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始まりの森編

第4部分 ハーフエルフの少女にリザと命名する

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 次の日、雨が上がったので一人で洞窟を出た。 

「よかった。ソウルポイントは回復してる」

 しかし、2000よりは上がっていない。
 ソウルポイントを増やす方法があればいいが、見当もつかない。
 それに今はもっと身近な問題を解決しないといけなかった。

「腹が減ったな」

 丸1日、何も食べていない。
 植物は何が食べられるか分からない。
 それに出来れば、肉が食いたいな。

 しばらく森を歩き回っていると獣を発見した。
「猪みたいだ」
 食べられそうだが、俺ではあの猪みたいなモンスターに勝てない。

「と言うわけでゴブリンソルジャー、お願いします」

 昨日の戦闘を見る限り、その辺の魔物の相手なら、ゴブリンソルジャーでどうにかなりそうだ。
 俺の予想は当たったようで、ゴブリンソルジャーは簡単に猪型のモンスターを倒してしまった。

 で、問題はここからだよね。生肉なんて食べたくない。やることは決まっている。

「ありがとう、ゴブリンソルジャー、で次は…………」
 ゴブリンソルジャーのカードを戻し、別のカードをドローする。

「ゴブリンコックを召喚!」

 多分、これを小説するならタイトルは『低級モンスターのゴブリンを使役して、のんびり暮らしてみた』とかになりそうだな。あんまり売れる気がしない。


 ゴブリンコック
 レベル②属性(土) 召喚コスト1000
 攻撃力700 体力1500
 召喚された時、ゴブリン族一体の体力+500する。
『奴にかかれば、どんな食材も料理可能さ』


 改めて、生態テキストを確認したけど、こいつに料理を任せて大丈夫か?
 でもな、召喚できるモンスターでコックって、こいつ位しかいないよな?

 そんな俺の心配は無用だったようで、ゴブリンコックは手際よく猪型のモンスターを解体し、肉のブロックにしていく。
 そして、一番おいしそうなところを串に刺して、自前の調味料で下味をつけると焼き始めた。
 焼き上がるとゴブリンコックはそれを俺に渡す。

「ただの串焼きだけど、おいしそうだね」

 肉串に齧りつく。
 ちょっと堅いが普通にうまい。豚肉に近かった。
 ゴブリンコックはもう一品、作ってくれた。
 煮込みである。こっちは肉も柔らかい。こっちの方が好きだ。
 満足の行くまで食べたが、まだ残っている。

「ググッ」
 ゴブリンコックは「まだ食べるか?」と言いたげだった。

「いいや、もう満足だよ。作っちゃった分は君が食べていいよ。それから余った肉は保存が効くようにできるかい?」

 ゴブリンコックは頷き、残った料理を食べる。そして、余った肉を燻製や塩漬けにし始めた。
 ソウルポイントを確認するとゴブリンコックを戻していないのに回復していた。
 何となく分かっていけど、寝たり、食べたりするとソウルポイントは回復するのか…………

「この状態でゴブリンコックを戻すとどうなるんだ?」

 調理を終えたゴブリンコックをデッキに戻してみる。
 ソウルポイントは増えなかった。

「これで増えれば、良かったんだけどなぁ。後はこれ、どうするか…………」

 目の前にはゴブリンコックが保存用に加工してくれた肉が置かれていた。
 一人で持ち運べる量ではない。
「んっ?」
 召喚盤の何か文字が出ていた。

『対象をカード化しますか?』

 なんだこれ? 初めて見る。いや、初めて気づいたというべきか。試しに『はい』のボタンを押してみると目の前の肉の塊が消え、代わりに二枚のカードが手元に残った。


 森猪の塩漬け肉 コスト0

 森猪の燻製肉 コスト0

 俺は初めてあの駄女神、いや女神様に感謝したかもしれない。
 この召喚盤には物質をカード化して、収納する能力があるみたいだ。これはありがたい。これなら重い荷物を持って冒険する必要がない。

 さて、洞窟に戻るか。
「…………今更だけどあの子って、ハーフエルフだよな。肉は食べないとかだったらどうしよう」
 ファンタジーではエルフは肉を食べない、ってことが良くある。
「駄目だったら、また何か考えよ。言葉が通じるんだし、何とかなるだろ」

 昨日、雨宿りをした洞窟に向かった。
 女の子が一人で洞窟にいるっていうだけで同情するには十分だ。
 それにこの世界で誰か繋がりは欲しい。

「あれ?」

 洞窟に向かっているつもりだったが、中々たどり着けない。
 森の中は同じような景色が連続していたので、迷ってしまった。
 仕方ないのでゴブリンヴァンガードを召喚し、案内役を任せることにした。

「お前も一つ食べるか?」
「ググッ!」
 塩漬け肉を渡すとゴブリンヴァンガードはそれを受け取り、食べていた。
 なんだが、昔、犬を飼っていた時のことを思い出す。ゴブリンだけど…………
 ゴブリンヴァンガードに案内され、昨日の洞窟に到着した。
 中に入るとあのエルフの少女がいた。

「なに?」

 怯えている。何があったのか、と聞けるような間柄でもない。

「警戒しないで、っていうのは無理だよね」

 そう言いながら、燻製肉を取り出した。
 エルフの少女の眼の色が変わった。
「あー、えっと、エルフって言い伝えとかでは肉とか食べないって聞いたこともあるけど、大丈夫」
「大丈夫、私、ハーフエルフ、肉食える。むしろ好物!」

