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異国の女剣客編
第15部分 ドレイク戦
しおりを挟むワイバーンキング
レベル⑦属性(風) 召喚コスト3500
攻撃力3000 体力2800
『一回り大きいワイバーン。通常個体と段違いの強さを誇る』
「行こう」
「うん」
俺とリザはワイバーンキングの背中に乗り、浮上する。
辺りを旋回し、ドレイクを探す。
地上と見える限りの空には見当たらない。
「どこにいるんだ?」
上空は厚い雲に覆われていた。
まさか…………
「リザ、雲に向かって『時雨』を撃てるか?」
「分かった」と言い、リザが矢を放つ。
矢は水の飛礫になって、雲の中に吸い込まれていった。
「ギャァァァァ!」
やっぱり、雲の中に隠れて機会を伺っていたのか。
強い上に知能もあるらしい。厄介だ。
「道を開く。魔法付与の矢(風)『旋風』」
矢が通った道の雲が晴れた。
そして、ドレイクの姿を確認する。
戦いが始める、と思った。
しかし、ドレイクは意外な行動を取る。
逃げ出した。
奇襲に失敗したからか?
こっちの方が強いって判断したのか?
どっちにしろ逃がすわけにはいかない。
ドレイクを追撃する。
どこまで逃げるのかと思っていたら、突如、反転した。
「火属性のドレイクならこれが効くでしょ。魔法付与の矢(水)『暴雨』!」
一本の矢が、巨大な水の矢に変化し、ドレイクに襲い掛かる。
「ギャアァァァァ!」
ドレイクはそれを風のブレスで弾き返した。
「「えっ?」」
俺とリザの声が被った。
ドレイクが使ったのは火球ではなく、風のブレスだ。
寒気がした。よく見ると昨日、アイスさんが斬ったはずの顎に傷がなかった。
逃げていると思ったのは俺の勘違いだ!
誘い込まれた!
「リザ、後ろだ!」
「『多重水壁』!」
リザは瞬時に理解し、五枚の水の壁を形成した。直後、その壁が四枚まで破壊された。
「ギャアァァァァ!」
奇襲が失敗した『もう一体』のドレイクは怒り、叫んだ。
「こいつら、つがいだった」とリザが言う。
「撤退だ!」
迷っている暇はない。
ドレイクが二体。こんなの勝ち目がない!
ワイバーンキングを急降下させる。
すぐ後ろを二体のドレイクが追撃する。
「ハヤテ、ちょっと失礼する」
リザは俺の前頭部側に逆肩車の形で跨った。
やりたいことは理解できたが、前が見にくい! 息がしづらい!
「んっ…………、くすぐったいから息を止めて」
理不尽だ!
それに無茶を言うな!
ドレイクに追われて、心拍数は上がりっぱなしだよ!!
「しょうがない、我慢する。さてと…………」
リザはドレイクに矢を放つ。ドレイクの追撃が少しだけ緩んだ。
リザのおかげで無事地上に辿り着いた。
すぐにワイバーンキングをデッキに戻す。
残りソウルポイント3200。
ドレイクとの交戦で800減った。もうレベル⑦のモンスターは召喚できない。
「ギャアァァァァ」
一瞬、体が硬直するほどの咆哮が聞こえる。
現状、勝算は無い。あるとすれば…………
「リザ、洞窟の方角は分かるか!?」
「分かるけど、ドレイク二体を連れて行く気か!? アイス、逃げること出来ないぞ!」
「考えがあるんだ。信じてくれ」
「分かった、信じる!」
リザは即決した。
ドレイクは俺たちを見失ったようで、無秩序に暴れ回っていた。
昨日と様子が違う。
恐らく、俺たちが脅威になると判断したんだ。
見つけ出すまで暴れ回るだろう。
俺たちは必死に走って洞窟を目指した。
後ろを確認するとまだドレイクの姿はない。
「洞窟が見えたぞ」とリザが言う。
俺たちは洞窟の中に駆けこんだ。
「アイスさん!」
「ど、どうしたんですか!?」
「失敗しました。ドレイクは二体いたんです」
「二体!?」
アイスさんは体を起こす。
「で、頼みがあるんですけど、アイスさんをカード化してもいいですか!?」
「…………私をカード化?」
「俺の召喚盤はパーソンカードの人数で召喚に必要なソウルポイントが変わります。もっと強力なモンスターを召喚するためにはアイスさんの力が必要なんです!」
「私もリザちゃんのようにカードになるということですか?」
「一回限りで構いません。この状況を打破するにはそれしかないんです」
もし、拒否されれば、詰みだ。
そうじゃなくてもこの状況を利用して、アイスさんをカード化することに罪悪感はある。
「えっとそんな思いつめた顔で言わなくて大丈夫です。ハヤテさんの望むようにしてください。この状況を打破するのに出来ることは全てやります」
「ありがとうございます」
俺は内心でホッとした。
「で、何をすればいいですか?」
「えっ?」
「だから何をすればいいんですか? なんでもします」
「えーっと…………」
何をすればいいんだ。
そもそもどうしてリザをカード化できたんだ?
