ダムのとこに行くよ!」
アキは、深い溜め息と共に何故か冒険者ギルドにいるダムのところに引っ張って行った。受付でダムを呼び出す。ダムは私の保護者じゃないはずなんだけど。
「おう。久し振りだな、アキ。今日はどうし・・・・。ミャーサが何かやらかしたか?」
酷い言われようだ。私を見た瞬間にその台詞。今まで何かやらかしたことは、・・・・1度だけあったね。ダムは、私たちに顎で2階に来るように促した。
「これを見ておくれ」
「また、凝ったな。でもまあ、ベイリーには可愛いくていいんじゃねぇか?」
「でしょ、でしょ。凝って見えるでしょう。でも簡単にできるんだ♪」
ダムが珍しく褒めてくれた。
「こっちは?どうだい?」
今度は、がっくりと頭を下げた。
「・・・・。はああああ。ミャーサ、知ってるか。今、仕立屋じゃあ、ドレスをいかに涼しくするかに四苦八苦してるってよ。すぐに商業ギルドに登録するぞ」
知らなかった。そんなことになってるなんて、知らなかったよ。なんか、大袈裟なことにならなきゃいいなぁ。
「まあ、待て。それだけじゃないんだよ。今、タナートを呼びだしてもらってるから」
ダムが怪訝な顔をした。私も知らなかったから驚いた。いつの間にタナートを呼び出したんだろう?
「タナートを?ま・さ・か・・・・」
「そのまさか、さ」
ダムはベイリーの服を穴が開くんじゃないかというほど凝視している。何がまさかなのか、さっぱり分からない。待つこと数分間。タナートが息を切らしてやって来た。
「アキ、よく気付いたよ。素人じゃ分からないから何の問題もないけど、ミャーサが知らないのは問題だね」
「えっ?!私?!」
「いいかい。この服には、というか、刺繍には付与がついてる。これとこれには治癒。こっちには危険回避。これは汚れ防止。どれも、擦り傷を治すとか、危険なところを避けるとか、汚れがつかないとか、その程度だよ。でもね、これをミャーサが付与したことが問題なの。分かるかな?」
さっぱり分かりません!ちょっとのおまじないくらいの効果なら付いててもいいんじゃない?
「分かってねぇな」
「分かってないね」
「つまりね、君がどんな効果を付与できるかは問題じゃないの。君のその能力を知った者が君に何をさせるかが問題なのさ。小さな効果でも沢山集まればそれなりの効果をもたらす。君、自衛できる?」
ブンブンブンと勢いよく首を横に振った。出来ない。
「だよねぇ。ちょっとは自重しなよ?」
その日から、タナートの厳しい厳しい厳し~い!訓練が再開した。自分で付与したおまじないを視る訓練だ。これが、出来ないんだなぁ。付与してるつもりもないから、余計に。本当に、毎回毎回宿に帰る頃には吐きそうになる。でも、これが出来なくて困るのは自分だと言い聞かせて、《ウルフの餌場》の契約が切れる頃、やっと何とか自力で視れるようになった。こんな能力要らなかった!!!
「そうだ。小物を作って宿に置いてもらえないか交渉しよう」
生活のリズムが整い、少しの余裕が出て来た私は、小銭を稼ぐことを思いついた。何にしようかな。簡単にできるのはハンカチに刺繍だよね。とりあえず、見本も兼ねて何種類ものハンカチを作ることにした。交渉するにも物がないことには話にならない。休憩時間にせっせと作ること数日。もちろん、冒険者ギルドの掃除も魔法の訓練にも欠かさず行っている。
コンコンコン
「ミャーサ、ちょっといいかい」
アキが休憩中に訪ねてくるなんて珍しいこともあるもんだ。
「どうぞ」
私の部屋に入ってきたアキの手には布が握られていた。
「ミャーサに頼みたいことがあるんだよ。あんた、刺繍得意だろ?でね、ベイリーの服に刺繍を入れてほしくて。あたしもやってはみたんだけど、このとおりさね」
見せてもらった服の刺繍を見て顔が引き攣ってしまった。だって、折角の服が攣ってしまっている上、多分これはスイカ?緑に黒っぽい縞々?がついてる?思わず、刺繍とアキを交互に見てしまった。
「酷い出来だろう?ああ。返事はいいよ。答えにくいだろうからね。戦闘は得意だが、こういったことはねぇ。ワンポイントでいいんだ。服1枚につき銀貨1枚でどうだい?」
人それぞれ、向き不向きはある。アキが裁縫には向いてないのは、これを見れば嫌でも分かった。
