10 / 24
カリストロ辺境伯領編
甘過ぎる時間
しおりを挟む
私はハルトを庭のあずまやに連れてきた。そして、何故か今は、ハルトの膝に乗せられている。
「・・・・なんで膝の上?」
「ん?レーネが可愛いから」
ハルトは、私の髪を指にくるくると巻き付けながら、にっこりと笑顔を向けた。その笑顔が総ちゃんと重なった。
え?
「どうしたの?」
ハルトを見つめたまま固まった私を怪訝に思ったのか、ハルトが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「なんでもないよ。それより!なんで婚約を受けたの?!」
見間違いだ。総ちゃんに会いたいという想いが見せた幻だ。そう思うことで、泣きそうな心を抑え込んだ。ハルトと出逢ってから私の中の総ちゃんが膨れ上がった気がする。私はどうしてしまったんだろう?
「一目惚れしたから?」
なんで疑問系なの?
「嘘だ。5歳に惚れるとか、ロリコンなの?」
「だって、レーネは普通の5歳じゃないでしょう?」
そうだけど。一目惚れってことは、この見た目ってことでしょ。違うの?
「同じ転生者だから?」
「それもあるかな。でも、レーネのことは、ほっとけない感じかな?」
「???」
「独りにしておくと、何仕出かすかわからない。それに、身軽に黒鋼と何処へでも行っちゃいそう。それは嫌かな。一緒に行くから、置いていかないでね?」
そう言ったハルトの顔はとても切なくて、笑っているのに泣いている顔に見えてしまった。
「分かった。何処かに行きたくなったらちゃんと言う」
「いい子」そういいながら、ハルトは膝に乗せた私を抱き締めて、私の頭に顔を埋めた。この人は、総ちゃんじゃない。分かっているのに、前世に引っ張られてしまう自分がとても嫌だった。
その日以来、ハルトは学園で授業のない日は私を城から連れ出してくれた。黒鋼もいるし真珠もいるから、父様もお祖父様も簡単に許可をくれた。その二人さえいれば、他の護衛はかえって足手まといになるため、つけなくても許されている。城下を散策とか遠駆けという理由で抜け出しているけど、実際は、転移して精霊の森に狩りに行くことの方が多い。そこで、黒鋼や真珠、ハルトに魔法を教えてもらったり、この国の成り立ちや歴史を聞いたり、とても楽しかった。母様も回復し、元気に公務をこなしている。父様と仲良くしているから、私に弟妹が出来る日も近いだろう。
時折、ハルトの仕草に総ちゃんを思い出しては、自分を嫌悪することもあるけど、自分の能力を偽らなくていい、ハルトとの時間は私にとって、とてもかけがえのないものになっていった。
そして、7歳まであと数ヶ月という日、私に弟ができた。名前は、テオドール。テオドール・カリストロ辺境伯令息。未来の領主様だ。ハルトは今は中央の学園に通っていて、転移で頻繁に戻ってきてくれる。この国の貴族として認められるには、中央の学園に1年通わなければならない。カリストロ辺境伯領では、16歳になった年に1年通うことになっている。それまでは領内の学園に通う。
「ハルト!やっと弟ができたよ!私これで姫様から解放される♪」
「何を言ってるの?姫様は姫様でしょう?」
「違うの!大人になったら、女王様しなくていいでしょ?」
「ああ、なるほどね。レーネは冒険者みたいにこの世界を旅して回りたいんだったね」
「うん!だって、折角高い能力を貰ったんだから、それを活かすには冒険者でしょう!」
「レーネよ。そんなに冒険者がいいのか?」
ここは、精霊の森の前にある平原。私たちは休憩がてらピクニックをしている。黒鋼は、もふもふ姿で私とハルトの背もたれだ。
「だって、自由だよ!黒鋼だって、自由な方がいいでしょ?」
「フフッ。ライトと同じことを言うのだな」
「ご先祖様も自由を求めてたんだ?」
「特に晩年はな。この領に居を構えてからは、国王として仕事が忙しかったからな」
「だよね。国王も領主も大変だよね。私には無理。ハルトは?国王様やりたい?」
「やりたいわけないだろう?そんなことするくらいなら、魔道具の研究したい」
「はは。だよね」
うん。まだ産まれたばかりの弟には悪いけど、一抜けさせてもらうよ。
「そうだ。魔道具で思い出した。レーネ、手を出して?」
「手?」
はい、と右手をハルトに差し出した。ハルトはスッと私の小指に小さな指輪を差し入れた。
「これは、魔力を誤魔化す魔道具。レーネは来年8歳だろう?魔力測定があるよね。そのまま計るととんでもないことになるよね?だから、その対策。これを嵌めて計ると魔力量は普通の8歳より少し多いくらいになるよ」
「!!ありがとう。よかったぁ。どうしようかと思ってたの」
本当によかった。
「誤魔化すだけだから、実際の魔力量は変わらない。当日だけ着けると要らぬ詮索をされかねないから、今日から着けること。魔道具かどうかは見てもわからないから私からのプレゼントだと言えばいいよ。婚約者からのプレゼントなら不自然じゃない」
そうか。婚約者からのプレゼントになるんだ。
うわー。なんか恥ずかしい。
これが初めてのプレゼントじゃないけど、今までのは髪飾りとかお菓子とか花束とかだった。指輪はなんか特別な感じがするから余計に恥ずかしさが増す。
「恥ずかしがるレーネも可愛いね。貴重貴重」
その言葉にドキリとした。だって、総ちゃんもよくそう言っていたから。どうして、ハルトは総ちゃんじゃないんだろう?
