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仕事用のイラストを描こう
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夢を見た。
天女のような羽衣を纏ったスミレさんが、スケスケのネグリジェを着て、俺の耳元で囁くのだ。
「ヨウイチさん。私を好きにしてもいいんですよ」
ぐっ! これはきっと俺の願望だ。
先に言っておく。俺は童貞ではない。
美大に通っていた際に彼女がいたから、その時の彼女といたした。
だが、十年はご無沙汰なことも事実だ。
二十代の一番盛んな時期に、職場で女性に囲まれながらも、女性に幻滅していた。伊地知先生は、綺麗だがヒステリックで近寄りたくない。
先輩のオバチャンアシスタントは結婚していたし、ふくよかなお身体があまりタイプではなかった。
それ以外のアシスタントは、一ヶ月もつかどうかが多くて、仲良くなる前に辞めていく。元々、会話も少ない職場で時間もないので、口説くなんて芸当はできなかった。
だから、こんな妄想をしてしまうんだ。
はっ! として目を覚ました俺は右腕に柔らかくて暖かな感触を味わう。
最近は毎朝といってもいい。
引っ越してきてから、ほとんど毎日スミレさんはボディータッチをしてくる。
そして、朝になると俺のベッドに潜り込む。
「おはようございます! ヨウイチさん」
「はっ、はい! おはようございます!」
今までなら、俺が目を覚ます前に起きて朝食や服の用意してくれていたのに、最近は目を覚ますと隣で寝ていて、朝のご挨拶をしてくれる。
上目遣いに右腕に抱きついて……。
ここは桃源郷だ。
あと一歩踏み込めば、俺は快楽と言われる地獄の沼にハマっていくことができる。そんな甘い時間を過ごしていた。
左腕は無事に包帯が取れて、刺し傷が残ってしまった。
後遺症としては、中指の二本は力が戻っていない。
何かに触れれば感覚は少しだけ戻っている。
スミレさんには話していないが、まぁこれも人助けをした代償だと思えば、安い物だろう。
「もう朝ですか?」
「はい。朝食の準備が終わっているので、朝の準備をしましょう」
「わかりました」
男には生理現象が存在するので、出来れば密着したままというのは辛い。
この歳になって、夢で汚してしまう日が来るなど考えても見なかった。
夜の店という場所に行ったことがない。
行ったことがない手前、なかなかこの歳でデビューすることも躊躇われる。
オジサンとは、面倒な生き物だ。
歳だけとって、新しいことをする際に言い訳して動けない。
「ふふ、早く起きてくださいね」
名残惜しくはあるが、スミレさんが腕を解放してくれたので、しばらく時間をおいてからリビングに向かった。
左腕の包帯が取れたので、着替えは随分と楽になり肘や指の関節はリハビリを続けている。
「今日から、仕事の準備しようと思います」
「準備ですか?」
「はい。イラストレーターとして自分の名刺代わりのイラストを数枚描いて、pixivに掲載しようと思います。それと同時にXにも登録してファンを募ろうと思っています」
この辺のノウハウは、前の編集さんである仲居さんが教えてくれた。
伊地知のところには、大勢の編集が出入りしていた。
堅物そうなサラリーマン風から、強面な男性。ホワホワと柔らかそうな女性から、仲介さんのように気を遣いながら、お世話をしてくれる編集さんまで様々だ。
俺はその中で仲介さんに一番お世話になったと思う。
伊地知を発掘した編集長さんが、仲介さんに交代する時期に入ったこともあり、二人が交互に来ていた。
「イラストレーターさんの仕事は私には分かりませんが、頑張ってください」
「はい! まずは仕事をもらわないことには、社会復帰もできませんから! 頑張ります! いつまでもスミレさんに甘えているだけでの生活は流石に申し訳ないので」
俺は十二歳下の女性に、敬語だったり普通の言葉を使い分けて話をしている。
なるべく、彼女が親しくして欲しいときは、普通の言葉を使うが。
俺の中ではケジメとして敬語を使わなければ、線引きができないと思っているからだ。
「いつまでもお世話しているだけでいいのですが、男性は働くことで甲斐性が持てたと生き生きすると母さんからアドバイスをもらいましたからね。男性を立てるのもお世話をする女性の務め」
スミレさんは俺を見つめながら、何か小さな声で呟いた。
「えっ? 何か言われましたか?」
「いいえ、とても素晴らしいことだと思います。私ができることがあれば、なんでも言ってくださいね」
「えっと、それならお願いがあるんです」
「はい?」
俺がお願いがあるというと、スミレさんの顔が蕩けるような嬉しそうな顔をしてくれる。まるで俺からお願いされるのを待っていたかのようだ。
「はい! なんですか? ヨウイチさんからのお願い、嬉しいです」
「あっ、ありがとうございます。えっと、絵のモデルになってはくれませんか?」
「絵のモデル? 私がですか?」
「はい。黒髪の女性を描きたいんです。ダメですか?」
「もちろんいいですよ。だけど、私で大丈夫でしょうか?」
「スミレさんがいいんです! 俺の中にある黒髪美女のイメージにぴったりなので」
「まぁ、それならお引き受けします」
今、何が描きたいと問われれば、間違いなくスミレさんしか浮かんではこない。彼女を描きたい。
