異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子

文字の大きさ
上 下
4 / 19

繭の中で

しおりを挟む
元の世界に帰れるとは思っていなかった。でも、さすがにきつい。可愛がっていた姪や甥の笑顔、声、柔らかい手や頬、独特の優しい匂い。込み上げてくるものを鎮めるために私はぎゅっと目を閉じて静かにゆっくりと深呼吸を繰り返す。

ポタポタポタポタ・・・・

「「ヒカ?!!!」」

心を守るように身体を丸めた。どんなに押さえ込んでも漏れ出る嗚咽を止めることはできない。

「ぅ~・・フッ・・・・ンン・・・・」

不意に後ろから丸めた身体が包み込まれ、前から頭を抱き込まながら、ゆっくりと髪を梳けずられた。それはまるで繭の中にいるような不思議な安心感を私に与えてくれる。身体の力が徐々に抜け、堪えていた嗚咽が溢れ始めた。その繭の中で勝手に溢れ落ちる涙が自然と止まるまで丸まった。どれくらいそうしていたか。アールとライの作る繭に身体を預けてぐったりとしていると自然と気持ちも落ち着き、嗚咽もやんだ。私が呼吸を整えるために「フゥ~」と深呼吸をしたタイミングで、泣きすぎて腫れぼったくなった目がスッと軽くなり、喉の痛みが引いた。グチャグチャだった顔もスッキリだ。

「え?」

何が起こったのかと顔をあげると、心配そうなライの顔があった。

「何、したの?」

喉は痛くなくなったけど、声はガラガラだった。泣きすぎて喉乾いたかも。こんなに泣いたのは初めてかもしれない。でも、心は軽くなった。

「ちょっと待ってて」

ライはスッと立ち上がると部屋を出ていった。

「魔法だ。ヒカの喉が辛そうだったから、ライが癒しと洗浄をかけたんだ。洗浄は朝と食事の後も使ってたぞ?」

魔法!!!精霊の力を借りて魔法を使うんだったっけ?私も使えるんだろうか?

「ヒカ、これ飲んで」

戻ってきたライに手渡された水を飲み干すとほんのりと柑橘系の爽やかな味がした。

「美味しい」

「もう少し飲む?」

ライの手には、いろんな種類の柑橘類が入った水のピッチャーが握られている。見た目も綺麗で美味しそうに見えた。頷くだけでその水がコップに足される。至れり尽くせりとはこのことだろう。スパダリ、と言う言葉が頭を過った。

「落ち着いたな?」

「はい。取り乱してすみません」

「それが普通の反応だよ」

「疲れてないか?」

「大丈夫です」

本当は少しだけ眠い。精神が身体幼女に引っ張られているのかもしれない。

「なら、もう少し話しを続けてもいいかな?」

私は頷くことで同意を示した。

「ヒカの受けとるべき力が僕たちの中にあることは話したよね」

・・・・聞いた気がする。

「1月だ。その間にヒカに魔力を馴染ませる」

「私、元々魔力なんてないですけど」

「それは問題じゃないんだよ。あの光は魔力の器を創ってそれに見合った魔力を供給するんだ。器の大きさはその魂によるんだけど、ヒカのは、まあ底知れないというか・・・・。僕たちも早く受け取ってもらわないともて余す量だから」

ちょっと困ったようなライに、私は自分の身体を見た。小さくなった以外、何も変わっていない気がするが、どうなんだろう?

「その1月の間、ヒカにはこの部屋から出ないでほしいんだ。さすがに、子供が1月で大人になるなんて異常でしょ?」

「確かに。分かりました」

「この部屋とは言っても、この階なら何処に行ってもいい。本来ここは部隊長と副隊長用に別々に部屋があったんだが、俺たちが作り替えた。下には俺たちの部下がいる。1階に食堂や共同の風呂があって、2階~4階は隊員用で二人部屋が各階6部屋ずつ。5階は各隊の隊長用で3部屋。ここは最上階の6階になる。この寮は関係者以外入れないし、この階に入れるのは俺たちと俺たちが許可した者だけだから何処よりも安全だ」

この階、全部?規模の大きさに顔が攣る。

「僕たちは丁度1月の休暇に入ったばかりだから、急用でもない限りここにいるけど、自分の家だと思って寛いでね?それから、ヒカの口に入るものはここのキッチンで僕かアールが作るんだけど、食べられないものはある?」

私は4歳くらいだから、さすがに料理や家事は難しい。まあ、大人の私も食べる専門だけど。

「特にはないです」

「そう?僕たちからはこのくらいだけど、ヒカは聞きたいことはある?」

聞きたいこと・・・・。

「あの、私も・・魔法は使えますか?」

二人がちょっと驚いた顔をした。何だろう?

「大人になったら使えるな」

「でも、女性で使う人はあんまりいないかな?この世界は女性が少ないことは教えたよね?女性は庇護されるべき対象で、女性を働かせる男は離縁されても文句は言えない。すべての世話を夫や周りの男がするから、魔法を覚えることも使うこともないんだよ」

「こっちの女の人は何をして過ごしてるんですか?」

素朴な疑問。暇をもて余すことはないんだろうか?

「さあな。ここにいる女たちは毎日違う求婚者と会ってるな」

「一妻多夫が認められてるからね。僕たちの訓練所にも押し掛けてくるからたまったもんじゃないよ」

「うちのやつらは誰も相手にしてないがな」

「仕方ないよ。あれに構っていられるほど暇じゃない。それに全員ちゃんと信頼できる相手がいるしね」

「まあ、そうだな」

今度は私が呆気にとられてしまった。こっちの婚活事情はどうなってるの?毎日違う相手と会うなんてどんな拷問。疲れないんだろうか?多夫ってことは、複数の夫を持つってことだよね?無理無理。きっとそう思ってしまう時点で、嫁き遅れるんだろうなぁと溜め息が出てしまった。

「ヒカ、昼まで少し眠った方がいい。目が半分開いてないぞ?」

私はアールに抱き上げられて、問答無用であの天蓋付きのベッドにゆっくりと下ろされた。そのアールが部屋を出ていくパタンという音が聴こえると抗えない睡魔に襲われて私はフッと意識を落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

【完結】醜い駐在さんと醜い私

おうさとじん
恋愛
 ここには、人が暮らしている  動物が暮らしている  木々は青々と生い茂り、しかし文明の発達により縦横無尽に人が行き来出来る世界  世界の隅々までを人は暴こうと足掻き、そして現実にその殆どが人に曝された世界  線路は続く  世界の果て無き球体の上を  空は近い  飛び回る命を持たない大きな鳥が人々を空へ誘うから  そう、ここは私たちが暮らす世界にとても似通っている  けれど、ほんの少しだけ、私たちの暮らす世界とは違う世界  ――これは、そんな世界の小さな国の小さな物語――  容姿にも性格にもコンプレックスのある人間の女性(行き遅れ)と、竜人男性のもちゃもちゃたしたお見合い結婚物語。  2万7千字程度の軽い読み物です。  2012年になろうにあげていた作品ですが、言い回しを直した箇所があります。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...