異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

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再会

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寮と神域の往復だけで、私がこの世界に来て4月経った。精鋭部隊への面通しのために訓練所に行って以降、私がアールとライにくっついて訓練所に行くことはなかった。スポーツすら見ることのなかった私に騎士の訓練など難易度が高すぎたのだ。木剣の容赦なくぶつかる轟音に悲鳴を噛み殺し、激しすぎる殴りあいを見て気絶した。ワタシはヘイワをノゾム。

アールとライは、毎日忙しそうにしている。精霊王たちの神殿にまりあさんを連れていくための調整と新たな精霊王の神殿探しでてんてこ舞らしい。二人にとってはその全てが茶番なのだから、そのストレスたるや・・・・。哀れなり。そんな中、漸く二人が休みをとれた日、私はもう会うこともないと思っていた懐かしい人と再会した。

こうちゃん?航ちゃんだよね?!本当に?!」

私は今、アールとライ以外の精霊王とその巫女たちに会うため神域の中央にあるガーデンに来ている。私たちが着いたときには既に全員が揃っており、思い思いに歓談していた。その中に私は見知った顔を見つけて驚いて駆け寄ってしまった。但し、瞳の色は深緑で私が覚えているよりも少しだけ大人びているように見える。

「?・・・・えっと、知り合い、なんだよね?航ちゃんか。懐かしいな。ん?・・・・」

考えるときに首をちょっとだけ傾ける癖もそのままだ。本名は土森わたる。だから、こうちゃん。

「あれ?人違い、なわけないよね。だって、瞳の色は違うけど、全体的に航ちゃんだし。光梨だよ。え?!忘れたの?最後に会ったのは、4月くらい前なのに?!」

「・・・・ヒカリ、ヒカリ、ヒカリ?!光梨なの!!!」

「だから、そうだって言ってる」

「・・・・」

航ちゃんは目を見開いて絶句している。そりゃ、そうか。今の私の見た目、スゴいことになってるもんね・・・・。私は懐かしさと里心を刺激されて、航ちゃんに抱きついた。航ちゃんも私を抱き締め返してくれる。乙女な心を持つ航ちゃんとはよくこうやって慰め合ったものだ。久々の幼馴染との再会に懐かしくて涙で潤む目を合わせて笑いあっていると、後ろから襟首を捕まれて、ベリッと引き剥がされてしまった。そのまま後ろにいたアールに抱き上げられる。私を引き剥がしたのはライ。航ちゃんも私と同じような状態だ。つまり、深緑の髪の優しそうな男性に抱き上げられている。恥ずかしそうな顔をしつつも、抵抗することなくその男性の首に腕を廻す航ちゃんを見て歓喜した。よかったね、航ちゃん!乙女になれたんだね♪

「ヒカ」

ライとアールの視線に気づくことなく、幸せ一杯の航ちゃんに親戚のおばちゃんのような生温い眼差しを向けていた私に、目が笑っていないライの笑顔を向けられた。

「ヒィッ」

こ、怖い。

「彼はヒカの知り合い?」

「え、あ、う、えっと、うん。航ちゃんとは幼馴染でね、ここに来る4日前に飲みに行った」

「え?ちょっと待って、光梨。僕がここに来たのは300年前だよ」

「はあ?」

「「・・・・」」

時間軸が合わない。航ちゃんの話を聞く限り、航ちゃんがこの世界に来たのは300年前。私がここに飛ばされたあの公園で同じように光に包まれたそうだ。まあ、その辺はファンタジーにありがちな時間のズレってことで落ち着いた。

「光梨の会社、波に乗り始めてたじゃない?あれだけ忙しくても楽しそうにしてたし、心残りでしょ。光梨の刺繍は人気だったもんね。他の人の刺繍作品も扱ってたし、心配だよね」

「確かに仕事は忙しかったけど、刺繍作品を扱う会社じゃないよ。知ってるよね?私はただの派遣だし、あの会社で扱ってたのって木材だから」

「ええ?何言ってんの?光梨が張り切って自分の会社興したんじゃん。しかも突然。あのときは流石にビックリした。僕まだ学生だったから余計にね」

話が噛み合わない。私、会社なんて興した覚えはない。あれ?

