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レイドア防衛編

第140部分 蘇生の為の対価を払うリスネ

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「ハヤテさん、ずっと苦しそうな顔をしてるっすね」
 相変わらず、ゼルは笑っている。

 こいつ、絶対に性格が悪い。
 
 こんなところにいる場合じゃない。
 俺には早く行きたいところがある。

 かといって、ゼルを無視することは出来ない。
 俺がいなくなったら、こいつのせいで前線が滅茶苦茶になる。

 それにもう少しの辛抱だ。

 俺はゼルの所に届くであろう「ある報告」を待つ。

 それはすぐにやって来た
 慌てた様子で敵の竜騎兵がゼルに報告する。
 俺はその報告の内容を知っていた。

「やっとあんたの感情が見えたよ」

 ゼルは驚いた表情をしていた。
 そして、俺の挑発に対して怒りを露にする。

「いや~~、まさかガンウォールの旦那が負けるなんて予想してなかったっすよ。これはうまくやられたっすね」

 しかし、次の瞬間、また感情の籠っていない笑顔になった。

 下のリザードマンたちもハヤテさんと一緒に来た方々のせいで劣勢みたいっすね。これ以上はやってらんねぇっすよ」

 ゼルはあっさりと撤退を決断した。
 俺の心理を正確に見抜かれなくて、良かった。


 ゼルが退いたのを見て、リントブルムに指示を出す。

「リザの元に向かってくれ!」

 ローランの状態は分かっている。
 だが、リザもまずい状況だ。

 ワイバーンに囲まれて、逃げ場所がない。

 リンクで状況は分かる。
 それにリザが何をしようとしているかも…………



 上空、リザとフィールレイの交戦空域。

「お前は良く戦った。もう死ね」

 リザはワイバーンに囲まれていた。
 すでに魔力はほとんど残っていない。

 フィールレイはほぼ無傷だった。

「もしお前と私が一対一で戦ったら、もう少しはいい勝負になったかもな」

「お前ら竜人は馬鹿ばかりだな」

「なんだと?」

「知ってるか? ガスが充満してたら、火花だけで大爆発が起きるんだぞ」

「……ガス? 一体、なんの話だ?」

 フィールレイはリザの言葉を理解できていない。

「私は防戦一方だったわけじゃない。この戦闘空域の外側に風の障壁を作っていた。中の魔力が放出されないように……」

 そこまで聞いて、フィールレイはリザの狙いに気が付いた。

「馬鹿、寄せ!」

「もう遅い! 燃え尽きろ! 『大青炎柱だいせいえんちゅう・炎嵐えんらん』!!」

 空中で大爆発が起きる。


 
 爆発の余波が俺のところにまで来た。
 吹き飛ばされないように必死でリントブルムに掴まる。

「なんて無茶をするんだ! リザ!!」

 ワイバーンの肉片が落ちてくる。
 その中にリザの姿を発見した。

「いた! 頼む、リントブルム!」

 リザを空中で捕まえた。

「おい、落下する時は『炎の翼』があるから大丈夫じゃなかったのか?」

 リザにはもう魔力が残っていない。
 このまま落ちていたら、地面に叩きつけられていた。

「ハヤテが来るのが分かったからな」
「まったく、無茶をするな……フィールレイは?」

「多分逃げた。でも、無傷じゃないはず。無傷なら絶対に追撃してくるだろうから」

『フムフム、了解だ』

「んっ? 誰と話をしているんだ。リントブルム?」

『先ほどまでハーフエルフと一緒にいた怪鳥だ。ハーフエルフに伝言がある。もう絶対にお前は乗せない! 怪鳥一同、だそうだ』

 リザは随分と『怪鳥の群れ』に嫌われていた。
 まぁ、あんな無茶な戦場に付き合わされた挙句、最後に爆破されたのだから、無理もないか。

「リザ、疲れているだろうけど…………」

「うん、分かっている。ローランの所に行こう」

 俺たちは急降下して、半壊した市街地へ降りた。

 勝ったはずなのに誰も笑っていなかった。

「香!」

 呆然自失の香を見つける。

「ハヤテ、ローランが……」

「分かってる。香、来てくれ! やって欲しいことがあるんだ!」

 俺は香の手を引っ張って、ローランの元へ向かった。

 ローランが横になっていた。
 横でリスネさんが泣いている。

 医療班はすでに治療を止めていた。

「ハヤテさん、遅過ぎよ……!」

「俺はそう思わない」

 俺がそう言うと、リスネさんに胸倉を掴まれた。

「なに!? なんの冗談!?」

「違う。まだローランは死んでない」

「何を言っているの? 現実をみなさいよ!!」

 俺は召喚盤を見せた。
 そこにはまだローランのカードがある。

 どこまでできるか分からない。
 でも可能性があるなら、やるだけだ。

「リザ、香、今から君たちをローランと『同調シンクロ』させる。ローランが向こう側に行く前に連れ戻してくれ!」

「そんなことできるのか?」
 リザが言う。

「分からない。でも、その可能性にかけるしかない」

「私はやります」
 香が言った。

「少しでも可能性があるなら、やります」

「ありがとう、香、リザは?」

「当然だ」

 俺は二人のカードをローランに重ねた。

 リザと香は気絶したように倒れ込む。
 リザと香が『同調シンクロ』した時とは明らかに様子が違う。

「頼んだぞ。二人とも」

「待ちなさいよ……」

 リスネさんに腕を掴まれた。

「親友が助かるかもしれない時に何もしていないなんてありえない! 私もその『しんくろ』とかいうやつをやらせなさいよ」

「でも、それには……」

「分かっているわ。ローランから聞いてる」

 リスネさんはナイフで指を切って、血を召喚盤に垂らした。

「これで良いんでしょ? さぁ、早く!」

 リスネさんは俺の肩を掴んだ。
 親友の為とはいえ、こんなことを即決するのは驚いた。

「わ、分かったよ!」
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