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第三話
出陣
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空はまだ蒼く、夜明けの陽光がヨンクの石壁を優しく照らしていた。だが、街の中にはいつもの朝の賑わいはなかった。
代わりにあったのは、戦装束に身を包んだ兵たちの沈黙と、槍の先に宿る覚悟だった。
出陣の時が近い。
俺は、屋敷の小さな裏庭に立っていた。
いつもノーラが洗濯物を干している、あの静かな場所だ。ふと振り返ると、木扉がそっと開き、ノーラが現れた。
その手には、丁寧に包まれた布の束。
「エルド様……」
ノーラの声は、静かで、どこか震えていた。
「来てくれたのか。ありがとな」
微笑んで見せると、ノーラは頷きながらゆっくりと近づいてきた。
「この……防具、昨日のうちに縫い直しました。破れていた肩の縫い目も、補強の糸で二重にしてあります。……それから、中に、お守りも縫い付けておきました」
そう言って差し出された防具には、細やかな刺繍が施されていた。淡い金糸で縫われた小さな紋章。俺とノーラ、二人のイニシャルをかたどった護符だった。
俺は無言でそれを受け取り、しっかりと手にした。
たった一晩でここまで仕上げるのは、簡単じゃなかったはずだ。
「……本当に、ありがとう。お前の針は、どんな盾よりも心強い」
そう言うと、ノーラはふっと笑って、でも目だけが潤んでいた。
「……私にできるのは、これくらいです。戦場に行くあなたを止めることも、何かを変える力もないけれど。でも、少しでも守ってくれるようにって、願いを込めました」
俺は、そっとその肩に手を置く。
「それが、どれだけ支えになるか……お前には想像もできねぇよ」
ノーラが、ぎゅっと口元を結ぶ。何かをこらえるように。
「……帰ってきてください。絶対に」
「ああ。約束する」
防具を身に着けると、驚くほど体に馴染んだ。まるで、ノーラの手が俺の背をそっと押してくれているようだった。
「さぁ、行ってこいよ、って聞こえる気がするな」
そう呟くと、ノーラは目を見開き、そして、泣き笑いのような表情で頷いた。
出陣の号が鳴る。
街の中心、門の前には兵たちが並び、俺の到着を待っている。
ノーラの手を、そっと握りしめた。
「ただいま、って言えるように……最短で帰ってくる」
「……待ってます」
ノーラの微笑みに背を預け、俺は剣を腰に、防具を締め、歩き出した。
風が背中を押すように吹いた。
その風は、ノーラの祈りのようだった。
すでに王国の軍は連合軍に入ってきた。
抵抗されると思っていたのか、最初は警戒を示していたが、ドワーフの長バッサムが。
「ヨンクに行かれるのであれば、我々は邪魔をしない。逆に、こちらに牙を剥かれるなら我々も死に物狂いにお相手致す」
と脅しをかけたのが聞いたようだ。
数にして、一万二千の王国軍をすんなりと連合国は無血開城するように招き入れた。
最初は警戒していた王国軍も、あまりにも呆気なく通されたことで肩透かしを喰らった様子で、むしろ横柄な態度で進軍を開始したようだ。
「アルヴィ」
「すでに、我が軍の配置は終えています」
「うむ」
王国からヨンクに入るには、どうしても大きな湿地帯を抜けなければならない。
湿地帯では馬の行軍が遅くなり、そこが我々の狙い目だ。
「敵は予定の場所に入ったぞ! 我らは1000。一人五人を葬りされ。あとは俺がやる!」
俺の号令と共に、ヨンクの兵が王国軍に向かって入り出す。
開戦の時だ。
代わりにあったのは、戦装束に身を包んだ兵たちの沈黙と、槍の先に宿る覚悟だった。
出陣の時が近い。
俺は、屋敷の小さな裏庭に立っていた。
いつもノーラが洗濯物を干している、あの静かな場所だ。ふと振り返ると、木扉がそっと開き、ノーラが現れた。
その手には、丁寧に包まれた布の束。
「エルド様……」
ノーラの声は、静かで、どこか震えていた。
「来てくれたのか。ありがとな」
微笑んで見せると、ノーラは頷きながらゆっくりと近づいてきた。
「この……防具、昨日のうちに縫い直しました。破れていた肩の縫い目も、補強の糸で二重にしてあります。……それから、中に、お守りも縫い付けておきました」
そう言って差し出された防具には、細やかな刺繍が施されていた。淡い金糸で縫われた小さな紋章。俺とノーラ、二人のイニシャルをかたどった護符だった。
俺は無言でそれを受け取り、しっかりと手にした。
たった一晩でここまで仕上げるのは、簡単じゃなかったはずだ。
「……本当に、ありがとう。お前の針は、どんな盾よりも心強い」
そう言うと、ノーラはふっと笑って、でも目だけが潤んでいた。
「……私にできるのは、これくらいです。戦場に行くあなたを止めることも、何かを変える力もないけれど。でも、少しでも守ってくれるようにって、願いを込めました」
俺は、そっとその肩に手を置く。
「それが、どれだけ支えになるか……お前には想像もできねぇよ」
ノーラが、ぎゅっと口元を結ぶ。何かをこらえるように。
「……帰ってきてください。絶対に」
「ああ。約束する」
防具を身に着けると、驚くほど体に馴染んだ。まるで、ノーラの手が俺の背をそっと押してくれているようだった。
「さぁ、行ってこいよ、って聞こえる気がするな」
そう呟くと、ノーラは目を見開き、そして、泣き笑いのような表情で頷いた。
出陣の号が鳴る。
街の中心、門の前には兵たちが並び、俺の到着を待っている。
ノーラの手を、そっと握りしめた。
「ただいま、って言えるように……最短で帰ってくる」
「……待ってます」
ノーラの微笑みに背を預け、俺は剣を腰に、防具を締め、歩き出した。
風が背中を押すように吹いた。
その風は、ノーラの祈りのようだった。
すでに王国の軍は連合軍に入ってきた。
抵抗されると思っていたのか、最初は警戒を示していたが、ドワーフの長バッサムが。
「ヨンクに行かれるのであれば、我々は邪魔をしない。逆に、こちらに牙を剥かれるなら我々も死に物狂いにお相手致す」
と脅しをかけたのが聞いたようだ。
数にして、一万二千の王国軍をすんなりと連合国は無血開城するように招き入れた。
最初は警戒していた王国軍も、あまりにも呆気なく通されたことで肩透かしを喰らった様子で、むしろ横柄な態度で進軍を開始したようだ。
「アルヴィ」
「すでに、我が軍の配置は終えています」
「うむ」
王国からヨンクに入るには、どうしても大きな湿地帯を抜けなければならない。
湿地帯では馬の行軍が遅くなり、そこが我々の狙い目だ。
「敵は予定の場所に入ったぞ! 我らは1000。一人五人を葬りされ。あとは俺がやる!」
俺の号令と共に、ヨンクの兵が王国軍に向かって入り出す。
開戦の時だ。
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