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第三章 手紙で揺れるストローク
第十三話 柊一君からの手紙
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柊一君はいつだってウチに元気を与えてくれる人だ。泣き虫だった小学生の頃のウチが頑張れたのも、今日までやってこれたのも、彼の励ましがあったからこそだ。
どんなに辛いことや苦しいことがあっても、遠い空の向こう側で柊一君も頑張っているんだって思うと、自然とやる気が出たんだ。
柊一君は今日も元気にしていますか?
そっちは晴れていますか? それとも曇っていますか?
たまに泣いたり悔しい思いをすることはあるけれど、ウチは青空の下で元気にしています。
五年も会っていない柊一君の面影を高校生になった今も追いかけています。おかしいよね。毎日学校で会話する男の子じゃなくて、遠くにいる貴方を想い続けているなんて。
これでもね、中学生の頃はちょっとだけモテたんだよ。下駄箱の中にラブレターが入ってたり、校舎裏に呼び出されて告白されたりしたことがあるんだ。男の子たちが言うには、ウチは裏表がなくて明るいからとっても可愛いんだって。
誰かに好意を寄せられるのが嫌だったわけじゃないけれど、心はあまりときめかなかったな。ウチが振ることで悲しい思いをさせることになるのは、わかりきっていたから。
恋の苦さを知ったとしても、ウチは甘さを信じていたかった。朝起きた瞬間、授業中、泳いでいる時でさえ、柊一君のことを考えていたい。ほかのことなんて頭から排除してしまいたかった。
そんなことばかり考えているからかな。璃子に勝って優勝する自分の姿を夢でたまに見るんだ。最強になったウチは、溢れんばかりの自信をこさえて柊一君に告白するの。理想が具現化したその世界では、どんなことだってうまくいく。彼と手を繋ぐことだってできるし、水中で一緒にダンスすることだってできる。デートだって、キスだって、なんだって。
叶えたいな。夢じゃなくて現実にしたいな。叶ったらきっと泣いちゃうだろうな。ふふ、ウチって煩悩だらけだね。でもね、ウチと約束を交わした柊一君が悪いんだよ?
すごい選手になるってなにさ、待っててってなにさ。今すぐにでもウチは柊一君と会いたいのに、会えないじゃんか。
あの約束があったから、ウチと柊一君は繋がっていられたんだと思うけど、約束があるせいで、むず痒い気持ちにさせられちゃうのも事実。柊一君に会いたい、柊一君に触れたいって思うのに、欲望に従って行動することを約束が許してくれないんだ。
璃子にウチらの関係性を否定されてしまったからか、余計にそんなことを思ってしまうんだ。そんなウチの気持ちを代弁するみたいに、また柊一君から手紙が届いた。寮母さんから受け取った封筒を胸に抱えながら、エレベーターに乗りこむ。
「ふん、ふふ、ふーん」
エレベーターの中には誰もいないので、ついつい鼻歌を口ずさんでしまう。三階の自室に辿り着くと、白色の簡素な封筒を一目散に開いていた。
「あれっ?」
今回の手紙は、手書きじゃなくパソコンで綴られていた。明朝体で書かれた文字を見ながら、柊一君は忙しいのかなとか考える。横書きで書かれたたった一枚の手紙を一文字たりとも逃さないように目に焼き付けていく。
ウチが近畿大会への出場が決まったことを祝う内容から始まり、途中からは関東大会に対する熱い気持ちが書かれていて、柊一君らしさを感じる文章に微笑みながら読むことができた。けど、最後に書かれた文章を読んだ時、笑みが消えた。
『俺、近畿大会に出る紗希ちゃんを見に行こうと思っているんだ。その日、試合が終わったら、少しお話しない?』
約束を忘れてしまったかのような言葉が、そこに書かれていた。
どんなに辛いことや苦しいことがあっても、遠い空の向こう側で柊一君も頑張っているんだって思うと、自然とやる気が出たんだ。
柊一君は今日も元気にしていますか?
そっちは晴れていますか? それとも曇っていますか?
たまに泣いたり悔しい思いをすることはあるけれど、ウチは青空の下で元気にしています。
五年も会っていない柊一君の面影を高校生になった今も追いかけています。おかしいよね。毎日学校で会話する男の子じゃなくて、遠くにいる貴方を想い続けているなんて。
これでもね、中学生の頃はちょっとだけモテたんだよ。下駄箱の中にラブレターが入ってたり、校舎裏に呼び出されて告白されたりしたことがあるんだ。男の子たちが言うには、ウチは裏表がなくて明るいからとっても可愛いんだって。
誰かに好意を寄せられるのが嫌だったわけじゃないけれど、心はあまりときめかなかったな。ウチが振ることで悲しい思いをさせることになるのは、わかりきっていたから。
恋の苦さを知ったとしても、ウチは甘さを信じていたかった。朝起きた瞬間、授業中、泳いでいる時でさえ、柊一君のことを考えていたい。ほかのことなんて頭から排除してしまいたかった。
そんなことばかり考えているからかな。璃子に勝って優勝する自分の姿を夢でたまに見るんだ。最強になったウチは、溢れんばかりの自信をこさえて柊一君に告白するの。理想が具現化したその世界では、どんなことだってうまくいく。彼と手を繋ぐことだってできるし、水中で一緒にダンスすることだってできる。デートだって、キスだって、なんだって。
叶えたいな。夢じゃなくて現実にしたいな。叶ったらきっと泣いちゃうだろうな。ふふ、ウチって煩悩だらけだね。でもね、ウチと約束を交わした柊一君が悪いんだよ?
すごい選手になるってなにさ、待っててってなにさ。今すぐにでもウチは柊一君と会いたいのに、会えないじゃんか。
あの約束があったから、ウチと柊一君は繋がっていられたんだと思うけど、約束があるせいで、むず痒い気持ちにさせられちゃうのも事実。柊一君に会いたい、柊一君に触れたいって思うのに、欲望に従って行動することを約束が許してくれないんだ。
璃子にウチらの関係性を否定されてしまったからか、余計にそんなことを思ってしまうんだ。そんなウチの気持ちを代弁するみたいに、また柊一君から手紙が届いた。寮母さんから受け取った封筒を胸に抱えながら、エレベーターに乗りこむ。
「ふん、ふふ、ふーん」
エレベーターの中には誰もいないので、ついつい鼻歌を口ずさんでしまう。三階の自室に辿り着くと、白色の簡素な封筒を一目散に開いていた。
「あれっ?」
今回の手紙は、手書きじゃなくパソコンで綴られていた。明朝体で書かれた文字を見ながら、柊一君は忙しいのかなとか考える。横書きで書かれたたった一枚の手紙を一文字たりとも逃さないように目に焼き付けていく。
ウチが近畿大会への出場が決まったことを祝う内容から始まり、途中からは関東大会に対する熱い気持ちが書かれていて、柊一君らしさを感じる文章に微笑みながら読むことができた。けど、最後に書かれた文章を読んだ時、笑みが消えた。
『俺、近畿大会に出る紗希ちゃんを見に行こうと思っているんだ。その日、試合が終わったら、少しお話しない?』
約束を忘れてしまったかのような言葉が、そこに書かれていた。
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