上 下
14 / 24
カリストロ辺境伯領編

引き継ぎます

しおりを挟む
ハルトが自由に隠し部屋に来るようになって、いつ魔法省の研究室に行っているのか不思議に思う。それ程頻繁にここに居る。私よりも来ていると思う。ここの間取りを私たちのいいように造り替えたのもそのひとつの原因だろう。ライトール様たちが、部屋を別にしていたのは、あの汚部屋で分かるとおり、ライトール様の片づけなさのせい。本人は何処に何があるが把握していたが、エギザリーナ様にしてみたら汚いし、資料が紛れて何処にあるか分からなくなったことも度々あったようだ。まあ、私たちには関係ないことだから、研究室は一緒にして、それぞれの研究スペースを確保。資料も共有出来るようにした。寝室仮眠室は別の部屋に造ったが、休憩場所は研究室内にある。

「これだけの資料があるのに来ない訳がない。それに、ここあるものはいろんな意味で危なすぎて出せないものばかりだ」

まあ、そうだよね。私が見て分かるものだけでもヤバそうなのばっかりだった。

「前、ハルトに相談した魔道具のことなんだけど・・・・」

「領地のセキュリティーのことでしょ?」

「うん」

私とハルトの過去世が分かった今、この領地のセキュリティーのことを黙っていても無意味だ。エギザリーナ様は、そのセキュリティーの構築を手伝ったのだから、過去世を思い出したハルトにも筒抜けだ。

「確かに、紙で遺すのは悪手だね。ライトール様は口伝の形を取ったけど、長い年月の中で忘れられた。レーネの手に見取り図が渡っていなかったら、後どれくらい領内のセキュリティーがもったか分からないくらい不確実だ。やっぱり魔道具で伝えていくのがいいかな」

「手伝って、くれる?」

この前、自分でちょっとずつでも創るって言った手前、お願いするのは気が引けて、怖ず怖ずと上目遣いに聞いてみた。

「もちろん」

ハルトは「可愛すぎる」と私の髪に顔を埋めながら、ぎゅっと抱きしめた。

それから、時間が許す限り黒鋼と真珠も含めた4人でライトール様とエギザリーナ様の遺した資料を漁り、素材を調達して試行錯誤を繰り返した。私のお勉強と訓練の時間も増し増しで確保されている。そして、1年半の時間をかけてそれは遂に出来上がった。

「「「「カンパーイ♪」」」」

出来上がったのは、本を模した魔道具。それを起動することが出来る指輪型の魔道具。ふたつでひとつの役割を果たす。指輪型の魔道具は、国王を継ぐ際に引き渡される玉璽ぎょくじと連動させている。無断で玉璽を拝借したときは本当にハラハラした。

「さて、あとはこれをどうやって陛下に渡すかだね」

「え?!黒鋼が渡せばいいんじゃない?ライトール様の従魔だって知られてるんだし」

「それでは今まで渡さなかった理由がつかぬ」

それは、そうだよね。出会ってから6年?今更感が凄いか。

「私たち以外の誰かに見つけさせるのが一番なのよね」

「誰に?」

「テオドール様が適任なんだけど」

確かに。まだ、4歳のテオドールなら怪しまれにくい。

「離宮の隙間に埋もれさせるか。テオドールの目線にあれば、大人は気付かない。隠れんぼでそこに誘導すれば見つけてくれるはず」

「それなら決行は秋の狩りだね。領主一家はその前後に離宮を訪れるよね?」

「ハルトも一緒にね」

狩りの後、予定通り私たちは離宮でテオドールと隠れんぼをした。テオドールはちゃんと指輪型の魔道具を見つけて、大喜びで父様に自慢し始めた。彼にとっては新しい玩具と同じ扱いなのだ。父様とお祖父様はすぐにそれが玩具ではなく、魔道具だと気が付いたようだ。

「これは、何の魔道具だ?」

テオドールからお菓子と交換にそれを受け取り、じっくりと検分し始めた。

「ハルトよ。分かるか?」

魔法省に所属するハルトにも意見を求めている。

「さあ?ですが、これだけで何か出来るわけではなさそうですね」

私はそれを少し離れたところから眺めている。だって、近くに居たらポロッと余計なことを言っちゃいそうなんだもん。

「黒鋼殿!これを見たことはないか?」

私の隣でのんびりと寛ぐ黒鋼を父様は大声で呼んだ。

「知っておる。代々の国王に受け継がれるべき物だ。それと対を為す魔道具が存在する。それを開くための鍵だ」

黒鋼は、チラッとそれを視線の端に映すと、淡々と事実のみを伝える。

「まさか!父上。ご存じですか?」

「いいや。聞いたこともない」

そりゃ、そうだ。

「対となる魔道具とはどのような物か?」

「本型をしておったな」

そこまで言うと黒鋼は徐に立ち上がり、父様とお祖父様の元へ移動した。かわりにハルトがこちらへ来る。

「国王が知っておくべき、この領の機密が書かれておる」

「「!!!」」

私たちには聞こえないように話を進めていく。

「国王の持つ玉璽によって、この指輪を使える者を特定しておるぞ」

「随分と念の入ったことだな」

「それだけ、重要ということか。だが、何故伝わってないんだ?」

「さあな。長い年月の中で忘れ去られることも多い」

「早急に本型の魔道具を見つけねばな」

「それなら、国王の私室にあるはずだ。隠し部屋があるだろう?」

「そんなものが?!」

「それも知らんのか?嘆かわしいことだな。マントルピースの真ん中を下からその指輪で押してみるがいい」

これも、実は急遽繋げた。そこは、私たちの隠し部屋と違って、階段を降りた先にある。階段も部屋も元々あったものだが、忘れ去られていたから、それを指輪と連動させた。こうして、目論見通り、カリストロ領のセキュリティーを父様たちの手に委ねることが出来た。城に帰ってから、お祖父様と父様はコソコソと慌ただしく、セキュリティーの点検に奔走していると黒鋼から報告された。今まで私が頑張ってたんだから父様たちもがんばれ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。

imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」 その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。 この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。 私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。 それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。 10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。 多分、カルロ様はそれに気付いていた。 仕方がないと思った。 でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの! _____________ ※ 第一王子とヒロインは全く出て来ません。 婚約破棄されてから2年後の物語です。 悪役令嬢感は全くありません。 転生感も全くない気がします…。 短いお話です。もう一度言います。短いお話です。 そして、サッと読めるはず! なので、読んでいただけると嬉しいです! 1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...