勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

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王国内乱編

落ち着いた日々

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 木の香りが心地よく漂う中、ハンマーを振るいながら、俺は今日も村の家作りに精を出していた。

 大工仕事は、どこにいっても役に立つ。

 日が差し込む木材の間から、少しずつ形が見えてくる家の枠組みを見て、心の中が満ちていく。手を動かし、木材を組み上げていくたびに、俺の胸には達成感が沸き起こっていた。

「トオル様、そんなことは私たちに任せてくださいよ。旦那様、自らやらなくても……」

 村人の一人が、心配そうに声をかけてきた。周りの村人たちも同じように、俺を気遣ってくれている。

「いやいや、大工仕事は俺の趣味みたいなもんだしな。こうやって何かを作るのは楽しいんだよ。ほら、もう少しで形になるぞ」

 俺は笑いながら、ハンマーを振り上げ、釘を打ち込む。村人たちは驚いたような顔をしながらも、すぐに笑顔を浮かべてくれた。

「さすが旦那様だな」
「ああ、色々な物を作ってもらったけど、家まで作っちまうとはな」
「本当に、器用でいらっしゃいますね」
「これなら、家が早く完成しそうです!」

 村人たちも笑顔を見せながら、一緒に作業を進めてくれる。

 俺は手を動かしながらも、彼らとの会話を楽しんでいた。

 この村の家々は、全てが新しい始まりを象徴している。荒れ果てていた土地が少しずつ開拓され、そこに新しい命が芽吹いているのだ。

 領地内の壁も少しずつ広げて、川から取れる魚や、森で取れる肉など、多くの恵みが存在する。

「よし、これで今日のところは終わりかな」

 夕暮れが近づく中、俺は工具を片付け、村人たちに声をかける。

 彼らも手を止め、感謝の言葉を口々に述べてくれる。

 こうして一緒に働く時間が、俺にはたまらなく心地よい。やっぱり何かと作るって本当に楽しい。

 家に戻ると、外ではフルフルが何かを運んでいる姿が見えた。彼女の姿が中学生ぐらいの女の子に見えるようになったとはいえ、その無邪気な表情はまだ子供のままだ。

「お父さん! 今日もいっぱい獲物がとれたよ!」

 彼女はドラゴンの尻尾をフリフリさせながら、誇らしげに言う。
 手には立派なイノシシのような獲物がぶら下がっていた。

「おお、凄いな、フルフル」


 俺は彼女の頭を撫でてやる。すると、フルフルは心地よい顔をして、俺の手を受け入れた。

「今日も大漁だな。よし、これを晩飯にしようか」
「うん! お父さんの大きな手、大好き!」
「そうかそうか、ほら、お風呂に入っておいで」
「はーい!」

 俺は笑いながら、彼女から獲物を受け取り、家の中へと運び込んだ。中に入ると、ブラフが領地の地図を広げ、難しい顔をして考え込んでいるのが見えた。

「ブラフ、領地の経営で何か問題でも?」

 俺が声をかけると、ブラフは顔を上げ、少し疲れた表情で笑みを浮かべた。

「おかえり、トオル。いや、大したことじゃないんだ。ただ、村の発展に伴って、資源の分配や他の領との兼ね合いを考えていたんだ。最近は農業も上手くいきつつある。僕もまだまだ勉強中だよ」

 ブラフの姿を見て、俺は思わず微笑んだ。

 領主としての責任感を持つようになり、いつも村や領地のことを真剣に考えている。その姿勢が、俺にとって誇りでもあった。

「まあ、そんなに悩むなよ。お前が考えてることはきっと正しいさ。さあ、今日はフルフルが大物を取ってきたから、俺が夕食を作るぞ」

 ブラフは少し安心したようにうなずき、再び地図に目を落とした。

「トオルのご飯は美味しいからね。楽しみだよ」

 俺はフルフルの持ってきた獲物を台所に運び、手際よく調理を始める。

 血抜きがされているので、皮を剥いでイノシシの肉を切り分ける。

 香り高いスパイスをまぶし、じっくりと焼き上げる。その間、野菜も切って鍋に入れ、温かいスープを作る。

 火を使って調理を進めるうちに、家の中には美味しそうな香りが漂い始めた。

「お父さん、いい匂い!」

 フルフルがタオルで髪を拭きながら、やってきた。にこにこしながら近づいてきて、匂いをかぐ。ブラフも一瞬だけ地図から顔を上げ、香りに気づいたようだ。

「いい香りだな、トオル。これなら、悩みも少しは軽くなるかもな」

 俺は笑いながら、鍋のスープをかき混ぜ、フルフルの顔を見て言った。

「さあ、もうすぐできるぞ。フルフルも手伝ってくれるか?」
「うん! お皿を並べるね!」

 フルフルが元気よく皿を並べ、ブラフも一息ついた様子で席に着いた。焼き上がった肉と温かいスープを並べ、三人で食卓を囲む。あとは硬いパンをおけば完成だ。

「「「いただきます!」」」

 三人で声を合わせ、温かい食事を楽しむ。家族の団らんのひとときは、どんなに忙しくても、どんな問題があっても、心を落ち着かせてくれる。

 ブラフはスープを一口飲んで、ほっとしたように息をついた。

「これだけ美味しい食事があれば、領地の問題もなんとかなる気がするよ。ありがとう、トオル」
「いいんだよ。俺たち家族だろ?」

 俺はそう言いながら、笑顔でブラフとフルフルを見つめた。この温かい時間が、俺にとっては何よりも大切なものだ。

 領地は少しずつ発展し、家族も日々成長している。そんな日常の一コマが、何よりも幸せだと感じた。
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