勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

文字の大きさ
上 下
32 / 38
王国内乱編

魔物の森のその先は?

しおりを挟む
《side トオル》

 ある日、領地での仕事を終えて家に帰ると、フルフルが興奮した様子で俺のところに駆け寄ってきた。その腕には、小さな白い生き物が抱かれている。

「お父さん! 見て、かわいい虎を見つけたの!」

 フルフルが抱えているのは、小さな白い虎だった。毛はふわふわで、目は金色に輝き、全体的に幼さが感じられる。それでもどこか威厳があり、フルフルに大人しく抱えられている様子は、妙に落ち着いているようにも見えた。

「お前、こんなところで虎なんて拾ってきたのか? この森には虎も生息しているのか……?」

 俺が不思議そうに小さな虎を見つめると、その虎は突然もぞもぞと動き出し、フルフルの腕の中で姿を変えた。気づけばそこにいるのは、小柄な白い髪の男の子だった。

 彼の耳は尖っていて、虎のような尾が揺れている。目は相変わらず金色で、虎のときと同じ威厳を湛えていたが、その顔には幼さが残っている。

「君、虎じゃなくて獣人だったのか?」

 男の子は少し緊張した様子で頷いた。彼は周りを警戒するように見回しながらも、俺たちに危害を加えるつもりはないらしい。

「……僕、ラオって言います。ここから森を越えたところに住んでるんだけど、森で迷っちゃって……」

 ラオは視線を下げ、どこか申し訳なさそうに言った。フルフルは彼の手を握り、安心させるように微笑んだ。

「ラオ! 私はフルフルだよ。こっちが私のお父さんで、トオル!」
「初めまして、ラオ。でも、どうして獣人の姿に?」
「魔物と戦う時はそっちの方が力が出るから」
「そうか、ここは王国のグシャ領だ。森に住んでいるのか?」
「はい!」

 俺はそんなこと知らなかった。もしかしたら、王国でも知られていないことなのか? 小さくてモフモフしているラオは、ぬいぐるみのようだ。

「ラオ、安心していい。ここは安全だから」

 ラオはフルフルの言葉に少しだけ頬を緩ませたが、それでもまだ不安そうだ。

「君が住んでいるところには、他にも獣人がいるのかい?」

 俺が尋ねると、ラオは小さく頷いた。

「はい、僕たちは森の奥でひっそり暮らしているんだ。大人たちは人間と会うのを怖がってるけど、僕は…人間って、そんなに怖いのかなって思って……」

 ラオは少し寂しそうに笑った。

 獣人たちは森の奥で慎ましく暮らしているらしいが、人間と接触することに不安を抱いているようだ。俺はこの世界での獣人の扱いを知らない。勉強不足ではあるが、ブラフに判断を仰がないといけないな。できれば、こんなに可愛いから保護してやりたいところではあるが。

「なるほど、だから君も警戒してたんだな。分かった。君の村の大人たちと話がしたいけど、案内を頼めるかい?」

 ラオは驚いた表情で俺を見つめ、それから一瞬迷うように目を伏せた。

「でも…森は危険な魔物が多いし、僕たちの村も人間を警戒してるから……」

 彼の言葉を聞いて、俺は少し考え込んだ。確かに魔物の森は危険だが、彼らと接触することで、互いに理解を深めるチャンスがあるかもしれない。

 そこへブラフがやってきた。

「ブラフ、ちょうどよかった」
「どうしたんだい?」
「実は……」

 俺は獣人の少年が、魔物の森で迷って、フルフルに助けられたこと、魔物の森の奥に獣人たちが住んでいることを話した。

「ブラフ、お前もどう思う?」

 俺は傍らにいるブラフに意見を求めた。ブラフは静かに考え込み、しばらくしてから頷いた。

「獣人たちが森の向こうに暮らしていることがわかった以上、こちらから挨拶に行くのも礼儀だろうね。領地を発展させていくためにも、隣人として交流を図るのは重要なことだ。協力できるなら一緒に発展していった方がいいと思う」
「そうだよな。俺もそう思う」
「トオルは誰に対しても、すぐに取り入るからな。ここは任せてもいいかな?」
「ああ、任せてくれ」

 ブラフの言葉を聞き、俺は決心がついた。ラオの村に挨拶しに行こう。それがこの領地の成長にも繋がるだろう。

「ラオ、君がよければ、俺たちと一緒に森へ戻ってくれるか?」

 ラオは少し驚いた顔をしていたが、やがて決意したように頷いた。

「うん、僕、案内するよ。でも、気をつけてね。魔物が出たら僕も守るから!」

 小さな体ながら、ラオは精一杯に胸を張ってそう言った。その姿を見て、俺とブラフは自然と笑みを交わす。

「よし、ラオ、頼もしい案内役がいてくれて助かる。フルフルも、しっかりサポートしてくれるか?」
「もちろん! 私も力になれるように頑張るよ!」

 こうして俺たちは、ラオの案内で魔物の森へと足を踏み入れることを決意した。獣人たちとの交流が、グシャ領に新たな可能性をもたらすきっかけとなるかもしれない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...