オッサンはギャルに飯を作ってやる

イコ

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オジサンに声をかけられた。

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 私は絶対に悪くない。

 幼稚園の時にお父さんが病気で死んで、お母さんと二人の母子家庭で育ってきた。
 ママが頑張ってくれていたのは知っている。
 だから、ママに好きな人ができて、付き合うことに反対はしない。

 だけど、そいつはあんまりいい奴じゃなくて、ママを大切にしない。
 だって、お酒を飲んでママに迷惑ばかりかけて、喧嘩をよくしている。

 大嫌い。

 本当のお父さんが生きていてくれたらこんなことにはならなかったのに……。
 だから私は、自分の身を守るためにギャルになった。
 見た目が強くなったような気がして、周りの子達と遊ぶのも楽しく、私の居場所があるんだって思った。

 だけど、ママと喧嘩する日が増えた。

「危ないって言ってるの、やめなさい!」
「私の勝手だろ。好きにさせろよ!」 

 その日は、友達から稼げる方法を教えると言われていた。

 だけど、それをママに伝えると大喧嘩になった。

 あまりにも怒られたから、スマホも財布も持つことなく家を飛び出した。
 帰りたくなくて途方にくれて街灯の下に座り込んでしまう。

 どうしてわかってくれないんだろう?

 私が座っていると、何人か変なオッサンに声をかけられた。
 キモい奴らばっかりで、私の体をジロジロと見てくる。

「いくらだ。買ってやるよ」
「お嬢ちゃん可愛いねぇ」
「胸おっきいじゃん。俺の部屋にこいよ」

 偉そうなオッサン。
 キモいオッサン。
 チャラそうなオッサン。

 とにかく男がキモく見えて仕方ない。
 そんな私に四人目のオッサンが声をかけてきた。

 正直うんざりしてたし、面倒だとしか思わなかった。

「なぁ、腹減ってないか?」
「えっ?」

 お腹も空いて、体が冷えて、ヤバいって思い始めているときだった。
 物凄く良い匂いをさせたが声をかけてきた。

 どこにでもいそうな冴ないオジサンは、私が警戒しているといきなり名刺を差し出してきた。

 意味がわからない。

「怪しい者じゃねぇぞ。ほら、これが名刺だ」
「宮崎友人?(みやざきゆうじん?)」
「ミヤザキユウトって読むんだ。中華屋の店長をしている。店の住所はそこに書いてある場所だ。今は仕事帰りなんだ。腹が減っているなら、残り物のご飯があるから一緒に食べないか? 先に言っておくがパパ活とかはしないからな!」

 パパ活! あ~そういうことか……。

 先ほどまで声をかけてきたオッサンたちの目的がわかった。

 エンコーを求めていたのか、私はそういうことをしたことがないから気づかなかった。

 早口で話をするオジサンに驚いていると、私のお腹が(ぐー)となった。

「家に来るのが嫌なら、チャーハンだけでも持って行くといい。まだ少しは温かいはずだ」

 オジサンは、そう言って本当に私に何かを求めるんじゃなくて、持っていた袋を差し出そうとした。

「どうして?」
「うん?」
「どうして、優しくしてくれるの? 私が可愛いから?」

 ギャルになるために化粧を覚えて、自分は男受けがいいことを知った。
 まだ、誰とも付き合ったことはないけど、それでも告られたことだってある。

「ハァー、君が可愛いかなんてどうでもいい。寒空に一人でいて、しかも近所にある青葉高校の制服だったから声をかけただけだ。ほら、警戒しているなら、袋だけ置いていくから、帰って食べればいい」

 オジサンは私の言葉にため息をついて、地面に袋を置いた。
 この人は他の人と違うんだ。
 私に何かして欲しいわけじゃない。

 ただ、自分がしたいんだ。

「待って」
「なんだ?」
「いいよ。いく」
「えっ?」
「ユウジンさんの家で食べるよ」

 ちょっと恥ずかしいから、ユウトさんってわかっていたけど、ユウジンさんって呼んだ。

「なら、すぐそこだ。それと俺はユウトだ」
「はいはい」

 自宅に連れて行ってくれたユウトさんの家は、私が住んでいる家よりも遥に大きいマンションだった。
 そして、部屋の中で見るユウトさんは意外に若かった。

「うわ~、広いね」
「まぁな。ほら、チャーハンを寄越せ。温め直すから」
「うん」

 タッパーが入った袋を渡して、ユウトさんが料理をする姿を眺めた。
 私とママは料理が苦手で、ユウトさんの手付きはプロって感じで全然違って見えた。普通にかっこいいなって。
 
