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第二話
ノーラの初戦 終
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ガルド様の傷は深くて、すぐには治らない。
それでも全力でやらなくちゃ。
「ノーラ様、俺はもういい。逃げろ」
「ノーラの嬢ちゃん。すまんが、ガルドは」
「諦めません!」
私は強く否定した。魔物が迫ってくる現状、私がここにいれば、誰かが守らなくちゃならない。危険なことはわかっている。
魔物が、まだいる。
戦いが終わったわけじゃない。地響きが再び鳴った。
空が低く唸る。地が軋むような震動。
「……っ、嘘……!」
霧を裂いて、二体の巨影が現れた。
一体は、全身を骨のような外殻で覆い、頭部に無数の眼を持つ異様な姿。もう一体は、煙を纏うように姿を揺らしながら、滑るように地を這う。
そのどちらもが、先ほどの巨獣を凌駕する威圧を放っていた。
兵士たちが息を飲み、武器を構え直す。けれど、疲弊しているのは誰の目にも明らかだった。
「ノーラ様! ごめんです!」
「アカネさん!」
「大丈夫、シロがガルド様を連れてきてくれるから、後方で支援しよう!」
二人は私を守る護衛として、付き従ってくれている。それ以上は我儘は言えない。
だけど、神聖魔法は、手を触れているほどに威力が高くなる。
ガルド様は深手を負って倒れたまま。バッサム長老も膝をついている。
「……皆、下がれ。再配置を……!」
カイ様の声が震えていた。
「ノーラ様、退避を!」
「アカネさん止まってください。ここで動いたら、皆さんが……!」
必死に叫ぶけれど、足が震える。心が、折れそうです。
(お願い……エルド様……)
その瞬間。骨の魔物が咆哮し、黒い瘴気をまとった爪をこちらへと振り上げる。
こちらに来る。
「俺が!」
ガルド様が治っていない傷で、立ち塞がって槍を振るった。
だけど、届かない。
私の命は、ここで尽きる。
そう思った、次の瞬間だった。
空気が、切り裂かれた。
「鬼輪断!!」
地響きと共に、大剣が天から落ちた。
それは、漆黒の風。
それは、鋼の意志。
エルド様だった。
紅い魔力を帯びた大剣を振るい、骨の腕を一撃で叩き落とした。
鋭い衝撃が奔り、巨体が吹き飛ぶ。
「ッ……エルド、様……!」
私は、その背中を見ていた。
どれほどその姿が、頼もしく感じたかわからない。
私の前にエルド様が無事に帰ってきてくれた。
「遅くなったな。ノーラ」
「いえ、おかえりなさいませ」
「ちょっと片付けをしてくるから、大人しく待っていてくれよ」
「はい!」
もう一体の魔物が咆哮を上げて、エルド様に向かってくる。
「ヨンクの者たちよ! 戦鬼のエルドが帰ったぞ!!! こんなところで止まってていいのか?」
その方向はヨンク全体に響くのではないかと思うほどに大きく反響して、私の体から震えが止まっていました。
絶対的な安心感。信じていいと思える強さ。
魔物がエルド様に飛びかかる。
けれど、それよりも早く。
「鬼刃連衝!」
大剣の連撃が、赤い軌跡を残して、魔物の胴体を斬り裂いていく。
あれほど、苦戦していた魔物の群れが、巨大な魔物が悉くエルド様の前に沈んでいく。
「アルヴィ! エルド!! 負傷者を立て直せ」
「やれやれ、人使いが粗い」
「承知しました!」
エルド様の両脇を、二つの影が走り抜けて、魔物を葬り去っていく。
たった三人。だけど、ヨンクの国主が戻っただけで、ヨンクは息を吹き返した。
煙を纏った巨体が、苦鳴をあげてのけぞる。
エルド様はまるで踊るように剣を振るい、霧を切り裂きながら前へ進む。
「皆、聞け!」
その声が、戦場全体に響いた。
「ここには、俺がいる!」
兵たちの目に、再び光が宿る。
その瞬間、戦況が変わった。
私の胸に、熱い鼓動がよみがえる。
エルド様は、必ず帰ってくる。
そして、この場所を私たちを、守ってくださる。
「ガルド様、すぐに治します」
