上 下
193 / 200
南大陸統一編

第193部分 予想外の来訪者

しおりを挟む
 一週間で返答があると聞いていたが、現在十日目。
 未だに使者として、敏描族の元へ向かった風兎族の一団は戻ってこない。

「交渉が失敗したのかの?」

 アイラが難しい顔で言う。
 それは分からない。
 でも、だとしたら軍勢がここに向かっているかもしれない。

「アイラ、考えたくないけど最悪の場合のことを考えて、小竜たちを哨戒させておいてくれないか」

 アイラは俺の指示をすぐに実行した。
 
 次の日、こちらへ向かっている集団を発見した、と小竜がアイラへ知らせる。

「軍勢と言うほどの数ではないが、平和的な話し合いにしては数が多いの」

 アイラが言う。

「まだ敵意があると決まったわけじゃない」

「じゃが、相手に戦闘の意思がある時はどうする?」

「その時は……戦う……でも大丈夫かな?」

 俺が申し訳なさそうに言うとリザ、アイラが笑った。

「どうしたんだい?」

「ハヤテ、そんなに申し訳なさそうにしなくていい」

「そうじゃ、殲滅しろ、と言うなら儂は本気で戦うつもりじゃ」

 リザとアイラが言う。

「殲滅は止めて欲しいかな」

 やがて、一団は俺たちが視認できるところまでやって来た。

「あの方は…………」

 ブルーノさんが何かに気付いたようで驚いていた。

 近づいてきた男を俺は見上げた。
 俺が見上げるほど大きいということは恐らく二メートルを超えているだろう。
 
 耳や鬣があり、第一印象はライオンのようだ、と思った。

「あなたが魔王を倒した英雄殿か?」

 その声はとても重かった。
 一瞬で普通の人とは違うと理解する。

 俺はこれに似た威圧感を感じたことがある。
 エルメックさんだ。
 軍人特有の死線を乗り越えて来た雰囲気がある。

「ユウキハヤテと申します。英雄ではありませんけど、魔王を倒したのは事実です」

「俺は王描人族棟梁のライアンだ」

 王描人族?
 確か、獣人連合のリーダー格の種族だ。
 兎人の使者が向かったのは敏描族のはずだ。

 後ろを見ると細身の猫っぽい獣人たちもいる。
 彼らが敏描族だろうか。

 それにしても王描人族の棟梁ってことは獣人連合の総大将ってことか。
 そんな人物がどうしてここに?

「ハヤテ殿は俺がここにいることが不思議だと言いたそうだな」

 ライアンさんは俺の心理を的確に突いた。

「偶然、俺の側近が敏描族の村にいたのだ。で、和平の話を聞いた。おい、どこかに話し合いの場所を貸してくれないか?」

 ライアンが言うとブルーノさんが「ならば、私の家をお使いください」と言った。

 俺たちはブルーノさんの家に移動し、話の続きをする。

 会議に参加しているのは俺、リザ、アイラ、ナターシャ、フィールレイ、パトラティア。
 獣人族側はブルーノさんと敏描族の代表、それからライアンさん。
 そしてもう一人、ツリ目が特徴的な凛々しい王描人族の女性が一名、どうも彼女はライアンさんの側近のようだった。
 彼女だけは俺たちを睨む。
 それでも明確な殺意や敵意はないらしい。

 その証拠に召喚盤が作動しない。

「どうですか? もう魔王はいないんです。戦争を止めるにはいい機会だと思うんですけど?」
 
 俺は改めて、そう切り出した。

「うむ、正直、このまま戦い続けても我々に勝ちはないだろう。蛇人族の軍勢だけでも手に余るのに、もし竜人族や西方連合などという大戦力が参戦すれば、徹底抗戦の末に待っているのは死滅か、奴隷か、どちらにせよ。未来はない」

 ライアンさんは極めて冷静に現状を理解していた。

「だとすれば、ここで戦争を止めるの良い選択だと思いますけど?」

 俺の提案にライアンさんは難しい顔をする。

「しかし、本当に全てを安堵してくれるとは思えない。王描人族や闘狼人族族は処断するつもりじゃないだろうか? いや、俺の命だけで済むならまだ良いが、他の者たちに危害が及ぶのは避けたい…………」

「別に私たちは誰かを処断するつもりなんてないわよ」とパトラティアが言う。

「人間がいきなり何を言い出す」

 ライアンさんはパトラティアを人間と言った。
 無理もない。
 今のパトラティアの姿はどこからどう見ても人間だ。
 彼女の造形魔法や変身魔法は本当に凄い。

「私の正体を見れば、全て理解すると思うわよ?」

 そして、今、自身にかけている魔法を解いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...