「本当にプロなんだね。手つきが早い」
「名刺見せただろ」
「うん。だけど、こんなの見たって、偽物渡す人もいると思うよ」
「あ~、そこまで考えてなかった」

 ママの彼氏も最初に紹介された時は良い人そうだった。
 だけど、結局中身は最低な人で、どうしてママがあんな奴を好きなのかわからない。

 そんなことを考えていると料理ができて、ユウトさんがテーブルに並べてくれる。
 久しぶりに誰かが作った家庭料理に驚いてしまう。

「食べていいの?」
「ああ」
「いただきます!」

 チャーハンを口に入れる。
 フワフワとしたお米にチャーハンの美味しさが口いっぱいに広がる!
 暖かくて、美味しい。

「ウマッ! マジで美味い! 何これ、中華ってこんなに美味しかった?」

 中華なんて、ラーメンぐらいしか食べたことがなかったから知らなかった。

「あまり中華は食べないか?」
「うん。パンケーキとか? サイゼは行くから、パスタか、ポテトかな?」

 私は、知らないことが多いんだ。
 パパ活の誘いも、どうしてママが友達の誘いに怒ったのか今ならわかる。
 
 多分、友達がパパ活に誘ってきた。
 だから、ママは私を心配して怒ったんだ。

 私はチャーハンの暖かさも、卵スープの甘みも全然知らなかった。
 
「ハァー、卵スープ、ウッマ!」
「良かったな」
「……ふーん、オジサンってそんな顔で笑うんだね」

 私が美味しいって言うたびに、嬉しそうな顔をする。
 照れくさそうな笑い方をされるから、見ていてこっちが恥ずかしい。

「えっ? 俺、笑ってたか?」
「うん。私のこと見て嬉しそうに笑ってたよ。美味しいって言われて嬉しい?」
「それはそうだろ? 自分で作った物を美味しいって食ってもらうために、俺は料理人になったんだからな」

 そんな人もいるんだね。
 私は何も考えてこなかったかも……。

 何も知らないで、楽に生きていけたらいいって……。
 
「良い夢だね。ご馳走様。私帰るね」
「ああ、気をつけてな」

 やっぱりユウトさんは、悪い人じゃないんだ。
 多分、家にまで入ったら襲われても仕方ないって、ちょっと思ってた。

「うん? どうかしたのか?」
「本当に……、何もしないんだね」
「ハァー? まだ子供だろ。手なんか出すかよ」
「普通は出すと思うよ。私って結構可愛いし、胸だって大きいから」
「はいはい。子供は帰って寝ろよ」
「む~、子供じゃないし!」

 ユウトさんに子供だと思われていることが悔しい。
 なんだろ、胸の辺りがモヤモヤする。

 だけど、嫌じゃないな。

「本当に変わっているね。ユウジンさん」
「ユウトだ」
「またね。ユウジンさん。お腹が空いたら、くるよ」
「ああ、そんな機会があればな」

 きっとユウトさんは、当たり前のことをしたって思うかもしれないけど、私は自分の気持ちを整理することができた。

「ママ、私は全然何もわかってなかったかも。だからごめんね。ママの考えていることを教えて。わからないことがたくさんあるんだ」
「ありがとう」

 私がママに謝ると、ママは泣いてお話をしてくれた。

 まだまだママの彼氏は嫌いだけど、ママがどうして彼氏を好きなったのかは、わかったよ。

 だから、もう何も言わない。

 代わりに私もしんどくなったら逃げる場所ができたから。

「来たよ。またご飯食べさせて」

 マンションの前で待っていると、深夜に帰ってきたユウトさんが飯を作ってくれる。

 今はそれを見ているだけで、いいや。

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