17 / 38
領地経営スタート
強制命令
しおりを挟む
ブラフに届いた手紙には、第二王子ユリウスが隣国と戦闘をする支援を行うようにという命令書だった。
この国は常に魔族や隣国と小競り合いを続けている。所謂、戦国時代のような小国が集まった世界なのだ。
王国は勇者召喚という裏技で勝利し、各方面に対して力を示している。今回も勇者を召喚した力試しと、王国の王子が指揮を取る名目が欲しいようだ。
「おいおい、俺たちはここに来て、三ヶ月しか経っていないんだぞ。支援する物資も食料もないのに、どうやって支援をしろって言うんだ?」
ブラフに怒っても仕方ないが、やっと領地経営の形が出来始めたばかりで、邪魔が入ることに苛立ってしまう。
「……無税の代償がこれだったのか」
「無税の代償? どういう意味だ?」
「父上が言っていたんだ。貴族として領地を得る以上、王国の緊急時には領民よりも王国を優先しなければならない。三年は無税でも、有事には協力してもらうぞと」
つまり、王様は最初からこういうことが起きることを想定していたのか。つくづくこの国の王様は抜け目ない。
「やられたね」
「でも、どうにかして支援はしなければいけないってことか?」
「ああ、何もしないのは許されないだろうな」
「とにかく考えよう。期限とかはあるのか?」
「一ヶ月ほどだね」
一ヶ月で俺たちにできることを考えるが、浅知恵しか思いつかない。
「全然時間がないじゃないか。急ピッチで取り掛かれるか?」
「何をするつもり?」
「普通は支援って何を求められるものなんだ?」
俺は異世界の戦争なんて知らない。元の世界でも戦争なんて経験したことがない。しかし、大工としてボランティア活動には参加したことがある。
国が支援物資や建築機材を送って、プレハブや家の再建などを大工たちに頼んでいた。それを実行する経験が活かせるかもしれない。
「そうだね。普通は食料、次に武器や治療に必要な薬剤。他にはテントとか、遠征時に邪魔になる物を各地の領地で賄うんだ」
「なるほどな。つまり、遠征時に休息できて腹を満たせるものが揃っていればいいんだな?」
それなら荒地と川で用意できそうだ。
「うん、そうだね」
「なら、武器や薬剤などの物資の調達は隣のソカイ領に頼もう。隣国に攻める際に、こちらの領地に来るのは川を挟んで不便になるから、ソカイ領から陸続きで攻め込むはずだろう」
「多分」
頭の中で地図を広げて、隣国と戦う最適な場所を考える。
「なら、こっちはテントと食料を提供する」
「食料だけじゃなくて、テントも? 布なんてないよ」
「忘れたのか? 俺は大工だぞ」
「えっ?」
確かにこの世界の人間に大工だと言ってもピンとこないかもしれない。レンガ建築が当たり前で、お城もレンガと石で作られているからだ。
しかし、俺は木材を加工できるし、ここは川沿い。ある秘策が浮かんでいる。
日本の歴史にあるように、国境沿いに軍勢が休める場所を作ってしまえばいい。これならこの状況で使える。
「任せろ。そっちは俺がなんとかする。だから、ブラフは村人たちに大量の食料になる魔物を捕獲するよう命令してきてくれ。肉はいくらあっても足りないからな。軍勢の規模は?」
「約千人の中隊で攻撃を仕掛ける」
大規模な戦闘ではなく、第二王子が戦場に出たという箔をつけるための演習のようなものだろう。
「うん、それなら問題ない」
「そうなのか?」
「ただ、ソカイ領にテントを張るから、向こうの家令に許可を取っておいてほしい」
「わかった」
箔をつけるためなら、数ヶ月も居座ることはないだろう。長くて一ヶ月、なら問題なく可能なはずだ。
「すぐに取り掛かろう。まずは木が必要だ。伐採する。カタログ召喚で機材を具現化してくれ」
「わかった!」
俺たちはすぐに動き出した。
フルフルには悪いが、魔力吸収は少なめにしてもらう。ブラフには具現化魔法を中心に魔力を使ってもらう必要があるからだ。
木々を伐採して必要な量を確保する。次は木材を加工し、イカダを幾つか作った。
村人たちには戦場のために保存食を大量に作ってもらう。倉庫に貯蔵していた塩も大量に使うことになるが、仕方ない。
これは王国とグシャ領の戦いだ。グシャ領が手紙の指令に失敗すれば、ブラフは蔑まれ、無税が取り下げられるかもしれない。
今まで臨時で求められていた税金が、固定で支払う必要が出てくる。今のグシャ領には、臨時の方がありがたい。固定の税金を払える余裕はない。
「絶対にやり遂げてみせる」
二日で伐採を終え、木々を乾燥させた。五日目からは加工を行い、その間も魔物を狩ってレベル上げもしておく。
戦場に駆り出されるかもしれない。こんなところで無駄死になんてするわけにはいかない。
異世界に来て、ブラフとフルフルと出会ったことで、目的ができた。絶対に王国の思惑に潰されてたまるか!
