上 下
47 / 200
奪還編

第47部分 潜入調査

しおりを挟む
 リザードマンは二足歩行で歩くトカゲのような姿をしている。

 城の警備の多くは彼らがやっているようだった。
 体は人間より少し大きい程度だが、レベルを確認すると②と表示されている。

 オーガと同等の力は持っているということだ。

(ハヤテ君、これ、本当に大丈夫なのか!?)

 レリアーナさんの眼を見る限り、そんなことを言っていそうだった。

 俺も周りからどう見えているか自信がない。
 リザードマンの横を抜ける時は緊張した。

 リザードマンは俺たちに気付かなかった。

 何か違和感は感じたのか、一瞬だけ止まったが、それだけだった

 よし、成功だ。
 にしても、思ったよりもぎゅうぎゅうだな。

 俺たち四人は今『始祖のスライム』の体内にいる。



 少し前の話。
「ほ、本当に大丈夫なのか? 溶けたりしないだろうな?」
 レリアーナさんは何度も確認する。
「大丈夫です、って」
「にしてもこんなスライム初めてだ」
 始祖のスライムは完全に周りと同化していた。
 俺がその存在を知らせなければ、触れるまで分からない。

 これは『始祖のスライム』が『透過スライム』を取り込んでいるからだ。

「はい、レリアーナさん、これを口に含んでください」

 レリアーナさんに渡したのは『空気玉』という一定量の酸素を込めた使い捨ての魔具である。
 水中に入ることがあったらと買っておいたが、ここで役に立つとは思わなかった。

 レリアーナさんは葛藤しながら、最後にはスライムの中に入った。


 そして現在。
 これで周りからは見えない。
 それに俺たちは『始祖のスライム』に取り込まれているから、音や臭いだって、バレない。
 最高の擬態だ。

 問題があるとすれば、大きさだろう。
 いくら『始祖のスライム』が大きいからと言って、四人も入ればかなり密着することになる。
 色々なものが俺に当たっている。

 幸せ…………じゃなくて、やっぱり狭い。
 本当に困る。

 にしても、通路が想像以上に広い。
 この点は人間の城とは全く違う。
 
 そのおかげで俺たちは自由に動けるのだから、ありがたいが。

「一旦休憩だな」

 俺たちは使われていない部屋を見つけて、一旦、始祖のスライムから出た。そろそろ、『空気玉』の中の酸素も切れる頃だ。

「はぁはぁ…………これは結構、大変だな」

 レリアーナさんはらしくもなく、だらしなく格好で地面に座り込んだ。

「これはあれだ。ローションプレイみたいだな」

 さて、リザの発言は無視しようか。

「ローションプレイとはなんだ?」

 レリアーナさん、なんであなたが食いつくんですか…………

「ローションプレイっていうのはだな。男女がはだ…………」

 今日は俺が運営になるんだ!

 リザの口を塞いだ。

「どうした、いきなり? カオリ君は知っているのか?」

「い、いえ、何のことだが分かりませんね」
 香は顔を赤くしながら、視線を晒した。

「…………碌でもないことだということは分かった」
 レリアーナさんがジト目で俺を見る。

 弁解しようとした時、部屋の扉が開いた。

「まずい、早くスライムの中に入って…………!」
 
 小声で言うと三人は慌てて、スライム中に入った。
 俺も入ろうと思った時、足音がこっちに近づいてきた。
 スライムに入ろうとすると姿を見られる。
 
 俺は咄嗟に棚の下に潜り込んだ。

 埃っぽくて咳き込みそうになるのを必死に堪える。
 見えている足の数を見る限り二人、どちらもリザードマンだ。

「いよいよ、人間と戦争を再開するらしいぞ」
「そうらしいな。アイラ様はどのようにお考えなのだろうか?」

 リザードマンの言葉が理解できた時、声が出そうになった。
 そういえば、『言語の理解』は相手の姿に関係なく、知能が同じなら働くんだったな。

「だとしたら、どっかの王国から攫ってきた姫様はどうするんだ?」

 えっ、それって…………

「さぁな、戦争を起こさない為に攫ったんだから、もう用済み。見せしめに殺すか。いや、あの美貌だ。魔王様の元に送るかも知らないな。で、魔王様に直属の軍を動かしてもらえれば、俺たちも心強い」

 この二人から情報を聞き出せるかも知らない。
 危険か?
 いや、ここは動くべきだ!

 俺は『幻惑スライム』を召喚した。

 それをリザたちに分かるように見せた。

 頼む、理解してくれ!

 俺の願いを叶った。

 リザが飛び出す。
 その後に香、そして香に手を引っ張られてレリアーナさんが姿を現した。

「な、なんだ!? お前たちは!」

「ちょっとごめんよ」

 俺はリザードマンの二人を後ろから蹴り飛ばして、『始祖のスライム』に取り込ませた。
 そして、『透過スライム』を分離し、『幻惑スライム』を『始祖のスライム』に取り込ませた。
 暴れていた二人が大人しくなる。

 催眠状態になった。

 二人の頭だけ外に出した。

「聞きたいことがある。攫った姫様はどこにいる?」

「北の塔に幽閉している…………」

「北の塔の警備はどうなっている?」

「塔の入口に二名、それ以外はいない…………」

「たったそれだけ? 本当か?」

「アイラ様がそれ以上の警備は必要ない、とおっしゃった…………」

 それはお姫様が逃げない、という自信があるのか。
 それとも何かの罠が待っているのか。
 どっちにせよ、場所が分かったなら行くしかない。

「ハヤテ君はリザードマンの言葉が分かるのか?」

「えっ? あ、はい、ちょっと変わった事情で俺たちは多くの言語を理解できます」

 レリアーナさんは俺の言葉に興味を持ったみたいだが、最優先にすることを考えたようで何も聞いてこなかった。

「ハヤテ君、この二人はどうする?」

 レリアーナさんが言う。

「記憶を消して、戻ってもらいます」
「殺さないのか?」
「…………ここで殺せば、見つかった時、騒ぎになります。そうでなくても、兵士が消えたら、敵に不信感を植え付けるかもしれません」
「それもそうだな」
とレリアーナさんは納得してくれた。

 リザと香の視線を感じる。
 言いたいことは分かる。
 カード化すれば、死体は簡単に消せる。
 
 俺はそれを出来なかった。
 
 同じ言語をしゃべる魔人を殺すことを躊躇った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...