「航ちゃん。ちょっと質問。何歳でこっちに来た?」

「え?たしか、27だけど」

「私、今23・・・・」

脳みそが捻れそうだ。27歳で300年前に飛ばされた航ちゃんと4年間一緒にいた私は誰?

「何がどうなってる・・・・?」

航ちゃんの知っている300年前の情報を細かく思い出させて検証した結果、私があの公園からこの世界に来た後もあの世界に私が存在していたことが判明した。どういう仕組みかは分からないけど、私の身体と記憶を持った私は、新しく会社を興して精力的に働いていたそうだ。確かに自分の作品だけで食べていけたらとは思っていたけど・・・・。なんか複雑だ。

「なら、僕のそっくりさんはきっと大学病院で精力的に働いてそうだね。次期学長を狙ってそうだよ。ハハハハ」

「そんな野望があったんだ」

「いや、うちの家系的に、ね?」

あー、納得。きっと頑張っちゃってるだろうな、あっちの世界の航ちゃん。そんなことを話していたら、いつの間にか他の巫女たちも私たちの周りに集まっていた。どの巫女もここじゃない世界から召喚されてきたから、私と航ちゃんの話はとても重要かつ貴重な話しだったのだ。自分達がいなくなった後のことはやっぱり気にかかるよね。

「つまり、元の世界には全く影響がないってことよね?」

赤い瞳の儚げな女の人が複雑な顔で尋ねてきた。

「そうだね。光梨は僕がここに来る時にもあの世界にいたよ。前日に会って話したから間違いない。まさか、中身が違うなんて思わなかった」

「それほどに酷似しているのか?」

これは、青い瞳をした生真面目そうな男の人。

「酷似っていうか、本人そのもの。ただ、光梨の場合は、やりたいことに急に積極的になったからビックリはしたよ」

「刺繍で食べていけたらなぁとは思ってたけど、会社を興すなんて考えもしなかったし。経営とか無理だよ」

「ね?このくらいの変化はあったけど、違和感は全く感じなかった」

「なるほど。でしたら、私のそっくりさんはきっと私よりも上手く子供達を導いているでしょうね。それだけが心残りでしたが、胸のつかえが取れました」

黄緑の瞳をしたほんわかとした男の人は心底安堵の表情になった。それほどに気にしていたのだろう。他の二人の巫女も複雑な表情ながらも安堵を滲ませている。色々と判明したところで、他の精霊王と巫女を紹介してもらった。まあ美男美女だよね。美男美男率が高いのが気になるけど。巫女はみんな髪の一部と瞳の色が精霊王の髪の色と同じ。但し、一色だけどね!ホント、二色はキツイと思うよ!

「ねぇ、航ちゃん。楠木まりあって子知ってる?」

「楠木まりあ・・・・。楠木まりあ・・・・あー!思い出した。僕がこっちに来る何年か前にカンファーコンツェルンの当時高校生の娘さんが行方不明になったってニュースで大騒ぎしてたよ。その娘が楠木まりあって名前だった。あの公園の入り口に彼女の持ち物が散乱していたって。カンファーコンツェルンはさ、製薬会社だから、僕のバイト先の大学病院でも騒ぎになってたから覚えてる、って・・・・まさか?!」

「そう。私を突き飛ばしてこっちに来た子の名前が楠木まりあ。今、神殿にいる」

「ええ~・・・・マジか」

これにはさすがの航ちゃんも呆れ顔をしている。私とあの子の違い。私はそっくりさんがいるけど、楠木まりあは行方不明。それってやっぱり、精霊王の巫女じゃないからだよねぇ。
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