「トオル。どうしてここまでしてくれるの?」
「何を言っているんだ?」
「だって、王国から無能だと思われるのは私だ。トオルじゃない。それなのに、トオルは自分のことのように頑張ってくれているから」
「ブラフ、俺たちはもう家族だ。家族を守るのは当たり前だろ?」
俺の言葉にブラフは驚いた顔をして、瞳を潤ませた。
「わからないよ。私は家族の愛情なんて知らない」
「そうか? セリフォス様だったか? お前の兄さんは冷たそうに見えて、ちゃんとお前に愛情を注いでくれていたんだと思うぞ。だから、今のお前は優しく育ったんだ」
戸惑いを見せるブラフの頭を撫でる。フルフルも頭を差し出すので、両手で二人を撫でながら、最後の仕上げの準備を進める。
「必ず成功させてみせる」
「うん、トオルならやり遂げてくれると信じているよ。そのために協力する!」
「ガオー!」
二人に応援されながら、俺は昔教わった方法を使って、仕上げに取り掛かる。
この国は常に魔族や隣国と小競り合いを続けている。所謂、戦国時代のような小国が集まった世界なのだ。
王国は勇者召喚という裏技で勝利し、各方面に対して力を示している。今回も勇者を召喚した力試しと、王国の王子が指揮を取る名目が欲しいようだ。
「おいおい、俺たちはここに来て、三ヶ月しか経っていないんだぞ。支援する物資も食料もないのに、どうやって支援をしろって言うんだ?」
ブラフに怒っても仕方ないが、やっと領地経営の形が出来始めたばかりで、邪魔が入ることに苛立ってしまう。
「……無税の代償がこれだったのか」
「無税の代償? どういう意味だ?」
「父上が言っていたんだ。貴族として領地を得る以上、王国の緊急時には領民よりも王国を優先しなければならない。三年は無税でも、有事には協力してもらうぞと」
つまり、王様は最初からこういうことが起きることを想定していたのか。つくづくこの国の王様は抜け目ない。
「やられたね」
「でも、どうにかして支援はしなければいけないってことか?」
「ああ、何もしないのは許されないだろうな」
「とにかく考えよう。期限とかはあるのか?」
「一ヶ月ほどだね」
一ヶ月で俺たちにできることを考えるが、浅知恵しか思いつかない。
「全然時間がないじゃないか。急ピッチで取り掛かれるか?」
「何をするつもり?」
「普通は支援って何を求められるものなんだ?」
俺は異世界の戦争なんて知らない。元の世界でも戦争なんて経験したことがない。しかし、大工としてボランティア活動には参加したことがある。
国が支援物資や建築機材を送って、プレハブや家の再建などを大工たちに頼んでいた。それを実行する経験が活かせるかもしれない。
「そうだね。普通は食料、次に武器や治療に必要な薬剤。他にはテントとか、遠征時に邪魔になる物を各地の領地で賄うんだ」
「なるほどな。つまり、遠征時に休息できて腹を満たせるものが揃っていればいいんだな?」
それなら荒地と川で用意できそうだ。
「うん、そうだね」
「なら、武器や薬剤などの物資の調達は隣のソカイ領に頼もう。隣国に攻める際に、こちらの領地に来るのは川を挟んで不便になるから、ソカイ領から陸続きで攻め込むはずだろう」
「多分」
頭の中で地図を広げて、隣国と戦う最適な場所を考える。
「なら、こっちはテントと食料を提供する」
「食料だけじゃなくて、テントも? 布なんてないよ」
「忘れたのか? 俺は大工だぞ」
「えっ?」
確かにこの世界の人間に大工だと言ってもピンとこないかもしれない。レンガ建築が当たり前で、お城もレンガと石で作られているからだ。
しかし、俺は木材を加工できるし、ここは川沿い。ある秘策が浮かんでいる。
日本の歴史にあるように、国境沿いに軍勢が休める場所を作ってしまえばいい。これならこの状況で使える。
「任せろ。そっちは俺がなんとかする。だから、ブラフは村人たちに大量の食料になる魔物を捕獲するよう命令してきてくれ。肉はいくらあっても足りないからな。軍勢の規模は?」
「約千人の中隊で攻撃を仕掛ける」
大規模な戦闘ではなく、第二王子が戦場に出たという箔をつけるための演習のようなものだろう。
「うん、それなら問題ない」
「そうなのか?」
「ただ、ソカイ領にテントを張るから、向こうの家令に許可を取っておいてほしい」
「わかった」
箔をつけるためなら、数ヶ月も居座ることはないだろう。長くて一ヶ月、なら問題なく可能なはずだ。
「すぐに取り掛かろう。まずは木が必要だ。伐採する。カタログ召喚で機材を具現化してくれ」
「わかった!」
俺たちはすぐに動き出した。
フルフルには悪いが、魔力吸収は少なめにしてもらう。ブラフには具現化魔法を中心に魔力を使ってもらう必要があるからだ。
木々を伐採して必要な量を確保する。次は木材を加工し、イカダを幾つか作った。
村人たちには戦場のために保存食を大量に作ってもらう。倉庫に貯蔵していた塩も大量に使うことになるが、仕方ない。
これは王国とグシャ領の戦いだ。グシャ領が手紙の指令に失敗すれば、ブラフは蔑まれ、無税が取り下げられるかもしれない。
今まで臨時で求められていた税金が、固定で支払う必要が出てくる。今のグシャ領には、臨時の方がありがたい。固定の税金を払える余裕はない。
「絶対にやり遂げてみせる」
二日で伐採を終え、木々を乾燥させた。五日目からは加工を行い、その間も魔物を狩ってレベル上げもしておく。
戦場に駆り出されるかもしれない。こんなところで無駄死になんてするわけにはいかない。
異世界に来て、ブラフとフルフルと出会ったことで、目的ができた。絶対に王国の思惑に潰されてたまるか!
「トオル。どうしてここまでしてくれるの?」
「何を言っているんだ?」
「だって、王国から無能だと思われるのは私だ。トオルじゃない。それなのに、トオルは自分のことのように頑張ってくれているから」
「ブラフ、俺たちはもう家族だ。家族を守るのは当たり前だろ?」
俺の言葉にブラフは驚いた顔をして、瞳を潤ませた。
「わからないよ。私は家族の愛情なんて知らない」
「そうか? セリフォス様だったか? お前の兄さんは冷たそうに見えて、ちゃんとお前に愛情を注いでくれていたんだと思うぞ。だから、今のお前は優しく育ったんだ」
戸惑いを見せるブラフの頭を撫でる。フルフルも頭を差し出すので、両手で二人を撫でながら、最後の仕上げの準備を進める。
「必ず成功させてみせる」
「うん、トオルならやり遂げてくれると信じているよ。そのために協力する!」
「ガオー!」
二人に応援されながら、俺は昔教わった方法を使って、仕上げに取り掛かる。
615
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~
さとう
ファンタジー
町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。
結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。
そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!
これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる