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レイドア防衛編

第148部分 竜人族の真相

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「ユウキハヤテ!」

 上空から叫び声が聞こえた。

 俺たちと魔王の間にフィールレイとゼルが割って入る。

「ユウキハヤテ? それが君の名前かい?」

 なんでだろう。
 名前を知られただけでゾワッとした。
 この男には何も知られたくないと思った。

「…………そうだ。お前の名前も聞いていいか?」

「僕は魔王だよ。それ以外の名前はない。あったかもしれないけど、百年以上も昔のこと、人間だった頃の名前なんて、覚えていられないな」

「……なんだか、そんなことを言われる気がしたよ。それにしてもフィールレイとゼルが来たのは良かったかもしれない」

「なんすか? 意味が分からないっすよ」
 ゼルが言った。

「二人にも聞いて欲しいことがあったんだ。初めは自信がなかったけど、魔王の正体を知った今なら確信が持てるよ。なぁ、あんたも何かチートを貰っているんだろ?」

「そうだよ。僕は自分の思うがままの薬を作れるのさ」

「薬? お前が作ったのは毒だろ! その能力で作った毒をリザードマンたちに使ったな」

「どういうことっすか?」とゼルが言う。

「ふーん、君は勘が鋭いね。百年も騙され続ける馬鹿な竜人とは大違いだ。君の前世は探偵とかかな? 良く気付いたね。そうだよ。竜人たちに死病を流行らせたのは僕さ」

 それを聞いた瞬間、フィールレイとゼルは眼を見開いた。


「元々、疫病が流行してすぐに特効薬が出来るなんて、都合が良すぎると思ったんだ。それに特効薬はすぐ出来たのに百年経っても、その脅威に晒されている。だから、竜人族は半分、奴隷のような境遇に晒されていた。不自然すぎる。人為的なものを感じたんだよ。その正体が〝転生者〟チートなら納得が出来たよ」

 残す疑問は……

「魔人の正体は人間だな?」

 俺の問いかけに魔王は子供のように、無邪気に笑った。

「凄いよ! 正解! 僕が初めてこの世界に来た時、投与した人間の人格が変わる薬を作ったんだ。見た目も悪の戦闘員っぽくしてね」

 魔人を初めて見た時の懐かしさ。
 その正体は子供の頃に見た特撮の怪人だ。

「初めはうまくいかなくってさ。生きる屍みたいになっちゃったんだけど、やっと僕の言うことを素直に聞く戦闘員になったんだよ。ほら、悪の組織なら雑魚戦闘員は定番でしょ? ライダーもゴレンジャーも」

 話していて分かった。
 こいつは見た目は大人かもしれないが、精神が子供だ。

 しかも、悪役への憧れが異常に強い。

「ここまで聞いても分からないことがあるんだ」

「なんだい? 同じ日本人だろ。答えてあげるよ」

「なんでそんな力があって、百年も経つのにこの世界を支配していないんだ?」

 その気になれば、西方連合はもちろん、東方同盟だって自分の思うがままに出来るだろう。
 それをしない理由が分からなかった。

「だって、それじゃつまらないよ」

「は?」

 予想外の答えに俺は困惑してしまう。

「君は頭が良さそうなのにストーリーのお約束、って奴が分かっていないよ。悪役がいるなら、英雄ヒーローがいる。それが当り前じゃないか。それなのにこの世界は相手が弱すぎだよ。あっという間に人間の数は半分くらいになっちゃうし、だから僕は待っていたんだよ。僕が倒すべき英雄ヒーローをね。そして、やっと君が現れた」

 魔王は楽しそうに話す。

「けど、君は僕に勝てない。やっと現れた英雄ヒーローをすぐに殺すのはもったいないよ」

 魔王は薬の入った瓶を取り出した。

「これを飲めば、君は不老不死になれる。それだけじゃない。エルフなんて目じゃないほどの魔力も手に入るし、肉体は巨人族を投げ飛ばせるくらい強靭になる。これを飲みなよ。心配しないで魔人道にはならないからさ。その代わり、今の君の仲間には全員死んでもらうけどね」

「ふざけているのか?」
 自然と怒りを覚えない。
 多分、俺は目の前にを同種族と認識できないのだろう。

「何を言っているんだい? 僕は真面目だよ。敗北を知って、強くなるのは英雄ヒーローのお決まりじゃないか。君は東方同盟に逃げて、そこで強くなる。百年くらいすれば、僕に勝てるかもよ。君が人間側の勢力を率いて、僕に戦いを挑む。僕はまた四臣とかを作って待っているからさ。そして、戦おうよ。そっちの方が面白いよ!」

 魔王は遊びに誘うような口調だった。

「冗談じゃない。なんで俺がお前のヒーローごっこ、いや、悪役ごっこに付き合わないといけないんだ!」

 俺が拒絶すると魔王は拗ねたような表情になる。
 一つ一つの動作がどうしても子供っぽい。
 とても百年以上生きているとは思えなかった。

「そっか、じゃあ、君も、君の仲間も殺しちゃお。レイドアの人たちと竜人は実験に使おうかな」

 この狂った化け物、いや魔王を止める。

 その方法を考えていると

「ふざけるなよ!」
 
 叫んだのはフィールレイだった。

「私たちは百年間、お前の為に働いた。それなのに簡単に斬り捨てるのか!?」

「飽きたおもちゃに興味はないよ」
 魔王はあっさりと答えた。

「貴様!」
 フィールレイが魔王に襲い掛かる。

「馬鹿、よせ!」
 俺は叫んだが、遅かった。

 フィールレイは一発殴られただけで弾き飛ばされる。

「レイ!」と声を上げて、ゼルがフィールレイを受け止める。

 死んではいない。
 しかし、あの恐ろしく強い竜人を一撃で瀕死に追いやった。

「僕の身体能力はカンストしているよ。この世の人間や魔物じゃ勝てない。それに君のドラゴンでもね」

『試してみるか?』

 リントブルムがしゃべるが、いつもの余裕が無さそうだった。

「一撃で殺してもいいんだけど、そんなに大きいのに僕はこのサイズだ。戦いはスケールが大事だよね」

 魔王は何かの液体が入った瓶を取り出した。

「相手にしては物足りないけど、我慢するよ。英雄ヒーローが負けてのバッドエンド、それを始めようか」

 魔王が薬を飲むと体が膨張していく。
 その大きさはリントブルムを凌ぐほど大きくなった。
 それに見た目も禍々しく変化し、本物の化け物のようだった。
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