勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

文字の大きさ
上 下
25 / 38
領地経営スタート

決着

しおりを挟む
俺は緊張しながらも、将軍の前に出て大きく息を吐いた。

この三ヶ月、領地を安定させるために多くの魔物と戦ってきた。木々を伐採し、魔物を討伐し、田畑を耕し、村を広げながら、ブラフと共に自然と戦い続けてきた。

元の世界では経験できないことばかりで、大変なことも多かったが、二人で支え合いながらここまでやってこれたのだ。

「改めて、勇気ある者よ。隣国の将軍として、貴様を褒め称えることを約束しよう」
「ありがとうございます。俺はただ、生きて帰れることを願います」
「はは、それは叶わないだろうな」

馬上から降りた将軍が槍を構える。鎧をまとい、槍を構えたその姿は、この世界で初めて目にする本物の戦士のようだった。冒険者に何度か会ったことはあるが、彼らは戦うことよりも、仕事を遂行することに重きを置いている印象だった。

しかし、目の前の将軍は、戦うことを生業としている男だ。

俺は身を引き締め、木の盾と鉄のハンマーを構え直した。どちらも自分のスキルに合わせて特注で作ったものだ。

「奇妙な武器を使うな」
「ええ、槌は得意なんです」
「そうか。得意ならば遠慮はいらぬな」

そう言うと、将軍は素早く槍を突き出した。牽制のための動きに一歩後退し、追撃を警戒するが、将軍はそれ以上追ってこない。こちらの出方をうかがっているようだ。

ならば、こちらから仕掛けよう。

「はっ!」

俺は距離を取った状態で火球を作り、放った。

「なっ! そんな身なりで魔法を使うのか!?」
「ええ、器用貧乏なもので」

魔法を使うとは思っていなかったらしい。槍で火球を払って消したが、火の粉が飛び散り、目眩ましになった。その隙に槌を鋸に変化させ、攻撃に転じた。槍で防がれたが、鋸の力はここからだ。

「なっ!」
「ご自慢の槍を破壊して申し訳ない!」

鋸が槍の木製の持ち手を切り裂いた。

「なっ!」

さらに盾で体当たりをし、木の盾を変化させて将軍を拘束する。

「どういうことだ!?」
「逆にお聞きしたい。スキルがあるのに、どうして使わないんですか?」
「こんな使い方など知らぬ! 我々が使うスキルは槍術や馬術で、このような奇妙なことはできぬ!」
「そうですか。まあ、どうでもいいですよ。俺は大工が本職で、戦うことを生業にはしていませんから」
「くっ、我の――」
「ぐっ!」

将軍が負けを認めようとした瞬間、俺の肩に矢が突き刺さった。

「何事だ!」

将軍が振り返ると、兵士が弓を構えていた。

「将軍をお助けしろー!!!」
「矢を放てー!!!」

俺は将軍を拘束していた木の盾を変化させ、自分の体を包み込んだ。それだけでは不安なので、鉄のハンマーも盾に変化させ、補強に使った。

「やめよ! 戦いは我々の負けだ!」
「将軍を失うわけにはいかぬのです! 我々の導き手として、必要です!」
「すまぬ。勇気ある者よ。どうやら勝利しても我の首を差し出すわけにはいかぬようだ。名を聞いてもよいか?」
「トオル・グシャ」
「何? グシャだと? 王国から辺境伯としてこの地にやってきた貴族は貴殿であったか!」

辺境伯の意味はよくわからないが、きっとそれは俺じゃない。

「いや、それは俺じゃない。俺の夫だな」
「夫?」
「ああ」

土煙を巻き上げて、明らかにこの場にいる隣国兵よりも多くの軍勢がこちらに向かってくるのが見えた。

「なっ! あれは」
「ソカイの軍です」
「くく、つまり貴様は、あのバカな王子とは別の部隊であり、最初から我々は時間稼ぎをされていたということか。完敗だ。決闘でも戦略でも貴様の勝ちだ。我々は撤退する。見逃してくれるか?」
「ええ、構いません。ただ、ユリウス王子のことはそのまま報告をお願いします」
「なるほど。目の上のタンコブということか。我々としては、あのような阿呆がトップにいてくれた方が倒しやすいのだがな」

将軍は馬に乗り込み、撤退の指示を出した。

「勇者アンリよ。貴殿はどうする? 我々は敗北した。たった一人の男によってな」
「違いますよ。俺は一人じゃない。ブラフ・グシャ辺境伯が俺の後ろにいるからです」
「覚えておこう。それで、アンリは?」
「私は裏切り者だから帰る場所もないし、将軍イケメンだし、私を優遇してくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。勇者は貴重な財産だからな。よいか、トオルよ」
「本人が望むなら」

勇者アンリが俺を見つめる。

「ねぇ、あなたって異世界から一緒に召喚されてきた人でしょ?」
「覚えていたのか?」
「うん。他の人たちはなんだか自分たちが特別だって感じがして馴染めなくてね。それでユリウス王子のところに来たけど、貧乏クジだったな。あなたは良い人のところに行けてよかったね」

どうやら、勇者アンリは悪い子ではないようだ。

「ああ、お互い、この世界で生きていくんだ。頑張れよ」
「うん! ありがとう」

俺は将軍と勇者アンリを見送って、敵を撤退させた。代わりにブラフが率いるソカイ軍が到着し、先頭を走ってきたブラフが馬上から飛び降りて俺に抱きついた。

「トオル! 無事かい? ああ! 肩に怪我をしているじゃないか!?」
「大丈夫だ。女神様に治療魔法を教えてもらっただろ?」

俺は肩から矢を抜き、魔法で治療した。

「それよりも、ブラフがタイミングよく来てくれたおかげで命拾いしたよ」
「本当? 私はトオルの役に立てたか?」
「それはこの歓声でわかるだろ?」

ブラフたちが到着し、隣国兵が撤退したことで、砦内は勝利の大歓声に包まれた。太鼓が打ち鳴らされ、「バツ」という名前が連呼される。

「はは、うん。トオルは私の英雄だ!」

ブラフはもう一度、強く俺を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...