忘れられた姫と猫皇子

kotori

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探し物

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 アラベラ先生!
 
 最後に会ってからどれくらい経つのだろう。
 急に現れた先生を見ていたら、フェリの頭に、あの頃の記憶がつるつると引っ張られるように浮かんできた。
 
 先生は音楽を教えてくれた……。
 音楽の時間はとても楽しかった。
 フェリは歌うことも、ピアノを弾くことも好きだった。そして、先生のピアノを聞くのも好きだった。
 それから、ダンスの時間も楽しかった。本を読んだり字を書いたりする時間もあった。
 でも、急にダンスの先生も国語の先生も、誰も来なくなり……アラベラ先生だけが最後にやって来た。

 その時先生が言ったのだ。

 
 ……フェリシア様、お父様がくださった物をどこか秘密の場所に隠しましょう。
 
 なんだか分からないけど、秘密の場所、という言葉にわくわくして、先生が選んだ物をしまった……気がする。

 その事を言うと、ランディはそうか、と言った。

 そしてぽん、とフェリの膝の上に飛び乗った。

 今日のランディはいったいどうしたのだろう。
 フェリは不思議に思った。
 笑い声を上げるし。
 それに……。
 いつもはフェリが抱き上げてもすぐに降りてしまうのに。
 一緒に歩いていても、あまり近くには来ないのに、さっきも……。

 ランディは膝の上からじっとフェリの顔を見ると今度はぴょんとフェリの肩に飛び乗った。
 フェリは緊張して動けなくなった。
 ランディのふわふわの毛がフェリの顔にあたって気持ちいい。でも近すぎて、そしてランディが落ちるんじゃないかと気になって、身体が動かない。

「フェリシア」
 すぐ耳元でランディの声がする。

「どうして動かないの?」
 だ、だって……。

「あ、あの、ランディ?」
「なに?」

「どうして肩に……?」
「重い?」
「ううん、ううん、全然」
 ほんとに重いわけではなかった。
 ただ、初めてのことに驚いただけで……。
 それに、今日のランディはたくさん話すので、フェリはそれにも驚いていた。

「と、とにかく、人間に戻るのを早めてくれる石って言うのが、宝石のことだとしたら、その時隠した中にあるかもしれない、と……思ったの」
「そうか」
 ランディはそれほど興味無さそうに答えた。

「わ、私は絶対、絶対にランディを人の姿に戻してみせるから!」
 そう、必ずランディを元の姿に……。
 フェリは固く決意する。
 ただ、とうのランディは「そうか」としか言わないけど。
 なんだか上の空のようだ。

 でも、でも。
「えっとね、秘密の場所ってね、確かこの辺り……」
 フェリはランディを肩に乗せたままベッドに乗ると、頭の方にある壁を探った。
 いつの間にか全く忘れていた。この場所は小さい頃にいた人が教えてくれたのだった。いつもフェリの面倒を見てくれた優しい人だった。
 
 小さい花模様が格子に並んでいる壁紙の、鳩の絵があるところ……だったかな?
 するとフェリの周りを飛び回っていたアビが言った。
「フェリ、違うその下! 鳩の下だよ」
「え、あ……、そうか」
「私はフェリとずっと一緒だったんだから。ちゃんと見てたよ」
「そうか、……そうだね」
 フェリはにっこり笑って、その場所をぐっと押した。続いて今度はリボンの絵のところを押す。

 すると……。

 カタン、と音がして壁の一部が少し浮き上がった。そこは小さな引き出しになっているのだ。

 フェリはそれをするすると引き出した。
 中にはフェリが先生に言われてしまっておいた物がいくつか入っていた。

 大理石で出来た瞳がルビーの小さなうさぎ。そして瞳がサファイアの小さな猫。

「わあ、これランディに似てる!」
 フェリは嬉しくて声を上げた。何となく覚えている。懐かしいな。

 それから子供用の髪飾り、細い金鎖、小さなブローチがいくつか。花束の形、ちょうちょの形……、これもみんなエメラルドやルビーが入っている。
 ランディも顔を近づけて鼻をすんすんした。

「この中のどれか、ランディを元に戻すのを助けてくれるかなあ」
 そう言ってフェリは、一つ一つランディに当ててみた。
 肩からおりたランディの額に押し当ててみたり、背中に乗せてみたり、いろいろ試したがどれも取り立てて何も変わらない。

「これじゃないのかなあ」
 フェリが呟くとすぐ後ろから
「あー、これは……違うな」
 と声が返ってきた。
 グリッグが戻ったのだった。
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