幸せの在処

紅子

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家族会議

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ハルシオンルー様との邂逅から5日。私たちは、お父様たちと対峙している。公爵家のパーラーここにいるのは、お父様とお母様、ハルクのお父様とお母様、それにハルクの兄弟。

「それで、整理は出来たのか?」

「はい。僕たちにとっても衝撃的なことばかりでしたので、父上たちも聞けばショックを受けるでしょう。それでもお聞きになりますか?」

「それほどなのか?」

「はい。信じたくないことしかありません。母上や義母上、カイルークは席を外されても構いませんよ」

お母様たちはともかく、カイルーク様はまだ11歳。前の世界の記憶を持つ私たちとは違う。

「いいえ。あなた達が受け止められたのです。わたくしも受け止めますわ」

「ええ。子供たちにばかり負担をかけるわけには参りません」

「僕も聞きたい」

「そうだな。聞かせてもらえるか?」

「ああ。心の準備は出来ている」

ハルクは、ハルシオンルー様から告げられたこの世界の再構築のことを、前の世界のことは伏せて、ありのまま全て語った。私はそれを隣で聞いているのだが、話が進むにつれて、ここにいる全員の顔色が青から白へと変わり、今はその顔色すらなくしている。そこに留目の一撃を加える私の心境は複雑だ。

「わたくしとハルクがハルシオンルー様に呼ばれたのは、わたくしが愛し子で、ハルクはわたくしと《対を為す者》だから、だそうです。夢を視たのも愛し子の能力故と教えていただきました」

お母様とお義母様ハルクママが、ここで仲良く暗転した。辛うじて、お父様とお義父様ハルクパパが受け止めて横たえさせたが、許容量をオーバーしてしまったのだろう。そう思うと、私とハルクはよく正気を保っていられたものだ。お父様たちですら、ソファーに深く身体を預けて放心している。

「済まないが、整理する時間が必要だ。5日後にもう一度時間をもらえないか?」

「分かりました」

今日の話し合いは終わったので、動けそうもないお父様たちの代わりに、使用人を呼んでお母様たちを別室へと運んでもらった。

「わたくし、今日からハルシオンルー様にいただいた調理と菜園作りのスキルを磨こうと思うの。リアムやリードたちとした約束もあることですし」

私たちは、魂の抜けたようなお父様たちを置き去りにして、庭のガゼボでこれからのことを話し合うことにした。

「いいんじゃないかな。僕も魔剣士はかなり使い込んでたけど、魔道具製作の方は全然だったから、そっちに力を入れようと思う」

属性の方は、前の世界で習得済みだから、復習程度で使えるのは確認済みだ。ただ、今まで倒れることが多かったせいか、2人とも体力がない。それが1番改善すべきことであるのは疑いようもないのだが。

「あら、でしたら、離れを少し改造して、わたくしの調理場とハルクの工房にいたしませんか?菜園は、離れの庭でできますし」

離れは、完全なる私のプライベートスペースとして、7歳の誕生日プレゼントで貰った物だ。前世の記憶から考えると、常軌を逸しているとは思う。だから、そこまで来れる客はいない。庭を畑にしても大丈夫だろう。

「早速、セバシリオンに改造の許可を取りに行こう」

翌日から離れの改修が始まった。といっても、そこまで大がかりなものではない。1階に調理場はあるから道具を準備し、工房にする部屋を改修し、こちらも道具を揃える。それぞれ、公爵家に務めるプロによる監修でより使い易く仕上げられる予定だ。離れの庭も一部を別の場所へ移植し、野菜作りに適したものに変えられることになった。完成には、1月を要するため、私とハルクは、それぞれのプロに弟子入りすることにした。

「はい。これ、わたくしが作ったのだけれど、ハルク、食べてくれる?」

「うわぁ。美味しそうだ。トマトとアボガドのサンドだね」

まずは、簡単なところから。レタスをちぎり、トマトを切って、アボガドの皮を剥いて種をくり抜いたあと、バターを塗ったパンに挟んだもの。少しの粒マスタードをアクセントにした。

「美味しいね。粒マスタードが絶妙だよ」

私がプロの料理人になることは恐らくないから、ハルクが満足してくれるならそれでいい。

「そう言ってもらえると、作った甲斐があったわ」

「凄いよ、パール。僕はまだ道具の名前と使い方を覚えてるのに」

「それは、仕方ないわ。わたくしには、前世っていうアドバンテージがあるもの。ハルクに作ってもらいたい物がたくさんあるの。期待してるわ」

スキルを持っているから、1月もすれば既存の魔道具は作れるようになるし、新規の魔道具を作れるのは、スキルを持つ者だけ。これが、スキルの強みだ。ハルクなら、前世で便利だった物も再現できると思う。お父様たちと約束した5日後まで、あと2日。私たちは、スキルを磨くことと基礎体力作りに励んだ。

そして、約束の日。公爵家のパーラーに再び集まった。

「何から話せばいいか。・・ハルシオンルー様は、この世界を再構築するとおっしゃったのだな?消滅させるわけではないのだな?」

「はい。ハルシオンルー様の新たな世界に相応しい魂は残され、それ以外は、その魂に相応しい世界へ送られるとおっしゃいました」

「どのような世界に送られるか聞いているか?」

どうやら、お父様たちは自分たちの行き先に興味というより、不安があるようだ。

「大丈夫ですわ。陰謀や権謀術数を好まれる方は、それが生かされる世界へ。戦いがお好きな方は、戦いに明け暮れる世界へ。下剋上を望まれる方は、弱肉強食の世界へ。権力者に擦り寄って甘い汁を吸いたい方は、汚職と腐敗の蔓延る世界へ。職人として極めたい方は、切磋琢磨できる世界へ。いろいろな世界があるそうですから、きっと魂に見合った世界へ送ってくださいますわ」

私の説明に、ハルクを除く全員の顔色が悪くなった。

「この世界は、どう再構築されるのだろうか?」

「ハルシオンルー様の理想の世界ですね。愛に溢れた穏やかな世界、とおっしゃっていました」

「どうしたら、この世界に残れるのかしら?条件はないの?」

どうやら、みんなこの世界に残りたいらしい。それは、そうか。見たこともない世界に行くのは怖い。

「はっきりとした条件は分かりません。ただ、リリナフに関わるのはやめた方がいいでしょう」

「大丈夫ですわ、お母様。わたくし、気付いたことがありますの。みなさん、ハルシオンルー様から授かったスキルを覚えていらっしゃいますか?」

これは、ハルクにも意見を貰い、使用人たちのスキルを調べて確信した。ハルシオンルー様が授けるスキルには、ちゃんと意味があったのだ。私たちはそれをずっと無視し続けてきただけだ。
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