ハルトが総ちゃんならいいのに・・・・。
そんなことあるわけないのに、総ちゃんはちゃんとあの世界で生きて幸せになっているはずなのに、そう思ってしまった自分に嫌悪した。
「・・・・なんで膝の上?」
「ん?レーネが可愛いから」
ハルトは、私の髪を指にくるくると巻き付けながら、にっこりと笑顔を向けた。その笑顔が総ちゃんと重なった。
え?
「どうしたの?」
ハルトを見つめたまま固まった私を怪訝に思ったのか、ハルトが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「なんでもないよ。それより!なんで婚約を受けたの?!」
見間違いだ。総ちゃんに会いたいという想いが見せた幻だ。そう思うことで、泣きそうな心を抑え込んだ。ハルトと出逢ってから私の中の総ちゃんが膨れ上がった気がする。私はどうしてしまったんだろう?
「一目惚れしたから?」
なんで疑問系なの?
「嘘だ。5歳に惚れるとか、ロリコンなの?」
「だって、レーネは普通の5歳じゃないでしょう?」
そうだけど。一目惚れってことは、この見た目ってことでしょ。違うの?
「同じ転生者だから?」
「それもあるかな。でも、レーネのことは、ほっとけない感じかな?」
「???」
「独りにしておくと、何仕出かすかわからない。それに、身軽に黒鋼と何処へでも行っちゃいそう。それは嫌かな。一緒に行くから、置いていかないでね?」
そう言ったハルトの顔はとても切なくて、笑っているのに泣いている顔に見えてしまった。
「分かった。何処かに行きたくなったらちゃんと言う」
「いい子」そういいながら、ハルトは膝に乗せた私を抱き締めて、私の頭に顔を埋めた。この人は、総ちゃんじゃない。分かっているのに、前世に引っ張られてしまう自分がとても嫌だった。
その日以来、ハルトは学園で授業のない日は私を城から連れ出してくれた。黒鋼もいるし真珠もいるから、父様もお祖父様も簡単に許可をくれた。その二人さえいれば、他の護衛はかえって足手まといになるため、つけなくても許されている。城下を散策とか遠駆けという理由で抜け出しているけど、実際は、転移して精霊の森に狩りに行くことの方が多い。そこで、黒鋼や真珠、ハルトに魔法を教えてもらったり、この国の成り立ちや歴史を聞いたり、とても楽しかった。母様も回復し、元気に公務をこなしている。父様と仲良くしているから、私に弟妹が出来る日も近いだろう。
時折、ハルトの仕草に総ちゃんを思い出しては、自分を嫌悪することもあるけど、自分の能力を偽らなくていい、ハルトとの時間は私にとって、とてもかけがえのないものになっていった。
そして、7歳まであと数ヶ月という日、私に弟ができた。名前は、テオドール。テオドール・カリストロ辺境伯令息。未来の領主様だ。ハルトは今は中央の学園に通っていて、転移で頻繁に戻ってきてくれる。この国の貴族として認められるには、中央の学園に1年通わなければならない。カリストロ辺境伯領では、16歳になった年に1年通うことになっている。それまでは領内の学園に通う。
「ハルト!やっと弟ができたよ!私これで姫様から解放される♪」
「何を言ってるの?姫様は姫様でしょう?」
「違うの!大人になったら、女王様しなくていいでしょ?」
「ああ、なるほどね。レーネは冒険者みたいにこの世界を旅して回りたいんだったね」
「うん!だって、折角高い能力を貰ったんだから、それを活かすには冒険者でしょう!」
「レーネよ。そんなに冒険者がいいのか?」
ここは、精霊の森の前にある平原。私たちは休憩がてらピクニックをしている。黒鋼は、もふもふ姿で私とハルトの背もたれだ。
「だって、自由だよ!黒鋼だって、自由な方がいいでしょ?」
「フフッ。ライトと同じことを言うのだな」
「ご先祖様も自由を求めてたんだ?」
「特に晩年はな。この領に居を構えてからは、国王として仕事が忙しかったからな」
「だよね。国王も領主も大変だよね。私には無理。ハルトは?国王様やりたい?」
「やりたいわけないだろう?そんなことするくらいなら、魔道具の研究したい」
「はは。だよね」
うん。まだ産まれたばかりの弟には悪いけど、一抜けさせてもらうよ。
「そうだ。魔道具で思い出した。レーネ、手を出して?」
「手?」
はい、と右手をハルトに差し出した。ハルトはスッと私の小指に小さな指輪を差し入れた。
「これは、魔力を誤魔化す魔道具。レーネは来年8歳だろう?魔力測定があるよね。そのまま計るととんでもないことになるよね?だから、その対策。これを嵌めて計ると魔力量は普通の8歳より少し多いくらいになるよ」
「!!ありがとう。よかったぁ。どうしようかと思ってたの」
本当によかった。
「誤魔化すだけだから、実際の魔力量は変わらない。当日だけ着けると要らぬ詮索をされかねないから、今日から着けること。魔道具かどうかは見てもわからないから私からのプレゼントだと言えばいいよ。婚約者からのプレゼントなら不自然じゃない」
そうか。婚約者からのプレゼントになるんだ。
うわー。なんか恥ずかしい。
これが初めてのプレゼントじゃないけど、今までのは髪飾りとかお菓子とか花束とかだった。指輪はなんか特別な感じがするから余計に恥ずかしさが増す。
「恥ずかしがるレーネも可愛いね。貴重貴重」
その言葉にドキリとした。だって、総ちゃんもよくそう言っていたから。どうして、ハルトは総ちゃんじゃないんだろう?
ハルトが総ちゃんならいいのに・・・・。
そんなことあるわけないのに、総ちゃんはちゃんとあの世界で生きて幸せになっているはずなのに、そう思ってしまった自分に嫌悪した。
10
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる