俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第七話

五災 黒抗のセネラ 1

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 壁の向こうを超えてからは、空が曇り、日差し込む回数の方が少ない。

 特に、峠を越えてからずっとだった。

 森が途切れた先、黒い岩盤の台地が広がっていた。草も、風も、鳥の気配すらない。生の気配が一切ない場所に辿り着いた。

 白瞳のネルが、立ち止まって振り返る。

「……この先に、黒抗のセネラがいる」

 隊の空気が、凍るように張り詰めた。

 二十名ほどの隊は、ここに辿り着くまでの魔物との戦闘や、緊張の連続で、疲弊している。だが、それでも誰一人欠けることなく、ここまでの道のりを歩んできた。

 ネルが目を細めて言葉を継ぐ。

「かつて、こちら側にまだいくつか国があったと際に、西方で起きた杭の戦災。その地を一夜で焼き貫いたのが、黒杭のセネラ」

 ここに来るまでの道で俺は、いくつかの街の跡を見た。どれもが人が生きていた痕跡があり、記録を残す石板が置かれていた。

 記録には「黒鉄の杭が雨のように降った」と書かれていた。

 都市がまるごと串刺しにされ、人も建物も境界なく、十字に刻まれたと。

「彼は正しさの記録者。歪んだ正義を見つけると、それを杭で固定し、動けぬよう封じ殺す。それが、彼の存在原理」
「……正義? 厄災が正義を語ると?」

 ジルベルトが息を詰めるように呟いた。

「今の彼にとって正しいと映れば、利用すらされうると?」

 俺が問いかけると、ネルが頷いた。

「ええ。だから、先に討つの」

 ネルの指先が、黒き台地の奥を指した。

 その先、黒い影が立っていた。

 槍? いや、杭の束を纏ったような人影。

 まるで身体そのものが武器でできている。

 胸の中心から背を突き抜けている一本の太杭は、十字の死を象徴していた。

 その姿を見た瞬間、隊の中から誰かが息を飲む音がした。

「動かない……眠っているのか?」

 ティオが呟くように訊ねた。

「半覚醒状態。彼は歪みに反応する。まだ、我々の存在は測っていない」

 ネルの言葉に、俺は息を整える。

「全員、警戒。ここからは後退も難しい。魔力の影響が、既に周囲に広がっている。結界を張りながら接近する。戦闘は俺がメインで行う。距離を取り、自らを見守れ」

 彼らを連れてきたのは、俺が漫然な体調で戦うため。そして、もしもの際に戦える要因として。

 ガルドとギルマが即座に布陣を整え始める。ミュリナが魔術展開の支援を開始し、リグは周囲に目を光らせている。

 ジルベルトが剣を引き抜いた。

「……何が正しく、何が間違っているか。それは、我々が決める。異形の基準ではない!」

 ジルベルトの言葉に、俺は剣を背から外し、静かに構えた。

 風が鳴る。

 俺たちの気配に気づいたセネラが、わずかに首を傾けた。

 気づいた。

 その瞬間、大地に無数の杭が走った。

 交差する正義の杭。黒鋼の裁きが、空を裂いて降り注ごうとしている。

 戦いが始まる。
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