ゲンパロミア

人都トト

文字の大きさ
上 下
28 / 41
第二章

第二章 モズニエ-17

しおりを挟む
ドナーが自分から話す事は、勉強であったり何かうっかり悪いことをしてしまった時の注意だったりで、かはりが話し過ぎるのもあったが滅多に無駄な話をする事はなかった。

多くの事を話さなくても、その一言ずつの言葉選びはどれも丁寧なのが分かる。

頼れるみんなのヒーローはそういうものなのかもしれないが、それだけはどうにも唯一ぐらいな不満だった。

もう少し、知識とか漢字よりも先生自身の事を教えてくれてもいいんじゃないかと思う。

だからかはりは勉強にかこつけてでもドナーの話に耳を傾けたかったし、もっと仲良くなりたくて仕方がなかった。

先生の事を知りたかった。

「だからね、コバのこともそうだしさ。あの道のこともそうだし。それっていつの話?」

『…困らせてしまったね。』

表情は分からない、まだカバンの中にいる。

少し寂しそうな声に聞こえた、その声の雰囲気をピッタリと表せる言葉はかはりの辞書の中にはどこにも無かった。

「先生、別に困ってないよ。」

『この事については後でちゃんと対応する。コバさんに伝えてくれるかな、今晩も向かうって。』

煙に巻かれている、大人は優しく誤魔化す時そう言う、病院で飽きるほど聞いたもやもやとしたぼかしだ。

わかった、まあいいや、よかったと言える気分にはならない。

自分はそんなに頼りないだろうか。

「……ねえ、コバじゃなくてさ。わたしじゃだめなの?」

『コバさん、じゃなくて?』

「そう、わたしダメかもだけど。多分コバよりたくさん走れたりとか、出来ることもあるよ。だからさ。」

かはりは子供だ、ドナーは年齢は知らないけど子供じゃないなら大人だろう、コバは大学生で同じ学生だけど大人だ。

コバよりメンタルは強いかもしれない、人と話すことや打ち解けることも人よりおそらく得意、あとは根拠が無くても手放さない自信だ。

『ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ。優しいね。』

「ううん、そうじゃなくて。いや、そうかもなんだけど……。」

違う、そうじゃないんだ、今欲しい言葉じゃない。

どうしてはぐらかすんだろう、なんで教えてくれないんだろう。

自分が他の人より出来ないことが多いのは分かってる、それでも困ったことになったなら手伝いたいと思うのはそんないけないことなんだろうか。

『大人には大人の問題があるんだ、それはちょっと説明しきれない。まだ教えられるほど全てを分かってないんだ。一通りわかったら話すね。』

先生にすら分からない事を自分がわかるはずもない事は分かる、わからないのがわかる。

応用問題だけ奇跡的に解けるとか言う事はなくて、多分すぐに眠くなるけどその事実がちょっとイラっともする。

「そっか。わかった。返信返しとくね。」

『ありがとう。あまりこちらのことは気にしなくていいから、今日の学校の話でもしようか。』

なによりも気になるよ、と言いかけて飲み込んだ。

それがなんなのかはわからないけど、それを聞きだすには多分自分がまだまだ子供なのだろう。

高校一年生は大人ではない、フィクションなら特別な力を持つカッコいいのがこれぐらいの年頃だったり、働いている友だちもいる、それでもどうしようなく子供だった。

子供に出来ることなんて、わがままを言うか学ぶことぐらいなものだ。

嫌いだから教えてくれないのかと聞くこともできるけど、そんなことをしたら好きだと言われる自信があって、それでも教えてくれないだろうとも思った。

好きというのは難しい、嫌いの方がよっぽど楽なのに、好きだから嫌われたくないと思ってしまう。

話したくないことを無理やり聞き出そうとするのは良くない事だというのも気持ちとは別に分かっているので、かはりは何も言えなくなる。

悔しい、足りない、だけどどうしようもない。

大人と子供の差を埋められない。

かはりは先生とコバの間には、スマホ以外で入れない。

「そうだね、今日は……。」

結局モヤモヤしたまま、家に着いた。

カバンの中のスマホを手に取った。

通知にたいしたものはない、手遊びにインスタを揺らしたけど特別気になることもなかった。

コバに返信を返す、ドナーはスマートフォンをうまく扱えないから文字打ちは自分がする。

先生に言われたままの言葉だ、そこにわたしはいない。

『今晩も』と打ち込んだ、隠す気がない、流石に簡単な話でドナーは夜に出歩いて、コバに会うつもりだ。

昼間にも会えるのにどうして夜に行くのか、夜は暗くて怖いのに、昼間に行けばかはりはドナーを隠してあげられるのに。

何もできないままなのは嫌だった。

学生としての一日が終わる、そして夜はやってくる。

夜10時ぐらい、いつもの就寝時刻。

引き止めることはできない、そこに約束がある事をかはりは知っていた。

見せかけだけでもベッドに潜ると、布団は柔らかいのに、風邪でもないのになんだかとても寒い気がした。

天井を見上げる、安心できる部屋が、広くなって悲しくなる。

もう部屋に先生がいない、自分一人だ。

おやすみの短いやりとりで先生はまた行ってしまった、夜の街へ、自分の知らない世界に。

自分だけがおいてけぼりだ。

目を瞑る、眠気はあるけれど頭がムダに冴えている。

「わかんないよ。」

小声で呟くように言ってみた、当然返事は無い。

時計の針がカチコチと音を立てて進む、もう何分経ったかわからない。

眠れない。

ベッドから降りて、カーテンの隙間から外を見る。

暗い夜の中、街灯に照らされた車通りの少ない太い道路が見えるだけだった。

どうしても行きたいと思った。

本当に行ったところで何がわかるかもわからないけど、少なくとも気は晴れるかもしれない。

玄関に向かい靴を履いた、ドアノブを握ってみる。

冷たい金属の感触だけが手に伝わる。

捻ってみる、鍵がかかっている。

「かはり?」

「…パパ。」

振り向くと父がいた。

「どうしたの?」

いつも通りひょろりとくたびれた部屋着の姿で、しかししっかりとこちらに隈の多い瞳を合わせた。

口調は優しいが、目が全て語っていた。

「トイレなら、そっちじゃないよ。ねぼけちゃった?」

頭がパニックになった、ドアノブを手放して靴を蹴って脱いで、部屋に駆け戻った。

父は心配性で過保護なところがある、こんな夜中に一人で外に出ようとするところを見られたら。

かはりにとって父の存在は大きく、叱られるのは嫌だし父の悲しむ顔は見たくない、それにきっとこの行動の意味だって理解してくれないだろうと思う。

ベッドに戻り布団を頭まで被った。

夜に出歩いたことなんてない。

バクバク鳴っている、止まらない、心臓は強い方じゃない。

布団の中で耳を塞いで目を閉じた、ちょっと泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

世にも異様な物語

板倉恭司
大衆娯楽
 娯楽性に極振りした短編集です。コメディからホラーまで、内容はいろいろです。グロい内容のものもありますので、注意してください。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。 続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...