上 下
33 / 42

side生徒会 ー 3

しおりを挟む
【最上照美】


3月から生徒会活動は、かなり忙しい日々だった。
やっと一段落つけるようになり、会長が休息を取れるようになった。


「ごめんなさいね。今日は家の方で用事があるの」
「私もお嬢様に付き従いますので、先に失礼します」


会長と副会長が、申し訳なさそうな顔で告げてくれる。


「全然大丈夫ですよ。今日はカホちゃんも体調不良で休んでいるので、お留守番しながら出来ることをしておきます」


「そうだ。もしかしたら【黒瀬夜】君が部活申請に来るかもしれないから、申請を通してあげて頂戴ね」


数日前から、会長は黒瀬君の名を話題に出すようになった。
それまでは疲れた顔をされていたのに、どこか楽しそうに仕事をするようになった。
黒瀬君は、部活動を作ろうと動いているそうだ。


男性だけの部活動は青葉高校ではあまり好まれていない。
どうせ、世の男性は横暴な人が多く我儘だ。
学校に来てくれるのは嬉しいが、子供みたいなことを言って困らせるのは大変だ。
それなのに会長は黒瀬君の部活は絶対に通すと言ってきかなかった。


「どうして黒瀬君の部活は受理するんですか?」


何かを思い出すように視線を天井に向けた会長は、見たこともない妖艶な笑顔で【秘密よ】とだけ言って帰っていった。


「なんだったんでしょうか?」


会長の態度は気になるが、今日来るとは限らない。
そう思っていたのに、黒瀬君は部活の申請書類を持って現れた。


「受理されました。

予算などが必要でしたら、後日必要費用を書きだして提出してくださいね」


事務的な対応を心がけて終わりにする。


「部活申請書類って、職員室に出すんじゃないんですね」


私が終わらせようとしているのに、黒瀬君から質問を受けてしまいました。
質問されたなら、応えなければならない。


「青葉高校では、生徒会が部活動関係の予算を取り仕切っていますので。

生徒会顧問に確認は取りますが、採決は委ねられているんですよ。

スポーツ科などは推薦枠を作っているので学校側が管理しています。

部活動の枠を出てしまうので。部活動の枠に納まる部は生徒会の役目です」



真面目に答えてしまう自分が面倒だとは思ってしまう。

これも仕事の一つなんだから仕方ない。

面倒なことを押し付けられたと嫌味の一つも言いたくなる。


「それにしても、会長から黒瀬君が部活動申請しに来たら受理してあげてほしいと聞いていてよかったです。

そうじゃなかったら男性が部活動申請を持ってくるとは思わないので、驚くところでしたよ」


ただ、やっぱり気になることがあるので、私は自分から質問をしてみることにした。


「あの……会長からどうやって許可を取ったんですか?


実を言うと、男性の部活動はあまり歓迎されていないんです」



もっと言い方があったのかもしれない。
でも、男性との接し方など……私はクラスメイトの男子とも話したことがない。

男性に興味はあるけれど、男性をわからない。
我儘で子供で、きっと直接言った方が伝わるだろう。



「えっと、会長からは聞いてないんですか?」


聞きましたとも。


「聞いてはみたんですが、【秘密よ】と言われてしまって」


私は会長の態度を思い出しながら、会長の声真似をして言われたことを繰り返した。


「じゃあ、秘密です。


でも、代わりに最上先輩を応援させていただけませんか?」



教えてもらえませんでした。
彼の発言を聞いて、私は部活動申請用紙を見る。



【部活動名:男子応援団。 部活内容:女性の応援】と記されていた。



「私を応援ですか?」



「はい。応援です」



男子に何が出来るというのでしょうか?
私も女子なので男性に興味はありますが……



「ええ。よくわかりませんが、応援団がどのようなことをするのか興味があるのでお願いします」



「それでは応援しますので、目を閉じていただけますか?」



「目を閉じるのですか?う~ん、わかりました」


いったい何をするつもりなんでしょうね?
応援というからには声に出して、【ガンバレ】とでも言われるのでしょうか?



「ちゃんと閉じておいてくださいね」



「えっ!」


いきなり彼の声が耳元で聞こえ目を開けそうになる。
でも、彼の吐息が、息づかいが耳から感じられて、開けてはいけないと思った。



その瞬間、私の耳を通して背中に電気が走ったような衝撃が走り抜ける。


「いきますね。




………



……………




部活の書類、受理してくれてありがとうございます








親切に話してくれてありがとうございます







丁寧な対応してくれてありがとうございます





…………モガミ先輩…………








ツインテール可愛いですよ





仕事してる姿が綺麗です







気配りが出来る人って素敵ですよね






…………テルミ先輩………




いつも頑張ってくれて、ありがとう





…………テルミ………





お疲れ様」




低く落ち着く声が、耳から脳へ入り、胸を締め付け全身を駆け巡る。


一言発せられる度に脳が痺れ、身体が反応する。


なっ名を呼ばれました!!!呼び捨て!!!


くっはっ!ダメ!耳で逝く。


「最上先輩、もう目を開けていただいて大丈夫ですよ」


遠くから彼の声が聞こえる。
私を天国へ誘うメシヤ様。



「………」



私は名を呼ばれても動くことができない。



今動けば、私は溶けていなくなる。



「先輩。最上先輩……えっと、テルミ先輩?」



「はっ!わっ私は、あっうぅぅぅぅぅっぅうっぅ!!!」


彼が私の名を呼んでいる。


夢の世界から呼び戻され、意識を取り戻した。


ただ耳に残る……低くエロティシズムな響きが頭の中で木霊す。


こんな衝撃をどうすれば耐えられるというのか?


ここは天国?私死んだ?


何度も頭を振って、木霊す声を振り払おうとするが振り切れない。


「はっ!くっ黒瀬君は?あっ」


やっと彼の存在を思い出した。


焦点が定まった私が見たのは、彼の視線。



「すっすみません。取り乱してしまいました。


あっあの。


許可が下りた理由は十分にわかりましたので、今日はお帰り頂いて結構です」



急いで彼を生徒会室から追い出して、私は扉を背に座り込んだ。


スカートの中はぐっしょりと濡れてしまって、誰にも見せることが出来ない状態になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...