貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子

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出逢い

いろいろおかしいようです

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わたしたちが野営場所に選んだのは、あいつらから 少し離れた森の中。明日、あいつらが動き始めたら、一足速く街まで戻り、捕縛の根回しをするそうだ。こちらの大人は歩くのが速い。7日くらいはかかるだろうという距離を3日だった。ガルは、2日だ。

わたし、ここで生きていけるだろうか?

わたしはガルから少し離れて、キョロキョロとあたりを見回し、料理ができそうな場所を探す。

「シャナ、あんまり離れるなよ」

「はーい」

うん、この辺なら大丈夫そう。

ガルは、わたしが落ち着いたのを確認してアイテムボックスから何かを取り出し始めた。



ということで、早速、料理を始よう。

食パンは、すべてガルの胃の中。すでにエネルギーに替わっただろう。トマトスープとクリームシチューも当然ない。今回は、ガルの食べる量を考えて、鍋6個分のスープと食パン10斤、ロールパン30個、オークのかつサンド、玉子サンドを作ることにする。鍋は、複製したよ。マヨネーズも大量に作成。ソースは不思議な木になってたからそれを使う。味噌ソースもいいよね。

おにぎりも作っちゃお♪

結界で作った空間に材料を放り込んで、出来上がりをイメージ。

(複合スキル 調理!)

簡単楽々だ。
同時進行でちゃっちゃと進めていく。






その頃俺は、というと、魔獣避けを木に吊るしたりしながら、考え事をしていた。


シャナは、いったい何者だ?
40歳児にあんな魔法は使えない。しかも詠唱していない気がする。あれほどの水を一瞬で消した技量。普通じゃない。あいつらを追跡できるのもおかしい。マーキングしたといっていたが、そこからどうやって居場所を知った?魔力量も高いだろう。謎だらけだ。

もっとおかしいのは、自分自身だ。シャナと出逢ってから、自分が満たされていることに気づいてしまった。それは、今までずっと求めて叶わなかったもの。触れていたくて、そばにいてほしい。離したくなくて、このまま閉じ込めてしまいたくなる。こんなのは、初めてだ。

竜人は、200歳になるまでに番と必ず出逢う。200歳を過ぎても番と出逢わなかった竜人は、今まで誰もいない。力の強い竜人は、番と共にいることで安定するからだ。200歳までに番と出逢えない竜人は、精神を病み、いずれこの世界を滅ぼす、と云われている。

俺に番はいない。あと1年もすれば、神殿の特別な部屋に入り、そこで長いときを生きることになっただろう。

彼女は、シャナは俺の番だ。
ようやく出逢えたたったひとりの愛しい存在だ。


俺は、手で自らの顔を被い、上を向くことで自分の気持ちを宥めようとした。


ふぅー。

少し落ち着き、シャナのいた場所をみる。そこで、目にしたものは、なんとも珍妙な光景だった。

「えっ、えっ、はあ!?」

自分の目と頭を擦って、もう一度、シャナを見た。そこには、見間違いではなく、シャナを取り囲むように空中に鍋と野菜、肉、パンが浮かんでいた。その場に頭を抱えて蹲った俺は悪くない。倒れなかっただけでも誉めていいくらいだ。







わたしは、ガルの視線に気づくことなく、鼻唄交じりに料理を進めていた。

お米が炊けたよ♪
米好きなわけじゃないけど、あると便利だよね。

あっ、複製できるかも。

(インベントリー!)

!インベントリー!

ご飯   鍋1杯
→数量を指定してください

やっぱりできるんだ!

(鍋5杯)


ご飯   (複製中)
          ↓
ご飯   鍋5杯



よし、塩むすびと肉巻きおにぎりにしておこう。

スープも完成!
トマトスープ(2)・クリームシチュー(2)・肉だんご入り野菜スープ・ピリ辛肉団子スープ

食パンとロールパン  完成!
食パン4斤とロールパン20個は、サンドイッチ。残りの食パンは、フライパンで焼いて、バターをつける、と。ジャムも欲しいところだけど、甘いものは、また今度にしよう。


(複合スキル 調理!)



よしよし、順調順調♪




「シャナ、何をしているんだ?」

「あっ、ガル。何って料理だよ。昼間、ガルが全部食べちゃったでしょ。だから、新しく作ってるんだよ」

「そうか。まだ、かかるのか?」

「ん?もうできてるよ。今作ってるのは、明日の分」

「もうすぐ暗くなる。できたなら、飯にしよう。やつらに気づかれないように灯りはないほうがいい」

「はーい」


わたしは出来立てのパンとスープの鍋を並べた。そして、ガルを見ると、これ以上ないくらいに目を見開いて、出てきたものを凝視したまま固まっている。

「ねぇ、食べないと暗くなるよ」

「・・・・」

ガルは、そのまま動く気配がない。

「ガルゥ?」

目の前で手を振ってみても身体を叩いてみても反応がない。暫く待ってみたが、どうにもならないので、先に食べることにした。

「先に食べちゃうよ。・・・、いっただきまーす♪」

うーん、美味しい。





俺は、固まったまま思考がぐるぐると渦巻いて、目が回りそうになっていた。


ままごとじゃなかったのか?あれは、どう見たら料理の風景になるんだ?料理は、ああやって作るのか?俺が知らないだけか?確かに料理はできないからな。だが、下町の厨房でも野営でも竈に火をおこして作ってたよな?違うのか?俺が間違ってるのか?


錯乱した思考であの情景をどう処理したらいいか、途方にくれた。結局、どうすることもできずに、シャナに常識を教えるという結論に落ち着いた。



「シャナ?」

「ガル。やっと戻ってきたんだね。呼んでも叩いても反応がないからどうしようかと思ったよ。こんなところで思考を飛ばしたら危ないよ?」

わたしは、ガルの錯乱の原因に気づくことなく注意した。ガルがその理不尽さを呑み込んで大人な対応をしてくれているなんて、考えもしなかった。

「・・・・・・、ああ、気をつける」

「ご飯、早く食べなよ。暗くなってきたよ」

ガルに食パン1斤と鍋のままスープを渡す。あっという間に食べ終えたガルは、おもむろにわたしに向き合った。

「あれは、どうやって作ったんだ?」

「?作ってるところ見てたよね?」

不思議に思って、聞き返した。

「いや、普通は、竈に火をおこして作るだろう。竈も火も使わずにどうやったんだ?」

あ~。
やっぱりこっちでも竈と火を使って料理するんだね。魔法で、ちゃちゃちゃっと出来るものじゃないんだぁ。

なら、あの方法は不味くない?
まぁ、ガルの前ではいろいろやっちゃってるから今更かもだけど。

「・・・・。秘密です。・・・・」

上目遣いにガルの反応を伺う。

「うっ。まあ、いい。あまり人前で常識はずれなことはするな。常識かどうかは、俺に聞け。とりあえず、あの料理法は、俺以外に人がいるときはするな」

「あい」

緊張のあまり、噛んでしまった。

「だから、拐われたのか?捨て置かれたのが不思議なくらいだ」

ぼそりとガルが呟いたのが聞こえた。



そんなにか~!!!!!
拐われてないよ!
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