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編集さんに確認をとっていた狐狸相先生の画像について、カスイさんから「会って回答をしたい」との連絡があり、打ち合わせをすることになった。
打ち合わせ場所には狐狸相先生はいなかった。
「この度は誤って写真を送ってしまい申し訳ありません」
「誤った写真?」
「はい。あれは資料とは全く関係ないものです。ですから、ストリングさんが考えてくださっていたメイドさんの衣装のイメージで問題ありません。それと、小悪魔チックな衣装を着たキャラは登場しません」
「そうなんですね」
どうやらスミレさんのメイド姿を使って良いそうだ。挿絵にはスミレさんが着てくれたメイド服を描こうと思う。
「それでは、挿絵の方は先にいただいた資料でいいですか?」
「はい。それでよろしくお願いします」
表紙一枚、口絵一枚、挿絵八枚、合計十枚のイラストとして、依頼を受けることになった。正式に契約を交わすための打ち合わせだ。
表紙と口絵にはカラーを入れて送らせてもらったが、それはどうだったのだろう?
「そちらの方は狐狸相先生共々、大絶賛しております。ありがとうございます。あちらの方で完成でも問題ありませんが、いかがですか?」
「あと少しだけ細部を塗りたいので、そこだけ塗らせてもらって完成でもいいですか?」
「もちろんです! こちらこそ細部までありがとうございます!」
カスイさんが頭を下げてくれる。
「いえいえ、満足してもらったことが嬉しいです」
「ストリングさんがお優しい方でよかったです」
送られてきた事情は詳しく教えてもらえなかったが、とりあえず狐狸相先生の誤送だったようだ。コスプレ写真を送ってしまったことで、逆に狐狸相先生も恥ずかしい思いをしているかもしれない。この件にはあまり触れない方が良さそうだ。
「ここは払っておきますので、先に失礼します」
「あっ、はい。お疲れ様です」
カスイさんは忙しい人だな。
まだコーヒーを飲み干していなかったので、飲み終えてから出ようと思い、ゆっくりしていると、いきなり男性が俺の前に座った。
「えっ?」
辺りを見渡したが、他にも空いている席はいくらでもある。それなのにスーツを着た筋肉質の男性がサングラスをつけてこちらを見ていた。
「……」
変な人には関わらない方がいいと思って一気にコーヒーを飲み干して立ち去ることにする。
「君が」
「えっ?」
飲み干したところで、声をかけられた。
「君が、紐田陽一君だね」
名前を呼ばれた時点で人違いではない。つまり、俺の知り合い? だけど、こんな裏の人風の男性を知らない。
「そうです」
一応肯定するが、内心ではビビりまくっていた。
「うむ。先ほどは仕事の打ち合わせかね?」
「はい。絵を描いている仕事なので、取引先と話していました」
なぜか嘘をついてはいけないような気がして、正直に答える。
コーヒーを飲んだ後なのに喉が渇いて生唾を飲み込んでしまう。
「私は、こういうものだ」
名刺を差し出されて名前を見る。
そこには会社名とCEOという肩書き、それに、瀬羽大輔《セワダイスケ》と書かれていた。
セワ? 世話? 瀬羽?
頭の中で何度も反復された名前から、やっと相手が誰なのか見当がついた。
その瞬間、立ち上がって頭を下げる。
「紐田陽一です! 娘さんである瀬羽菫さんとお付き合いさせていただいております」
頭が真っ白になりながら自己紹介をしてしまう。この怪しいスーツ姿の男性は、菫さんのお父さんだったのだ。
「……君のことは妻から聞いているよ。まずは、スミレを暴漢から救ってくれたこと、心から感謝する」
サングラスを外されたお父さんはナイスミドルのイケメンだった。どうやら俺が目的の人物なのか特定するまでは、外すつもりはなかったようだ。
「それと、暴漢相手である大学生は刑罰が確定し、刑務所に入ることが決まった。大学も中退し、弁護士を挟んでやり取りをさせてもらった。賠償金に関しては、君の元へ慰謝料と賠償金を含めた金額が彼のご両親から支払われるだろう」
そういえば、暴漢がどうなったのか全然知らなかった。
「君の怪我も、医師から左手の指に障害が残ることを聞いた。娘を救ってもらっただけでなく、その身を呈して守ってくれたこと、心から感謝する」
二度目のお礼と共に頭を下げられ、色々な事実がわかってホッと胸を撫で下ろす。
「だが、娘の彼氏とはどういうことかね?」
「えっ?」
「君の年齢は三十二歳。娘は二十歳だ。十二歳差だよ。君の勇敢さは認めるが、それほどの年下の娘に手を出すなど……。いや、すまない。私個人の感情をぶつけるために君に会いにきたんじゃないんだ。先ほどの名乗りが腹に据えかねてね。すまない」
色々な葛藤が窺い知れる。
自分がお父さんの立場なら理解できる。大事な娘がオジサンと付き合うと言われたらと思うと何も言えない。
「とにかく君にも関わることの報告と、君自身に挨拶をさせてもらうために、この役目を妻から代わってもらった。娘の家に行って嫌われたくはないので、このような場所に出向かせてもらった」
どうやら様々な事情があるようだ。
会社の社長をされているということで凄い人なんだと思う。父親としての葛藤もわかるので、悪い人ではない。
「とにかく、報告と挨拶は済ませた。すまないが、今は気持ちの整理が追いつかないから失礼させてもらうよ」
「はい! ありがとうございました」
片手をあげて去っていくお父さんは、足元がおぼつかない様子だった。
娘の彼氏というだけでダメージを受けたんだろうな。
もしも、スミレさんとの間に娘ができて他の男に嫁ぐと思えば、俺はまだ生まれてもいない娘を思ってボディーブローを受けた気分だった。
打ち合わせ場所には狐狸相先生はいなかった。
「この度は誤って写真を送ってしまい申し訳ありません」
「誤った写真?」
「はい。あれは資料とは全く関係ないものです。ですから、ストリングさんが考えてくださっていたメイドさんの衣装のイメージで問題ありません。それと、小悪魔チックな衣装を着たキャラは登場しません」
「そうなんですね」
どうやらスミレさんのメイド姿を使って良いそうだ。挿絵にはスミレさんが着てくれたメイド服を描こうと思う。
「それでは、挿絵の方は先にいただいた資料でいいですか?」
「はい。それでよろしくお願いします」
表紙一枚、口絵一枚、挿絵八枚、合計十枚のイラストとして、依頼を受けることになった。正式に契約を交わすための打ち合わせだ。
表紙と口絵にはカラーを入れて送らせてもらったが、それはどうだったのだろう?
