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奪還編
第59部分 リザの願い
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俺たちは三つのグループに分かれた。
病院へ行った香とレリアーナさん。
リスネさんに連れていかれた王女様。
そして、リスネさんの指定した宿舎にやって来た俺とリザとアイラ。
「ふむふむ、庶民的で中々いいのぉ。今日は疲れたぞ。食い物と酒は無いか?」
アイラは手足が黒くなるほどの火傷をしていたはずなのにもう回復していた。
「お前、半捕虜なのに態度がデカい」
リザが敵意を向ける。
まぁ半日前まで戦っていたのにすぐ仲良くなるのは無理か。
「今、出せるのはこれぐらいかな」
保存用に貯め込んでいた肉と酒を出す。
「今更じゃが変わったの魔法じゃの。……いや、魔法ではないな。お主からは魔力を感じん。全く不思議な存在じゃ」
アイラは酒を口に含んだ。
「勝手に連れてきて悪かったね」
「それも今更じゃ、この責任は取ってもらうぞ。行くところがない」
「俺はいいけど、リスネさんがなんて言うか…………」
「さっきの小娘か? あやつは賢そうじゃから、おぬしに儂を預けるか。殺すかするじゃろうな」
「後者は穏やかじゃないな」
「そうなったら、仕方ないと思っておる。じゃが、せっかく生き残ったのじゃ。城主などと言う面倒な役職も無くなった。気楽に冒険者をするのも悪くないの」
それは過剰戦力な気がするが…………
それにしても……
「二人ともごめん、俺、ちょっと休むよ…………もし、リスネさんが来たら。起こしてくれるか?」
リザが「分かった」と言う。
戦いが終わったことを実感すると睡魔に襲われた。
俺は隣の部屋のベッドに潜り込み、すぐに意識が途絶えた。
「――――んっ……」
目を開けると辺りは薄暗かった。
もう日が落ちているのだろう。
随分と寝てしまったらしい。
「んっ?」
ベッドの中に誰かいた。
それが誰かはすぐに分かった。
「リザか…………」
「ハヤテ、やっと起きたな」
体を起こす。
そして、召喚盤を展開し、一枚のカードを引いた。
「リザ、これを見てくれ」
リザにそのカードを渡す。
青炎のハーフエルフ ユーエル・フォーティス
レベル⑤属性(炎) パーソン ソウルポイント+2000
「ユーエル・フォーティス…………」
「リザ、それが本当の名前だ」
「うん、思い出した。私のお父さんがエルフだった。で、お母さんが人間、二人は仲が良かった。それを私が…………」
リザが抱きついてきた。
「ハヤテ、私が何をしたか、もう知っているだろ」
「…………知ってる」
「お願いだ、ハヤテ、軽蔑しないでくれ…………捨てないでくれ…………。私はハヤテと一緒にいたい。我儘言わないから、からかったりしないから、草だってちゃんと食べるから、ハヤテと一緒にいたい。奴隷になんて戻りたくない!!」
リザは泣いていた。
俺はリザの頭を優しく撫でた。
「初めて直接、リザから本心を聞けたよ。我儘は言っていい。俺が返答に困るようなからかい方以外ならしてもいい。野菜は…………まぁ、少しは食べて欲しいかな。絶対に奴隷になんて戻させない。もし、リザの敵になるようなら国だって、いや西方連合相手にだって戦うよ。リントブルムも今はアイラだっている。彼女を上手く言い包めて味方にするさ」
「なんだ、それ? ハヤテは戦わないのか?」
「そうだよ。俺は魔法も使えないし、武術だって出来ない。リザや香、召喚盤がなかったら、何にもできない。俺は人に支えられて生きているんだ」
リザは笑う。
「じゃあ、支えてやらないとだな、一生」
「……リザ、これからは君のことをユーエルって呼んだ方が良いよな」
リザっていうのは、名前がないと言った少女に俺が付けた名前だ。
本当の名前があるなら、そっちの方が良い。
初めは違和感があるが、それもそのうち無くなるだろう。
正直、少し寂しい気持ちはあるけど仕方ない。
「ううん、リザで良い。だってこれも正真正銘、私の名前だから。でも、お父さんとお母さんに貰った名前もなかったことにしない。無かったことに出来ない。だから、こうする」
リザのカードが光り、変化する。
「ハヤテ、これでどうだ?」
新しいカードには、
青炎のハーフエルフ リザ・ユーエル・フォーティス
レベル⑤属性(炎) パーソン ソウルポイント+2000
と書かれていた。
「うん、いいと思う」
「もう私はハヤテから離れるなんて言わない。責任、取ってもらうぞ!」
リザは俺を押し倒した。
「お、おい…………」
リザは馬乗りになった。
「ハヤテ…………」
リザさん、なんでそんなにうっとりした顔をしているんですか?
