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奪還編

第42部分 レリアーナの気遣い

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 リザと香はまだ寝ていた。

「ほら、起きて。やることやって、今日中に出発するんだから」

 二人を起こし、カード化していた食材からパンと燻製肉を取り出した。

「便利な収納魔法だな」
「レリアーナさんもどうぞ」
「いただく」

 食事の時、リザは無言だった。

「御馳走様…………」

 それどころか、パンと燻製肉を半分以上残した。

「リザ、それじゃ足りないでしょ。食べなよ」
「食欲ない…………」

 リザはベッドに戻り、毛布に包まってしまった。
 昨日、あれだけ泣いて切り替えが出来たと思ったが、そんなに甘くはなかったようだ。

「香、一つ、頼まれてくれるか?」
「なんですか?」
「俺とレリアーナさんで必要なものを買いに行ってくるから、リザの傍にいて欲しいんだ」
「大丈夫ですか。昨日の人たちにまた会うかもしれませんよ?」
「気を付けて買い物をしてくるよ。それにレリアーナさんがいれば大丈夫だと思う」
 レリアーナさんに視線を移す。

「私が責任を持って、ハヤテ君は守ろう」

「お願いしますね」
「無いと思うけど、万が一、ここに昨日の奴らが来たら、香の判断に任せる。全責任は俺が取るから」
「分かりました。気を付けて行ってきてください」

 俺はリザと出会って初めて別行動をする。

 正直、今の精神状態のリザを戦わせるのは酷だ。
 しかし、リザを置いていく方が危険である。
 俺には解決法が分からなかった。

「そういえば、、昨日は決まりやなんだで、私の意見を言っていなかったな」

 多分、初めてレリアーナさんの方から声を掛けられた。

「私、個人としてはリザ君は君と一緒にいた方が良いと思う。あの男たちが奴隷をどのような風に扱っているか、想像は出来るし、リザ君自身も君に懐いている。まったく、決まりと言うものは不便なものだな。そんなものがなければいい、思ってしまうことが私もある」

「気を使わせてしまってすいません」

「別に君の為じゃない。ハヤテ君に気を遣うのは私利私欲の為だよ。私にとっては、君たちが頼りなんだ。大切にするさ。とっと、買い物を終わらせて、この街を出発しようか。そうすれば、リザ君の気持ちだって、変わるかもしれない」
「そうですね。なるべく早く…………」

 もし、偶然なら最悪だ。

「よう、お兄さん」

 またドミードたちに出会った。

「…………」

「どうしたんだい。笑って笑って」

 ドミードは意地の悪い笑みを浮かべた。

「昨日、俺の仲間に絡んできた奴に対して、好意的にはなれないな。で、リザが奴隷であることは証明できたのか?」
 回答によっては強行も仕方ないと思った。

「まぁ、明日には結果が出るんじゃないか。今、嘘をついたことを認めるなら、お兄さんには何もしないぜ。まぁ、俺たちに余計な手を掛けさせた詫びは必要だと思うがな」

「詫び?」

「あの生意気な東方人をくれれば、勘弁してやる」

 多分、レリアーナさんに肩を叩かれなければ、俺はここでトラブルを起こしていただろう。

「ギルドの登録番号を教えてくれるかな?」
 レリアーナさんが言う。

「は? なんだ急に?」

「私の友人に不快な思いをさせた、とギルドに連絡をしようと思ってね」
「あんた、何者だよ?」

「昨日も名乗ったはずだが、私はロキア王国の騎士だ」

 それをドミードは舌打ちした。

「めんどくせ。まぁ、いいさ。どっちにしろ。明日には分かることだからな。いくら、騎士だからって、これは俺たちの問題だからな。口出しすんなよ」

「もちろん、リザ君が奴隷だったなんて、馬鹿げた話が本当だったら、君たちに謝罪しよう。そんなこと、ありえないことだな」

 レリアーナさんにここまで言われたドミードは退くしかなかった。

「ありがとうございます。でも、あんなことまで言ったら、レリアーナさんの立場が悪くなりませんか?」
 男たちの姿が完全に見えなくなってから、レリアーナさんに言う。

「いいんだ。あれくらい言わせてくれ。一時的かもしれないが、君たちとは仲間なのだからな。それに私としては、君たちに裏切られるかもしれない、と思われている方が嫌だ」

 やっぱり、この人は不器用だな、と思ってしまう。
 でも、嫌いじゃない。
 依頼主がレリアーナさんのような人で良かった。

 俺たちは急いで買い物を済ませる。
 ドミードの言っていたことが本当なら一刻も早くこの街を出たかった。

 宿舎に戻って来て、リザと香と会う前に俺は足を止めた。

 ドミードに会ったことは話さない。
 変に不安を増やしたくない。
 それは決定事項だ。
 でも、それを抜きにして、第一声は何が良い?

 帰ったよ、と普通に言うのか?
 大丈夫、と心配するのか?
 俺に任せろ、と宣言するのか?

 どれも正解とは思えない。
 どうすれば、リザが立ち直るか分からない。
 考えがまとまる前に俺は部屋のドアを開けてしまった。

「ハヤテ、ちょうど良かった!」

 いきなり、リザに詰め寄られた。
 表情は朝よりは明るかった。
 
 一体、何があったのか?

 聞く前に次は香が詰め寄ってくる。

「ハヤテ、私とリザちゃん、どっちが正室で、側室ですか!?」


「…………本当に何があった!!?」
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