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南大陸統一編
第197部分 帰還と不穏な獣人
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「アイラ、先行してタオグナへ行ってくれないか?」
「了解じゃ。パトラティアの帰還と獣人族連合の要人が来ることを知らせればよいかの?」
「ああ、そうしてくれ」と言い、俺たちはアイラと別れ、馬車で移動する。
ここまで来るのに二週間くらいかかったから、帰りもそれくらいだろう。
約二カ月の旅だった。
それでも予想よりずっと早い。
「私としては獣人族の全てを説得するために各地を回る予定だったから、こんなに早く帰って来ることになると思わなかったわ」
パトラティアはあれだけ激烈に見送られた手前、少しだけ気まずそうだった。
「まぁ、みんな喜んでくれんじゃないのか」
タオグナへ帰路、俺たちはライアンさんやライリーさん、ラウルさんたちとは必要最低限の会話しかしなかった。
「まぁ、いきなり仲良くはなれないよな」
少し微妙な空気の中、俺たちはタオグナへ帰って来た。
俺の言葉は当たっていたようで、街の中に入った瞬間にパトラティアの周囲に人の輪が出来る。
パトラティアは民衆に返事をしながら、王宮までの道を進んでいく。
「ここがタオグナか……」
ライアンさんは圧倒されていた。
タオグナには高い建物が多く存在する。
それだけの建築技術があるのだ。
それに多種多様な種族が共に暮らしているのも驚く要因なのだろう。
「俺たち獣人は連合を組んでいたが、各々が別の集落に住んでいた。文化も価値観も俺たちより先に進んでいるのかもしれんな」
ライアンさんは武人っぽい見た目に反し、柔軟な思考を持っているようだ。
こういった人が獣人連合の代表だったことはありがたい。
この後の交渉もうまく進む気がする。
パトラティアが王宮正面まで来ると門が開いた。
「まったく…………意外に早く帰って来たな。お帰り」
スタンレンさんがそう言って、出迎えてくれた。
パトラティアに対して、かなり砕けた話し方をする。
こちらが本来の話し方なのだろう。
スタンレンさんの後ろには先に到着していたアイラがいる。
「目的が達成できたから、帰ってきたのよ。アイラさんから事情は聞いているわよね? こちら、王描人族のライアンさんと闘狼人族族のラウルさん」
パトラティアはスタンレンさんに王描人族と闘狼人族族の代表を紹介する。
すると、スタンレンさんの表情が引き締まる。
「遠路、遥々、ありがとうございます。私は現国王のスタンレンです」
スタンレンさんは礼節に則った挨拶をする。
それに対して、ライアンさんも礼節を持って対応するが、ラウルさんは少し不満そうに挨拶をしていた。
「今夜、宴の席を用意していますのでご堪能下さい」
それでも表面上は問題なく、顔合わせは終了した。
夜になり、立食パーティーの形式で宴が始まった。
スタンレンさんとライアンさんは今後のことを話しているようだった。
「私共が獣人族一部を貶めたり、獣人族連合を併呑したりするつもりはありません。ご安心ください」
スタンレンさんがそんなことを言っているのが聞こえてきた。
これですんなり話が進むめばいいと思った時、
「恐れながら、国王陛下」
と言いながら、一人の獣人がスタンレンさんへ近づいた。
見た目は闘狼人族に近いが、比べると細い気がする。
「獣人族連合は元々、他種族が魔王軍に対抗するために結託した勢力です。戦争が終わった後にその形態を維持できるか疑問が残ります。この際、併呑するのが獣人族の為ではないでしょうか?」
その提案がスタンレンさんの意見を否定していることは明らかだった。
そんなことを言ったからだろうか。
俺は進言した獣人の笑顔が胡散臭く見えてしまった。
「つまらないことを言うな。お前は下がっていろ」
スタンレンさんが突き放すと、獣人は頬をピクリと動かした。
