上 下
197 / 200
南大陸統一編

第197部分 帰還と不穏な獣人

しおりを挟む
「アイラ、先行してタオグナへ行ってくれないか?」

「了解じゃ。パトラティアの帰還と獣人族連合の要人が来ることを知らせればよいかの?」

「ああ、そうしてくれ」と言い、俺たちはアイラと別れ、馬車で移動する。

 ここまで来るのに二週間くらいかかったから、帰りもそれくらいだろう。
 約二カ月の旅だった。

 それでも予想よりずっと早い。

「私としては獣人族の全てを説得するために各地を回る予定だったから、こんなに早く帰って来ることになると思わなかったわ」

 パトラティアはあれだけ激烈に見送られた手前、少しだけ気まずそうだった。

「まぁ、みんな喜んでくれんじゃないのか」


 タオグナへ帰路、俺たちはライアンさんやライリーさん、ラウルさんたちとは必要最低限の会話しかしなかった。
 
「まぁ、いきなり仲良くはなれないよな」

 少し微妙な空気の中、俺たちはタオグナへ帰って来た。

 俺の言葉は当たっていたようで、街の中に入った瞬間にパトラティアの周囲に人の輪が出来る。
 パトラティアは民衆に返事をしながら、王宮までの道を進んでいく。

「ここがタオグナか……」

 ライアンさんは圧倒されていた。
 タオグナには高い建物が多く存在する。
 それだけの建築技術があるのだ。

 それに多種多様な種族が共に暮らしているのも驚く要因なのだろう。

「俺たち獣人は連合を組んでいたが、各々が別の集落に住んでいた。文化も価値観も俺たちより先に進んでいるのかもしれんな」

 ライアンさんは武人っぽい見た目に反し、柔軟な思考を持っているようだ。
 こういった人が獣人連合の代表だったことはありがたい。
 この後の交渉もうまく進む気がする。

 パトラティアが王宮正面まで来ると門が開いた。

「まったく…………意外に早く帰って来たな。お帰り」

 スタンレンさんがそう言って、出迎えてくれた。
 パトラティアに対して、かなり砕けた話し方をする。
 こちらが本来の話し方なのだろう。

 スタンレンさんの後ろには先に到着していたアイラがいる。

「目的が達成できたから、帰ってきたのよ。アイラさんから事情は聞いているわよね? こちら、王描人族のライアンさんと闘狼人族族のラウルさん」

 パトラティアはスタンレンさんに王描人族と闘狼人族族の代表を紹介する。
 すると、スタンレンさんの表情が引き締まる。

「遠路、遥々、ありがとうございます。私は現国王のスタンレンです」

 スタンレンさんは礼節に則った挨拶をする。

 それに対して、ライアンさんも礼節を持って対応するが、ラウルさんは少し不満そうに挨拶をしていた。

「今夜、宴の席を用意していますのでご堪能下さい」

 それでも表面上は問題なく、顔合わせは終了した。


 夜になり、立食パーティーの形式で宴が始まった。
 スタンレンさんとライアンさんは今後のことを話しているようだった。

「私共が獣人族一部を貶めたり、獣人族連合を併呑したりするつもりはありません。ご安心ください」
 
 スタンレンさんがそんなことを言っているのが聞こえてきた。

 これですんなり話が進むめばいいと思った時、
「恐れながら、国王陛下」
と言いながら、一人の獣人がスタンレンさんへ近づいた。

 見た目は闘狼人族に近いが、比べると細い気がする。

「獣人族連合は元々、他種族が魔王軍に対抗するために結託した勢力です。戦争が終わった後にその形態を維持できるか疑問が残ります。この際、併呑するのが獣人族の為ではないでしょうか?」

 その提案がスタンレンさんの意見を否定していることは明らかだった。
 そんなことを言ったからだろうか。
 俺は進言した獣人の笑顔が胡散臭く見えてしまった。

「つまらないことを言うな。お前は下がっていろ」

 スタンレンさんが突き放すと、獣人は頬をピクリと動かした。
 しかし、次の瞬間には張り付けたような笑顔に戻る。

「そうですか。出過ぎた真似を致しました。私はこれで……」

 その獣人が立ち去る前に、俺へ視線を向けた。
 直感で嫌な感じがした。

「なんであの男がここにいるの?」

 あの獣人が立ち去った後にパトラティアは悪態をつく。

「あれは誰なんだい?」

「賢狼人族の族長、ボルデックよ。私、あいつ嫌いだわ。…………だけど、賢狼族が蛇人族の元へ来たから、いくつかの獣人族が私たちの国へ亡命してきたのは事実なの。無下には出来ないから、それなりの職を用意したのだけれど……」

 パトラティアは相当嫌っているようだった。

「ボルデック、生きていたのか…………」

 見るとライアンさんは明らかに怒っている。

「あいつは元々、獣人族連合の参謀長だった。あいつが裏切ったせいで我々の内情が…………」

 そこまで言ったところでライアンさんは「しまった」という表情をした。

「申し訳ない。この場で話すことではなかった」

 ライアンさんは頭を下げる。

「いえ、私の方こそ、配慮が足りませんでした。ご容赦ください。それにあやつ、懲りずにまた……」

「懲りずに? 叔父様、それはどういうこと?」

「今後、獣人族を統治するなら、その任は同じ獣人族をした方が良い、とあいつは提案しているのだ」

 それを聞いたパトラティアは呆れているようだった。

「元蛇人族の女王で、あいつの亡命を受け入れた私が言うのもあれだけど、馬鹿げているわ。真っ先に裏切って、その後に獣人族の代表になるというの?」

「無論、そんな提案は拒否した。先ほども言ったが、獣人族連合を併呑するつもりはない。今日の宴にも呼んだ覚えはないが、どこからか情報を手に入れてようだな」

 スタンレンさんは強い口調で言う。

「まったく……何か理由があれば、左遷させたかったわ」

 パトラティアの口調から察するに、嫌な奴だが失策をしないようだ。
 狡猾、というべきだろう。


 不快なことはあったが、それでも宴は問題なく終了する。
 特にスタンレンさんとライアンさんの関係は良好で、今後の交渉は問題なさそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...