彼女をキャラクターにした絵を描きあげたい。
天女のような羽衣を纏ったスミレさんが、スケスケのネグリジェを着て、俺の耳元で囁くのだ。
「ヨウイチさん。私を好きにしてもいいんですよ」
ぐっ! これはきっと俺の願望だ。
先に言っておく。俺は童貞ではない。
美大に通っていた際に彼女がいたから、その時の彼女といたした。
だが、十年はご無沙汰なことも事実だ。
二十代の一番盛んな時期に、職場で女性に囲まれながらも、女性に幻滅していた。伊地知先生は、綺麗だがヒステリックで近寄りたくない。
先輩のオバチャンアシスタントは結婚していたし、ふくよかなお身体があまりタイプではなかった。
それ以外のアシスタントは、一ヶ月もつかどうかが多くて、仲良くなる前に辞めていく。元々、会話も少ない職場で時間もないので、口説くなんて芸当はできなかった。
だから、こんな妄想をしてしまうんだ。
はっ! として目を覚ました俺は右腕に柔らかくて暖かな感触を味わう。
最近は毎朝といってもいい。
引っ越してきてから、ほとんど毎日スミレさんはボディータッチをしてくる。
そして、朝になると俺のベッドに潜り込む。
「おはようございます! ヨウイチさん」
「はっ、はい! おはようございます!」
今までなら、俺が目を覚ます前に起きて朝食や服の用意してくれていたのに、最近は目を覚ますと隣で寝ていて、朝のご挨拶をしてくれる。
上目遣いに右腕に抱きついて……。
ここは桃源郷だ。
あと一歩踏み込めば、俺は快楽と言われる地獄の沼にハマっていくことができる。そんな甘い時間を過ごしていた。
左腕は無事に包帯が取れて、刺し傷が残ってしまった。
後遺症としては、中指の二本は力が戻っていない。
何かに触れれば感覚は少しだけ戻っている。
スミレさんには話していないが、まぁこれも人助けをした代償だと思えば、安い物だろう。
「もう朝ですか?」
「はい。朝食の準備が終わっているので、朝の準備をしましょう」
「わかりました」
男には生理現象が存在するので、出来れば密着したままというのは辛い。
この歳になって、夢で汚してしまう日が来るなど考えても見なかった。
夜の店という場所に行ったことがない。
行ったことがない手前、なかなかこの歳でデビューすることも躊躇われる。
オジサンとは、面倒な生き物だ。
歳だけとって、新しいことをする際に言い訳して動けない。
「ふふ、早く起きてくださいね」
名残惜しくはあるが、スミレさんが腕を解放してくれたので、しばらく時間をおいてからリビングに向かった。
左腕の包帯が取れたので、着替えは随分と楽になり肘や指の関節はリハビリを続けている。
「今日から、仕事の準備しようと思います」
「準備ですか?」
「はい。イラストレーターとして自分の名刺代わりのイラストを数枚描いて、pixivに掲載しようと思います。それと同時にXにも登録してファンを募ろうと思っています」
この辺のノウハウは、前の編集さんである仲居さんが教えてくれた。
伊地知のところには、大勢の編集が出入りしていた。
堅物そうなサラリーマン風から、強面な男性。ホワホワと柔らかそうな女性から、仲介さんのように気を遣いながら、お世話をしてくれる編集さんまで様々だ。
俺はその中で仲介さんに一番お世話になったと思う。
伊地知を発掘した編集長さんが、仲介さんに交代する時期に入ったこともあり、二人が交互に来ていた。
「イラストレーターさんの仕事は私には分かりませんが、頑張ってください」
「はい! まずは仕事をもらわないことには、社会復帰もできませんから! 頑張ります! いつまでもスミレさんに甘えているだけでの生活は流石に申し訳ないので」
俺は十二歳下の女性に、敬語だったり普通の言葉を使い分けて話をしている。
なるべく、彼女が親しくして欲しいときは、普通の言葉を使うが。
俺の中ではケジメとして敬語を使わなければ、線引きができないと思っているからだ。
「いつまでもお世話しているだけでいいのですが、男性は働くことで甲斐性が持てたと生き生きすると母さんからアドバイスをもらいましたからね。男性を立てるのもお世話をする女性の務め」
スミレさんは俺を見つめながら、何か小さな声で呟いた。
「えっ? 何か言われましたか?」
「いいえ、とても素晴らしいことだと思います。私ができることがあれば、なんでも言ってくださいね」
「えっと、それならお願いがあるんです」
「はい?」
俺がお願いがあるというと、スミレさんの顔が蕩けるような嬉しそうな顔をしてくれる。まるで俺からお願いされるのを待っていたかのようだ。
「はい! なんですか? ヨウイチさんからのお願い、嬉しいです」
「あっ、ありがとうございます。えっと、絵のモデルになってはくれませんか?」
「絵のモデル? 私がですか?」
「はい。黒髪の女性を描きたいんです。ダメですか?」
「もちろんいいですよ。だけど、私で大丈夫でしょうか?」
「スミレさんがいいんです! 俺の中にある黒髪美女のイメージにぴったりなので」
「まぁ、それならお引き受けします」
今、何が描きたいと問われれば、間違いなくスミレさんしか浮かんではこない。彼女を描きたい。
彼女をキャラクターにした絵を描きあげたい。
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