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レイドア防衛編

第105部分 戦力外通告

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 俺は約束通り、夜にギルドへやって来た。
 夜のギルドは真っ暗だった。

 本当にリスネさんがいるのか?

と思いながら、閉まっているギルドの扉を叩く。

 すると鍵が外れる音がして、扉が開いた。

「ハヤテさん、ありがとう。さぁ、中に入って」

 リスネさんはいつもと違う雰囲気だ。
 緊張しているようだった。

 また、ローランの時みたいに特別クエストだろうか?
 だとしても、俺一人だけを呼ぶ理由が分からない。

 階段を上がり、個室に案内される。

「遠回しな言い方は嫌いだから、結論から言うわね。ハヤテさん、シャルちゃんをパーティから外すつもりはない?」

 リスネさんの表情は固かった。

「そんな提案をする理由くらいは聞いてもいいかな?」

「分からないはずないでしょ? ハヤテさんのクエスト報告書は丁寧でありがたいわ。……だから、良く分かるのよ。シャルちゃんはまだ魔物を一体も倒してないでしょ?」

 それは事実だ。
 回復術師のシャルは後衛だから、積極的に戦いには参加しない。

 しかし、シャルは専門の回復術師というわけではなく、近接戦闘も行える。

 そもそも、純粋な後衛は冒険者には不向きだ。
 冒険者は状況によって、自分が得意なこと以外もやる必要がある。
 
 あまり使わないが、リザは短剣を装備している。
 加えて、敵に接近された時の為に近距離戦用の魔法をいくつか使える。

「もちろん、本職は大事よ。でも、いざという時に自分も戦えないと冒険者は難しい。賢い魔物や魔人なら回復術師は真っ先に狙われるわ。常にシャルちゃんを庇って戦っていたら、ハヤテさんたちでもいずれ足元を掬われるわよ? 最低限、自分の身を守るくらいの力はないといけない。もし、それが出来ないなら、シャルちゃんは冒険者を止めるべき。シャルちゃんの為にも、ハヤテさんさんたちの為にも」

 リスネさんの言葉は厳しいが、最もな意見だ。
 そして、シャル自身、それに気付いている。

「リスネさん、もう一回だけ様子をみてもらえないかな?」

「まさか、わざとシャルちゃんに戦果を取らせようとしてない?」

「そんなことはしないよ」

 そんなことをしても無意味だ。

 リスネさんは少し考えて、息を吐く。

「……分かったわ。ごめんなさいね。パーティのことまで口を出して」

「構わないよ。俺たちのことを思ってのことでしょ」

 リスネさんが冒険者に向かない人に声を掛けて、別の職業を紹介しているのは知っている。

 厳しいようだが、仕方ない。

 足手纏い、無能はこの世界では罪だ。
 自分が死ぬだけでは済まない。
 力が無い者がいるだけでパーティが危機に陥ってしまう。

 だから、もし本当にシャルに冒険者としての適性がないなら、パーティを外れてもらうしかない。
 それを通告するのはパーティリーダーの責任だろう。


 俺は随分、遅い時間に帰宅した。
 リザや香から質問攻めを受けると思ったが、そんなことはなかった。

「なんだかんだで信用はされているらしいな。さてと……」

 俺はアイラの部屋に向かった。
 ドアを叩く前に中から「なんじゃ?」と言われる。

「入っていいかな?」

「ここまで来て、駄目とも言えんじゃろ」

 俺はアイラの部屋に入る。

「起きていたのかい?」

「寝とったよ。おぬしが来るまではの」

 アイラは眠そうに目を擦った。

「それは悪いことをしたね」

「気にするでない。おぬしは無意味に夜這いなどせんじゃろ」

 夜這いって……

「シャルのことで相談があるんだ?」
「…………なんじゃ?」

 アイラはまだ眠そうでちゃんと話を聞いているのか、不安になる。
 しかし、俺がリスネさんに言われたことを言い終わる頃には覚醒していた。

「うむ、ギルド娘は結構、キツイことをいうのぉ」
「アイラに聞きたいんだけど、シャルは魔物と戦えると思えるかい?」

 するとアイラは俺を真っ直ぐに見た。

「儂に聞く前におぬしはどう思っておるんじゃ? それを言うのが筋じゃろ?」
「……俺は戦えると思っている。戦闘の実力だけみればね」

「回りくどい言い方じゃの。精神的には難しい、と言えばいいじゃろ」

「そこなんだ。俺はシャルが何を出来るか分かっているつもりだ。でも、シャルの気持ちまでは分からない。それはアイラの方が分かると思ってね」

「儂だって分からん。まぁ、確かめるには実践しかないんじゃないかの? のう、明日、クエストに行く予定じゃろ?」

「受けるクエストがあればね」
「そのクエストなんじゃがの…………」

 アイラは俺に提案する。

「あとはおぬしが耐えられるかじゃな」

 アイラは人差し指を俺に向ける。

「努力するよ。だけど、危ないと思ったら、俺は動くよ」
「それは好きにせい。このパーティのリーダーはおぬしじゃからな」

 アイラはそう言うと話は終わったと言いたいのか、ベッドに潜ってしまった。

「ありがとう。起こして、悪かったね」

「さっきも言ったが気にするでない。若者に頼られるというのは悪い気がせんからな」

 アイラの声は少しだけ笑っていた。

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