「そちらの方は狐狸相先生共々、大絶賛しております。ありがとうございます。あちらの方で完成でも問題ありませんが、いかがですか?」
「あと少しだけ細部を塗りたいので、そこだけ塗らせてもらって完成でもいいですか?」
「もちろんです! こちらこそ細部までありがとうございます!」
カスイさんが頭を下げてくれる。
「いえいえ、満足してもらったことが嬉しいです」
「ストリングさんがお優しい方でよかったです」
送られてきた事情は詳しく教えてもらえなかったが、とりあえず狐狸相先生の誤送だったようだ。コスプレ写真を送ってしまったことで、逆に狐狸相先生も恥ずかしい思いをしているかもしれない。この件にはあまり触れない方が良さそうだ。
「ここは払っておきますので、先に失礼します」
「あっ、はい。お疲れ様です」
カスイさんは忙しい人だな。
まだコーヒーを飲み干していなかったので、飲み終えてから出ようと思い、ゆっくりしていると、いきなり男性が俺の前に座った。
「えっ?」
辺りを見渡したが、他にも空いている席はいくらでもある。それなのにスーツを着た筋肉質の男性がサングラスをつけてこちらを見ていた。
「……」
変な人には関わらない方がいいと思って一気にコーヒーを飲み干して立ち去ることにする。
「君が」
「えっ?」
飲み干したところで、声をかけられた。
「君が、紐田陽一君だね」
名前を呼ばれた時点で人違いではない。つまり、俺の知り合い? だけど、こんな裏の人風の男性を知らない。
「そうです」
一応肯定するが、内心ではビビりまくっていた。
「うむ。先ほどは仕事の打ち合わせかね?」
「はい。絵を描いている仕事なので、取引先と話していました」
なぜか嘘をついてはいけないような気がして、正直に答える。
コーヒーを飲んだ後なのに喉が渇いて生唾を飲み込んでしまう。
「私は、こういうものだ」
名刺を差し出されて名前を見る。
そこには会社名とCEOという肩書き、それに、瀬羽大輔《セワダイスケ》と書かれていた。
セワ? 世話? 瀬羽?
頭の中で何度も反復された名前から、やっと相手が誰なのか見当がついた。
その瞬間、立ち上がって頭を下げる。
「紐田陽一です! 娘さんである瀬羽菫さんとお付き合いさせていただいております」
頭が真っ白になりながら自己紹介をしてしまう。この怪しいスーツ姿の男性は、菫さんのお父さんだったのだ。
「……君のことは妻から聞いているよ。まずは、スミレを暴漢から救ってくれたこと、心から感謝する」
サングラスを外されたお父さんはナイスミドルのイケメンだった。どうやら俺が目的の人物なのか特定するまでは、外すつもりはなかったようだ。
「それと、暴漢相手である大学生は刑罰が確定し、刑務所に入ることが決まった。大学も中退し、弁護士を挟んでやり取りをさせてもらった。賠償金に関しては、君の元へ慰謝料と賠償金を含めた金額が彼のご両親から支払われるだろう」
そういえば、暴漢がどうなったのか全然知らなかった。
「君の怪我も、医師から左手の指に障害が残ることを聞いた。娘を救ってもらっただけでなく、その身を呈して守ってくれたこと、心から感謝する」
二度目のお礼と共に頭を下げられ、色々な事実がわかってホッと胸を撫で下ろす。
「だが、娘の彼氏とはどういうことかね?」
「えっ?」
「君の年齢は三十二歳。娘は二十歳だ。十二歳差だよ。君の勇敢さは認めるが、それほどの年下の娘に手を出すなど……。いや、すまない。私個人の感情をぶつけるために君に会いにきたんじゃないんだ。先ほどの名乗りが腹に据えかねてね。すまない」
色々な葛藤が窺い知れる。
自分がお父さんの立場なら理解できる。大事な娘がオジサンと付き合うと言われたらと思うと何も言えない。
「とにかく君にも関わることの報告と、君自身に挨拶をさせてもらうために、この役目を妻から代わってもらった。娘の家に行って嫌われたくはないので、このような場所に出向かせてもらった」
どうやら様々な事情があるようだ。
会社の社長をされているということで凄い人なんだと思う。父親としての葛藤もわかるので、悪い人ではない。
「とにかく、報告と挨拶は済ませた。すまないが、今は気持ちの整理が追いつかないから失礼させてもらうよ」
「はい! ありがとうございました」
片手をあげて去っていくお父さんは、足元がおぼつかない様子だった。
娘の彼氏というだけでダメージを受けたんだろうな。
もしも、スミレさんとの間に娘ができて他の男に嫁ぐと思えば、俺はまだ生まれてもいない娘を思ってボディーブローを受けた気分だった。
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