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白き死神と赤き竜の物語〜くっつく前〜
航路の保安任務 前編
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「おぇ………」
今、シロが盛大に船酔いをしている。
シロ、俺、レイヴン、アイリスの4人で受けた依頼が『航路の保安』で、どうもここ最近、港町エルドから港町マグリスまでの航路で海洋種の魔物が発見されているとのこと。
そこで実際に航路を行き来する定期船に乗り、状況を記録するという内容なのだが、シロは酷い乗り物酔いを患っていて、馬車移動ですらアイリス特製の酔い止め薬(とても不味い)を手放せないぐらいだ。
対面式の座席でシロが真っ青な顔をしながら俯いている。
「だから無理せず留守番してなさいよってあたし言ったのに」
「………一人ぼっちやだもん……」
アイリスの言葉に、いつもより子供っぽい口調でシロがようやく答える。
切羽詰まっている時のシロはこうやって受け答えがたどたどしくなるのが可愛いと思う。
「おれと甲板の方行かな~い?風に当たったら気分も良くなるよ~」
「……そうする……」
「気休めだけどこれも飲んで」
レイヴンはシロの腰に手を回し、支えながら立ち上がらせる。シロはアイリスの渡した薬を嫌そうな顔で受け取り、飲み干した。ますます顔が青くなっていたが、レイヴンに支えられながら甲板へ続く階段を二人で登って行った。
「……あんたはなんで行かないの」
「こういう足場の悪ィとこで、何かあった時に上手く立ち回れるのはレイヴンだろ……持ち場離れる訳にもいかねェし」
「じゃあそんなしょぼくれた顔してないでよ」
本当は俺がシロの腰を抱いて甲板まで連れて行ってやりたいが、魔物が船倉から入ってくる可能性もあって、最低でも二人は船内にとどまるべきだったり、言った通り小回りの効くレイヴンが甲板の方に居た方が対処しやすい。
仕事と個人的な気持ちはしっかり分けるべきと思っているが、どうも締まらない顔をしていたらしく、アイリスにくどくどと説教をされてしまった。
俺だってシロとの時間を目一杯過ごしたい。しかし今は任務中なのだから、シロを護る為には合理的な考えも持たないといけない。多分。
………
レイヴンに連れられ、甲板に出ると紺碧の空と爽やかな海風が出迎えてくれた。
確かに船内でじっとしているよりは、いくらかマシな気がしてきた。
手すりに寄りかかって水平線の向こうにうっすら見える群島を眺めていると、レイヴンがいつの間にか居なくなっている。
「シロく~ん、冷たい飲み物買ってきたよ~!おれと一緒に飲も~」
「ありがとうレイヴン、ごめんね気を遣ってもらって」
「い~のい~の!いっつも怖い顔のデカ男が居るからなかなかデートできないじゃ~ん?」
「デカ男ってレオンのこと?」
すぐ隣に来て手すりにもたれるレイヴンから飲み物の入った木製ジョッキを受け取り、一口。
甘酸っぱい木の実のジュースだ。
レイヴンはいつもの少し軽薄そうな笑みを浮かべて僕がジュースを飲むのを見て、おもむろに僕の肩を抱いた。
「シロくんてさ、レオンと付き合ってんの~?」
「付き合う?恋人として?」
「うん、だってあいつがシロくんと居る時って、まるで『こいつは俺のだ!手ェ出すな』ってオーラ出てるよ~。シロくん見てる時はめっちゃデロ甘い顔してるし」
「そ、そうなの?……でも僕、恋人とかってよく分からないや」
元々感情というものが抜け落ちてしまっていたこともあり、最近やっと自然に笑えるようになってきた僕は、愛とか恋ってものがまだしっくり来ていない。
思ったそのままを伝えると、レイヴンは少し笑みを深めて、僕の肩を抱いていた腕を腰に回し、より顔を近づけてきた。
元々距離感がおかしい人なので、特に気にせずレイヴンを見つめ返す。
いつのまにか船酔いの気分の悪さは無くなっていた。
「じゃあおれと付き合ってみない~?シロくんのこと大事にするし、楽しませてあげられるし、シロくんのこと好きなんだよね、おれ」
「もう、また冗談ばっかり言ってる」
レイヴンは日頃から「シロくんかわいいね」とか「エロいね」とか「好きになっちゃいそう」とか言ってくるので、今回のそれもいつもの冗談なのだろう。
僕の返答に彼は特に表情を崩すこともなく、ちょっとだけ眉尻を下げて困ったように
「え~?なかなか手強いじゃ~ん」
とか言っているのでやはり冗談だったんだろう。
「まぁ本気なんだけどね、まだ早いか」
「え?」
レイヴンが何か小さく呟いたが、海風が強くてなんと言ったのか分からず、聞き返しても彼は「なんでもな~い」とニコニコしながらジュースを飲んでいる。
そんな話をしているうちに、特に何も問題は起こらずに船は無事に港町マグリスへ到着した。