しかし、次の瞬間には張り付けたような笑顔に戻る。
「そうですか。出過ぎた真似を致しました。私はこれで……」
その獣人が立ち去る前に、俺へ視線を向けた。
直感で嫌な感じがした。
「なんであの男がここにいるの?」
あの獣人が立ち去った後にパトラティアは悪態をつく。
「あれは誰なんだい?」
「賢狼人族の族長、ボルデックよ。私、あいつ嫌いだわ。…………だけど、賢狼族が蛇人族の元へ来たから、いくつかの獣人族が私たちの国へ亡命してきたのは事実なの。無下には出来ないから、それなりの職を用意したのだけれど……」
パトラティアは相当嫌っているようだった。
「ボルデック、生きていたのか…………」
見るとライアンさんは明らかに怒っている。
「あいつは元々、獣人族連合の参謀長だった。あいつが裏切ったせいで我々の内情が…………」
そこまで言ったところでライアンさんは「しまった」という表情をした。
「申し訳ない。この場で話すことではなかった」
ライアンさんは頭を下げる。
「いえ、私の方こそ、配慮が足りませんでした。ご容赦ください。それにあやつ、懲りずにまた……」
「懲りずに? 叔父様、それはどういうこと?」
「今後、獣人族を統治するなら、その任は同じ獣人族をした方が良い、とあいつは提案しているのだ」
それを聞いたパトラティアは呆れているようだった。
「元蛇人族の女王で、あいつの亡命を受け入れた私が言うのもあれだけど、馬鹿げているわ。真っ先に裏切って、その後に獣人族の代表になるというの?」
「無論、そんな提案は拒否した。先ほども言ったが、獣人族連合を併呑するつもりはない。今日の宴にも呼んだ覚えはないが、どこからか情報を手に入れてようだな」
スタンレンさんは強い口調で言う。
「まったく……何か理由があれば、左遷させたかったわ」
パトラティアの口調から察するに、嫌な奴だが失策をしないようだ。
狡猾、というべきだろう。
不快なことはあったが、それでも宴は問題なく終了する。
特にスタンレンさんとライアンさんの関係は良好で、今後の交渉は問題なさそうだった。
「了解じゃ。パトラティアの帰還と獣人族連合の要人が来ることを知らせればよいかの?」
「ああ、そうしてくれ」と言い、俺たちはアイラと別れ、馬車で移動する。
ここまで来るのに二週間くらいかかったから、帰りもそれくらいだろう。
約二カ月の旅だった。
それでも予想よりずっと早い。
「私としては獣人族の全てを説得するために各地を回る予定だったから、こんなに早く帰って来ることになると思わなかったわ」
パトラティアはあれだけ激烈に見送られた手前、少しだけ気まずそうだった。
「まぁ、みんな喜んでくれんじゃないのか」
タオグナへ帰路、俺たちはライアンさんやライリーさん、ラウルさんたちとは必要最低限の会話しかしなかった。
「まぁ、いきなり仲良くはなれないよな」
少し微妙な空気の中、俺たちはタオグナへ帰って来た。
俺の言葉は当たっていたようで、街の中に入った瞬間にパトラティアの周囲に人の輪が出来る。
パトラティアは民衆に返事をしながら、王宮までの道を進んでいく。
「ここがタオグナか……」
ライアンさんは圧倒されていた。
タオグナには高い建物が多く存在する。
それだけの建築技術があるのだ。
それに多種多様な種族が共に暮らしているのも驚く要因なのだろう。
「俺たち獣人は連合を組んでいたが、各々が別の集落に住んでいた。文化も価値観も俺たちより先に進んでいるのかもしれんな」
ライアンさんは武人っぽい見た目に反し、柔軟な思考を持っているようだ。
こういった人が獣人連合の代表だったことはありがたい。
この後の交渉もうまく進む気がする。
パトラティアが王宮正面まで来ると門が開いた。
「まったく…………意外に早く帰って来たな。お帰り」
スタンレンさんがそう言って、出迎えてくれた。
パトラティアに対して、かなり砕けた話し方をする。
こちらが本来の話し方なのだろう。
スタンレンさんの後ろには先に到着していたアイラがいる。
「目的が達成できたから、帰ってきたのよ。アイラさんから事情は聞いているわよね? こちら、王描人族のライアンさんと闘狼人族族のラウルさん」
パトラティアはスタンレンさんに王描人族と闘狼人族族の代表を紹介する。
すると、スタンレンさんの表情が引き締まる。
「遠路、遥々、ありがとうございます。私は現国王のスタンレンです」
スタンレンさんは礼節に則った挨拶をする。
それに対して、ライアンさんも礼節を持って対応するが、ラウルさんは少し不満そうに挨拶をしていた。
「今夜、宴の席を用意していますのでご堪能下さい」
それでも表面上は問題なく、顔合わせは終了した。
夜になり、立食パーティーの形式で宴が始まった。
スタンレンさんとライアンさんは今後のことを話しているようだった。
「私共が獣人族一部を貶めたり、獣人族連合を併呑したりするつもりはありません。ご安心ください」
スタンレンさんがそんなことを言っているのが聞こえてきた。
これですんなり話が進むめばいいと思った時、
「恐れながら、国王陛下」
と言いながら、一人の獣人がスタンレンさんへ近づいた。
見た目は闘狼人族に近いが、比べると細い気がする。
「獣人族連合は元々、他種族が魔王軍に対抗するために結託した勢力です。戦争が終わった後にその形態を維持できるか疑問が残ります。この際、併呑するのが獣人族の為ではないでしょうか?」
その提案がスタンレンさんの意見を否定していることは明らかだった。
そんなことを言ったからだろうか。
俺は進言した獣人の笑顔が胡散臭く見えてしまった。
「つまらないことを言うな。お前は下がっていろ」
スタンレンさんが突き放すと、獣人は頬をピクリと動かした。
しかし、次の瞬間には張り付けたような笑顔に戻る。
「そうですか。出過ぎた真似を致しました。私はこれで……」
その獣人が立ち去る前に、俺へ視線を向けた。
直感で嫌な感じがした。
「なんであの男がここにいるの?」
あの獣人が立ち去った後にパトラティアは悪態をつく。
「あれは誰なんだい?」
「賢狼人族の族長、ボルデックよ。私、あいつ嫌いだわ。…………だけど、賢狼族が蛇人族の元へ来たから、いくつかの獣人族が私たちの国へ亡命してきたのは事実なの。無下には出来ないから、それなりの職を用意したのだけれど……」
パトラティアは相当嫌っているようだった。
「ボルデック、生きていたのか…………」
見るとライアンさんは明らかに怒っている。
「あいつは元々、獣人族連合の参謀長だった。あいつが裏切ったせいで我々の内情が…………」
そこまで言ったところでライアンさんは「しまった」という表情をした。
「申し訳ない。この場で話すことではなかった」
ライアンさんは頭を下げる。
「いえ、私の方こそ、配慮が足りませんでした。ご容赦ください。それにあやつ、懲りずにまた……」
「懲りずに? 叔父様、それはどういうこと?」
「今後、獣人族を統治するなら、その任は同じ獣人族をした方が良い、とあいつは提案しているのだ」
それを聞いたパトラティアは呆れているようだった。
「元蛇人族の女王で、あいつの亡命を受け入れた私が言うのもあれだけど、馬鹿げているわ。真っ先に裏切って、その後に獣人族の代表になるというの?」
「無論、そんな提案は拒否した。先ほども言ったが、獣人族連合を併呑するつもりはない。今日の宴にも呼んだ覚えはないが、どこからか情報を手に入れてようだな」
スタンレンさんは強い口調で言う。
「まったく……何か理由があれば、左遷させたかったわ」
パトラティアの口調から察するに、嫌な奴だが失策をしないようだ。
狡猾、というべきだろう。
不快なことはあったが、それでも宴は問題なく終了する。
特にスタンレンさんとライアンさんの関係は良好で、今後の交渉は問題なさそうだった。
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