あれ、なんか大人っぽく見える。
いつも肉肉言っているハーフエルフはどこに行った?
俺、このまま雰囲気に流されて…………
「何をやっているのかしら?」
今日の運営が登場した。
「あ、あれ、鍵は?」
「アイラさんに空けてもらったわ」
リスネさんは怒っていた。
彼女の後ろで、アイラが悪戯っぽく笑っていた。
「私がエルメック元帥に事情を説明したり、ローランや香さんの病床を手配している時に、あなたたちはお楽しみしようとしていたのかしら?」
リスネさん、激おこである。
「ち、違うよ。ちょっとバランスを崩したら、こうなっただけだよ!」
果たしてリスネさんが来なかったら、どうなっていただろうか?
児童ポルノの一線を越えていただろうか?
いやいや、そんなことない。
俺は良識ある大人だ。
リスネさんが来なくても何も起こらなかった…………はず。
「チッ…………、どうしてきた。リスネが来なかったら、このまま既成事実を作れたのに」
…………何も聞こえない。何も聞かない。
「あっ、そうだ! あの後、どうなりました?」
「話をそらすの下手過ぎよ…………シャルロッテ様はエルメック元帥が保護したわ。ローランと香さんは治療中よ。…………それから、リザちゃんのことなんだけど」
空気がピリッとする。
「ローランから聞いたわ。金階級Ⅰで名前はドミード。冒険者の登録者名簿を調べてみるから、もう少し待ってくれるかしら? ローランはハヤテさん達に味方してほしいと言っていたけど、私はギルドの人間よ。ギルドとして不利益になる動きは出来ないわ」
「……なぁリスネ、一つ、聞いてくれるか?」
リザが口を開く。
その情報を聞き、リスネは考え込む。
「そんなことが、でも…………分かった。それも調べてみるわ。後はアイラさんだけど、奇麗事無しで言ってしまえば、私は殺した方が良いと思う」
リスネさんの声と表情は冷たかった。
「儂もそれには賛成じゃの。人間にしてみれば、儂の力は脅威じゃろ」
アイラは他人事のように言う。
「で、儂を殺すか?」
「……殺さないわ。確かにあなたの存在は危険よ。でも、もしあなたを殺せば、シャルロッテ様が黙っていないわ。もし、シャルロッテ様が反乱でもしたら、ロキア王国は、いえ、西方連合自体が大混乱に陥るわ。そんな事態は避けたいわよ。けど、さすがに私はあなたを信用できない。だから、奴隷の首輪をした状態でハヤテさんに預けるわ」
「殺されないだけマシじゃな。それからのぉ、こんなことが信用に繋がるか分からんが、この奴隷の首輪に少し細工をしたぞ」
「細工?」
「儂の中に残留していたハーフエルフの魔力を奴隷の首輪に組み込んだ。じゃから、これを外すにはハーフエルフの魔力が必要じゃ」
「おい、何勝手にやってる?」
リザは本気で嫌そうだった。
「アイラさんなら、いざとなれば強引に外せそうだけど…………まぁ今はそれでいいわ。あとこれ、病院の場所を書いておいたわよ」
リスネさんは紙を渡した。
「今日はもう遅いから、明日、様子を見に行ってみて頂戴」
「ありがとう。色々と迷惑をかけて悪かったね」
「元々はローランの依頼を私が受けたのが始まりだから…………」
「そういえば、聞きましたよ。レリアーナさんとは士官学校時代からの付き合いだったんですね」
「そうよ。宿舎の部屋が同じで、これからの腐れ縁ね。昔から無茶ばかりする子で危なっかしいのよ。今回だってあんなにボロボロになって…………生きて帰ってきて本当に良かった……ハヤテさん、本当にありがとう」
リスネさんが頭を下げる。
「俺たちがレリアーナさんに助けられたこともあったよ。レリアーナさんに出会えたことは良かったと思う」
「そういってもらえると良かったわ。私はやることがあるから、失礼するわね」
病院へ行った香とレリアーナさん。
リスネさんに連れていかれた王女様。
そして、リスネさんの指定した宿舎にやって来た俺とリザとアイラ。
「ふむふむ、庶民的で中々いいのぉ。今日は疲れたぞ。食い物と酒は無いか?」
アイラは手足が黒くなるほどの火傷をしていたはずなのにもう回復していた。