 警戒心が一気に無くなった。
 燻製肉に齧りつく。
 この子はあれだね。おいしい物を食べされてあげるとか言ったら、簡単にハイエースに乗りそうだね。

「肉、上手い!」

 多分、まともなものを食べていなかったのだろう。すぐにあげた燻製肉を食べ切ってしまった。
「まだあるよ」
 今度は塩漬け肉を出す。
「それ、食べ物が無限に出せるのか?」
 ハーフエルフの少女の視線が召喚盤に向かった。

「無限じゃない。捕獲した森猪を加工して、別空間に保存している」
「魔物使いで、しかも空間魔術も扱えるのか、すごいな」
 言いながら、ハーフエルフの少女の手は止まらなかった。
「魔物使い?」
「魔物を使役して戦う職種だ」
「なるほど、でも俺は魔物使いじゃないな。ゲーマーさ」
「ゲーマー? 聞いたことない職種だ。もしかして、固有の上位職種か?」
「そんなもんだよ。ところで職種とかには詳しいのか」
「私はこれでも元冒険者、その辺の事情は詳しい」
 ハーフエルフの少女はドヤ顔で言う。
 まともな物を食べたからか、表情には生気が戻った。
「そろそろ、名前を聞いてもいいかな?」
 信用は勝ち取ったと思う。名前ぐらいすんなり聞けると思った。

「ごめん、言えない」

 だから、断られてたのは意外だった。

「私、名前無い」

「名前がない? でも、冒険者だったんでしょ?」
「冒険者、間違いない。でも、私、買われた奴隷だった。ご主人様、名前と防具、くれなかった。貰ったのこれだけ」

 ハーフエルフの少女は錆び付いた短剣を取り出した。
 こんな少女に短剣一本で最前線に立たせるってどんな神経しているんだ?
 俺は嫌悪感を覚えた。

「なぁ、俺と一緒に来ないか?」
「えっ?」
「俺はこの世界のことは疎いんだ。色々、教えてほしい。それに一人より二人の方が色々と都合がいいと思うんだが」
「でも、私、これ付けられてる。これ、ある限り、私、前のご主人様の所有物」

 ハーフエルフの少女は首輪に手を当てた。

「それって魔法で拘束されているのか?」
「うん、外すにはご主人様の血か、解呪術師に頼まないと…………」

「なるほどね…………んっ?」
 そういえば、解呪術師は知らないが、解呪師ってカードならあったな。

「ドロー…………やっぱり、しかもレベル1だし」
 俺は解呪師を召喚した。

 解呪師
 レベル1属性(水) 召喚コスト500
 攻撃力0 体力500
 場の全てのモンスター・パーソンのステータスを元に戻す。
『あいつは解呪をしてくれるだろう。代わりに何を取るかは分からないが』 


 …………弱すぎて久々に使ったから、生態テキストに書かれていること忘れてた。結構、不穏なことが書いてあるな…………

「ひっ、モンスター…………!」

 ハーフエルフの少女は怯える。無理もない。目の前の解呪師は半人半蛇のモンスターである。
「大丈夫、俺の召喚したモンスターだから。動かないで」

「は、はい」

 解呪師は長い腕を伸ばすとハーフエルフの少女の首を触った。
 爬虫類独特の感触に少女はビクッとなる。
 解呪師が何かを探りなら首輪に触れる。

 カチッと言う音がしたと思ったら、首輪が外れた。

「あっ…………おぉぉ…………」
 ハーフエルフの少女は首に手を当てて、首輪が外れたことを確認する。
 ハーフエルフの少女は俺の手を握り、「ありがとう! ありがとう!」と感謝の言葉を言った。

「成功して良かったよ。じゃあ、改めて、組まないかい?」
 少女はこくりと頷いた。

「シュー……」

 解呪師は取り外した首輪を俺に渡した。
「ありがとうな。代償ってこれで勘弁してくれないか」
 解呪師に燻製肉を渡すとそれを丸飲みにして、満足そうに喉を鳴らした。
 どうやらこれで良いらしい。解呪師をデッキに戻すと召喚盤が光っていた。

『対象をカード化しますか?』

 多分、首輪のことだろう。何かの時に使えるかもしれないし、一応、取っておくか。

 服従の首輪「対象者を奴隷状態にする」

 ミストローンに奴隷状態なんてなかったぞ。どういうことだ?
 まぁ、ろくでもないことには変わりなさそうではある。
 俺は『服従の首輪」をデッキに加える。

「首輪、私にしないのか?」
「しないよ。君は俺の所有物じゃない」
「新しいご主人様は変わっているな」
「俺はご主人様じゃない。ハヤテ、結城ハヤテだ」
「ハヤテ、変わった名前だ。東国の者みたいだ」

 東国? ここが良くあるようなファンタジー世界なら、今いるのは西洋ということか。

「色々と聞きたいことはあるが、初めに決めなくちゃいけないことがあるな」
「なんだ、ハヤテ?」
「君の名前だよ」
「名前、名前か。それならハヤテが付けてくれ」
「いいのか?」
「構わない。ハヤテは首輪で私を縛らなかった。だから、名前で私を縛って構わない」
「どういう意味だ、それ? うーん、名前か…………」

 俺は少女をまじまじと見る。
 西洋人のような容姿だけど、西洋人より目元や口元が尖っている。それに小説で出てくるエルフの見た目通り耳が長い。日本っぽい名前は似合わないな。だけど、あんまり呼びにくい名前は避けたいし…………

「リザっていうのはどうだろう?」

 昔読んだ小説にそんな名前のエルフの少女が出てきた気がする。

「うん、いいよ」
「即決? いいのか?」
「うん、ハヤテの好きな呼び方で構わない。ハヤテといたら、肉が食べられる」

 リザは目をキラキラ輝かせていた。
 なんか昔飼っていた犬を思い出すな。尻尾があったら、ブンブン振ってそうだな。
 その日から二人の生活が始まった。 
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