私も負けてはいられない。自分にできることをするんだ。
エルド様の妻なのだから。
それでも全力でやらなくちゃ。
「ノーラ様、俺はもういい。逃げろ」
「ノーラの嬢ちゃん。すまんが、ガルドは」
「諦めません!」
私は強く否定した。魔物が迫ってくる現状、私がここにいれば、誰かが守らなくちゃならない。危険なことはわかっている。
魔物が、まだいる。
戦いが終わったわけじゃない。地響きが再び鳴った。
空が低く唸る。地が軋むような震動。
「……っ、嘘……!」
霧を裂いて、二体の巨影が現れた。
一体は、全身を骨のような外殻で覆い、頭部に無数の眼を持つ異様な姿。もう一体は、煙を纏うように姿を揺らしながら、滑るように地を這う。
そのどちらもが、先ほどの巨獣を凌駕する威圧を放っていた。
兵士たちが息を飲み、武器を構え直す。けれど、疲弊しているのは誰の目にも明らかだった。
「ノーラ様! ごめんです!」
「アカネさん!」
「大丈夫、シロがガルド様を連れてきてくれるから、後方で支援しよう!」
二人は私を守る護衛として、付き従ってくれている。それ以上は我儘は言えない。
だけど、神聖魔法は、手を触れているほどに威力が高くなる。
ガルド様は深手を負って倒れたまま。バッサム長老も膝をついている。
「……皆、下がれ。再配置を……!」
カイ様の声が震えていた。
「ノーラ様、退避を!」
「アカネさん止まってください。ここで動いたら、皆さんが……!」
必死に叫ぶけれど、足が震える。心が、折れそうです。
(お願い……エルド様……)
その瞬間。骨の魔物が咆哮し、黒い瘴気をまとった爪をこちらへと振り上げる。
こちらに来る。
「俺が!」
ガルド様が治っていない傷で、立ち塞がって槍を振るった。
だけど、届かない。
私の命は、ここで尽きる。
そう思った、次の瞬間だった。
空気が、切り裂かれた。
「鬼輪断!!」
地響きと共に、大剣が天から落ちた。
それは、漆黒の風。
それは、鋼の意志。
エルド様だった。
紅い魔力を帯びた大剣を振るい、骨の腕を一撃で叩き落とした。
鋭い衝撃が奔り、巨体が吹き飛ぶ。
「ッ……エルド、様……!」
私は、その背中を見ていた。
どれほどその姿が、頼もしく感じたかわからない。
私の前にエルド様が無事に帰ってきてくれた。
「遅くなったな。ノーラ」
「いえ、おかえりなさいませ」
「ちょっと片付けをしてくるから、大人しく待っていてくれよ」
「はい!」
もう一体の魔物が咆哮を上げて、エルド様に向かってくる。
「ヨンクの者たちよ! 戦鬼のエルドが帰ったぞ!!! こんなところで止まってていいのか?」
その方向はヨンク全体に響くのではないかと思うほどに大きく反響して、私の体から震えが止まっていました。
絶対的な安心感。信じていいと思える強さ。
魔物がエルド様に飛びかかる。
けれど、それよりも早く。
「鬼刃連衝!」
大剣の連撃が、赤い軌跡を残して、魔物の胴体を斬り裂いていく。
あれほど、苦戦していた魔物の群れが、巨大な魔物が悉くエルド様の前に沈んでいく。
「アルヴィ! エルド!! 負傷者を立て直せ」
「やれやれ、人使いが粗い」
「承知しました!」
エルド様の両脇を、二つの影が走り抜けて、魔物を葬り去っていく。
たった三人。だけど、ヨンクの国主が戻っただけで、ヨンクは息を吹き返した。
煙を纏った巨体が、苦鳴をあげてのけぞる。
エルド様はまるで踊るように剣を振るい、霧を切り裂きながら前へ進む。
「皆、聞け!」
その声が、戦場全体に響いた。
「ここには、俺がいる!」
兵たちの目に、再び光が宿る。
その瞬間、戦況が変わった。
私の胸に、熱い鼓動がよみがえる。
エルド様は、必ず帰ってくる。
そして、この場所を私たちを、守ってくださる。
「ガルド様、すぐに治します」
私も負けてはいられない。自分にできることをするんだ。
エルド様の妻なのだから。
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