俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第五話

地獄絵図

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 私は街の中央、臨時で設置された治療所にいた。

 瓦礫をどかして組み直しただけの簡易な天幕。けれど、そこには確かに命の灯があった。

「次の子を寝かせてください」

 汗を拭う間もなく、私は治癒の魔力を指先に集める。神聖魔法が効くのは毒の根を断つまで。その後は、体を癒すしかない。

 火傷を負った少年の手を取り、静かに額に触れる。

「……神よ、この子の命に、癒しを」

 淡い光が少年の皮膚を包むと、彼は弱々しく瞬きをした。

 助かる。そう確信できた。けれど、心は落ち着かない。

 子どもたちの命を救うたびに、私はどこかで彼の姿を探していた。

 エルド様は、どこに。

「ノーラ様!」

 ティオさんの声が響く。彼は駆け寄ると、息を切らしながら告げた。

「門の向こうで凄い爆発があって……火の手が……っ!!」

 胸が締め付けられる。

 きっとエルド様が異形を倒すために戦っている。

「私も向かいます」

 治療を一段落して、私は走り出した。

 崩れかけた街を抜け、まだ焦げた匂いの残る南門へ。

 毒で苦しむ人は、エルド様が用意してくれた解毒薬を。呪いには浄化の聖水を全て使い切った。

 きっと子供達の異変も異形の仕業だったんだ。

 エルド様はエルフの里から解毒薬を取ってきてくれた。

 今も、誰よりも大変なところで一人で戦っているんだ。
 
 壁の先を見るのが怖かった。

 けれど、私はもう目を逸らすわけにはいかなかった。

 そして……。

 私は、見た。

 地を割って広がる黒く赤い大地。

 まだ、全ての熱が残っている。近づくこともできない熱気が、壁のこちら側まで伝わってくる。

「こちらに」

 ガルドさんに案内されて、壁の向こうが見える場所に上がる。

 だけど、壁の向こうに広がっていたの地獄だった。

 そして、異形と思われる巨大な魔物が、自分の命を使って溶岩を生み出したことがわかった。

 そして……壁を守るように人型が、そこに立っていた。

 その背中は、溶岩の奔流の前に、一人で毅然と立っていた。

 全身を真っ黒な溶岩に包まれながら、まるで自らの魔力を命そのものを焼いて、流れを止めているかのように。

「エルド……様……」

 彼は魔力で、マグマを鎮めていた。

 熱風が吹く。空がゆらめく。けれど、その背は崩れなかった。

 焼けた大地の上、真っ黒な影が、光の中でゆらいでいる。

 遠くて、声は届かない。

 けれど私は知っていた。

 彼はこの街を、皆を、私を、守ってくれたのだ。

「……」
「もう、エルド様は」

 私は手を組んで祈った。

 まだ癒さねばならない命がある。

「まだです!」
「えっ?」

 エルド様は死んでいない。 

「私が下に降ります」
「危険です! 向こう側には魔物がいる。それに今も煮えたぎる溶岩が、地面を埋め尽くしているんですよ!」
「エルド様は、お一人で壁を守られました。ですが、そのために魔力を使い果たして戻ってこれないのです! 私がエルド様を、夫を癒さなければいけないのです!」

 あなたが無事に、生きて帰ってきてくれますように。

 そのために私はあなたを助けに行きます。
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