帰りの航路までが依頼なので、港町エルド行きの便が出発する時間までの数時間、僕達はマグリスで少し休むことになるだろう。
後編に続く
今、シロが盛大に船酔いをしている。
シロ、俺、レイヴン、アイリスの4人で受けた依頼が『航路の保安』で、どうもここ最近、港町エルドから港町マグリスまでの航路で海洋種の魔物が発見されているとのこと。
そこで実際に航路を行き来する定期船に乗り、状況を記録するという内容なのだが、シロは酷い乗り物酔いを患っていて、馬車移動ですらアイリス特製の酔い止め薬(とても不味い)を手放せないぐらいだ。
対面式の座席でシロが真っ青な顔をしながら俯いている。
「だから無理せず留守番してなさいよってあたし言ったのに」
「………一人ぼっちやだもん……」
アイリスの言葉に、いつもより子供っぽい口調でシロがようやく答える。
切羽詰まっている時のシロはこうやって受け答えがたどたどしくなるのが可愛いと思う。
「おれと甲板の方行かな~い?風に当たったら気分も良くなるよ~」
「……そうする……」
「気休めだけどこれも飲んで」
レイヴンはシロの腰に手を回し、支えながら立ち上がらせる。シロはアイリスの渡した薬を嫌そうな顔で受け取り、飲み干した。ますます顔が青くなっていたが、レイヴンに支えられながら甲板へ続く階段を二人で登って行った。
「……あんたはなんで行かないの」
「こういう足場の悪ィとこで、何かあった時に上手く立ち回れるのはレイヴンだろ……持ち場離れる訳にもいかねェし」
「じゃあそんなしょぼくれた顔してないでよ」
本当は俺がシロの腰を抱いて甲板まで連れて行ってやりたいが、魔物が船倉から入ってくる可能性もあって、最低でも二人は船内にとどまるべきだったり、言った通り小回りの効くレイヴンが甲板の方に居た方が対処しやすい。
仕事と個人的な気持ちはしっかり分けるべきと思っているが、どうも締まらない顔をしていたらしく、アイリスにくどくどと説教をされてしまった。
俺だってシロとの時間を目一杯過ごしたい。しかし今は任務中なのだから、シロを護る為には合理的な考えも持たないといけない。多分。
………
レイヴンに連れられ、甲板に出ると紺碧の空と爽やかな海風が出迎えてくれた。
確かに船内でじっとしているよりは、いくらかマシな気がしてきた。
手すりに寄りかかって水平線の向こうにうっすら見える群島を眺めていると、レイヴンがいつの間にか居なくなっている。
「シロく~ん、冷たい飲み物買ってきたよ~!おれと一緒に飲も~」
「ありがとうレイヴン、ごめんね気を遣ってもらって」
「い~のい~の!いっつも怖い顔のデカ男が居るからなかなかデートできないじゃ~ん?」
「デカ男ってレオンのこと?」
すぐ隣に来て手すりにもたれるレイヴンから飲み物の入った木製ジョッキを受け取り、一口。
甘酸っぱい木の実のジュースだ。
レイヴンはいつもの少し軽薄そうな笑みを浮かべて僕がジュースを飲むのを見て、おもむろに僕の肩を抱いた。
「シロくんてさ、レオンと付き合ってんの~?」
「付き合う?恋人として?」
「うん、だってあいつがシロくんと居る時って、まるで『こいつは俺のだ!手ェ出すな』ってオーラ出てるよ~。シロくん見てる時はめっちゃデロ甘い顔してるし」
「そ、そうなの?……でも僕、恋人とかってよく分からないや」
元々感情というものが抜け落ちてしまっていたこともあり、最近やっと自然に笑えるようになってきた僕は、愛とか恋ってものがまだしっくり来ていない。
思ったそのままを伝えると、レイヴンは少し笑みを深めて、僕の肩を抱いていた腕を腰に回し、より顔を近づけてきた。
元々距離感がおかしい人なので、特に気にせずレイヴンを見つめ返す。
いつのまにか船酔いの気分の悪さは無くなっていた。
「じゃあおれと付き合ってみない~?シロくんのこと大事にするし、楽しませてあげられるし、シロくんのこと好きなんだよね、おれ」
「もう、また冗談ばっかり言ってる」
レイヴンは日頃から「シロくんかわいいね」とか「エロいね」とか「好きになっちゃいそう」とか言ってくるので、今回のそれもいつもの冗談なのだろう。
僕の返答に彼は特に表情を崩すこともなく、ちょっとだけ眉尻を下げて困ったように
「え~?なかなか手強いじゃ~ん」
とか言っているのでやはり冗談だったんだろう。
「まぁ本気なんだけどね、まだ早いか」
「え?」
レイヴンが何か小さく呟いたが、海風が強くてなんと言ったのか分からず、聞き返しても彼は「なんでもな~い」とニコニコしながらジュースを飲んでいる。
そんな話をしているうちに、特に何も問題は起こらずに船は無事に港町マグリスへ到着した。
帰りの航路までが依頼なので、港町エルド行きの便が出発する時間までの数時間、僕達はマグリスで少し休むことになるだろう。
後編に続く
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