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白き死神と赤き竜の物語〜くっつく前〜
航路の保安任務 後編
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港町マグリスを四人で少し観光して、時刻は太陽が西の水平線に半分顔を突っ込んだ夕刻。
僕達は再び船に乗り込み、今度は港町マグリスから港町エルドへ戻る航路を行く。
座席に座って予めアイリスから渡された酔い止めを飲んでおいたので(本当に酷い味!)船が出航してからしばらく経っても気分はさほど悪くならなかった。
「シロ、調子よさそうだな」
「アイリスの薬がよく効いてるみたい。移動が伴う時はたくさん作ってもらわなきゃ」
「ふふん、流石あたしの錬金術」
自分で言うように、彼女は非常に腕の良い錬金術師でもあり、調合をギルドから依頼されることもしばしばある。
そんな雑談をしながら船内の窓から外を眺めていると、先程まで穏やかだった海の雲行きが怪しくなり始め、船も大きく揺れ始めた。
その時、甲板を監視していたレイヴンが、何やら慌てた様子で降りてきた。
「やばいやばい、デカいの居るっぽいよ~みんな来て~」
「とうとう出やがったか!」
レイヴンについて僕達も甲板へ急いで出る。しかしこの揺れ、酔い止めがなければきっと僕は立ってもいられなかっただろう。アイリス様様だ。
外の様子は先程までの穏やかだった海とは一変して黒雲が空を走り、波は高く暴れ回っている。
船員たちが乗客を急いで誘導し、船内へ避難させるのを見届けて、僕達は注意深く海面を睨みつけた。
その時、前方から大きな水柱が轟音と共に噴き上げ、水煙がザァと退いたその場所に現れたのは……
「あれはクラーケン!!みんな、土元素で攻めるよ!」
アイリスの見立て通り、相手は巨大なイカの姿をした魔物。クラーケンだ。
吸盤がぞろりと揃った触腕がゆらゆらと水面から突き出し、虚な目玉は赤く発光している。
元々は海の生態系の一つである大イカが瘴気によって魔物化したもので、水の元素を纏っている為、土の元素が効果的だ。
「先鋒はおれが取るよ~撹乱して時間稼ぐ!」
「こっちに来る触腕は俺が防ぐぜ!シロとアイリスでありったけ術をぶつけてくれ!」
「「了解!」」
レイヴンが二振りの短刀の姿をしたアーティファクトを呼び出し、猫の獣人らしく身軽な動きで船外に飛び出して魔物の触腕を足場にし、目にも止まらぬ速さで魔物の身体の至る所を切りつけてゆく。
僕とアイリスはレオンの指示通り甲板で土元素の元素術を詠唱し始めた。杖を呼び出し、意識を集中させて術のイメージを頭の中で組み立てる。
その時僕達の頭上に大きな影が落ちてきた。
魔物の触腕の一本が今にも甲板を打ち叩こうと振り下ろされたのだ。
「させるかァッ!!!」
ドシュ!!!と凄まじい切断音と共に、今まさに船を打とうとした触腕は斬り落とされ、明後日の方向に吹き飛んで行った。
レオンの大剣による一撃がそれを成したのだ。
しかし触腕の一つを斬り落とされようとも、少し間を置いてすぐに傷口から新しい触腕が再生した。
「やっぱ斬っても斬っても意味ねェか」
「レオンありがとう!」
「おうよ!こっちは俺に任せて術に集中してくれ!」
レオンは再び迎撃体制に入り、僕もアイリスと共に術の構築に意識を戻す。
レイヴンがうまく撹乱してくれているおかげで船にあまり攻撃は飛んでこない。
「「第五の土 即ち豊穣 平伏し 懺悔に膝をつけ 黄金の砦は幾千の槍」」
再び触腕が振り下ろされたが、それは船ではなく海面を叩いた。
衝撃で船は大きく傾き、アイリスと僕は足元を取られてしまい、船外に向けて転がる。
だがここで詠唱を止めるわけにはいかない。
アイリスは槍を船体に突き立てて踏ん張り詠唱を続けるが、僕は半ば海に放り出される覚悟で船から転がり落ちながら目を閉じて詠唱を継続した。
がしり、と体が何かに抱えられたような感触。
レオンが落ちかけた僕を捕まえて抱えてくれたのだと見なくてもわかった。
「「穿て!岩神の神槍!!」」
アイリスと僕の詠唱が完了し、船の先端に意識を集中させれば、そこには巨大な黄金の魔術陣が浮き上がり、無数の岩の槍がクラーケンの眉間を狙って容赦なく放たれた。
ドドド!と船に響くような轟音と共に放たれた槍の雨は魔物の眉間を次々と打ち抜き、瞬く間に魔物は塵となって消え去る。
魔物が消える直前にレイヴンは高く飛び上がり、甲板に綺麗に着地して事なきを得た。
「大丈夫か?シロ」
「うん、捕まえてくれてありがとう。海に落っこちるとこだった」
「んなことさせねェさ」
レオンが目を細めて僕を横抱きにしたまま微笑みかける。
これが、レイヴンの言ってた甘い笑顔なのか……確かに、とてもとても暖かいものを彼の眼差しから感じる。
レイヴンとアイリスもこちらへやって来たが、じとっとした目でレオンを見ている。
どういう感情なんだろうか?
「全く、戦闘が終わればすーーーぐこうやってイチャつくんだから」
「おれもシロくんお姫様抱っこしてあげたいのに~」
何はともあれ、あの大きな魔物に寄って来ていた小型の魔物もこれで暫くは寄り付かないはず。
航路の安全はしばらく保たれるだろう。
いつの間にか黒雲は失せて、空には満天の星空が広がっていた。
今回の報酬:一人あたり銀貨50枚
僕達は再び船に乗り込み、今度は港町マグリスから港町エルドへ戻る航路を行く。
座席に座って予めアイリスから渡された酔い止めを飲んでおいたので(本当に酷い味!)船が出航してからしばらく経っても気分はさほど悪くならなかった。
「シロ、調子よさそうだな」
「アイリスの薬がよく効いてるみたい。移動が伴う時はたくさん作ってもらわなきゃ」
「ふふん、流石あたしの錬金術」
自分で言うように、彼女は非常に腕の良い錬金術師でもあり、調合をギルドから依頼されることもしばしばある。
そんな雑談をしながら船内の窓から外を眺めていると、先程まで穏やかだった海の雲行きが怪しくなり始め、船も大きく揺れ始めた。
その時、甲板を監視していたレイヴンが、何やら慌てた様子で降りてきた。
「やばいやばい、デカいの居るっぽいよ~みんな来て~」
「とうとう出やがったか!」
レイヴンについて僕達も甲板へ急いで出る。しかしこの揺れ、酔い止めがなければきっと僕は立ってもいられなかっただろう。アイリス様様だ。
外の様子は先程までの穏やかだった海とは一変して黒雲が空を走り、波は高く暴れ回っている。
船員たちが乗客を急いで誘導し、船内へ避難させるのを見届けて、僕達は注意深く海面を睨みつけた。
その時、前方から大きな水柱が轟音と共に噴き上げ、水煙がザァと退いたその場所に現れたのは……
「あれはクラーケン!!みんな、土元素で攻めるよ!」
アイリスの見立て通り、相手は巨大なイカの姿をした魔物。クラーケンだ。
吸盤がぞろりと揃った触腕がゆらゆらと水面から突き出し、虚な目玉は赤く発光している。
元々は海の生態系の一つである大イカが瘴気によって魔物化したもので、水の元素を纏っている為、土の元素が効果的だ。
「先鋒はおれが取るよ~撹乱して時間稼ぐ!」
「こっちに来る触腕は俺が防ぐぜ!シロとアイリスでありったけ術をぶつけてくれ!」
「「了解!」」
レイヴンが二振りの短刀の姿をしたアーティファクトを呼び出し、猫の獣人らしく身軽な動きで船外に飛び出して魔物の触腕を足場にし、目にも止まらぬ速さで魔物の身体の至る所を切りつけてゆく。
僕とアイリスはレオンの指示通り甲板で土元素の元素術を詠唱し始めた。杖を呼び出し、意識を集中させて術のイメージを頭の中で組み立てる。
その時僕達の頭上に大きな影が落ちてきた。
魔物の触腕の一本が今にも甲板を打ち叩こうと振り下ろされたのだ。
「させるかァッ!!!」
ドシュ!!!と凄まじい切断音と共に、今まさに船を打とうとした触腕は斬り落とされ、明後日の方向に吹き飛んで行った。
レオンの大剣による一撃がそれを成したのだ。
しかし触腕の一つを斬り落とされようとも、少し間を置いてすぐに傷口から新しい触腕が再生した。
「やっぱ斬っても斬っても意味ねェか」
「レオンありがとう!」
「おうよ!こっちは俺に任せて術に集中してくれ!」
レオンは再び迎撃体制に入り、僕もアイリスと共に術の構築に意識を戻す。
レイヴンがうまく撹乱してくれているおかげで船にあまり攻撃は飛んでこない。
「「第五の土 即ち豊穣 平伏し 懺悔に膝をつけ 黄金の砦は幾千の槍」」
再び触腕が振り下ろされたが、それは船ではなく海面を叩いた。
衝撃で船は大きく傾き、アイリスと僕は足元を取られてしまい、船外に向けて転がる。
だがここで詠唱を止めるわけにはいかない。
アイリスは槍を船体に突き立てて踏ん張り詠唱を続けるが、僕は半ば海に放り出される覚悟で船から転がり落ちながら目を閉じて詠唱を継続した。
がしり、と体が何かに抱えられたような感触。
レオンが落ちかけた僕を捕まえて抱えてくれたのだと見なくてもわかった。
「「穿て!岩神の神槍!!」」
アイリスと僕の詠唱が完了し、船の先端に意識を集中させれば、そこには巨大な黄金の魔術陣が浮き上がり、無数の岩の槍がクラーケンの眉間を狙って容赦なく放たれた。
ドドド!と船に響くような轟音と共に放たれた槍の雨は魔物の眉間を次々と打ち抜き、瞬く間に魔物は塵となって消え去る。
魔物が消える直前にレイヴンは高く飛び上がり、甲板に綺麗に着地して事なきを得た。
「大丈夫か?シロ」
「うん、捕まえてくれてありがとう。海に落っこちるとこだった」
「んなことさせねェさ」
レオンが目を細めて僕を横抱きにしたまま微笑みかける。
これが、レイヴンの言ってた甘い笑顔なのか……確かに、とてもとても暖かいものを彼の眼差しから感じる。
レイヴンとアイリスもこちらへやって来たが、じとっとした目でレオンを見ている。
どういう感情なんだろうか?
「全く、戦闘が終わればすーーーぐこうやってイチャつくんだから」
「おれもシロくんお姫様抱っこしてあげたいのに~」
何はともあれ、あの大きな魔物に寄って来ていた小型の魔物もこれで暫くは寄り付かないはず。
航路の安全はしばらく保たれるだろう。
いつの間にか黒雲は失せて、空には満天の星空が広がっていた。
今回の報酬:一人あたり銀貨50枚
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