異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

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苦労人

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執務室は、結構広かった。来客用のテーブルセットの他に円形のテーブルとゆったりとした二人掛けの椅子が5組。主に会議用だそうだ。書類や資料などがあるわけでもなく、がらんとした印象だ。こんな部屋があったなんて知らなかった。キョロキョロと室内を観察している私を膝に乗せてライはソファーに座った。

「お待たせ。ナジェル、ガードナーを野放しにするなと言ったよね?」

「あー。いつもの帰還報告だから大丈夫だと思ったんですが・・・・。しかし、まあ、不測の事態はその子ですか?」

ナジェルと呼ばれたミルクティー色の髪の男は、軍に所属しているわりには線が細く、参謀といった風情だ。その人は私を視界に捉えて見定めるように視線を外さない。

「戦闘以外は本当にポンコツだよな。すぐパニックになる。戦場では有能な分、残念だな」

あれをパニックと言えるアールは懐が大きい。

「申し訳ありません。つい。部隊長と副隊長の修羅場が浮かんで。各方面への影響が尋常ではないと思うと・・・・」

妄想君ことガードナーは、見るからに脳筋なガチムチの戦士だった。いや、あれだけの妄想を展開できるんだから、脳筋ではないかもしれない。

「で?その子は女の子ですよね?何処から拐ってきたんですか?まさか、部隊長たちの子ではないですよね?」

笑顔のナジェルが怖い。ハッとした顔でガードナーが二人を交互に見ている。何を言い出すのか、ドキドキする。ぷぷ。

「これは申し訳ないことを。そこには考えが及びませんでした。ですが、お二人のお子」

「「違う!」」

「グフ。フフフ、ハハハハハハハ」

ライの胸に顔を押し付けても笑い声も肩が上下するのも止まらない。確かに、男同士で番えるこの世界ならそれもありだ。でも、アールとライの子!笑える。あり得ない。この二人がそういう関係じゃないのは一緒に生活していてわかってる。

「え?ですが、お二人は夫婦なのですから、あり得ることでは?」

「その前提から間違ってるからね?」

「まあ、否定してこなかった俺たちも悪いが」

「僕たち、夫婦じゃないから。アールとは双子だよ」

ガードナーとナジェルはぽかんと口を開けて唖然としている。初めて聞かされた事実に頭が追い付かないようだ。

「は?では、我々の認識は・・・・。なんてことだ。全隊員に周知しなければ・・・・」

「ガードナーは少し黙って。何故今まで黙っていたのですか?」

ナジェルはちょっとムスッとしている。そりゃそうだろう。尊敬している・・・・たぶん?・・・・上司から謀られたんだから。

「誤解してもらった方が都合がよかったから、かな。敵を欺くにはまず味方からって言うでしょ。精鋭部隊がみんなそう認識してるから周りも誰も疑わない。お蔭で鬱陶しい女性を遠ざけることが出来てる」

ライはクスッと嗤いながら満足げだ。確かにこの外見で強いときたら女性は放っておかないだろうな。

「俺たちは肯定も否定もしてないしな」

「ガードナー、隊員たちには知らせなくていい。近いうち嫌でも事実が知れる」

ナジェルは、ドサッと椅子に身を投げた。疲れたようにぐったりとしている。

「分かった」

「勘が鋭いのはいいことだな」

「説明の手間が省けるよ。それから、この子のことは口外無用だ。ヒカはちょっと呪いをかけられちゃってね。元に戻るまで1月くらいかな。僕たちの休暇が終わった後で全員に紹介するよ。ところで、新しく召喚された巫女のことは聞いてる?」

「呪いって・・・・。副隊長が解いてるならもう大丈夫だと思いますけど。巫女のことは神殿に残っていたやつらから多少は。部隊長たちも参加されたとか」

「ああ。ダガートが筆頭護衛騎士に選ばれた。この世界のことを学びつつ、求婚者と会っているはずだ。恐らくだが、半年以内に各属性の精霊王に会いに行くだろう。とは言え、精霊の導きがないと辿り着けはしないがな」

「きっと俺たちが露払いを任されますねぇ」

ナジェルは嫌そうに顔を歪めた。

「神殿長が言うには、精霊の巫女が選んだ伴侶は精霊王となるらしいよ。その新しい精霊王の神殿の捜索も任務に入るだろうね」

「マジですか?それ、どこ情報です?」

「300年前に召喚があったときにはそうだったらしい。いつ任務が入ってもいいように休みはしっかりとるように全員に伝えろ」

情報源を明かすつもりはないようだ。

「はっ!」

「了解しました。各隊長に周知します。箝口令は?」

「じきに知れ渡るだろうから必要ないが、態々漏らすなよ」

アールとライは私が精霊王の巫女だって言ってた。あれ?私が選んだ人が精霊王?まさかね?アールの話しに???を浮かべていると、ライが私の髪をそっと撫でてきた。それだけで、私が考えなくても二人に任せておけば大丈夫だとほっとする私は、相当二人に依存しているんだろう。私はこれ以上余計なことを考えたくなくて、ライに凭れて瞳を閉じた。

「あとね、その召喚された女性がいろいろと問題を起こしてるらしくてね。求婚者でなくても気に入った騎士や神官たち、他の女性の求婚者に見境なく声をかけて、他の女性から苦情が入っているらしい。男の方も満更でもないようだからなんとも言えないけどね。僕もさっき捕まった。その辺のことを諜報が得意なやつに探らせて。念のため、うちの部隊全員に魔道具をつけさせてね?」

「それほどなのですか」

「まあ、念のためね」

まりあさんはこの10日も経たないうちにいろいろとやらかしているらしい。この部屋で引きこもっている私とは大違いだ。私を突き飛ばしてまでこの世界に来たんだから、ちやほやされたら勘違いしちゃうよね。何といってもこの世界の男は・・・・。

「ちょっと優しくされたらコロッといっちゃうよね。チョロチョロ」

「ん?ヒカ、どういうこと?」

思わずぽろっと洩れてしまった。アールとライだけでなく、ガードナーとナジェルも私を凝視している。

「あれ?えっと。独り言」

「詳しく独り言を言ってごらん?」

有無を言わさぬライの圧力に屈して、自分の見解を明後日の方を見ながら述べた。

「なるほどね。反論のしようもないよ」

「ナジェル、これも部隊には周知だ」

「了解。ハァ。ハニートラップとはいい得て妙だが・・・・。どうします?精霊王のことが広まらなくてもそのうち血を見ますよ?」

え?ハニートラップにもならないって言ったよね?まじか。あんな些細なことでハニートラップになるのか?

「放っておけばいいんじゃないか?引っ掛かる方が馬鹿だぞ」

「ガードナーの言うとおりだよ。確かに外見はそれなりに可愛い子だけど、媚びてるのが見え見えで鬱陶しすぎる」

「確かに。ちょっと見る目があれば、見抜ける程度のトラップだろ」

「ドンパチ始まらないなら見物ですかね」

みんな言いたい放題だ。私は彼女には会ったことも見たこともないから外見は知らない。でも、お馬鹿な子だということだけはこの会話で嫌という程察することができた。かわいそうに・・・・。
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