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領地経営スタート
決着
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俺は緊張しながらも、将軍の前に出て大きく息を吐いた。
この三ヶ月、領地を安定させるために多くの魔物と戦ってきた。木々を伐採し、魔物を討伐し、田畑を耕し、村を広げながら、ブラフと共に自然と戦い続けてきた。
元の世界では経験できないことばかりで、大変なことも多かったが、二人で支え合いながらここまでやってこれたのだ。
「改めて、勇気ある者よ。隣国の将軍として、貴様を褒め称えることを約束しよう」
「ありがとうございます。俺はただ、生きて帰れることを願います」
「はは、それは叶わないだろうな」
馬上から降りた将軍が槍を構える。鎧をまとい、槍を構えたその姿は、この世界で初めて目にする本物の戦士のようだった。冒険者に何度か会ったことはあるが、彼らは戦うことよりも、仕事を遂行することに重きを置いている印象だった。
しかし、目の前の将軍は、戦うことを生業としている男だ。
俺は身を引き締め、木の盾と鉄のハンマーを構え直した。どちらも自分のスキルに合わせて特注で作ったものだ。
「奇妙な武器を使うな」
「ええ、槌は得意なんです」
「そうか。得意ならば遠慮はいらぬな」
そう言うと、将軍は素早く槍を突き出した。牽制のための動きに一歩後退し、追撃を警戒するが、将軍はそれ以上追ってこない。こちらの出方をうかがっているようだ。
ならば、こちらから仕掛けよう。
「はっ!」
俺は距離を取った状態で火球を作り、放った。
「なっ! そんな身なりで魔法を使うのか!?」
「ええ、器用貧乏なもので」
魔法を使うとは思っていなかったらしい。槍で火球を払って消したが、火の粉が飛び散り、目眩ましになった。その隙に槌を鋸に変化させ、攻撃に転じた。槍で防がれたが、鋸の力はここからだ。
「なっ!」
「ご自慢の槍を破壊して申し訳ない!」
鋸が槍の木製の持ち手を切り裂いた。
「なっ!」
さらに盾で体当たりをし、木の盾を変化させて将軍を拘束する。
「どういうことだ!?」
「逆にお聞きしたい。スキルがあるのに、どうして使わないんですか?」
「こんな使い方など知らぬ! 我々が使うスキルは槍術や馬術で、このような奇妙なことはできぬ!」
「そうですか。まあ、どうでもいいですよ。俺は大工が本職で、戦うことを生業にはしていませんから」
「くっ、我の――」
「ぐっ!」
将軍が負けを認めようとした瞬間、俺の肩に矢が突き刺さった。
「何事だ!」
将軍が振り返ると、兵士が弓を構えていた。
「将軍をお助けしろー!!!」
「矢を放てー!!!」
俺は将軍を拘束していた木の盾を変化させ、自分の体を包み込んだ。それだけでは不安なので、鉄のハンマーも盾に変化させ、補強に使った。
「やめよ! 戦いは我々の負けだ!」
「将軍を失うわけにはいかぬのです! 我々の導き手として、必要です!」
「すまぬ。勇気ある者よ。どうやら勝利しても我の首を差し出すわけにはいかぬようだ。名を聞いてもよいか?」
「トオル・グシャ」
「何? グシャだと? 王国から辺境伯としてこの地にやってきた貴族は貴殿であったか!」
辺境伯の意味はよくわからないが、きっとそれは俺じゃない。
「いや、それは俺じゃない。俺の夫だな」
「夫?」
「ああ」
土煙を巻き上げて、明らかにこの場にいる隣国兵よりも多くの軍勢がこちらに向かってくるのが見えた。
「なっ! あれは」
「ソカイの軍です」
「くく、つまり貴様は、あのバカな王子とは別の部隊であり、最初から我々は時間稼ぎをされていたということか。完敗だ。決闘でも戦略でも貴様の勝ちだ。我々は撤退する。見逃してくれるか?」
「ええ、構いません。ただ、ユリウス王子のことはそのまま報告をお願いします」
「なるほど。目の上のタンコブということか。我々としては、あのような阿呆がトップにいてくれた方が倒しやすいのだがな」
将軍は馬に乗り込み、撤退の指示を出した。
「勇者アンリよ。貴殿はどうする? 我々は敗北した。たった一人の男によってな」
「違いますよ。俺は一人じゃない。ブラフ・グシャ辺境伯が俺の後ろにいるからです」
「覚えておこう。それで、アンリは?」
「私は裏切り者だから帰る場所もないし、将軍イケメンだし、私を優遇してくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。勇者は貴重な財産だからな。よいか、トオルよ」
「本人が望むなら」
勇者アンリが俺を見つめる。
「ねぇ、あなたって異世界から一緒に召喚されてきた人でしょ?」
「覚えていたのか?」
「うん。他の人たちはなんだか自分たちが特別だって感じがして馴染めなくてね。それでユリウス王子のところに来たけど、貧乏クジだったな。あなたは良い人のところに行けてよかったね」
どうやら、勇者アンリは悪い子ではないようだ。
「ああ、お互い、この世界で生きていくんだ。頑張れよ」
「うん! ありがとう」
俺は将軍と勇者アンリを見送って、敵を撤退させた。代わりにブラフが率いるソカイ軍が到着し、先頭を走ってきたブラフが馬上から飛び降りて俺に抱きついた。
「トオル! 無事かい? ああ! 肩に怪我をしているじゃないか!?」
「大丈夫だ。女神様に治療魔法を教えてもらっただろ?」
俺は肩から矢を抜き、魔法で治療した。
「それよりも、ブラフがタイミングよく来てくれたおかげで命拾いしたよ」
「本当? 私はトオルの役に立てたか?」
「それはこの歓声でわかるだろ?」
ブラフたちが到着し、隣国兵が撤退したことで、砦内は勝利の大歓声に包まれた。太鼓が打ち鳴らされ、「バツ」という名前が連呼される。
「はは、うん。トオルは私の英雄だ!」
ブラフはもう一度、強く俺を抱きしめた。
この三ヶ月、領地を安定させるために多くの魔物と戦ってきた。木々を伐採し、魔物を討伐し、田畑を耕し、村を広げながら、ブラフと共に自然と戦い続けてきた。
元の世界では経験できないことばかりで、大変なことも多かったが、二人で支え合いながらここまでやってこれたのだ。
「改めて、勇気ある者よ。隣国の将軍として、貴様を褒め称えることを約束しよう」
「ありがとうございます。俺はただ、生きて帰れることを願います」
「はは、それは叶わないだろうな」
馬上から降りた将軍が槍を構える。鎧をまとい、槍を構えたその姿は、この世界で初めて目にする本物の戦士のようだった。冒険者に何度か会ったことはあるが、彼らは戦うことよりも、仕事を遂行することに重きを置いている印象だった。
しかし、目の前の将軍は、戦うことを生業としている男だ。
俺は身を引き締め、木の盾と鉄のハンマーを構え直した。どちらも自分のスキルに合わせて特注で作ったものだ。
「奇妙な武器を使うな」
「ええ、槌は得意なんです」
「そうか。得意ならば遠慮はいらぬな」
そう言うと、将軍は素早く槍を突き出した。牽制のための動きに一歩後退し、追撃を警戒するが、将軍はそれ以上追ってこない。こちらの出方をうかがっているようだ。
ならば、こちらから仕掛けよう。
「はっ!」
俺は距離を取った状態で火球を作り、放った。
「なっ! そんな身なりで魔法を使うのか!?」
「ええ、器用貧乏なもので」
魔法を使うとは思っていなかったらしい。槍で火球を払って消したが、火の粉が飛び散り、目眩ましになった。その隙に槌を鋸に変化させ、攻撃に転じた。槍で防がれたが、鋸の力はここからだ。
「なっ!」
「ご自慢の槍を破壊して申し訳ない!」
鋸が槍の木製の持ち手を切り裂いた。
「なっ!」
さらに盾で体当たりをし、木の盾を変化させて将軍を拘束する。
「どういうことだ!?」
「逆にお聞きしたい。スキルがあるのに、どうして使わないんですか?」
「こんな使い方など知らぬ! 我々が使うスキルは槍術や馬術で、このような奇妙なことはできぬ!」
「そうですか。まあ、どうでもいいですよ。俺は大工が本職で、戦うことを生業にはしていませんから」
「くっ、我の――」
「ぐっ!」
将軍が負けを認めようとした瞬間、俺の肩に矢が突き刺さった。
「何事だ!」
将軍が振り返ると、兵士が弓を構えていた。
「将軍をお助けしろー!!!」
「矢を放てー!!!」
俺は将軍を拘束していた木の盾を変化させ、自分の体を包み込んだ。それだけでは不安なので、鉄のハンマーも盾に変化させ、補強に使った。
「やめよ! 戦いは我々の負けだ!」
「将軍を失うわけにはいかぬのです! 我々の導き手として、必要です!」
「すまぬ。勇気ある者よ。どうやら勝利しても我の首を差し出すわけにはいかぬようだ。名を聞いてもよいか?」
「トオル・グシャ」
「何? グシャだと? 王国から辺境伯としてこの地にやってきた貴族は貴殿であったか!」
辺境伯の意味はよくわからないが、きっとそれは俺じゃない。
「いや、それは俺じゃない。俺の夫だな」
「夫?」
「ああ」
土煙を巻き上げて、明らかにこの場にいる隣国兵よりも多くの軍勢がこちらに向かってくるのが見えた。
「なっ! あれは」
「ソカイの軍です」
「くく、つまり貴様は、あのバカな王子とは別の部隊であり、最初から我々は時間稼ぎをされていたということか。完敗だ。決闘でも戦略でも貴様の勝ちだ。我々は撤退する。見逃してくれるか?」
「ええ、構いません。ただ、ユリウス王子のことはそのまま報告をお願いします」
「なるほど。目の上のタンコブということか。我々としては、あのような阿呆がトップにいてくれた方が倒しやすいのだがな」
将軍は馬に乗り込み、撤退の指示を出した。
「勇者アンリよ。貴殿はどうする? 我々は敗北した。たった一人の男によってな」
「違いますよ。俺は一人じゃない。ブラフ・グシャ辺境伯が俺の後ろにいるからです」
「覚えておこう。それで、アンリは?」
「私は裏切り者だから帰る場所もないし、将軍イケメンだし、私を優遇してくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。勇者は貴重な財産だからな。よいか、トオルよ」
「本人が望むなら」
勇者アンリが俺を見つめる。
「ねぇ、あなたって異世界から一緒に召喚されてきた人でしょ?」
「覚えていたのか?」
「うん。他の人たちはなんだか自分たちが特別だって感じがして馴染めなくてね。それでユリウス王子のところに来たけど、貧乏クジだったな。あなたは良い人のところに行けてよかったね」
どうやら、勇者アンリは悪い子ではないようだ。
「ああ、お互い、この世界で生きていくんだ。頑張れよ」
「うん! ありがとう」
俺は将軍と勇者アンリを見送って、敵を撤退させた。代わりにブラフが率いるソカイ軍が到着し、先頭を走ってきたブラフが馬上から飛び降りて俺に抱きついた。
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「本当? 私はトオルの役に立てたか?」
「それはこの歓声でわかるだろ?」
ブラフたちが到着し、隣国兵が撤退したことで、砦内は勝利の大歓声に包まれた。太鼓が打ち鳴らされ、「バツ」という名前が連呼される。
「はは、うん。トオルは私の英雄だ!」
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