「それは貰いすぎ。5枚で銀貨1枚でいいよ」
「あたしゃ助かるけど、いいのかい?」
「その代わり、刺繍糸はアキ持ちでどう?買ったんでしょう?」
「そりゃあ、助かるね。この先使うことはなさそうだしね」
商談成立。私はベイリーの服に可愛らしい刺繍を施した。腕が鈍らないように、ワンピースドレスもサービスしよう。聖女のドレスは見てないから分からないけど、夏の涼しげなワンピースをお姫様仕様にするのは難しくない。涼しげな素材に軽やかなチュールっぽい素材を重ね、リボンやフリルを程よく配せば出来上がり。刺繍も施して華やかにする。
「アキ。はい、これ」
「!!!」
何故かアキが絶句している。
「駄目だった?」
可愛く出来たと思ったんどけど、こっちの女の子の趣味とは違ったのかもしれない。
「違う!逆だよ逆。大層な出来栄えすぎて、銀貨1枚じゃ、割に合わないだろう?それに・・・・」
「大袈裟だよ、アキ。そんなにたいしたことはしてない。ワンポイントにちょっと加えただけだから」
「でもねぇ・・・・」
「ならさ、これ、買ってよ。銀貨2枚で」
私は、ベイリーに合わせて作った例のワンピースドレスを見せた。
「これは!あんた・・・・。自分の価値を全く理解してないのかい。はああああ。ダムのとこに行くよ!」
アキは、深い溜め息と共に何故か冒険者ギルドにいるダムのところに引っ張って行った。受付でダムを呼び出す。ダムは私の保護者じゃないはずなんだけど。
「おう。久し振りだな、アキ。今日はどうし・・・・。ミャーサが何かやらかしたか?」
酷い言われようだ。私を見た瞬間にその台詞。今まで何かやらかしたことは、・・・・1度だけあったね。ダムは、私たちに顎で2階に来るように促した。
「これを見ておくれ」
「また、凝ったな。でもまあ、ベイリーには可愛いくていいんじゃねぇか?」
「でしょ、でしょ。凝って見えるでしょう。でも簡単にできるんだ♪」
ダムが珍しく褒めてくれた。
「こっちは?どうだい?」
今度は、がっくりと頭を下げた。
「・・・・。はああああ。ミャーサ、知ってるか。今、仕立屋じゃあ、ドレスをいかに涼しくするかに四苦八苦してるってよ。すぐに商業ギルドに登録するぞ」
知らなかった。そんなことになってるなんて、知らなかったよ。なんか、大袈裟なことにならなきゃいいなぁ。
「まあ、待て。それだけじゃないんだよ。今、タナートを呼びだしてもらってるから」
ダムが怪訝な顔をした。私も知らなかったから驚いた。いつの間にタナートを呼び出したんだろう?
「タナートを?ま・さ・か・・・・」
「そのまさか、さ」
ダムはベイリーの服を穴が開くんじゃないかというほど凝視している。何がまさかなのか、さっぱり分からない。待つこと数分間。タナートが息を切らしてやって来た。
「アキ、よく気付いたよ。素人じゃ分からないから何の問題もないけど、ミャーサが知らないのは問題だね」
「えっ?!私?!」
「いいかい。この服には、というか、刺繍には付与がついてる。これとこれには治癒。こっちには危険回避。これは汚れ防止。どれも、擦り傷を治すとか、危険なところを避けるとか、汚れがつかないとか、その程度だよ。でもね、これをミャーサが付与したことが問題なの。分かるかな?」
さっぱり分かりません!ちょっとのおまじないくらいの効果なら付いててもいいんじゃない?
「分かってねぇな」
「分かってないね」
「つまりね、君がどんな効果を付与できるかは問題じゃないの。君のその能力を知った者が君に何をさせるかが問題なのさ。小さな効果でも沢山集まればそれなりの効果をもたらす。君、自衛できる?」
ブンブンブンと勢いよく首を横に振った。出来ない。
「だよねぇ。ちょっとは自重しなよ?」
その日から、タナートの厳しい厳しい厳し~い!訓練が再開した。自分で付与したおまじないを視る訓練だ。これが、出来ないんだなぁ。付与してるつもりもないから、余計に。本当に、毎回毎回宿に帰る頃には吐きそうになる。でも、これが出来なくて困るのは自分だと言い聞かせて、《ウルフの餌場》の契約が切れる頃、やっと何とか自力で視れるようになった。こんな能力要らなかった!!!
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