あの時、どうやったんだ?
「リザ、あの時、どうやったんだ?」
「私に聞くな」
リザは蔑みの視線で俺を見る。
「考えはどこにいった?」
怒ってる。
解決法だけしか考えてなかった。
道筋は考えてなかった!
「ギャアァァァァ」
まだ遠いが、近づいてきている。
もしかしたら、気付かれているかもしれない。
「『土壁』」
リザが入り口を塞いだ。
一瞬、真っ暗になるが、すぐに優しい光が灯る。これもリザの魔法のようだ。
「多分気付かれる。その前に方法を見つけないと死ぬ。ハヤテにかかってる」
一番に思いついたのは好感度だった。
リザは元から俺に対しての好感度がカンストしていた。逃げられる可能性を放棄して、俺と死のうとするほどだった。
「アイスさん、俺にどれくらい好感を持っていますか?」
「もしもの時、介錯を頼みたいぐらい。もしくは介錯をしたいくらいですけど」
好感度の表し方が怖いんですけど!?
でも、やっぱり好感度は問題ないよな。じゃあ…………
「アイスさん、抱きついてもいいですか?」
「ふざけてます?」
「ふざけているのか?」
女性陣から冷たい言葉と視線が飛んできた。
「真面目に言ったんだよ! リザをカード化した時、リザを抱いていたから同じことをすれば、って思ったんだよ!」
「えっ、抱いていた、ってやっぱりお二人はそういう関係だったんですか?」
アイスさんが顔を赤くしていた。
んっ? あっ! 言い方が悪すぎた!
「あの時は強く抱かれて、血もいっぱい出た。痛かったけどハヤテと繋がれてうれしかった」
こっっっの、エロハーフエルフ、変な言い方をするな!
ドレイクが迫っているのに結構余裕だな!!
「違います! ハグ、って意味ですよ!!」
「本当ですか?」
アイスさんは俺ではなく、リザを見た。
おい、これ以上、アイスさんをからかうなよ。
祈るようにリザを見ると笑っていた。
「しょうがないな」みたいな顔をするな。
本当に時間がないんだって!
「残念なことにハヤテは私に手を出していない。童貞だから奥手」
うん、この死地を切り抜けたらリザには当分野菜だけを食わせよう。
清らかなエルフの部分を思い出してもらおう。
「えっと、じゃあ、やってみますか?」
アイスさんは手を広げた。
「…………失礼します。………………」
何も起きなかった。
「もう、どうすればいいか、分からないから、アイスの穴にハヤテの棒を突っ込めば?」
俺、奴隷の首輪を使いたくなってきた。
エロワードを言うたびに電流が流れる設定とかできないかな。
地震のような衝撃に襲われた。
先ほどまで緩んでいたリザの顔が引き締まる。
「見つかったっぽい。アイスをカード化できなかったら、本当に死ぬ」
信頼度でも接触でもなけば、なんだ?
なんであの時は出来た?
考えろ、けど、焦るな。何が違う?
リザがカード化した時と今は何が違う?
追い込まれている、という状況を考えるとあの時も今も変わらない。
考えたくないが、当人のダメージが関係しているとか?
そんなはずない。
アイスさんはボロボロだ。あの時のリザと違って、血は流していないが、怪我の具合で言えば、アイスさんの方が酷い。
…………血?
「そうだ、血だ!」
「「えっ?」」
「アイスさん、ちょっと痛いと思うけど、血を流してもらえませんか!?」
「えっ? ええっ!? それって、ハヤテさんと『する』って、ことですか?」
「んっ? あ! あああああ! 違う違う。指先とかで良いから、切って血を流して欲しいんです」
「あんまり紛らわしい言い方をしない方が良い」とリザが言う。
どの口が言う。……って、今はリザにかまっている場合じゃない!
「リザをカード化した時、召喚盤に血が付いたんです」
「血ですか。確かに契約に血が必要とはよく聞きます。さっきの馬鹿みたいな方法より説得力があります」
実質、俺のことを馬鹿って言いましたよね?
今は何も言いませんけどね!
アイスさんは短刀で人差し指を少し切る。
そして、召喚盤の上に血の出てきた指を持ってきた。
血が召喚盤の上に落ちる。その瞬間、召喚盤に刺さっているデッキの一番上のカードが光った。
「やった、成功だ! ドロー!!」
カードの光が徐々に弱くなり、こそには、
異国の女剣士 アイス・カオリ
レベル②属性(風) パーソン ソウルポイント+2000
と書かれていた。
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