勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ

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領地経営スタート

スタート

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 俺の申し出を聞いてくれたブラフと共に、領民が住む村へ向かった。

 村には老人はおらず、若者と子供ばかりが住む小さな村だ。

「あっ、あなた方は?」

 村の中で一番年を重ねていそうな男性が、オドオドとした態度で尋ねてきた。ガリガリに痩せた体つきから、まともに食事を取れていないことが伺える。村の家々も雨風は凌げているが、機能性の欠けた掘立小屋が数軒並んでいるだけだった。

「こちらにおわすのは、この領地を治めることになったブラフ様だ!」

 俺は少し大袈裟にブラフを持ち上げて紹介する。すると、驚いた村人たちは次々に平伏していった。

「領主様とは知らずに申し訳ありませんでした!」

 やはりこの世界では、貴族や領主という存在に対して絶対的な敬意を示す教育が行き届いているのだろう。彼らの反応を見て、身分の差がどれだけ重要視されているかを改めて感じた。

「皆の者よ、顔を上げてくれ! 私は君たちと話をしたいのだ」
「はっ、話でございますか?」
「ああ、この村の者はここにいる者たちで全員か?」
「はっ、はい」

 村人の返事を聞き、集まっているのはおよそ60名ほど。100名には程遠い。家の中に寝たきりの老人でもいるのかと思ったが、その気配はない。

「そうか。では、ここにいる者たち全員を私の従者として雇いたいと思うのだが、どうだ?」
「へっ? 従者?」
「ああ、現在私は領地経営のために開拓を進めなくてはならない。そのための人手が必要だ。もちろん、無理に魔物と戦わせたりして命を危険にさらすことはしない。田畑を育てる手伝いや、屋敷での家事全般、メイドや執事、庭師や農家として、様々な仕事を手伝ってもらいたい」

 ブラフは貴族らしい品格と優しい雰囲気で語りかけた。そのためか、村人たちも話に耳を傾けやすいようだ。

「あっ、あの、それは税を取られるのと、どう違うのでしょうか?」
「最初の一年は畑や開拓が主な仕事となるから、君たちから税を取るつもりはない。逆に少しではあるが給金と食事を提供しよう」
「そっ、それは本当でございますか?!」

 食事という言葉に、男性は驚いて飛びついた。瘦せ細った体から見て、村人たちがどれほど食料に困っていたかが伝わってくる。

「まだ備蓄は少ないが、朝と晩の二食は約束しよう。どうだろうか?」
 ブラフの問いかけに、男性は迷いながらも他の村人たちの顔を見回した。彼らの戸惑いを見て、瘦せ細った子供たちの姿が目に入る。

「喜んでお受けいたします!」
「ありがとう。皆の名前とできることを聞いておきたいから、屋敷まで来てくれるか?」
「かしこまりました」

 屋敷に招く理由は、彼らのために食事を用意していたからだ。大きな鍋で作ったスープに肉団子を入れて、特に子供たちが食べやすいよう工夫してある。スープには麦を入れて麦粥にし、消化しやすいように配慮した。普段から栄養不足の人々に、固形物は負担が大きいと考えたからだ。

「まずはあなたからだ」
「はっ、はい。今、村の代表をさせてもらっているハンスです」

 ハンスは30歳で、近隣の村で農家をしていたが、水が枯渇して途方に暮れていた際にこの領地で開拓が進められるという話を聞き、ここにやって来たという。他の若者たちも、ほとんどが同じような状況に追い込まれていた。

 戦争で傷を負った者、食べる物を求めてこの地にやって来た者、生きるために必死でここにたどり着いた者たちだ。

「ありがてぇ、ありがてぇ」

 涙を流しながら肉団子入り麦粥を食べるハンスたちを見て、俺たちは互いに顔を見合わせた。

「私は彼らの領主として、開拓を成功させなければならないな」
「ああ、まずは一年で荒地を整備し、村人全員が食べられるだけの畑を作ることだな。種の確保や、食料の仕入れも手を打たないといけない」

 ブラフは、領主としての決意を固めた顔つきで拳を握りしめた。

「任せてくれ。商人と交渉し、行商人にも来てもらおう。それに、難民を受け入れて領民の数を増やしていくつもりだ」
「おう、その意気だ」

 俺も自分にできることをしよう。大工仕事だけでは足りない。水場の確保、農地の整備、そして魔物を倒してレベルを上げることも必要だ。レベルを上げれば、魔法が使えるようになるかもしれない。

 ここは剣と魔法のファンタジー世界だ。どうせなら、強くなってやろうじゃねぇか。

「それに、面白い人材を見つけたんだ」
「人材? どういう意味だ?」
「言っていなかったか? 私の魔法は具現化魔法だけじゃない。もう一つあるんだ」
「もう一つ?」
「ああ、王都では役立たずだと言われていたが、地方に来て初めて自分の価値を見つけた気がするよ」
「なんだよ、もったいぶらずに教えてくれよ」
「私は鑑定魔法が使えるんだ」
「鑑定魔法?! マジかよ、ブラフ! チート魔法使いじゃないか!」

 俺は異世界ファンタジー小説でお馴染みの「鑑定魔法」が使えると聞いて、驚きの声を上げた。

「はは、そこまで大袈裟なものではないが、村人たちとの面接の間に鑑定魔法を使っていたんだ。すると、彼らの隠された能力を知ることができた」
「ブラフ、俺たちにも希望が見えてきたな」
「ああ、私はやれる。そう思えたよ」

 俺たちは、鑑定で得た知識をもとにして、村人たちに適した仕事を割り当てた。
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