勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

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 勝利の祝いで飲み明かしていたユリウス王子たちとは別に、俺は警戒心を強めていた。不思議なことだが、昨日も寝ていないのに疲れた感じがしない。

 レベルが上がって体力が続いているのだろうな。

 明け方近くになって、砂煙が遠くから向かってくる景色が見える。

「敵襲!!!」

 俺は誰よりも早く敵の姿を見つけて叫び声を上げた。

「なっ! どこから?!」

 床で寝ていた兵士が飛び起きて見張り台に上がってくる。
 俺の横で、砂煙を確認したことで、警戒を強める笛を鳴らす。

 甲高い音が砦内に響いて、寝ていた者たちも起こされる。

 その間にも砂煙の向こうから大量の馬が見えた。

 遠目に見ているだけで、3000ぐらいの兵がいる様に見える。

 ユリウス王子の1000の軍勢を見たあとだからその三倍に見えていた。

「何が起きている!」

 ユリウス王子が起きてきて、見張り台に上がってきた。

「敵襲です! あちらに!」

 俺は何も発することなく、見張り兵とユリウス王子のやり取りを聞いている。

「くっ! どうして昨日の今日でまた来るのだ!」
「わかりません。ですが、敵であることは間違いありません」
「仕方ない。勇者アンリを起こせ!」
「はっ!」

 兵士が走って行く中で、俺はこっそりと砦の中に作っておいた隠れる場所に移動する。この砦は俺が作って、隠れる場所も、破壊する方法も全て熟知している。

「な~に~。敵襲? まぁ昨日も拍子抜けだったしね」

 俺は勇者アンリとすれ違いながら、兵士たちは慌ただしく、敵が来る方向へ移動していく。

 逆に俺は、見張り台を離れて敵陣とは逆にある川近くで身を潜めた。

 最悪の場合はここから逃げられるように外せるイカダを用意した。
 ただ、王族であるユリウス王子を殺されるわけにはいかないので、最後まで見張りは必要だろう。

「やぁやぁ我こそは隣国の英雄にして、将軍バンギラス! 貴様らが王国の英雄ならば名乗られよ!」

 大きな声が砦中に響いて、敵国の将が名乗りを上げた。

「クソが! 我こそは王国の第二王子ユリウスである! そして、我らが勇者アンリ殿だ!」

 馬鹿正直に名乗り返すのは、戦場での習わしなのだろう。

 互いに誰と誰が戦争をしているのか示すために行われる行為だが、無意味だと思ってしまう。

「ほう、王子と勇者がいるとは吉報! 存分に殺し合いをしようではないか?」

 獰猛な将軍の声に戦場は歓声が上がっていく。

「アンリ! 爆裂魔法を頼む!」
「もう仕方ないなぁ~」
「炎よ! イケー!!!」

 戦場で気のない声が聞こえてくる。

 だが、声とは反対に魔法の威力は優しくはない。
 戦場で勇者に出くわすということは、魔王と戦うのと同じくらいに恐ろしいことだ。

「総員魔法防御を展開せよ」

 将軍の声で、勇者アンリの対策方法はすでにとられているようだ。

 爆裂魔法が発生した音が聞こえてきた。

「なっ!」
「何だと! どうなっている!」

 二人の驚く声が聞こえてくる。

「ユリウス王子、お下がりください!」
「くそ!」

 ユリウス王子が砦の中へ入っていく声を聞きながら、俺は状況の整理をする。
 戦場は弓と槍の戦いに代わっている。
 砦がある以上は防御に徹する方が有利だ。

 すぐに落ちることはないだろう。その間にブラフがソカイ領の軍勢をどれくらい連れてきてくれるのかだな。

「門が破られるぞ!」
「なっ!」

 早すぎる! まだ戦闘が始まって数分だぞ!

「隠れているだけではダメか!」

 このままでは突破されると判断した俺は、予備で用意していた板を持って門へと走る。開けやすいように壊しやすくなっている。
 それを木の加工スキルで補強して、こちらからも向こうからも開けられないように頑丈に変化させた。

 これで向こうから開けることはできないが、こちらから出ていくこともできない。

「おい! お前、何をしているんだ!?」
「はっ! 敵が迫っておりましたので、門を塞ぎました」
「なんだと!」

 門を確認した兵が近づくと門の向こうから丸太をぶつける衝撃が伝わってくる。
 しかし、補強と強化をかけた門はいくらぶつけてもすぐに破ることはできない。

「よくやった!」
「はっ! 後方から脱出できますので、横から挟撃をかけるのはいかがでしょうか?」
「うっ、うむ。私から進言してみよう。貴様、名は?」
「名ですか? えっと、バツと言います」

 俺は門を補強したバッテンを見て、適当な名前を名乗った。

「ふむ。バツよ。よくやってくれた。ユリウス様も喜ばれるだろう」

 そう言って走り去っていく兵士を見送った俺は、少しだけでも時間が稼げたことに安堵して、身を隠すように兵士たちの動きに逆らって砦の中で身を隠した。

 元々隠れていた場所から兵士たちが飛び出していくかもしれないからだ。

 砦の一角で身を潜めて、外の様子を伺う。

「突撃をかけるだと! そんなことをすればここを守る兵士がいなくなってしまうではないか?!」
「しかし、このままでは砦も落とされて危険です!」
「ぐぬぬぬ! わっわかった。100名だけだ。100名だけ突撃をかけさせろ。強襲して戻ってくるのだ」
「はっ! かしこまりました」

 どうやら次の作戦が決まったようだ。しかし、大丈夫なのだろうか? 向こうには将軍がいるのに……。

 俺はこの戦いに不安を覚え始めていた。

「小賢しい真似ばかりを!!! 全軍梯子をかけろ!」

 やはり向こうの方が上手だ。

 対処しようがない!
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