「お前、半捕虜なのに態度がデカい」
リザが敵意を向ける。
まぁ半日前まで戦っていたのにすぐ仲良くなるのは無理か。
「今、出せるのはこれぐらいかな」
保存用に貯め込んでいた肉と酒を出す。
「今更じゃが変わったの魔法じゃの。……いや、魔法ではないな。お主からは魔力を感じん。全く不思議な存在じゃ」
アイラは酒を口に含んだ。
「勝手に連れてきて悪かったね」
「それも今更じゃ、この責任は取ってもらうぞ。行くところがない」
「俺はいいけど、リスネさんがなんて言うか…………」
「さっきの小娘か? あやつは賢そうじゃから、おぬしに儂を預けるか。殺すかするじゃろうな」
「後者は穏やかじゃないな」
「そうなったら、仕方ないと思っておる。じゃが、せっかく生き残ったのじゃ。城主などと言う面倒な役職も無くなった。気楽に冒険者をするのも悪くないの」
それは過剰戦力な気がするが…………
それにしても……
「二人ともごめん、俺、ちょっと休むよ…………もし、リスネさんが来たら。起こしてくれるか?」
リザが「分かった」と言う。
戦いが終わったことを実感すると睡魔に襲われた。
俺は隣の部屋のベッドに潜り込み、すぐに意識が途絶えた。
「――――んっ……」
目を開けると辺りは薄暗かった。
もう日が落ちているのだろう。
随分と寝てしまったらしい。
「んっ?」
ベッドの中に誰かいた。
それが誰かはすぐに分かった。
「リザか…………」
「ハヤテ、やっと起きたな」
体を起こす。
そして、召喚盤を展開し、一枚のカードを引いた。
「リザ、これを見てくれ」
リザにそのカードを渡す。
青炎のハーフエルフ ユーエル・フォーティス
レベル⑤属性(炎) パーソン ソウルポイント+2000
「ユーエル・フォーティス…………」
「リザ、それが本当の名前だ」
「うん、思い出した。私のお父さんがエルフだった。で、お母さんが人間、二人は仲が良かった。それを私が…………」
リザが抱きついてきた。
「ハヤテ、私が何をしたか、もう知っているだろ」
「…………知ってる」
「お願いだ、ハヤテ、軽蔑しないでくれ…………捨てないでくれ…………。私はハヤテと一緒にいたい。我儘言わないから、からかったりしないから、草だってちゃんと食べるから、ハヤテと一緒にいたい。奴隷になんて戻りたくない!!」
リザは泣いていた。
俺はリザの頭を優しく撫でた。
「初めて直接、リザから本心を聞けたよ。我儘は言っていい。俺が返答に困るようなからかい方以外ならしてもいい。野菜は…………まぁ、少しは食べて欲しいかな。絶対に奴隷になんて戻させない。もし、リザの敵になるようなら国だって、いや西方連合相手にだって戦うよ。リントブルムも今はアイラだっている。彼女を上手く言い包めて味方にするさ」
「なんだ、それ? ハヤテは戦わないのか?」
「そうだよ。俺は魔法も使えないし、武術だって出来ない。リザや香、召喚盤がなかったら、何にもできない。俺は人に支えられて生きているんだ」
リザは笑う。
「じゃあ、支えてやらないとだな、一生」
「……リザ、これからは君のことをユーエルって呼んだ方が良いよな」
リザっていうのは、名前がないと言った少女に俺が付けた名前だ。
本当の名前があるなら、そっちの方が良い。
初めは違和感があるが、それもそのうち無くなるだろう。
正直、少し寂しい気持ちはあるけど仕方ない。
「ううん、リザで良い。だってこれも正真正銘、私の名前だから。でも、お父さんとお母さんに貰った名前もなかったことにしない。無かったことに出来ない。だから、こうする」
リザのカードが光り、変化する。
「ハヤテ、これでどうだ?」
新しいカードには、
青炎のハーフエルフ リザ・ユーエル・フォーティス
レベル⑤属性(炎) パーソン ソウルポイント+2000
と書かれていた。
「うん、いいと思う」
「もう私はハヤテから離れるなんて言わない。責任、取ってもらうぞ!」
リザは俺を押し倒した。
「お、おい…………」
リザは馬乗りになった。
「ハヤテ…………」
リザさん、なんでそんなにうっとりした顔をしているんですか?
