勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

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領地経営スタート

強制命令

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 ブラフに届いた手紙には、第二王子ユリウスが隣国と戦闘をする支援を行うようにという命令書だった。

 この国は常に魔族や隣国と小競り合いを続けている。所謂、戦国時代のような小国が集まった世界なのだ。

 王国は勇者召喚という裏技で勝利し、各方面に対して力を示している。今回も勇者を召喚した力試しと、王国の王子が指揮を取る名目が欲しいようだ。

「おいおい、俺たちはここに来て、三ヶ月しか経っていないんだぞ。支援する物資も食料もないのに、どうやって支援をしろって言うんだ?」

 ブラフに怒っても仕方ないが、やっと領地経営の形が出来始めたばかりで、邪魔が入ることに苛立ってしまう。

「……無税の代償がこれだったのか」
「無税の代償? どういう意味だ?」
「父上が言っていたんだ。貴族として領地を得る以上、王国の緊急時には領民よりも王国を優先しなければならない。三年は無税でも、有事には協力してもらうぞと」

 つまり、王様は最初からこういうことが起きることを想定していたのか。つくづくこの国の王様は抜け目ない。

「やられたね」
「でも、どうにかして支援はしなければいけないってことか?」
「ああ、何もしないのは許されないだろうな」
「とにかく考えよう。期限とかはあるのか?」
「一ヶ月ほどだね」

 一ヶ月で俺たちにできることを考えるが、浅知恵しか思いつかない。

「全然時間がないじゃないか。急ピッチで取り掛かれるか?」
「何をするつもり?」
「普通は支援って何を求められるものなんだ?」

 俺は異世界の戦争なんて知らない。元の世界でも戦争なんて経験したことがない。しかし、大工としてボランティア活動には参加したことがある。

 国が支援物資や建築機材を送って、プレハブや家の再建などを大工たちに頼んでいた。それを実行する経験が活かせるかもしれない。

「そうだね。普通は食料、次に武器や治療に必要な薬剤。他にはテントとか、遠征時に邪魔になる物を各地の領地で賄うんだ」
「なるほどな。つまり、遠征時に休息できて腹を満たせるものが揃っていればいいんだな?」

 それなら荒地と川で用意できそうだ。

「うん、そうだね」
「なら、武器や薬剤などの物資の調達は隣のソカイ領に頼もう。隣国に攻める際に、こちらの領地に来るのは川を挟んで不便になるから、ソカイ領から陸続きで攻め込むはずだろう」
「多分」

 頭の中で地図を広げて、隣国と戦う最適な場所を考える。

「なら、こっちはテントと食料を提供する」
「食料だけじゃなくて、テントも? 布なんてないよ」
「忘れたのか? 俺は大工だぞ」
「えっ?」

 確かにこの世界の人間に大工だと言ってもピンとこないかもしれない。レンガ建築が当たり前で、お城もレンガと石で作られているからだ。

 しかし、俺は木材を加工できるし、ここは川沿い。ある秘策が浮かんでいる。

 日本の歴史にあるように、国境沿いに軍勢が休める場所を作ってしまえばいい。これならこの状況で使える。

「任せろ。そっちは俺がなんとかする。だから、ブラフは村人たちに大量の食料になる魔物を捕獲するよう命令してきてくれ。肉はいくらあっても足りないからな。軍勢の規模は?」
「約千人の中隊で攻撃を仕掛ける」

 大規模な戦闘ではなく、第二王子が戦場に出たという箔をつけるための演習のようなものだろう。

「うん、それなら問題ない」
「そうなのか?」
「ただ、ソカイ領にテントを張るから、向こうの家令に許可を取っておいてほしい」
「わかった」

 箔をつけるためなら、数ヶ月も居座ることはないだろう。長くて一ヶ月、なら問題なく可能なはずだ。

「すぐに取り掛かろう。まずは木が必要だ。伐採する。カタログ召喚で機材を具現化してくれ」
「わかった!」

 俺たちはすぐに動き出した。

 フルフルには悪いが、魔力吸収は少なめにしてもらう。ブラフには具現化魔法を中心に魔力を使ってもらう必要があるからだ。

 木々を伐採して必要な量を確保する。次は木材を加工し、イカダを幾つか作った。

 村人たちには戦場のために保存食を大量に作ってもらう。倉庫に貯蔵していた塩も大量に使うことになるが、仕方ない。

 これは王国とグシャ領の戦いだ。グシャ領が手紙の指令に失敗すれば、ブラフは蔑まれ、無税が取り下げられるかもしれない。

 今まで臨時で求められていた税金が、固定で支払う必要が出てくる。今のグシャ領には、臨時の方がありがたい。固定の税金を払える余裕はない。

「絶対にやり遂げてみせる」

 二日で伐採を終え、木々を乾燥させた。五日目からは加工を行い、その間も魔物を狩ってレベル上げもしておく。

 戦場に駆り出されるかもしれない。こんなところで無駄死になんてするわけにはいかない。

 異世界に来て、ブラフとフルフルと出会ったことで、目的ができた。絶対に王国の思惑に潰されてたまるか!

「トオル。どうしてここまでしてくれるの?」
「何を言っているんだ?」
「だって、王国から無能だと思われるのは私だ。トオルじゃない。それなのに、トオルは自分のことのように頑張ってくれているから」
「ブラフ、俺たちはもう家族だ。家族を守るのは当たり前だろ?」

 俺の言葉にブラフは驚いた顔をして、瞳を潤ませた。

「わからないよ。私は家族の愛情なんて知らない」
「そうか? セリフォス様だったか? お前の兄さんは冷たそうに見えて、ちゃんとお前に愛情を注いでくれていたんだと思うぞ。だから、今のお前は優しく育ったんだ」

 戸惑いを見せるブラフの頭を撫でる。フルフルも頭を差し出すので、両手で二人を撫でながら、最後の仕上げの準備を進める。

「必ず成功させてみせる」
「うん、トオルならやり遂げてくれると信じているよ。そのために協力する!」
「ガオー!」

 二人に応援されながら、俺は昔教わった方法を使って、仕上げに取り掛かる。
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