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カリストロ辺境伯領編
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私は12歳になった。今日から学園生活が始まる。領内にある学園に16歳まで通い、その後中央の学園で過ごす1年の5年間だ。領内の学園だけは1年ごとにスキップができるが、中央の学園に少なくても1年通わなくては、貴族として認められない。ハルトは毎年スキップを利用して、特別な講義に出る以外は魔方陣や魔道具の研究に勤しみ、魔獣狩りで素材を集めるという日々を送っていたらしい。なんとうらやましいことか。はっきり言えば、私が学園で習うことなど何もない。全て習得済だからだ。それが発覚したのが、8歳の時。ハルトに言われたのだ。「レーネはもうこんなところまで終わってるの?」と。驚愕の顔で言われたから、よく覚えている。8歳で魔方陣を理解できるのは普通じゃないと苦笑された。私もスキップしたい。
学園は王都の端にあり、城からは馬車で15分程度。遠くの領地に住む学生には寮が完備されている。私はもちろん通いだ。警備上、父様から許可が下りなかった。寮生活なら抜け出し放題なのに。ハルトもそれに気付いていて、首を縦には振ってくれなかった。
「ハルト、学園までの護衛、よろしくね」
「うん。学園では、真珠が護衛になるからね?」
「分かった。真珠、よろしくね」
学園にはお付きの者をひとり同伴できる。そして、教室の中まで入ることができ、授業中は隣に座る。これは、防犯上の措置だ。学園にも騎士団から派遣されてはいるけど、学生一人一人にまでは手が回らないし、高位貴族ともなると付き人がいるのは当たり前の世界だ。それに付き人になるのは同じ年頃の者が多く、一緒に同じクラスで学ぶのだ。経済的に厳しい下位貴族の子供はそうやって学園を卒業する者も多い。
「ええ。任せておいて」
わたしはてっきり黒鋼かマリー・・・・はないか、が付くものだと思っていた。父様から行き帰りの護衛をハルトに任せたのは聞いている。
「黒鋼は常に影にいるから、真珠は目に見える護衛だよ」
つまり、私の護衛は2人になるということだ。
「レーネと同じ学年に、今年は中央と各辺境伯領から学生が来る。中央からは第3王子だ。ごり押しされたそうだ。意味、分かるよね?他に注意が必要なのはサルベニア辺境伯の次男だよ」
私はうげーと顔を顰めながら、頷いた。あわよくば、ハルトに成り代わろうということだろう。ハルトの代わりなんて無理なのにね。
ハルトは顔を顰めたままの私の頬を両手で摘まみぐにぐにとしてくる。
「本当に面倒臭い。私、勉強することもないから、学園に通わなくてもいいと思うの。スキップしていい?」
「勉強だけが目的じゃないのはわかってるでしょ?頑張って社交するんだよ?レーネは城から出たことがないことになってるんだから。友達いないでしょ?」
ハルト、酷い・・・・。でも、事実だから、反論もできない。くぅ。そんな話をしているうちに学園に着いてしまった。
「どうしてもって言うなら、最終学年の16歳だけはスキップしないこと。領内で友達を作っておかないと中央の学園で孤立する」
「分かったよ。ハァ。行ってきます」
「後程お迎えに参ります」
ハルトに手を預け、私は笑顔を張り付けると渋々馬車を降りた。周りからヒソヒソと囁き声が聞こえるけど、無視だ。ハルトに見送られ、真珠を従えて私は校舎に足を踏み入れた。この学園に入学式はない。各自がクラスを確認して教室に入り、その日から授業が始まる。クラス分けも身分を重視し、成績はその次だ。高位貴族なら優秀で当たり前。それでも、スキップするのは年に1人いない。シビアな世界です。私は一番後ろの窓側の席を陣取った。
「ようやくお会いすることが出来ましたね、ライレーネ嬢」
席に座り真珠と世間話をしていると、唐突にどこの誰とも知らない学生が話しかけてきた。驚いている私に、真珠は「第3王子」と耳元で囁いた。入学早々、面倒なのに捕まってしまった。
「ご機嫌よう、第3王子殿下。気が付かず失礼致しました。カリストロ辺境伯が息女ライレーネと申します。お見知りおきを」
私は急いで淑女の礼をとり、笑顔の仮面を貼り付けた。
「そんなに畏まらないでほしい。ライレーネ嬢には、是非ゼクスと名前で呼んでもらいたい」
「・・・・・・ご冗談を。王族であらせられる殿下を名前で呼ぶなど恐れ多いことでございます」
然り気無く扇を広げて口許を隠す。
「そんなこと、気にしないでくれ」
空気が読めないのか、読むつもりがないのか・・・・。押しの強さは、王族故の傲慢さとも取れる。この会話を切り上げるにはどうしたらいいのか?然り気無く教室を見回すが、友達どころか知り合いさえいない私に助っ人は望めない。みんなこちらを興味津々で見ているだけだ。くぅ。友達ほしい。
「・・・・・・」
どうしたものか?