あれ、なんか大人っぽく見える。
いつも肉肉言っているハーフエルフはどこに行った?
俺、このまま雰囲気に流されて…………
「何をやっているのかしら?」
今日の運営が登場した。
「あ、あれ、鍵は?」
「アイラさんに空けてもらったわ」
リスネさんは怒っていた。
彼女の後ろで、アイラが悪戯っぽく笑っていた。
「私がエルメック元帥に事情を説明したり、ローランや香さんの病床を手配している時に、あなたたちはお楽しみしようとしていたのかしら?」
リスネさん、激おこである。
「ち、違うよ。ちょっとバランスを崩したら、こうなっただけだよ!」
果たしてリスネさんが来なかったら、どうなっていただろうか?
児童ポルノの一線を越えていただろうか?
いやいや、そんなことない。
俺は良識ある大人だ。
リスネさんが来なくても何も起こらなかった…………はず。
「チッ…………、どうしてきた。リスネが来なかったら、このまま既成事実を作れたのに」
…………何も聞こえない。何も聞かない。
「あっ、そうだ! あの後、どうなりました?」
「話をそらすの下手過ぎよ…………シャルロッテ様はエルメック元帥が保護したわ。ローランと香さんは治療中よ。…………それから、リザちゃんのことなんだけど」
空気がピリッとする。
「ローランから聞いたわ。金階級Ⅰで名前はドミード。冒険者の登録者名簿を調べてみるから、もう少し待ってくれるかしら? ローランはハヤテさん達に味方してほしいと言っていたけど、私はギルドの人間よ。ギルドとして不利益になる動きは出来ないわ」
「……なぁリスネ、一つ、聞いてくれるか?」
リザが口を開く。
その情報を聞き、リスネは考え込む。
「そんなことが、でも…………分かった。それも調べてみるわ。後はアイラさんだけど、奇麗事無しで言ってしまえば、私は殺した方が良いと思う」
リスネさんの声と表情は冷たかった。
「儂もそれには賛成じゃの。人間にしてみれば、儂の力は脅威じゃろ」
アイラは他人事のように言う。
「で、儂を殺すか?」
「……殺さないわ。確かにあなたの存在は危険よ。でも、もしあなたを殺せば、シャルロッテ様が黙っていないわ。もし、シャルロッテ様が反乱でもしたら、ロキア王国は、いえ、西方連合自体が大混乱に陥るわ。そんな事態は避けたいわよ。けど、さすがに私はあなたを信用できない。だから、奴隷の首輪をした状態でハヤテさんに預けるわ」
「殺されないだけマシじゃな。それからのぉ、こんなことが信用に繋がるか分からんが、この奴隷の首輪に少し細工をしたぞ」
「細工?」
「儂の中に残留していたハーフエルフの魔力を奴隷の首輪に組み込んだ。じゃから、これを外すにはハーフエルフの魔力が必要じゃ」
「おい、何勝手にやってる?」
リザは本気で嫌そうだった。
「アイラさんなら、いざとなれば強引に外せそうだけど…………まぁ今はそれでいいわ。あとこれ、病院の場所を書いておいたわよ」
リスネさんは紙を渡した。
「今日はもう遅いから、明日、様子を見に行ってみて頂戴」
「ありがとう。色々と迷惑をかけて悪かったね」
「元々はローランの依頼を私が受けたのが始まりだから…………」
「そういえば、聞きましたよ。レリアーナさんとは士官学校時代からの付き合いだったんですね」
「そうよ。宿舎の部屋が同じで、これからの腐れ縁ね。昔から無茶ばかりする子で危なっかしいのよ。今回だってあんなにボロボロになって…………生きて帰ってきて本当に良かった……ハヤテさん、本当にありがとう」
リスネさんが頭を下げる。
「俺たちがレリアーナさんに助けられたこともあったよ。レリアーナさんに出会えたことは良かったと思う」
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