35 / 38
王国内乱編
上下関係
しおりを挟む
《side トオル》
グシャ領に戻ってきて、ブラフにラオとテオスを紹介したものの、どうも雰囲気が怪しい。
ブラフの視線には不機嫌な色が滲み、テオスの目つきは挑発的だ。
「君たち、どうしてトオルに抱きついているんだ?」
ブラフが冷たい声で問いかけると、テオスがきっぱりと答える。
「俺たちの、“飼い主”はトオルなんだ。強い者にしか従わないのが俺たち獣人の掟だ」
その一言に、ブラフの表情が凍りついた。
そして、瞳の奥にかすかな怒りが宿るのがはっきりと見える。テオスはその反応を楽しむかのように、さらに続ける。
「俺たちはトオルを認めた。だからお前が何を言おうと関係ない」
「……強い者にしか従わない、か」
ブラフの口調は冷静でありながらも、どこか険が含まれている。そして彼は俺に鋭く視線を向けてきた。
「トオル、カタログを召喚して」
普段の穏やかなブラフからは想像もつかないような、緊張感が漂う声に俺は思わずたじろぐ。けれども、ここで拒否するわけにはいかない気がして、カタログを召喚した。
「おっ、おう!」
ブラフはカタログのページを勢いよくめくり、狙いを定めたページでぴたりと止まる。
次の瞬間、彼の手には一丁の重厚なマシンガンが具現化されていた。
「おいおい、ブラフ? まさか……」
俺の不安げな声をよそに、ブラフは無言でマシンガンの銃口をテオスの足元に向ける。
彼の表情には、普段の柔らかな微笑は見られない。代わりに、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「これでも弱いって?」
ブラフがにっこりと微笑んだかと思うと、次の瞬間、マシンガンの銃声が響き渡り、テオスの足元の土が派手に舞い上がる。土埃があがり、周囲が一瞬で緊張に包まれた。
テオスは一瞬たじろぐも、すぐにブラフに挑発的な視線を向ける。
「なっ! なんだそれは?!」
「別に。これが僕の力だよ! 君が言う『強い者』ってこういうことじゃないの?」
ブラフは余裕の笑みを浮かべ、テオスの言葉をあっさり受け流してみせる。
その態度にテオスは驚きを隠せないようだが、同時に圧倒されているのも明らかだった。
「ブラフママ強い!」
フルフルはそんな二人のやりとりを一人楽しげに見守り、はしゃいでいる。
俺の不安とは裏腹に、フルフルは全身で喜びを表現しているのがまた面白いというか、奇妙というか。
「ふざけるな! トオルは俺たちの飼い主だ! 弱い奴に渡す気はない!」
テオスが叫ぶように言い放ち、ブラフの方へ一歩踏み出す。その眼差しには敵意と不満が宿っており、ブラフもまた微笑を崩さず、挑発に乗ってきた。
「トオルが誰のものか、君が決めるわけじゃないだろう?」
ブラフの口調には冷たさが混じり、テオスに対する軽蔑が込められているように感じられた。俺は思わず二人の間に割って入りたくなったが、すでに二人は互いに一歩も引かない状況になっていた。
「ふん、結局は口だけか?」
テオスがさらに挑発的に言葉を重ねると、ブラフの瞳が一瞬だけ鋭く光った。
「それで、君が“強い者”だとでも?」
そう言って、ブラフはマシンガンを再び構え、テオスに向ける。その冷徹な視線と余裕の笑みが、テオスの心を揺さぶるのがわかる。
その一触即発の状況に、俺はたまらず声をかけた。
「おい、ブラフ、テオス、二人とも落ち着いてくれ! 俺はどちらのものでもない、俺は俺だ!」
二人は一瞬、俺の方を見て、やや気まずそうな顔を浮かべたが、すぐに再び互いに視線を戻し、険しい目つきで睨み合っている。
「俺の飼い主はトオルだけだ!」
テオスが断言するように言い放つが、ブラフもすかさず応酬する。
「何を言ってるんだ、トオルは自分で自分の行動を決める人だ。君たちがそう簡単に所有を主張できるものじゃない」
二人のやりとりが白熱する中、俺はその場に立ち尽くしてしまう。どちらも俺の意志を尊重してくれているというわけではなく、ただそれぞれの価値観に基づいて主張しているように見える。
「いいか、テオス。俺は君たちを助けるためにここにいるんだ。俺は君の飼い主なんて名乗った覚えはない」
俺が静かに言うと、テオスは少し黙り込んだが、その視線は依然として挑発的だ。そして、ブラフはそんなテオスを一瞥し、冷静に微笑む。
「さて、そろそろ君も少しは学んだかな?」
ブラフがそう言いながらマシンガンを軽く振り回すと、テオスは舌打ちをして一歩引いた。俺に対する彼の態度が軟化したとはいえないが、少なくともブラフの前では少し大人しくなったようだ。
「ふん、今回だけは引いてやるよ。だが覚えておけ、俺はいつでもトオルの傍にいるつもりだからな」
そう言い残して、テオスは不満げにその場を立ち去った。
ブラフはその姿を見送ると、俺に向かって優しく微笑みながら肩をすくめた。
「さて、これでようやく平和が戻ったかな」
俺は深いため息をつきながら、ブラフに目を向ける。
「ブラフ、お前があんなに怒るなんて珍しいな……」
彼は小さく笑いながら言葉を返してきた。
「たまにはこうして、少し主張してみたかっただけさ。君が魅力的なのが悪いんだよ」
その柔らかな口調と微笑に、俺は少しだけ顔を赤くした。
グシャ領に戻ってきて、ブラフにラオとテオスを紹介したものの、どうも雰囲気が怪しい。
ブラフの視線には不機嫌な色が滲み、テオスの目つきは挑発的だ。
「君たち、どうしてトオルに抱きついているんだ?」
ブラフが冷たい声で問いかけると、テオスがきっぱりと答える。
