ゲンパロミア

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第二章

第二章 モズニエ-20

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どうやってドナーの所まで移動する気なのかと問えば、GaBはかはりのスマートフォンを間借りさせて欲しいと頼んできた。

「別に良いけど。」

容量が重そうだと眉を顰めると、あくまで外付けでいいと言って、パソコンの本体に付いていた小道具を充電口に付ければ良いのだと加えて答えが返ってきた。

言われた通り正直にぶちっと抜いてしまう、忙しない画面が真っ暗になり、賑やかだった部屋には一転静けさが満ちた。

モニターは真っ暗だ。

なぜだか急激に悪いことをした様な気分になる、抜けと言われたから抜いたのだけれど。

「これ……どうやるの?」

手の中のUSBに似ているそれはぱっと見はスマートフォンの下に刺さらない形の様に見えたが、十特ナイフの様にあらゆる場所から機種を問わないコネクタを出せる形状だった。

いわゆる、男の子が好みそうな多機能だけどスマートなデザイン。

消しゴム程度のサイズ感で金属感があり、側面にはGaBの画面に走っていた青と同じ色が光っている。

特撮の変身アイテムに見えなくもないが、かはりはその辺りのことはよく知らない、そもそも電化製品にあまり知識もない。

手元のこの小さな物体の中にGaBが居る、という解釈をするべきなのだろう。

ダイヤルの様なものを回転させると、いつも充電に使う様な少し太めな接続口が顔を出した。

ポケットから出した手持ちに接続すると、電源ボタンを押すより早くディスプレイに『GaB』の文字が現れて一瞬で消えた。

どうやらこの中にいるようだ、普段見ているものとは違う画面の中。

暗い液晶に浮かぶ記号は見慣れないもので、意味も分からない文字列が並んで顔を形作っている。

いつもの鈍足な通信状態が見違えるぐらい、スマートな近未来感がある。

「接続不良でも起こしたらどうする気っすか!」

「ごめん、つい。抜けって言ったから抜いたんだけど。」

スマホの持ち主であるかはりが素直な感想を投げかければ、GaBはその小さな平たい四角に見合わぬ青年的な大声で突然抜かないでと抗議してきた。

「キミはパソコンを電源長押しでぶっちぎるタイプなんすか?次は勘弁してくださいよ、まじビビるんで。」

なんとなく謝ってみたものの、正直、何がいけなかったのかはよく分かっていない。

「いや、まあいいっすけど。データ消える訳じゃないし。機械差別はそこそこに、お願いしますよ。水没もエヌジーで。」

機械にも好き嫌いがあるみたいだ、それにしたって妙に生々しい。

でも嫌な事は言ってくれた方が助かる。

「次しなきゃいいよ、家着くまでは黙っててくださいね。」

自分はザコだからまともに相手にされたらひとたまりもないと、GaBは画面の中で目に当たるパーツを糸のように細めた。

本当にスマホに入っているらしい、声は聞こえるしよく喋る、液晶越しに見える表情もくっきりと鮮やかに見える。

端末に生き物みたいな何かが入っているなんて不思議を通り越して不気味ですらあったけれど、こうして見ると案外悪くないかもしれない。

廊下を通って教室に帰り、鞄の中の重みを確認して外へ出る。

今日は朝からずっと晴れている。

GaBとドナーをある意味所持して帰宅路を行く。

漠然と重大だと、不適切にウキウキした。

家に帰ると、母が心配そうにこちらを見やった。

特別帰宅が遅くなったわけでもない、むしろ沢山お喋りや寄り道をする時に比べれば早いぐらいだ。

昨晩の夜の散歩未遂がバレたのかもしれないとヒヤリとしたが、真意は違った。

いつもの心配性の延長線だった、そして市内であまり治安のよろしくない出来事があったのだと話していた、全国ニュースになる程ではないが廃墟荒らしというのは確かにまあちょっと怖いかもしれない。

特に何も無いのに、大丈夫?と口癖の様に言う母だ。

父と母に大事にされている、そしてそれは過保護ではなく至極当然で真っ当な心配だとかはりは知っていた。

曖昧にありがとと答えると、なにごとも無理をしては駄目よとだけ言って夕飯の準備に戻っていった。

手を洗って部屋に戻り、教科書やノートを詰め込んだ通学カバンを机の横に掛ける。

エナメルカバンのチャックを開けて、ドナーに声をかけた。

「今日もおつかれ。コバからは特に連絡ないよ。」

制服のままベッドに横になって天井を眺める、何も考えずにスカートのポッケからスマートフォンを取り出すと、GaBの青い画面が表示されてすぐに消える。

何も映っていない真っ暗な画面に自分の顔だけが映る、しばらくそうしていると部屋の外から自分を呼ぶ声がする。

返事をすると、母は階下から先お風呂入っちゃってと言った。

立ち上がって部屋を出る、廊下を歩いて今更になって考える、スマートフォンをあの部屋に置きっぱなしでいいのだろうか。

風呂場に入り湯船に浸かって身体を温めながら、自分以外のことばかり考えていた。

なんとなく気になってすぐに部屋に戻ろうとすれば、髪はちゃんと乾かしてと注意され渋々ドライヤーをしゃかしゃかとかけた。

毛先を指で遊ばせながら部屋に戻ると、勉強机にそれが見当たらない。

部屋の中を見回す、小物入れの上に置いてあったはずが無い。

スマートフォンがない、今はそれには別の意味もある。

慌てると、ベッドの上でスマートフォンがバイブレーションと共に振動していた。

GaBが画面の中から視線だけでこちらを見ている、自分はここだと言いたいのだろうか。

「こんなとこに置いたかな、座っちゃうとこだよ。」

ちょっと嫌味っぽく口に出した、部屋の端で本を読んでいるドナーにも聞こえるようにだ。

別に意地悪をしたい訳ではない、先生は真面目だ、だからこそ没頭するとたまに返事が返ってこないぐらい物事に集中する。

読んでいる本は難しすぎて、かはりにはその集中の隙間に割り込んで紙面を覗いても、見えるのは話題にもできない単語の羅列だった。

今もまた何やら難しい顔をして本を読みふけっていた、分厚いハードカバーを抱えている。

かはりが読み切るのにはどのくらいかかるのだろう、むしろ安眠を誘いかねない。

寝ている場合ではない、それに勉強より優先すべきことが今日はある。

ベッドの上に置かれたまま震えるスマートフォンを手に取った。

どう切り出そう、それともこのヘンテコが勝手に朗々と話すだろうか、新しい友達のノリで紹介すればまあ変な事にはならない気もする。

異文化交流は自己紹介からだ。

「先生、あのね。今日は話すことがあるよ、新しく学校であった子の事なんだけど。」

ドナーは読んでいた本を閉じて、机の上に置いた。

『そうだね。』

落ち着いた声でそう言うと、ゆっくりとこちらに視線を向けた。

少し緊張してしまう、これは真面目な話なのだから当然だ。

「紹介したくてね、その子が先生と話したいって言ったから。」

『友達かな?』

「う、うん。」

『名前はなんて。』

「がぶっていうんだって。」

かはりが早口にまくしたてると、GaBは画面の中で小さく頷いたように見えた。

『そうかい、よかったじゃないか。どんな人だい?』

一度目を伏せて、再び瞼を開くと今度は掌の中の液晶の中に視線がかち合う。

「……すごくいい子だと思う。多分。」

言葉に詰まる、自分の語彙力の問題なのか単純に表現が難しいのか、はたまたその両方なのかも。

だが少なくとも、GaBはその答えに不満を感じている様子ではなかった。

手の中の端末を両手で持ち直す、小さな液晶に映る青い光もろともがこちらを総じて真っ直ぐに見つめている気がした。

「えっと、えーあいなんだけどね。」

『へぇ、そうなんだ。』

「驚かないんだね?」

あまりに淡々としているものだから拍子抜けしてしまった、もっと驚くかと思ったのに。

『ああうん。驚いたよ、本当に驚いているんだ。』

ゆっくり頷いて答えると、ドナーは少しだけ小さな体の姿勢を正した。

なにかもう全部知っているのか、知らないふりをしているのか。

どこか言い訳めいた言い方をする先生に、そっか、としかかはりは言えない。

それでも一つだけ確認しておかなければならないことがあった。

先生以外の、人じゃない友達ができてもダメじゃないよね?

『それは。』

スマートフォンを横にして、手の中からドナーの前に突き出した。

液晶の中の青がゆらりと瞬いた。

「やあ!オレはGaB!よろしく!」

「うわ!」

思わず取り落としそうになったがなんとか堪えられた、スマホを割るわけにはいかない、危ないところだった。

「……えへ、えへへ。これ、この子。がぶくん。」

先生の表情は分からない、なぜなら顔には全面包帯が巻かれていて、何も見えやしないから。
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