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赤き竜と白き死神の物語
『シロ』という存在
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この世界が紡ぐ物語をより深く知るために、この世界を『外から見ている者』達のために少し話をしよう。
そうな……儂に『名を与えた者』であり、儂の大切な子である『シロ』について、儂が知るところを少し語るとしようか。
儂はヴァイス。
白き聖杖亭という冒険者の宿の責任者じゃ。
冒険者の宿とは市民から寄せられる様々な依頼を冒険者に斡旋し、仲介する『冒険者ギルド』の機能を持った宿のことで、この世界では大抵の大きな町に1つは存在する。
儂は元々、この世界の人間では無い。
『チキュウ』という星のとある国で、神の使いとして存在する精霊のようなものじゃった。
ヴァイスという名は、チキュウに居た頃に儂の姿を見ることができた、とある子供が儂につけた名じゃ。
パラディアは元々、他の世界との繋がりが生まれやすい世界のようで、チキュウと偶然繋がりが生まれた時に、何かの拍子で儂のような存在が肉体を持って流れ着くことがあるらしい。
パラディアにはそうした流れ者が集まる集落のようなものがあってな、そこで儂はこの世界についての知見を広げたのじゃ。
元々チキュウでも、聖域に入り込もうとする穢れと戦っておったから、戦闘が得意だったのが幸いしてか、かの500年前の戦争の折には連合国の兵として、打倒光の帝国アルバの志の元に戦ってきた。
アルバでは禁忌の技術によって異世界より魂を召喚し、人工兵士であるホムンクルスにその魂を組み込んで戦力としておった。
ホムンクルスは皆同じ少年のようなあどけない顔をしていて、黒髪で肌は白く、人間と大差ない姿をしておる。
そんな見た目だがホムンクルスの戦闘力、自己治癒能力はずば抜けていて、連合国は苦戦を強いられていた。
じゃが、ある時アルバが再び魂の召喚を行った時に、異世界への扉がどうやらタチの悪い世界へと繋がったらしく、そこから瘴気が溢れて世界に蔓延したのじゃ。
瘴気は知っての通り、生き物を魔物に変えて、魔物をイレギュラへと変える。
そして瘴気の源の間近に居たとあるホムンクルスがイレギュラへと変異し、アルバに属する、ホムンクルス含む全ての生命を消し去ったのじゃ。
この世界、パラディアに眠っていた六大神はその未曾有の危機に目覚め、人々の心に『アーティファクト』を授けた事でなんとか生き抜く力を得たのであるが、その影響でイレギュラとなっていた1人のホムンクルスが瀕死の状態で、『イレギュラではなくなって』生存していた。
黒髪は真っ白に、瞳は空のような青から鮮血のような赤に変わっていた。
そのホムンクルスが、もう想像できると思うが、『シロ』じゃ。
儂が保護した時には、言葉も話せぬ、目の焦点も合わぬ、完全に心が破壊された状態であった。
元々アルバでの戦力であり実験体であり『発散の道具』であったホムンクルスである彼は、感情と記憶を失っていたようであるが、瘴気を直に浴びて遂に精神が壊れてしまったのじゃな。
彼があまりにも不憫で、儂は彼を保護することに決め、各地を転々としたものじゃ。
長い時間を共に過ごし、少しずつ彼の精神も安定して記憶もかなり断片的ではあるが戻りつつあり、その時にようやく彼の名を決めたのじゃ。
初めて発した言葉は
「しろ ごめんなさい がーでにあ かあさん」
であったかな。
白は好きな色、ガーデニアはどうも、チキュウで好きな花だったそうじゃ。
儂は彼をその時から『シロ』と呼ぶようになった。
そして記憶を少しずつ取り戻すにつれ、彼が幼少の頃に儂とチキュウで出会っていたことも知った。
「神社というところで、白い狐を見つけた。喋る狐に僕はヴァイスと名付けた」
ホムンクルスである彼を見た時、何かの縁というか、既視感を感じたのじゃが、まさかそんなことだったとはな。
不思議な偶然……いや、全ては必然なのやもしれぬ。
よく夜にシロは昔のことをフラッシュバックのように思い出しては眠れぬようじゃった。
しかしまぁ、最近はあの半竜の男がシロの傷だらけの心を癒してやっておるようじゃな。
あやつは冒険者としてもなかなか頼りになる。
我が子のように側にいたシロがこの手を離れるのは少し寂しいが、あの男になら儂でも癒しきれなかったシロの心を救えるのやもしれん。
儂は我が子の行く末を、これからもずっと見守り続けてゆくつもりじゃ。
いつかこの身が果てるまで、な。
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