「俺たちの、“飼い主”はトオルなんだ。強い者にしか従わないのが俺たち獣人の掟だ」
その一言に、ブラフの表情が凍りついた。
そして、瞳の奥にかすかな怒りが宿るのがはっきりと見える。テオスはその反応を楽しむかのように、さらに続ける。
「俺たちはトオルを認めた。だからお前が何を言おうと関係ない」
「……強い者にしか従わない、か」
ブラフの口調は冷静でありながらも、どこか険が含まれている。そして彼は俺に鋭く視線を向けてきた。
「トオル、カタログを召喚して」
普段の穏やかなブラフからは想像もつかないような、緊張感が漂う声に俺は思わずたじろぐ。けれども、ここで拒否するわけにはいかない気がして、カタログを召喚した。
「おっ、おう!」
ブラフはカタログのページを勢いよくめくり、狙いを定めたページでぴたりと止まる。
次の瞬間、彼の手には一丁の重厚なマシンガンが具現化されていた。
「おいおい、ブラフ? まさか……」
俺の不安げな声をよそに、ブラフは無言でマシンガンの銃口をテオスの足元に向ける。
彼の表情には、普段の柔らかな微笑は見られない。代わりに、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「これでも弱いって?」
ブラフがにっこりと微笑んだかと思うと、次の瞬間、マシンガンの銃声が響き渡り、テオスの足元の土が派手に舞い上がる。土埃があがり、周囲が一瞬で緊張に包まれた。
テオスは一瞬たじろぐも、すぐにブラフに挑発的な視線を向ける。
「なっ! なんだそれは?!」
「別に。これが僕の力だよ! 君が言う『強い者』ってこういうことじゃないの?」
ブラフは余裕の笑みを浮かべ、テオスの言葉をあっさり受け流してみせる。
その態度にテオスは驚きを隠せないようだが、同時に圧倒されているのも明らかだった。
「ブラフママ強い!」
フルフルはそんな二人のやりとりを一人楽しげに見守り、はしゃいでいる。
俺の不安とは裏腹に、フルフルは全身で喜びを表現しているのがまた面白いというか、奇妙というか。
「ふざけるな! トオルは俺たちの飼い主だ! 弱い奴に渡す気はない!」
テオスが叫ぶように言い放ち、ブラフの方へ一歩踏み出す。その眼差しには敵意と不満が宿っており、ブラフもまた微笑を崩さず、挑発に乗ってきた。
「トオルが誰のものか、君が決めるわけじゃないだろう?」
ブラフの口調には冷たさが混じり、テオスに対する軽蔑が込められているように感じられた。俺は思わず二人の間に割って入りたくなったが、すでに二人は互いに一歩も引かない状況になっていた。
「ふん、結局は口だけか?」
テオスがさらに挑発的に言葉を重ねると、ブラフの瞳が一瞬だけ鋭く光った。
「それで、君が“強い者”だとでも?」
そう言って、ブラフはマシンガンを再び構え、テオスに向ける。その冷徹な視線と余裕の笑みが、テオスの心を揺さぶるのがわかる。
その一触即発の状況に、俺はたまらず声をかけた。
「おい、ブラフ、テオス、二人とも落ち着いてくれ! 俺はどちらのものでもない、俺は俺だ!」
二人は一瞬、俺の方を見て、やや気まずそうな顔を浮かべたが、すぐに再び互いに視線を戻し、険しい目つきで睨み合っている。
「俺の飼い主はトオルだけだ!」
テオスが断言するように言い放つが、ブラフもすかさず応酬する。
「何を言ってるんだ、トオルは自分で自分の行動を決める人だ。君たちがそう簡単に所有を主張できるものじゃない」
二人のやりとりが白熱する中、俺はその場に立ち尽くしてしまう。どちらも俺の意志を尊重してくれているというわけではなく、ただそれぞれの価値観に基づいて主張しているように見える。
「いいか、テオス。俺は君たちを助けるためにここにいるんだ。俺は君の飼い主なんて名乗った覚えはない」
俺が静かに言うと、テオスは少し黙り込んだが、その視線は依然として挑発的だ。そして、ブラフはそんなテオスを一瞥し、冷静に微笑む。
「さて、そろそろ君も少しは学んだかな?」
ブラフがそう言いながらマシンガンを軽く振り回すと、テオスは舌打ちをして一歩引いた。俺に対する彼の態度が軟化したとはいえないが、少なくともブラフの前では少し大人しくなったようだ。
「ふん、今回だけは引いてやるよ。だが覚えておけ、俺はいつでもトオルの傍にいるつもりだからな」
そう言い残して、テオスは不満げにその場を立ち去った。
ブラフはその姿を見送ると、俺に向かって優しく微笑みながら肩をすくめた。
「さて、これでようやく平和が戻ったかな」
俺は深いため息をつきながら、ブラフに目を向ける。
「ブラフ、お前があんなに怒るなんて珍しいな……」
彼は小さく笑いながら言葉を返してきた。
「たまにはこうして、少し主張してみたかっただけさ。君が魅力的なのが悪いんだよ」
その柔らかな口調と微笑に、俺は少しだけ顔を赤くした。
237
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~
さとう
ファンタジー
町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。
結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。
そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!
これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる