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砂漠の国編

第161部分 蛇人族

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 次の日の朝。

「これが本当に蛇……? おいしい……」

 俺たちは朝食を食べていた。

 昨日、アイラが取ってきた蛇と山菜だ。
 素材が良いのか、ナターシャの腕がいいのか、野宿で食べられるものとは思えないほど美味しい。

 …………昨日は危うく心臓を食べさせかけられたけど。

 食事を終えた俺たちは『ジュラディーズ』へ向かう。

 城が見えてきたところでアイラが、
「いよいよじゃな。今回は城の下に穴を掘らないのかの?」
 などと言う。

「今回は話し合いに来たんだ。正面から堂々と行くさ」

 あの時は城の地下に穴を掘って侵入した。
 だから『ジュラディーズ』を正面から見るのは今回が初めてだった。

 こうしてみるとレイドアの街に匹敵する、いや、それ以上の城だ。

 俺たちの存在に気付いて、正面の門を警備していたリザードマンが慌てる。

「儂が門を壊してやろうかの?」

「勘弁してくれ。俺たちは戦争をしにきたんじゃない」

 大人しく門前で待っているとやがて、門が開く。

「どうもっす」

 現れたのはゼルだった。

「やぁ、思ったより元気そうだね」

「ハヤテさんのおかげっすよ。でも、さすがに無謀じゃないっすか? ここは敵地っすよ。それなのにたった四人って……ガンフィールさんを討ち取った人たちはどうしたんっすか?」

「みんな、それぞれの道を歩き出したよ。それは俺たちもだけどね。それに俺はゼルのことを、竜人のことを敵だと思っていない」

 俺が宣言するとゼルは驚き、次に笑った。

「やっぱりあなたは不思議な人っすね。どうぞ、案内するっす」

「案内じゃと? 儂の方がこの城のことは詳しいぞ」

「そりゃ、元城主だから当然じゃないっすか。…………アイラちゃん、久しぶりっすね」

「ちゃん付けは止せ」

 アイラは少し嫌そうだった。
 やっぱりゼルの方が年上なのか。

 俺たちは大広間に通される。

「で、ハヤテさんは俺たちに絶対服従を要求するっすか?」

「そんなことはしないよ。それにまだこっちもどうなるか、分からないんだ。今、共存の為に動いている人たちがいる」

「共存っすか?」

 ゼルは少し驚いていた。

「今が好機だと思うんだ。今は人間側と魔王側の二大勢力に分かれている。そして、魔王が打倒された今なら、全てを魔王のせいにして手を取り合うことが出来る」

「それで俺たちが人間にしたこと、その全てが無くなるってことにはならないっすよ?」

 竜人族が多くの人を殺したのは事実だ。
 でも…………

「それは人間だって同じだ。人間も竜人を奴隷にしていた。それに殴られたから、殴るをやっていたら、戦いは終わらない」

「ハヤテさんの気持ちは分かったっす。で、目的は何っすか。和平の使者ってわけじゃないなら、ここに来た目的は他にあるんすよね?」

「魔王陣営の詳細を教えてほしい」

 俺の言葉にゼルは少し考え込み、

「理由は?」

「竜人族のことは少しだけ分かったつもりだ。でも、他の種族が何を思っているのかが分からない。こんな言い方をして申し訳ないけど、好戦的な種族がいるとしたらどうにかしたいと思ってね」

「そういうことなら、こっちの陣営のことを教えてもいいっすよ。と言っても俺たちは魔王が強引にまとめたんで、横のつながりはほとんどないんっすけどね。穏健な種族は巨人族、獣人族っすかね」

「巨人族って、聞く限りだととても戦闘力が高そうだけど…………」

「戦闘力は高いっすよ。多分、俺たちといい勝負っす。でも、奴らは元々農業が好きな種族で穏やかなんっすよ。だから、魔王は巨人族を生産担当に回したっす」

 それは良いことを聞いた。
 巨人族が敵になるなら、脅威になっていただろう。

 それに香が巨人族の領内へ向かった。
 香と巨人族が衝突する可能性が低いと分かったのは良いことだ。

「問題があるとしたら、蛇人族っすかね」

 蛇?
 俺は失礼ながら、朝食のことを思い浮かべてしまった。

 ゼルは「おい」と言い、部下に地図を持ってこさせる。

「魔王軍の動きは四つあったっす。人間領を侵攻した竜人族の東方戦線。西の海の先にあるかもしれない新大陸を探索していた西の冒険隊。それから空っすね」

「空?」

「古い言い伝えにある天空都市の探索っす。その都市には失われた技術で造られた機械人形が暮らしていると言われているっす」

 ロストテクノロジーに、エクスマキナ。
 ファンタジーでは出てくることがある種族だが、本当にいるのだろうか?

「魔王は馬鹿か? 天空都市なんて、想像上の存在だ」

 リザは同じことを思ったようだ。

「まぁ、魔王は狂っていたっすからね。天空都市の探索には獣人族の鳥獣種が割り当てられていたっす。それから新大陸の探索の方は魚人族っすね」

 なるほど、認めたくないが魔王は適材適所で種族を使う能力はあったらしい。

「で、本題の蛇人族なんすけど……」

 ゼルは地図の魔王領の南方を指差した。

「蛇人族は西の大陸の獣人族を制圧するために戦っているっす。今も戦っているんじゃないんっすかね」

「西の大陸の獣人? 獣人は傘下に入っているんじゃないのか?」

「獣人族は多種多様なんっすよ。人間領の向こう側に勢力を持っている人馬族だって、獣人族っすよ。まぁ、奴らは一大勢力を築いているんで、他の獣人族とは一線を画す存在っすけどね。で、蛇人族が戦っているのが南の大陸の獣人連合っすね」

「じゃあ、蛇人族を説得できれば、南の大陸の獣人族とも交渉が出来るかもしれないのか?」

「その可能性は高いっすね。戦局はこちらが有利だと聞いているっすから、停戦できれば、南の大陸の獣人族は感謝すると思うっす。…………ただし、蛇人族はかなり癖があると聞いているっす。交渉の際に何かしらの条件を求めてくるかもしれないっす。独自の神信仰や儀式を重んじ、歴史に誇りを持つ一族と聞いているっすから」

 神信仰?
 儀式?

「生贄とかじゃないよな?」

「正直、行ってみないと分からないっすね」

 ゼルはそれ以上、何も言わなかった。
 確かに変な偏見を持つのはいけない。

「蛇人族に会いに行ってみようか…………」

 俺は今後の方針を決めた。
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