「まあ!ゼクス殿下ではありませんか。奇遇ですわ。殿下もこちらの学園に通われるなんて、わたくし心強いですわ」
どう会話をしたものか迷っていると、突然甲高い声が私の背後から響いた。振り向くとそこには気の強そうな少女が眼をキラキラさせて佇んでいた。「中央のシャンテーヌ・セグリア公爵令嬢」とまたもや真珠のフォローが入った。なるほど。ここは、任せてしまおう。
「や、やあ。セグリア公爵令嬢。君もこの学園に入学したんだね」
「まあ!シャンテーヌと呼んでくださいませ。わたくしと殿下の中ではございませんか」
「いや、私たちはそんな仲ではないよね?」
ぐいぐい迫るご令嬢とタジタジの王子様。私は授業が始まるまでこの喜劇を一番近くで遠巻きに眺めたのだった。ああ、助かった。
学園は王都の端にあり、城からは馬車で15分程度。遠くの領地に住む学生には寮が完備されている。私はもちろん通いだ。警備上、父様から許可が下りなかった。寮生活なら抜け出し放題なのに。ハルトもそれに気付いていて、首を縦には振ってくれなかった。
「ハルト、学園までの護衛、よろしくね」
「うん。学園では、真珠が護衛になるからね?」
「分かった。真珠、よろしくね」
学園にはお付きの者をひとり同伴できる。そして、教室の中まで入ることができ、授業中は隣に座る。これは、防犯上の措置だ。学園にも騎士団から派遣されてはいるけど、学生一人一人にまでは手が回らないし、高位貴族ともなると付き人がいるのは当たり前の世界だ。それに付き人になるのは同じ年頃の者が多く、一緒に同じクラスで学ぶのだ。経済的に厳しい下位貴族の子供はそうやって学園を卒業する者も多い。
「ええ。任せておいて」
わたしはてっきり黒鋼かマリー・・・・はないか、が付くものだと思っていた。父様から行き帰りの護衛をハルトに任せたのは聞いている。
「黒鋼は常に影にいるから、真珠は目に見える護衛だよ」
つまり、私の護衛は2人になるということだ。
「レーネと同じ学年に、今年は中央と各辺境伯領から学生が来る。中央からは第3王子だ。ごり押しされたそうだ。意味、分かるよね?他に注意が必要なのはサルベニア辺境伯の次男だよ」
私はうげーと顔を顰めながら、頷いた。あわよくば、ハルトに成り代わろうということだろう。ハルトの代わりなんて無理なのにね。
ハルトは顔を顰めたままの私の頬を両手で摘まみぐにぐにとしてくる。
「本当に面倒臭い。私、勉強することもないから、学園に通わなくてもいいと思うの。スキップしていい?」
「勉強だけが目的じゃないのはわかってるでしょ?頑張って社交するんだよ?レーネは城から出たことがないことになってるんだから。友達いないでしょ?」
ハルト、酷い・・・・。でも、事実だから、反論もできない。くぅ。そんな話をしているうちに学園に着いてしまった。
「どうしてもって言うなら、最終学年の16歳だけはスキップしないこと。領内で友達を作っておかないと中央の学園で孤立する」
「分かったよ。ハァ。行ってきます」
「後程お迎えに参ります」
ハルトに手を預け、私は笑顔を張り付けると渋々馬車を降りた。周りからヒソヒソと囁き声が聞こえるけど、無視だ。ハルトに見送られ、真珠を従えて私は校舎に足を踏み入れた。この学園に入学式はない。各自がクラスを確認して教室に入り、その日から授業が始まる。クラス分けも身分を重視し、成績はその次だ。高位貴族なら優秀で当たり前。それでも、スキップするのは年に1人いない。シビアな世界です。私は一番後ろの窓側の席を陣取った。
「ようやくお会いすることが出来ましたね、ライレーネ嬢」
席に座り真珠と世間話をしていると、唐突にどこの誰とも知らない学生が話しかけてきた。驚いている私に、真珠は「第3王子」と耳元で囁いた。入学早々、面倒なのに捕まってしまった。
「ご機嫌よう、第3王子殿下。気が付かず失礼致しました。カリストロ辺境伯が息女ライレーネと申します。お見知りおきを」
私は急いで淑女の礼をとり、笑顔の仮面を貼り付けた。
「そんなに畏まらないでほしい。ライレーネ嬢には、是非ゼクスと名前で呼んでもらいたい」
「・・・・・・ご冗談を。王族であらせられる殿下を名前で呼ぶなど恐れ多いことでございます」
然り気無く扇を広げて口許を隠す。
「そんなこと、気にしないでくれ」
空気が読めないのか、読むつもりがないのか・・・・。押しの強さは、王族故の傲慢さとも取れる。この会話を切り上げるにはどうしたらいいのか?然り気無く教室を見回すが、友達どころか知り合いさえいない私に助っ人は望めない。みんなこちらを興味津々で見ているだけだ。くぅ。友達ほしい。
「・・・・・・」
どうしたものか?
「まあ!ゼクス殿下ではありませんか。奇遇ですわ。殿下もこちらの学園に通われるなんて、わたくし心強いですわ」
どう会話をしたものか迷っていると、突然甲高い声が私の背後から響いた。振り向くとそこには気の強そうな少女が眼をキラキラさせて佇んでいた。「中央のシャンテーヌ・セグリア公爵令嬢」とまたもや真珠のフォローが入った。なるほど。ここは、任せてしまおう。
「や、やあ。セグリア公爵令嬢。君もこの学園に入学したんだね」
「まあ!シャンテーヌと呼んでくださいませ。わたくしと殿下の中ではございませんか」
「いや、私たちはそんな仲ではないよね?」
ぐいぐい迫るご令嬢とタジタジの王子様。私は授業が始まるまでこの喜劇を一番近くで遠巻きに眺めたのだった。ああ、助かった。
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