異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

文字の大きさ
上 下
18 / 19

残酷な事実

しおりを挟む
まりあ様の侍従兼教育係に就いてから5月余り。私フレイアは今日ほどまりあ様の元を訪れたくないと思ったことはない。


コンコンコン

「失礼致します。おはようございます、まりあ様」

「おはよう、フレイア」

私は溜め息を吐きたくなるのを圧し殺し、朝の紅茶をまりあ様に用意した。

「ねえ。もうすぐ、旅行に行くんでしょ?アールとライは、もちろん、私の護衛に来てくれるんだよね?」

「・・・・そのことで、この後、神殿長がまりあ様にお会いしたいそうです。朝食後に準備いたしましょう?」

私はその話の内容を知っているだけに気が重くなる。元々、神殿長の補佐をする巫女の私は、神殿長の受けとる神託を、間違いがないように同時に受けとる役目を負っている。その神託が今朝方、あったのだ。

「珍しいね。いつもお見合いの合間に顔出すのに」

「・・・・そうですね」

本当に気が重い。私は何度目かの溜め息を飲み込んで、いつものようにまりあ様の支度を整えた。










そして・・・・



「嘘・・・・。何かの間違いでしょ?私が精霊の巫女じゃないなんて、そんな・・・・」

神殿長は憐れみの表情でまりあ様を見つめている。

「光の精霊王様も闇の精霊王様も既に巫女様と新な神殿に入られたと神託があったのじゃ。そして、まりあ様、あなたが召喚の最中に巫女様を押し退けてこちらにいらしたことも伺いましたのじゃよ?」

「押し退けてなんて、そんな!そんなことしてない。だって、公園が光っててその中に入っただけ・・ぁ・・・・ち、違う!そんなつもりじゃ・・・・。だって、あれは私のために・・・・」

どうやら、心当たりがあるらしい。まりあ様は両手で頭を抱えて蹲ってしまった。

「まりあ様、あなた様は元の世界に帰ることはできません。分かりますな?精霊王様方より、巫女様と同郷ゆえ、この事で無下に扱わず、他の女性と同じ扱いを、とお言葉を戴き申した。詳細は伏せますが、精霊の巫女でなかったことはつまびらかにせねばなりません。その上で、新たに求婚者を募り、伴侶を得ることもできます。もちろん、ここにいていただくことも可能じゃ。どうしたいか、身の振り方をよくよくお考えなされよ」

「・・・・私はここでも厄介者なんだ」

ぽそりと呟いた言葉は神殿長には届かなかったようだが、隣に控えていた私の耳にははっきりと聞こえてしまった。ここでも、ということは、元の世界で何かあったのかもしれない。まりあ様は、良くも悪くも素直でお優しい。そして、寂しがり屋の甘えん坊。アールとライに執着するのも二人の見た目もそうだが、恐らく守って甘やかしてくれる存在に見えるのだろう。あの二人にはそんな空気がある。実際、伴侶となった女性を溺愛しているともっぱらの噂だ。

拠り所を無くしたようにフラフラと部屋へ戻るまりあ様は迷子の子供のようで見ていられなかった。



「フレイアは知ってたの?」

「・・・・はい。神殿長と共に神託を受けとりましたから」

「そっか。・・・・きっともう誰も求婚なんてしてくれないよ」

「そんなことは」

「いいの。分かってるから。向こうでも誰も私を必要としてなかったもん。パパもママも・・・・。兄様と姉様は出来の、・・フッ・・・・悪い私を、嫌ってたしね。婚約者だって・・おも、思ってた人も、実際は姉様の・・フッ・・婚約者、だったし。妹だから、ご機嫌・・ヒッ・・とってただけ。私、だけが・・・・勘違い・・フゥ・・してたなんて、わら、笑っちゃうよね。ホント、頭、悪すぎ、フッ、フフフフ」

ポロポロと零れる涙を拭うこともなく、私に語るその言葉の端々からは愛されたいという想いが溢れている。この神殿で私はたくさんの女性を見てきた。どの女性も周りに愛され、自信があり、傲慢で我が儘だ。幼いうちに神殿に来る子も、ここで皆に愛され、かしずかれる。だから、まりあ様のように愛してほしいと言葉に出せず、無意識に男の機嫌を窺う者はいない。

何度目か分からない溜め息を飲み込むと、私はポロポロと涙を溢す迷子の子供のようなまりあ様をそっと抱き寄せた。この短い期間にほだされてしまったらしい。このいまだ幼さを残すまりあ様がこの世界で幸せになってくれることを神に祈った。









結局、神殿からの発表は、まりあ様は精霊王の巫女の召喚に巻き込まれた一般女性であり、精霊王の巫女は精霊王自身が既に保護していると、かなりぼかしたものとなった。お蔭で、以前ほどではないにしろ、多くの求婚者がまりあ様とお見合いをしたが、まりあ様は誰も選ぶことはなかった。



「フレイア!これ!これ、どうかな?」

「ですから、短いスカートは破廉恥だとお教えいたしましたでしょう?」

「ええ~・・・・。可愛いと思うんどけどなぁ」

「夜着ならともかく。ここをこうしたお衣装なら作って差し上げますよ」

「うん。これも可愛い。そっか、夜着かぁ。そっちを考えてみようかな」

あれから、まりあ様は女性の洋服のデザインを描くようになった。そして、私たち巫女や神官が作ったそれをまりあ様がお召しになって神殿にいる女性や神殿を訪れる男性に広めている。女性のお化粧などの身嗜みの指導も私たちにしてくださる。今や神殿は、女性だけでなく、男にとっても、美を発信する最先端の地となった。それが神殿の収入になり、まりあ様のここでの地位を確立しつつある。そして、まりあ様には、私を含めた少し年嵩の巫女や神官が伴侶をとなり、まりあ様を真綿でくるむようにお仕えしている。

「ねぇ、フレイア。私、自分から巻き込まれてここに来たこと、後悔してないよ。だって、スッゴク幸せだもん!」

憂いのない笑顔で私に抱きついてくるまりあ様が愛しくてならない。最近になって漸く顔色を窺うような笑みではなく、自然とこぼれ落ちる笑顔を見せるようになったまりあ様を抱き締めつつ、この笑顔が消えないように守っていくことを改めて誓った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

【完結】醜い駐在さんと醜い私

おうさとじん
恋愛
 ここには、人が暮らしている  動物が暮らしている  木々は青々と生い茂り、しかし文明の発達により縦横無尽に人が行き来出来る世界  世界の隅々までを人は暴こうと足掻き、そして現実にその殆どが人に曝された世界  線路は続く  世界の果て無き球体の上を  空は近い  飛び回る命を持たない大きな鳥が人々を空へ誘うから  そう、ここは私たちが暮らす世界にとても似通っている  けれど、ほんの少しだけ、私たちの暮らす世界とは違う世界  ――これは、そんな世界の小さな国の小さな物語――  容姿にも性格にもコンプレックスのある人間の女性(行き遅れ)と、竜人男性のもちゃもちゃたしたお見合い結婚物語。  2万7千字程度の軽い読み物です。  2012年になろうにあげていた作品ですが、言い回しを直した箇所があります。

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

処理中です...