勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

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王国内乱編

反乱の兆し

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《side トオル》

 今日は隣の領まで買い物と情報収集に向かうことになった。

 領民が増えるということはそれだけ物資が必要になる。

 最近、王都では王位継承を巡って不穏な噂が飛び交っており、俺たちの領地もその影響を受けかねない。

 領地内の秩序は保たれているとはいえ、周辺の状況を知っておくことは重要だ。

 そんな折、ブラフが俺に「二人で出かけたい」と言ってきた。フルフルは頼れる手下たちに任せて大丈夫と、ブラフが言うから、少し気が楽になった。

 道すがら、ブラフが楽しげに隣を歩いている。

 久しぶりに二人だけで出かけることに少し浮かれているようだ。

「ねえ、トオル。これって……デートだよね?」

 にこっと無邪気な笑顔で、ブラフが俺の腕にしがみついてくる。

 俺は一瞬動揺したが、ブラフのあまりにも自然な態度に、無理に振りほどくのも悪い気がして、困惑しつつもそのまま腕を組ませることにした。

「おいおい、ブラフ……これはあくまで買い物と情報収集だからな。デートってわけじゃないんだけど」

 俺がそう言うと、ブラフはふっと笑みを浮かべた。

「わかってるよ、でもさ、久しぶりに二人きりで出かけるのが嬉しくて」

 その言葉に、俺もつい照れ笑いを浮かべてしまう。最近は領地のことにかかりきりで、二人でゆっくりする時間もなかった。こうして歩くだけでも、少し肩の力が抜けるのを感じる。

 ブラフが腕を組んだまま、周囲を眺めながら楽しげに話しかけてくる。

「トオル、向こうの市場で美味しい果物が売ってるらしいよ。行ってみようよ」

「果物か……まあ、せっかくだから見てみるか」

 ブラフに引っ張られる形で市場へと向かう。広場には露店が立ち並び、賑やかな声が飛び交っている。新鮮な野菜や果物、香ばしい香りの漂うパンや焼き菓子など、活気あふれる雰囲気に、俺も気が緩む。

 市場を見て回りながら、いろんなものに興味を示すブラフに付き合っていると、少しずつ彼の気持ちに引き込まれていく。

 普段は冷静で領地のことを真剣に考えているブラフが、こうして無邪気に楽しんでいるのを見るのは新鮮で、俺も自然と笑みがこぼれる。

「お、あれは美味しそうだな……」と、焼きたてのパンの匂いが漂ってくる店に足を向けると、ブラフもにっこりと微笑みながら「あれも買おうよ」と提案してくる。

 しばらく二人で買い物を楽しんだあと、少し休憩しようと、広場のベンチに腰掛ける。ブラフがそっと肩に寄りかかってくるのを感じながら、俺は改めて、こうして二人きりで過ごす時間の大切さを実感した。

「……こうしていると、つい忘れそうになるな。領主としての仕事のことも、領地のこともさ」

 俺がぽつりと呟くと、ブラフは微笑みながら俺の腕をきゅっと抱きしめてくる。

「トオル、いつも頑張ってるもんね。今日は少し、休んでいいよ。僕もこうやって二人でいると、何か安心するんだ」

 俺はそんなブラフの言葉に、心の中で小さな温もりを感じながら、彼の肩を軽く抱き返す。すると、ふいに視界に影が差し、ひそひそと話す声が耳に入ってきた。

「おい、知ってるか? 王位継承権を巡って、内乱が起きるかもしれないらしいぞ」
「え、マジか? 王家の連中があれこれ騒いでるって噂は聞いたけど……」

 俺とブラフは互いに顔を見合わせ、声が聞こえてきた方へ注意を向ける。どうやら、近くにいる商人たちが話しているようだ。

「何でも、第一王子が父王に毒を盛ったとか盛らないとか……そのせいで王宮が混乱してるらしい。もし本当にそうなら、王位を巡っての争いは避けられんだろうな」
「なんだって……」

 俺は小さな声で呟いた。

 ブラフの表情が緊張に変わるのがわかる。彼にとっては家族に関わる問題であり、決して無関係ではいられないはずだ。第一王子が毒を盛ったという噂が本当だとすれば、王国の安定にとっても重大な影響を及ぼすだろう。

 俺たちはしばらくその場で黙り込んだまま、再びお互いの顔を見つめる。

「ブラフ、やっぱりこの話……気になるか?」

 俺の問いかけに、ブラフは少しの間沈黙してから、頷いた。

「気にならないわけがないよ。もし本当に王位継承の争いが始まるなら、グシャ領も巻き込まれる可能性がある。僕たちの領地だけの問題じゃない」

 彼の瞳には強い決意が宿っていた。俺はそっとブラフの肩を抱き、彼に寄り添うようにした。

「とりあえず、もう少し情報を集めよう。ここで聞ける話だけじゃ足りないし、確かな情報を手に入れないと、どう動くべきか判断もつかない」
「……そうだね、トオル。ありがとう、君がそばにいてくれると、本当に心強いよ」

 ブラフが再び穏やかな笑顔を浮かべる。そんな彼を見ていると、俺もまた、彼と共にこの領地を守りたいという気持ちが強くなるのを感じた。

 こうして、俺たちは少し緊張感を漂わせながらも、お互いを支え合うようにして、引き続き隣領での情報収集を行うことにした。
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